「なんでや!!…なんで…なんでボスのスキルのこと黙っとったんや!!」
「黙って…た?」
勝利の美酒に酔いしれていた雰囲気に水を差したのは…会議の時にもいきり立っていたキバオウだった。
「せやろが!お前はボスがカタナを使うん知っとったんやろ!?違うか!?βテスター!!」
キバオウの言葉に、レイドパーティの空気がざわりと震える。
βテスター
会議で幾人かが仲裁に入ったとは言え、ビギナーの心にある確執その物は根強いものである。
「お前が予めディアベルはんや皆にカタナスキルを公表しとったら、やられそうになることも無かったんや!せやのに!」
「…お前らはカタナスキルを使うことを知ってて、わざと隠していたんだ。最後の最後で美味しいところを掻っ攫うために、な。」
「ラストアタックボーナスによる…レアアイテムか?」
フロアボスにトドメを刺したプレイヤーだけが得ることの出来るレアアイテム。
その稀少さはかなりの物で、そこから十層…下手をすれば二十層は通用すると言わしめるほどの強力な物だという。
…つまり、自分達βテスターがおいしい思いをするために、カタナスキルを秘匿し、ラストアタックボーナスを得るための御膳立てをしたと言いたいらしい。
「ちょっと待ちなさい!私達は攻略本を受け取っていたわ!それに、その裏表紙にもβテスターとの差異の可能性を示唆する記述があったのを、皆見たはずよ!?だからβテスターが全てを知り得ていたとは考えにくいわ!」
「そうだよ!それに、キリトが本当にラストアタックボーナスを奪うために戦ってたなら、カタナスキルを繰り出したときに、皆に注意喚起したりなんかしないでしょ!?」
彼等の言葉に異議を唱えたのは、アスナとユウキだ。二人はキリトに救われただけに、彼を非難する、というのには見過ごせないようで、かなりの剣幕でまくし立てる。
「いいや、違うね。」
だが、キバオウの側に着いているフードの男はそれを否定した。
「その攻略本を書いた情報屋その物もグルだったのさ。カタナスキルをβテスター間で知り得ていながら、ビギナーが対処できないように敢えて記載しなかったんだ。」
「な…なんですって…!?」
「つまり、この汚い茶番にはあの鼠もβテスターとして一枚噛んでたんだよ。そのキリトとか言うプレイヤーから幾らか包んで貰ったんじゃないのか?えぇ?βテスターさんよ?」
ここまで無いことを重ねて来ると、キリトの味方であるべきアスナとユウキの堪忍袋が限界に近付いてくる。
もう我慢できない。
目にもの見せてやる!
それぞれ得物に手を掛けたときだ。
「いま、誰がアルゴさんを貶したのか知らないけど。」
ドン!
そんな重く物々しい音が、空気を震わせた。
手に持つアニールロッドの先端を、怒りのまま力任せに地面に突き立てたのだ。それによって、破壊対称にならない地面が砕けることはないが、場をいさめるのには十分な効果だ。
「わたしもビギナーよ?…右も左も解らなかったわたしに、闘い方を教えて、そして生き抜き方を教えてくれたのが、キリトとアルゴさんだったわ。」
「…なんだ?βテスターに絆されたのか?こいつぁお笑いだぜ!」
「そう取られても別に構わないわ。でも事実として彼等にお世話になったことに変わりないの…だから、2人を侮辱したこと、取り消して貰えないかしら?」
「いいや、取り消す必要も無いね。なぜならこの茶番が、βテスターという存在その物に対して、裁く必要があるかどうかになりかねないからさ。」
「裁く…?」
「そう!ビギナーを踏み台にして自分達がのし上がる!その悪質とも取れる手口!オレンジプレイヤーと見紛う所業だと思うぜ!」
声高々とβテスターを、オレンジプレイヤー…つまり、犯罪者プレイヤーだと宣うフードの男。
マジかよ…
じ、じゃβテスターの情報を信じていた俺らって…
こ、殺されるのか?敢えて間違った情報を掴まされて…?
そしてその言葉は、ボス戦に参加したプレイヤー一人一人に波及し、ざわめき、疑心として蔓延していく。
「ちょっと待ってくれないかな?」
そんなざわめきを制すように、ジョシュアが口を挟んだ。穏やかな口調ではあるが、その目には怒りが込められている。それはどちらかと言えば、キリトよりもβテスターを晒している奴等へ向いているようだ。
「もし貴方達の言うようにβテスターが僕達を陥れようとしたとして、それに何のメリットがあるのか教えて貰っても良いかな?」
「そりゃあお前…ラストアタックボーナスを…」
「それを得たとしても、βテスター…つまりキリト…彼一人でボスを攻略できると思う?こんな状況…ビギナーとβテスター、その軋轢を生む可能性を無視してまで、ラストアタックボーナスを欲しがるものかな?」
「な、何が言いたいんや?」
「一層でこれだけ苦戦したんだ。…ここでもし、βテスターが陥れてラストアタックボーナスを得たとする。…そうなったら、次の二層三層と、彼に協力しようというビギナーは居なくなる。…つまり、βテスターとビギナー、このソードアート・オンラインは大きく二つの派閥に別れることになる。でもそうなれば、互いが互いに睨みを利かせ、挙げ句の果てに最悪は血みどろの戦いを生みかねないんじゃないのかな?」
「…つまり、プレイヤー同士で小競り合いが起こるようになって…攻略に支障が出る、と言うことかな?」
ディアベルの問いに、ジョシュアは静かに頷く。
ギルド同士の諍いではなく、βテスターかどうかだけで目の敵にされる、そんな最悪のプレイ環境を生み出してしまう。そうなってしまっては百層攻略どころではない。
「でもだからって、俺達を貶めようとしなかった証拠にはならないだろ!」
「そうだ!俺達はβテスターの露払いしてんじゃねぇ!…信じねぇ!俺はβテスターなんて信じねぇ!!」
「大体さっきからβテスターを庇ってるけど、本当はお前らもグルなんじゃねぇのか?」
「そ、そんなの関係ないでしょ!?」
「βテスターだからどうのこうの言って、キリトを悪者にしようとして!悪質なβテスターよりもそっちの方がよっぽど悪者だよ!」
「な、なんだと…!このガキ…!」
「自分達がラストアタック取れなかったからって嫉妬して、恥ずかしくないの!?」
「お、落ち着いてくれ皆!協力してボスを倒した!それだけだろう?最後に活躍してくれた彼にラストアタックボーナスが渡ったなら、次のボスでも活躍してくれるって思えないのか?」
「悪いけどディアベルさん、こればっかりは譲れない!白黒ハッキリさせないと、俺達は前へ進めないんだ!」
最早一触即発、と言わんばかりに、βテスターを晒し上げようとするビギナーと、キリトを庇おうとする良識あるプレイヤーとの対立がヒートアップしてくる。
このままでは…βテスターその物が大半のビギナーから、憎悪の念を向けられる。そうなってしまっては…!
ディアベルやエギルと言った、いまだ落ち着きあるプレイヤーはそれを危惧して、どうにかこの場を諫めようとする。
そんな時だった。
「ふ…ハハハハハッ!!!アハハハハハッ!!!ソイツらがβテスターだって?ソイツらは正真正銘のビギナーだよ、一緒にして貰っちゃ困るなぁ…!」
いきなり狂ったかのように大声で笑い出した一人のプレイヤーに、言い争っていた面々は言葉を止めて、一斉に視線を彼に移す。
それは…紛れもなく、話しの渦中にあったラストアタックボーナス取得者のキリトその人だった。
「全く…そんなに懐かれたら仲間と思われちゃうだろ?これだから世間知らずのゆーとーせーってのは、自分が利用されているのに気付きもしない。」
余りの豹変だった。
もっと穏やかに話していたはずの彼が、どうしたことか。人が変わったかのようにひねた口調で喋り始める。
「お前らもお前らだ!…βテスター?情報屋?あんな素人連中と一緒にして貰っちゃ嫌だなぁ。そもそも、たった千人のβテスターの内、本物のMMOゲーマーは何人居たと思う?殆どがレベリングの仕方も知らない
「な、なんだよそれ…!そんなの…チーターじゃねぇか!」
「最低のチート野郎だ…!」
「βテスターどころの話しじゃねぇ…β上がりのチーターとか最悪じゃねぇか…!」
一人が非難し始めたと同時に、他の面々も口々に罵り始める。
もはや目下、彼等の怒りの矛先はβテスターと言う括りには存在せず、
ただ目の前でβテスター時代の功績をひけらかす少年に集中していた。
「β上がりのチーター…」
「ビーター…!!」
ニヤリと口元を吊り上げたキリトは、装備画面を開いて、とあるアイテムを装備する。
それは黒。
膝裏あたりまである、黒いロングコート。
イルファング・ザ・コボルトロード、そのラストアタックボーナス出会った体装備。
『コートオブミッドナイト』
それを身に纏った姿は…皆の印象を含めて…まさしく『黒の剣士』だった。
「ビーターか!いいねぇ!このラストアタックボーナスと一緒に、俺がもらったよ!」
そう言って踵を返すと、コボルトロードが座っていた玉座、その裏手にある扉…そこ続く階段へ向かって歩き出す。
文字通り、一層ボスを突破した先にある二層への扉。
「ど、どこにいくんや?」
「俺が二層への転移門を開放しておいてやるよ。…着いてきたい奴が居れば好きにすれば良いさ。…最も、二層のMOBにやられる覚悟があるなら、だけどな。…いたんだよβテスター時代に。粋がって着いてきて、呆気なくやられる奴を、な。」
誰も言葉を発せ無かった。
誰も動き出せなかった。
ただただ彼が二層へ続く扉を閉める音で、ようやく我に返ったかのようにざわめき出す。
やれ、
情報屋に報告だ。
だの、
ビーターに注意を呼びかけるように、フレンドにメッセージ飛ばすよ。
だの…
最早彼等の敵はモンスターとビーターに限定されたように見えた。これが『キリトの企て通り』だとも知らずに…
「おい。アンタらは…あれがアイツの本心じゃないって事ぐらいは…」
「…解ってるよ。…キリト、役者の素質でも有るんじゃ無いの?皆騙されてるし。」
だが自分から必要悪としての道を選んだ彼の向かう先は、明らかに茨の道だ。βテスターからも、そしてビギナーからも疎まれて、誰とも組むことを許されない孤独の道。
理解もされず、
そして理解されようとすることも許されない。
だが…一部の、彼の本質を知る人々は違う。
「…だったら、行ってやってくれ。一緒に行くことは出来なくても…見送ってやることは出きるだろう?」
「……わかりました。」
「ついでだ…俺からの伝言、頼む。」
「ちょぉ待ってんか!」
そんな彼等に待ったを掛けた人物。それは…今回の発端となった男…キバオウ。その声にアスナも、そしてユウキも、ギロリと彼を睨みつける。
「あ~…その……」
煮え切らない、もどかしいような顔をして、ボリボリとその特徴的な頭を掻いて、そのうえで意を決したかのように口を開いた。
「ワイからも伝言、頼めるか?」
何処かバツの悪そうに言う彼に、目を見開いて驚くばかりだった。
扉を抜ければ別世界だった。
見渡す限り広がる緩い傾斜の丘がそこらかしこに転々とし、そこに自生する草木が見事なまでの自然を醸し出す。
一層は草原が中心の緩やかなエリアだったが、二層は少し険しさを感じる。
そして遥か遠方には薄らと白み掛かった中に、三層へと続く迷宮区が高々と聳え立っていた。
「………。」
そんな二層を見下ろすことの出来る、普通よりも小高い丘。そんな場所に、一層からの出口は存在した。
手頃な岩場に腰を下ろし、夕焼けに染まりつつある景色を見て黄昏れる少年…キリト。
道は既に選んだ。
後は…歩いて行くだけだ。
ただ…ひたすらに、誰よりも前を歩き、走る。
それが…自身に付けられたビーターという仇名の役目だ。
「覚悟…決めた筈なんだけど、なぁ…。」
不意に、心にぽっかりと穴が空いたような錯覚に見舞われる。
寂しさ…空しさ…
そう言い表す他にないものだった。
「でもまぁ…今だけは…こうしてるのも良いかな…。明日からは、本気出すって事で。」
「うわ…キリト、ニートみたいなこと言ってる…。」
「さっきの剣幕と偉い違いね。大分無理してたみたい。」
「ボク知ってる!中学2年生くらいになると、あぁ言う自分が特別だって言いたくなるらしいね。たしか…ちゅーにびょー…だっけ?」
「でもあぁやって夕日を見て黄昏れるのって、何か似合ってるわね。」
「キリトってなんかジジ臭い所がそことなくあるもんね。」
「…聞こえてるぞ、二人とも。」
わざとか?
わざとなのか?
態々自分に聞こえるように、一層からの扉を半開きで人の噂をペラペラと…!
正直、メンタルHPが微妙に低いキリトにとって、これは痛いものであって、さっきからぐさぐさと精神的ダメージを与えてきている。
「…綺麗、だね。」
「えぇ、本当に…現実みたい。」
「話しをすり替えるなよ。…まぁ良い夕焼けだって言うのは否定しないけど。」
徐々に沈み行く夕日。
SAOのタイマーは現実世界とリンクしているから、リアルにいてもこんな夕日を拝むことが出来ただろうか?
いや、拝むことが出来ても…それに対して今のような感慨深い印象は得なかっただろう。
「…で、なんで着いてきたんだよ?」
「私は…伝言を預かってきたのよ。」
「伝言…?」
オホン、とわざとらしくアスナは咳払いをし、とある人物からの伝言を口にした。
「エギルさんからね、『また一緒にボス戦をやろう』って。」
「…エギル…あの黒い肌でタンクの彼か…。」
また一緒に……自分があれだけのことを宣った後にも関わらず、こうして共闘を申し出てくれる。…もしかしたら…彼はキリトの言葉の意味を理解した上で、こう言ってくれているのかも知れない。
「あと…キバオウさんからも。」
「え?キバオウ…って、あのキバオウか?」
「あれ以外にキバオウなんて、ボクは居て欲しくないなぁ」
「心配しなくても、二人の知ってるキバオウさんよ。『…ちょぉ考えてみたけど、やっぱりお前のやり方は納得出来ん。ワイはワイのやり方で上を目指す。』だそうよ。」
「…そっか。」
アスナへと視線を向けることも無く、キリトはジッと夕日に目を向け続ける。だが不思議と…先程までの寂しさは薄れ、彼自身も気付かぬ内に小さな笑みを浮かべていた。
キバオウも…ボス戦の後、別段キリトに怨み辛みがあって突っかかったわけではない。…恐らくは、事前にソードスキルについて教えていれば、皆を危険に曝さずに済んだと言いたかったのだろう。…今となっては後の祭りだが、先程の伝言の内容からして、認めはしなくとも、理解はしてくれたようにも取れた。
それだけ納得できたキリトは、岩から腰を上げて立ち上がると、坂を下っていく。
「…アスナ、伝言、ありがとな。」
「キリト君は…どうするの?」
「有言実行。…二層の転移門をアクティベートしに、主街区いくのさ。」
「一人で?」
「まぁな。」
「じゃあボクも行く!!」
「「へ?」」
まさかのユウキの発言に、二人は異口同音で驚き、目を丸くした。
「あ、あのなユウキ。俺はビーターだ。これからその肩書きを背負って上を目指すことになったんだ。俺に着いてきたら、お前までビーターとしての煽りを受けることになるんだぞ!?」
「やだ!キリトを一人で行かせるなんて出来ないよ!君のことだ、どうせビーターだから、皆が危険に曝されないように、危ないとことかクエストとか、自分一人で下調べしようとか考えてるんじゃない!?」
「うぐっ!?」
見事なまでのピンポイントな指摘に、思わずビクリと身体を震わせる。
大方そんな所だろうと思ったよ。と、ユウキに加え、アスナも肩をすくめる。
だから、とユウキは言葉を繋ぎ、キリトの元へ小走りに追いついた。
「だからボクは、キリトのお目付役!無茶しないように監督させて貰います!」
「えぇぇ……ユウキが……?」
「…なに?その露骨に嫌そうな顔…。」
「い、いや。嫌とかじゃなくて…」
「ふふっ。ユウキがいたら抑止力どころか、逆にキリト君が無茶に付き合わされそうね。」
「それはありうるな。」
「あー!キリトどころかアスナまで!ヒドいんだー!」
気付けば、先程のしんみりした空気から、3人が笑い合っていた。
孤独な物かと思っていれば、なんのことか。こうして自身を心配してくれる友人が居た。改めてその事実を噛み締めるキリトの顔に、寂しげなものは無かった。
「あらら…全く、青春してるわね~。」
3人で笑い合う中で、また新たな声が二層に響いた。棍を片手に一層の扉から現れたのは、チュートリアル前から付き合いのあるエステルだ。その後ろには、黒髪…正確に言えば、黒に限りなく近い紺の髪をした少年も一緒だ。
「その様子だと、心配するまでもなかったわね。」
「なんだ、エステルも気になってきたの?」
「まぁね。ゲーム開始当初からの仲な訳だし。」
「心配おかけしてすいませんでした。エステル先生。」
おどけてみせるだけの余裕が現れたのか、キリトの口から軽口も飛び出す。パーティを組んだ四人が揃い踏みの中で、ふとアスナが気になっていたことを口にする。そしてそれは、ユウキもキリトも、同じく疑問に思う事だった。
「所で…後ろの人は?ボスの最後辺りの会話からしたら…知り合いみたいだけど…?」
「あ、うん。そうね、わたしもリアルで1回会った人なんだ。こっちでは初めてなんだけど。」
「へぇ~、もしかして、エステルが前に探してた知り合いって…」
「ご推察のとおりよ。」
一ヶ月、探しに探してようやく無事を確かめることが出来た。容姿こそ解ってはいたが、さすがにフルフェイスを被っていたら、顔による確認は出来なかったし、アバターネームもわからずだった。そしてボスとの戦いの最中に再会できた。なんとも奇妙な巡り合わせだとも思える。
「そういえば…」
「「「「ん?」」」」
ふと思い出したかのように口を開いたエステルに、キリト達を含め、ジョシュアも疑問符を浮かべる。
「ジョシュアって読み、本来の物とは違うって言ってたけど、本当はどう読むの?戦いが終わったら…教えてくれる約束だったわよね?」
「あぁ。それか。英語の綴りはJOSHUAだから、ローマ字読みしたらジョシュアになるんだけど…。」
少々気まずげに頭をポリポリとかいて、視線を逸らしながら彼は言った。
「JOSHUAをラテン語の読みで…『ヨシュア』…、そう考えて決めたんだ…でも、ちょっと紛らわしかった、かな。」
ラテン語読みとは、また凝った読み方を考えるものだとジョシュア改めヨシュア以外の四人。
「だ、大丈夫よ。私なんて名前そのままよ?それくらい凝った方が味があると思うわ!ね?ユウキ!」
「ふぇっ!?そ、そそそそそうだね、ボクもそう思うよ!ね?キリト!」
「…俺は別に名前そのままじゃないから…何とも言いがたいな。」
アスナとユウキは、それぞれリアルネームの結城『明日菜』と、紺野『木綿季』から取られており、後になって安直だったと若干後悔したのはまた別の話だ。
…因みにキリトもキリトで、『桐』ヶ谷 和『人』から取られているため、ある意味どっこいどっこいだが。
「改めて、よろしくなヨシュア。」
「うん、よろしくキリト、アスナ、ユウキ。」
「えへへ、よろしくヨシュア!」
「よろしくねヨシュア君。」
初対面の面々が自己紹介を終えたところで、さて、とキリトが話題を切り替える。
「日も暮れてきたし…そろそろ俺は行くよ。…夜になるまでには主街区に行きたいからな。」
「そっか…ここで一旦お別れ、だね。」
「大丈夫だよ。攻略を進めていけば、またすぐに会えるよ。」
「ユウキらしいわね。…でも、そうね。進み続ける限り…生きてる限り、また会えるわ。」
「…それじゃ…またな。」
「バイバーイ!!」
挨拶もそこそこに背を向けて歩き始めるキリトと、大手を振って歩きながら彼に着いていくユウキ。
げっ!本当に着いてくるのかよ!
モチロンだよ~!
等といったやり取りが、少しずつ遠くなっていく。
「行っちゃったね。」
「そうね。…まぁキリト君のことはユウキに任せておいたら大丈夫よ。………多分。」
「はは……ちょっと、不安だね。」
そう言いながら見送る三人は、エギルやディアベル達と合流するために、一層への扉へと踵を返す。
連れ立って歩く中で…ふとエステルが足を止めた。
「…どうかしたの?エステル。」
それに気付いたヨシュアが、振り返る。
視線の先の彼女は、キリト達が立ち去った方を振り返っていた。しかし数秒して、なんのこともないように視線を戻し、ヨシュアに駆け寄った。
「ん~ん!何でも無い。戻りましょヨシュア!」
「あ、うん。そうだね、エステル。」
こうして…一波乱起きた第一層ボス戦は犠牲者をだすことなく、まさに快挙と言わんばかりの勝利を収めた。
しかし同時に生まれた、忌むべき存在…ビーター。
ここにきて、ようやく突破された一層。
残る階層は99。
まだ…デスゲームは始まったばかりだ。