ソードアート・オンライン~二人の軌跡~   作:ロシアよ永遠に

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リハビリ目的で書いていきます。不定期更新です。

2/20 最後追記


プロローグ

西暦2022年11月4日金曜日

この日は、どこもかしこも、学校も会社も、一番盛り上がった話題は何か?そうアンケートを採られれば恐らくはこれがトップに躍り出るだろう。

 

ソードアート・オンライン

 

フルダイブという、今までのテレビゲーム、その常識を覆すほどの革新的な技術を活かしたゲーム。

先駆けて体現した1000人のβテスター曰く、

もう一つの現実である。

ゲームなのか、それとも異世界に来たのか解らないほどの実感。

ゲームの革命ktkr。

そんな評価がそこらかしこに上がっているほどに高評価だった。

そして先日発売された製品版。それの正式サービスが二日後の11月6日日曜日13時丁度に始まる。その話題で持ちきりなのだ。

 

「それにしても、凄いですね。初回ロット一万本の内の一本を手に入れるなんて。」

 

共に帰り支度をしていた友人である黒瀬(くろせ) (りん)は、ふと話題に出す。無論、初回一万ロットと言うのは、例のソードアート・オンラインである。2人の通う中学校もその話題で持ちきりだったので、凛もそれを手に入れた彼女にそれを振ってみた。何を隠そう、彼女はソードアート・オンラインを手に入れた運の良い人間の一人だったのだ。βテスターの前評価ぶりから、その人気は鰻登りし、製品版を手に入れようとゲームショップや家電販売店の前には数日前から長蛇の列を作るという、最早社会現象と言っても過言でもないほどにまでなっていた。

 

「あたしも運が良かったって思ってるよ。まさか行きつけのゲームショップの叔父さんが取っといてくれるとは思いもしなかったけどね。凛の方こそ、実家が凄いんだから、一本や十本、簡単に手に入るでしょうに。」

 

「私もプレイしたいのは山々なのですが、しばらくは生徒会の仕事と、フェンシング部の大会がありますので…。だから初回は諦めました。それに、プレイできない私が持っているよりも、その一本を他のどなたかがプレイして喜んでくれるなら本望ですし。」

 

「う……、な、なんだか凛が途轍もなくまぶしく見えるんですけど…。神様か仏様…いや、女神様ですか…?」

 

思わず後光が射しているかのように見える彼女に、思わず眼を細めてしまう。だが凛はそれを口許を抑え、上品に笑い飛ばす。

 

「ふふ、いつも私からしてみれば、陽菜さんのほうがまぶしく見えますよ。」

 

「そ、そぉかしら?」

 

輝崎(きさき) 陽菜(ひな)。凛の掛け替えのない友人で、彼女にとっては初めての友達だった。

元々きっての名家の生まれである凛は、その容姿と生まれから、周囲の生徒から浮いた存在であり、中々気さくに話せる人物というのがいなかった。しかし陽菜に至ってはそんな物お構いなしと言わんばかりに話しかけ、話題を振り、放課後には街へ連れ出して。そうしている内になくてはならない存在へとなっていたのだ。それを機に、凛の性格は陽菜の影響からか、前向きで明るく、そして社交的なものへとなり、彼女の他にも沢山の友人を持つまでに至った。しかし、一番の友人は陽菜であるには変わりはないのも事実だった。それ故に、先程の『陽菜の方がまぶしく見える。』と言う言葉は、自身を照らし、日向となって明るい場所へと連れ出してくれた彼女を指すには十分な理由となる。

 

「あ…、そろそろピアノの時間ですね。それでは陽菜さん。失礼します。」

 

「あ、うん。またね、凛。」

 

お淑やかにお辞儀し、背を向けて去って行く姿を見て、陽菜は『あぁ言う立ち振る舞いを淑女って言うんだろうなぁ。』などと、ちょっとした羨望を抱いた。何せ、歩く姿も様になっているのだ。高嶺の花と考えられても仕方ないのだろうが、今の彼女は明るく、そして気さくさが前面に出て親しみやすい雰囲気を纏っている。それだけに男女問わず憧れの的であった。

対して陽菜は明るいのは同じだが、凜と比べればさばさばしており、凛とは別な意味で親しみやすさを覚える。誰であろうと気兼ねなく話しかけ、表裏無しの性格。そしていざという時でなくとも、周囲を巻き込みながら前へと進む彼女の姿は、男女問わずに親しまれ、後輩男子生徒からは『姉御』などと呼ばれる始末だった。対して凛はと言うと、後輩女子生徒から『お姉様』と呼ばれているこの格差に、陽菜は若干納得がいかずにいた。

しかし、自分がこんな性格だからこそ、凛とも仲良くなれたわけだから、その辺りは誇るべきだと前向きに捉えて切り替えることにし、帰り支度を遅れて済ませた陽菜は、学生鞄を肩越しに持って、白いスカートと、トレードマークである茶色く長いツインテールを翻して廊下を急ぎ駆けていく。途中先生に走るなと注意を受けるも、聞き流し程度にごめんなさいと返して、下駄箱へひた走る。今日は帰って父親に稽古を付けて貰う予定なのだ。陽菜の父親は、世界各地を股にかけるジャーナリストであると同時に、自身の家に代々継がれている武術の師範代だ。世界をかけずり回っているだけに、滅多なことでは家に帰ってこず、大抵家は母の玲奈(れな)と二人で過ごすことが多い。小さい頃から時折武術を父より教わってきた陽菜にとって、三ヶ月、いや、半年に一週間ほど休暇を取って帰ってくる父に鍛えて貰うのは、特別な楽しみの一つだ。

そして…明日からまた、父は仕事で海外へと旅立ってしまう。それだけに、今日のこの日は心ゆくまで鍛えて貰おうと思っていた。

つまり、急いでいたのだ。

そして急ぐ、と言うことは、必然的に走る、と言うことになる。

走る、と言うことは、自身の移動速度が高まり、咄嗟の事に対応できなくなるのも事実。

昇降口で文字通り足早に靴を履き替え、別れの挨拶を交わす面々と、流し程度の挨拶。そして再びダッシュ。

…つまり、

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

…校門を出たところで、出会い頭の衝突である。

 

「いったぁ…!」

 

「いつつ…!ご、ごめん、大丈夫かい?」

 

「ちょっと強くお尻を打ったけど…大丈夫。こっちこそごめんなさい。急いでたから。」

 

ぶつかった相手を見上げれば、自身を立たせようと手を差し伸べてくれている。その制服は学生服。ピンとした黒の、スタンダードなそれを見るに、ぶつかったのは別校の男子生徒だと理解した。そして…その顔をみて、陽菜は少し固まった。

黒く、さらりとして、短いながらも整った髪。

同じく、中性的で整った顔。

そして、少々…琥珀色に染まった瞳だ。

その異様とも言えるほどに引き込まれそうなその瞳に、陽菜はしばらく呆けてしまっていたのか、

 

「ほ、ホントに大丈夫?」

 

相手の少年に気を遣わせてしまった。

 

「はっ!?だ、大丈夫、ホントに大丈夫だから!」

 

差し伸べられた手を握り、そして立ち上がる。スカートに付いた細かな砂を手ではたき落とし、手放していた学生鞄を拾い上げ、改めて相手の少年を見遣った。

 

「ホントに、ごめんなさい。」

 

「いや、怪我がないみたいで良かった。」

 

「あれ…?これって…。」

 

ぶつかった拍子に彼が落としたのか、少し抱え上げるほどに大きなパッケージに包まれたそれを見、拾い上げる。

陽菜も知らないものではない。何せ明後日になると、全国一万のプレイヤーが一斉に頭部に着けるであろうもの。

 

「これって…ナーヴギア?」

 

「あ、ごめん。拾わせちゃって。」

 

箱を見た所、特に外傷はなく、中身は大丈夫だろうと思うが、精密機械を運んでいたところにぶつかってしまったことで、再び申し訳ない気持ちが陽菜の中に芽生えてくる。

 

「ご、ごめんなさい。壊れてない、かしら。」

 

「だ、大丈夫だよ、きっと。さすがにそんなヤワに作られてないと思うし。」

 

「だといいけど…。」

 

未だ晴れない陽菜の表情に、少年は気まずくなってきた。

どうする。どうすれば良い?

 

「あれ?でも今にナーヴギアを購入してるってことは…貴方もソードアート・オンライン購入者…だったりするの?」

 

だが話題を切り替えてきたのは陽菜の方だった。

その推測も尤もだ。

先程も凜とその話題で盛り上がったばかり。気になるのも至極当然かもしれない。

対して少年は、これ幸いとその話題に乗っかってみることにした。

 

「うん。運良く購入できてね。…『も』ってことは、キミも?」

 

「そうよ。ホント、運が良かったわ。」

 

初回ロット一万のうち、βテスターは優先購入権が与えられるために、実質九千の本数だ。それを日本全国、下手をすれば外国のゲーマーも、ソードアート・オンラインを求めている可能性もあれば、転売屋の存在も否定は出来ない。そんな中から二人は購入出来たのだから、運が良いと互いをたたえ合う。

 

「そっか。じゃあ…もしかしたら向こうでPT組むかも知れないね。武器は何にしようとしてるの?」

 

「そうね。長物があれば…って、私まだパッケージ開けてないから、どう言う武器があるのか把握してないんですけど…」

 

お楽しみは直前まで取っておくタイプなのか。前々から説明書を読んで、ある程度の概要を把握した上で、自身の使う武器をある程度選定しているプレイヤーもいる中、未だ開封すらしていない陽菜に、少年は苦笑を浮かべた。

ソードアート・オンラインは、レベル性MMORPG。開始を早めれば早めるほどに、やり込めばやり込むほどに差が出てくる為、ゲーマー達は少しでもスタートを早めようと説明書を読みふけるものだ。

 

「…少しでも読んでおいた方が良いよ。はじまりの街のマップも載ってるから、せめてそれくらいは頭に入れておかないと、開始早々迷子になるかも知れないからさ。」

 

「うぅ……了解しました。」

 

「ところで…長物か…。それなら…」

 

夜斗(よると)。」

 

説明しようと口を開いた矢先、背後で少年を夜斗と呼ぶ声に振り向く。グレーのロングコートを纏った長身の男が立っていた。歳は…二十代前半だろうか。夜斗と呼ばれた少年に比べて、少し癖がある黒髪で少しはねているが、顔立ちが凜として整っているだけに、所謂イケメンであった。

 

「義兄さん…。今大学の帰り?」

 

「あぁ。丁度良い時間だから、こっちを回ってみようと思ったんだが…お邪魔だったか?」

 

「いや、そんな事はないよ。」

 

意味深な笑みを浮かべて夜斗をからかう男性に、件の少年は少々戸惑う。

 

「それよりもナンパは良いが、早く帰らなければ華鈴(かりん)(れん)が心配するぞ。」

 

「「な、ナンパァッ!?」」

 

異口同音

件の二人が一瞬違わぬ同時に驚愕の声を挙げた。

 

「なんだ?違うのか?」

 

「ちちち違うわよ!あたし達は偶々ぶつかって出会ったのよ!それでソードアート・オンラインの話で盛り上がって…。」

 

「それで武器は何にしたかって話をしてたんだよ。」

 

明らかにテンパる陽菜に対して、至極当然と言わんばかりに淡々と答える夜斗。

 

「なんだ、お前達は若いんだ。今のうちに青春しておけ。大人になってからだと後悔するぞ。」

 

「20過ぎても姉さんといちゃこらして、甘々桃色空間を作ってる零皇(れお)に言われたくないんだけど。」

 

「ふっ…、華鈴の魅力がイケないのさ。」

 

「…あのさ。イマイチ、アンタんとこの家族構成が読めないんだけど…」

 

いきなり惚気始めた零皇と呼ばれた男性。そして微妙に蚊帳の外気味だった陽菜が呆れ顔で声を挙げた。

 

「っと、名乗り遅れたみたいだね。僕は飛鳥 夜斗。で、こっちの惚気てるのが、剣崎 零皇。僕の姉の婚約者なんだけど…、まぁ見ての通り、姉さんのこととなると、煩悩と惚気が、ね…。」

 

「は、はぁ…。」

 

陽菜は察した。

これは苦労している人の顔だ、と。

自身の父母もそうであるが故に、夜斗に対して変な親近感を抱くに至る。何せ、年にほぼ二週間ほどしか家にいない父なのだ。帰ってきたらその分、会えない時間を満たすかのように朝起きていちゃこら、ごはんを食べていちゃこら、風呂を済ませていちゃこら。…つまり、寝ても覚めてもいちゃこらしているのだ。それを娘の目の前で。このままじゃ、近々弟か妹が出来かねないほどに。

 

「ほ、ほら!義兄さん。この子もドン引きしてるから!そろそろ行くよ!」

 

「ふふふ…そうだな、では行くか、愛しの華鈴の元へ…!」

 

「そ、それじゃ、僕らはそろそろ行くからさ。ほんと、ごめんね…いろんな意味で。」

 

「あ、うん。こっちこそ…。」

 

未だ惚気終えず、そして向こう側の世界から帰ってこない零皇の背を押し、陽菜に愛想笑いしつつ、夜斗は足早に去って行く。

どんどんと…遠くなる二人の背を見ながら…陽菜は忘れていたことを思い出し声を張り上げる。

 

「あ!あたし名乗ってなかったけど、輝崎 陽菜だからね!!」

 

突如の大声に驚いたのか、一瞬夜斗は戸惑うが、ややあって振り返り、穏やかな顔で応える。

 

「じゃあね!陽菜!!次はソードアート・オンライン(向こうの世界)で!!」

 

「うん!!」

 

まるで向日葵…そして太陽のような満面の笑みを浮かべた陽菜は、2人の背をじっと見送る。

不思議な出会いの余韻。それに浸って数分ほど。じっと立ち止まっていた陽菜は、足取り軽やかに家路へと急ぐ。

 

「さって!今日こそあの不良中年を打ち負かすわよ-!!!」

 

勝てないハズなのに、それでも勝てるという気持ちになりそうなほどに。打倒父を声高らかに宣誓して、急ぎ足で陽菜は駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~もうっ!勝てなかったぁっ!!」

 

ぽふっ!と前面から柔らかなベッドへダイブする。勢いよく飛び込んだものの、程良いクッションが優しく受け止めてくれたので、陽菜はその柔らかいベッド、その上に置かれた枕に顔を埋めた。

 

「…やっぱりあの時の斬り返しが早過ぎたのかしら…?でもあそこであぁしとかないと、次に来る連撃を捌けないし…。」

 

唸りながら、先程父親との試合を思い出し、戦術の練り方を想定し直す。結局、意気揚々と挑んだに関わらず、物の数分でノックアウトされた。その後、数回挑んだのだが、結果は惨敗。『まだまだ甘く、そして青いな。ハッハッハッ!』とドヤ顔され、並々ならぬ憤りを覚えたのは記憶に新しい。挙げ句、そのあとの夕食でまたしてもいちゃこらし始めるものだから、早々に食べて、こうして部屋に戻ったのだ。

 

「だいたいなんなのよ。もう直ぐ40でしょ、あの2人。いい加減自重しなさいっての。」

 

愚痴ってブー垂れたところで、『お前も早く相手を見つけて…いや、まだ早い!今の間に、これがあるべき夫婦の形であることを目に焼き付けておけ!』などと宣う。これはこれで親バカ振りを出すから困ったものだ。

ともあれ、文句を言ってても仕方ないので、風呂の時間まで時間がある。今の間に、今日と明日、そして明後日の課題を済ませておこう。そうすれば、日曜日にソードアート・オンラインを存分にプレイできる。…正直、勉強は苦手だが、楽しみにしているゲームのためだ。そう言い聞かせ、重い腰を上げて勉強机に向かう。

 

「それにしても…夜斗、か。」

 

学生鞄から勉強用具を取り出しながら、今日出会った少年を思い出す。

得に当たり障りのない出会いのハズが何故か印象的で、脳裏に焼き付いて離れない。

何でだろう。

インパクトからすれば、彼の義兄である零皇が凄かったはずなのに。

 

「そういえば…ソードアート・オンラインをするって言ってたわね。」

 

だとすれば、向こう側でもっと話せる。

もっと互いを知れるかも知れない。

だがMMOに限らず、ネットの海でリアルな個人情報を話し合うのは御法度だ。

しかし夜斗をもっと知りたい。そう思う自分がいることに陽菜は戸惑う。

 

「なんで…かしら。人のこと…男の子のことを、もっと知りたい。そう思うなんて…初めて、かも。」

 

そっと…最近ようやく膨らみ始めた胸に手を置く。

ドクン、ドクンという心臓の鼓動が何時もより大きく、そして早く感じた。

解らない。

何なんだろう。

早く日曜日にならないかな。

早く日曜日の13時にならないかな。

そう…望んでしまう。

ソードアート・オンライン、その向こうにある物に…望みを抱く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…待ち望んだ時は来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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