ソードアート・オンライン~二人の軌跡~   作:ロシアよ永遠に

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第2話『終わる日常、始まる非日常』

ホワイトアウトした視界が元に戻ると、周囲からごった返すざわめきが耳に入る。

まるで閃光弾でも食らったのかと言わんばかりに焼けていた網膜も元に戻れば、周囲には見渡す限りのプレイヤー、プレイヤー、プレイヤー。はじまりの街の広場にある円形状の広大なスペースに、かなりの人数が集められていた。

ざっと見た所、もはや数百人は下らないほどの人数。いや…

 

「強制転移(テレポート)…?」

 

先程懸念していた強制ログアウトではなく…強制転移。もしもこれが全プレイヤーに適用されていたなら、この広場に全プレイヤーが集められているということになる。何かしらの照らし合わせでもしない限りは、この場に一同に会することなど先ず有り得ない。と、なれば…

 

「お、おい、あれ…!」

 

ざわめきの中で、クラインが声を挙げる。近くにいたキリトとエステルは、彼のその声と指差す先にある物へと視線を移す。

そこには、赤い電子文字で『ALERT』と空中に記されていた。それと共に『SYSTEM ANNOUNCEMENT』の文字も点滅し始め、次の瞬間にはALERTの赤い文字で広場を覆うように空が埋め尽くされていった。

 

「な、なんなの、これ…。」

 

正直、空が赤く染まるなどと言う現象に、普段肝の据わっているエステルですら固唾を飲み込み、そしてその得も知れぬ異様な光景に戦慄を覚える。

これもSAOのイベントのような物なのか。

それにしては演出が凝りすぎているようにも見受けられる。

誰もが不安と疑心に満ちあふれる中…丁度広場の中央のモニュメントの上空から、赤い液体のような物が滴り落ちる。

一瞬、まるで血を彷彿させるようなそれに、目にしたプレイヤーは目を見開き、ゴクリと喉を鳴らす。

やがて…ポタポタと滴り落ちてきたソレは、液体という形状を変え、赤い色彩はそのままに、巨大なローブとして中央広場に顕現した。

 

『プレイヤーの諸君…私の世界へようこそ。私は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ。』

 

声を発し、名乗り出たローブの男。そして名乗った名前に、一同の殆どが固唾を飲み込んだに違いない。

茅場晶彦

このゲームの開発に最も携わった人物と言っても過言ではない男だ。

 

 

『プレイヤーの諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。 しかし、それは不具合ではない。 これは、ソードアート・オンライン本来の仕様である。』

 

未だに集められたプレイヤーは彼の言葉に理解が出来ずにいた。

ログアウトボタンがないのが本来の仕様?

つまり…ログアウト出来ないことがソードアート・オンライン?

フルダイブゲームとして根本的に矛盾していることを言う彼に、ざわめきと困惑が広場を支配していく。

 

『諸君は今後、この城の頂きを極めるまで、ゲームから自発的にログアウトする事はできない。また、外部の人間による、ナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。 もしそれを試みた場合…ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君らの脳を破壊し、生命維持を停止させる。』

 

脳を破壊

生命維持を停止する

そんな言葉に、誰も彼もがざわめきを止め、絶句した。

 

「っはは…!んな…馬鹿なことあるかよ…。ナーヴギアはゲーム機だぜ…?脳を破壊したりとか、殺したりとか…そんなこと…」

 

恐らく大半の人間が思うであろうことを、クラインが震えながら言葉にする。

しかし…未だ冷静でいられるキリトはそれをばっさりと否定した。

 

「いや…ナーヴギアの原理は電子レンジと同じだ。脳波を読み取る電磁パルスの出力を上昇させられたなら…不可能じゃない。」

 

「で、でも、電源を抜いたりしたら、電力供給もなくなって出来ないんじゃ…」

 

「ナーヴギアの大半はバッテリーセルだ。例えば充電用コードを抜いたとしても、恐らく内部バッテリーに蓄電された電力で、脳を焼き切るくらいの出力は出せると思う。」

 

エステルの案にも、キリトは事もなげに異を唱えた。

つまり…茅場晶彦と名乗るローブの男の言葉は…恐らく本当である、と。

 

『より具体的には、10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除、分解、破壊を試み。以上のいずれかの条件によって、脳破壊シークエンスが実行される。 この条件は、すでに外部世界では、当局およびマスコミを通して告知されている。 ちなみに現時点で、プレイヤーの家族、友人等が警告を無視して、ナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果…残念ながら、すでに230名のプレイヤーが、アインクラッド及び、現実世界からも永久退場している。』

 

つまり…既に230人ものプレイヤーが犠牲者として命を落としたことになる。

このソードアート・オンラインをプレイしてしまったばかりに…。

 

『諸君が、向こう側へ置いてきた肉体を心配する必要はない。 現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアは、多数の死者が出ている事を含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は低くなっていると言ってよかろう。 今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうち、病院、その他の施設へ搬送され、厳重な看護態勢のもとに置かれるはずだ。 諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでもらいたい。』

 

安心して?

ゲーム攻略に励め?

 

「ふざけるなよ…!こんな状況で悠長にゲーム攻略なんて…!」

 

ギリッ…と、握り締めた拳。

このゲームを心から楽しんでいたキリトからすれば、その怒りは並々ならぬ物がある。

しかし…続く茅場の言葉は、この場にいるプレイヤーを更なる恐怖と絶望に落とすこととなる。

 

『しかし、充分に留意してもらいたい。 諸君にとってソードアート・オンラインは、すでにゲームではない。 もう一つの()()と言うべき存在だ。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。 ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される。』

 

つまり…モンスターや罠でやられても、セーブポイントからのコンティニュー等という物は存在しない。

この世界での命の終わりは、リアルでの命の終わり。

死に戻り等という物は出来ない…。

 

『諸君がこのゲームから解放させる条件は、たった一つ、先に述べたとおり、アインクラッド最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つボスを倒してゲームをクリアすればよい。 その瞬間、生き残ったプレイヤー全員を、安全にログアウトすることを保証しよう。』

 

「百層…だと!?ふざけんな!β時代じゃろくに上がれなかったってのに、100層だと!?どれだけ掛かると思ってんだ!?」

 

クラインの怒りも尤もだが、その怒りの理由という物の根本的な物が分からないエステルは、こっそりとキリトに聞いてみる。

 

「ね、ねぇ。β時代って2ヶ月よね?…何層まで行けたの?」

 

「…9層だ。しかも、何回か死に戻りして、ボスとかダンジョンの対策を考えつつ攻略して、な。」

 

つまり…単純計算では大方100層クリアには2年かかることになる。しかも、やられながらのクリアなので、1回ぽっきりの今回ではそのような攻略法は通用しない。下手をすれば…もっと掛かるかも知れない。

先の見えない不安が…徐々に空気として広場に蔓延していく。

だがそんな空気を読んでか読まずか。茅場は再び言葉を発した。

 

『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が現実であるという証明を見せよう。 諸君のアイテムストレージへ、私からのプレゼントが用意してある。 確認してくれたまえ。』

 

プレゼント。

そう聞いたら普段は胸が躍るものだろうが、今のこの状況でそんなことを感じている余裕はない。だが、確認しないわけにもいかない。

罠、だろうか?

だが、わざわざこんな前置きをしてまでそんなことをする理由も見当たらない。

クラインもキリトもエステルも…そして広場にいた皆は、メニュー画面を操作し、アイテム画面から追加されているアイテムを実体化させる。

アイテム名『手鏡』

手の上に現れたのは、名の通りに何の変哲も無い手鏡だ。そこに写し出されているのは、自身の生み出したキャラアバター。

これが何だと言うんだ?と、疑問符を浮かべた瞬間。

手鏡から目が眩む程の閃光が迸った。

先ほどの強制転移(テレポート)の時のように目が眩むが、目が慣れて周囲を見渡せば、先程と変わらない…はじまりの街の中央広場に変わりなかった。

しかし…

 

「お、おめぇ誰だよ?」

 

「お前こそ誰だ?」

 

知った声が訳の分からないことを言い始めた。

さっきの閃光で記憶障害にでもなったのか?

 

「ちょっと…何揉めてんの?ふざけてる場合じゃ…」

 

振り返ってエステルは言葉を失う。赤髪にバンダナで、エステルよりも身長の高い無精髭野武士男と、エステルと同じくらいの背の中性的な少年が互いの顔を見合って目を丸くしていたのだ。

同時にエステルは思った。

確かに、アンタ達誰よ?と。

 

「「そっちこそ…誰だ?」」

 

見事に彼等はハモった。

 

「あたし?あたしはエステルよ。何言ってんのよ。」

 

「「はぁっ!?」」

 

再び驚かれた。

何を驚くことがあるのか。

自分の顔に何か付いているのか?

そう思って、先程の手鏡を見直してみる。

 

「なんだ。()()()()あたしの顔じゃない。」

 

別段問題ない。

うん、問…題……な……い…?

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

一際大きな声を、それこそ広場全体に響き渡る程に出してしまった。

手鏡に写るのは、アバターで作り上げた凛々しい大人の女性のそれではない。

未だ幼さが残る顔立ちに、茶色く腰まで届く髪。身長もアバターのようにモデルのような高さではなく、150に届くか届かないかのもの。そして…未だ膨らみの少ない胸部。

現実のエステル…否、陽菜そのものとなっていた。

 

「え、えっと…一つ聞いて良い?」

 

「「何だ?」」

 

「もしかしなくても…リアルの顔のキリトと…クライン…よね?」

 

「「リアルの…顔?」」

 

そしてその後はエステルと同じく、悲鳴をあげる2人の男。

 

「ど、どうしてリアルの顔が…?」

 

「…ナーヴギアだ。頭をスッポリ覆っているナーヴギアだから、脳と同じく、顔付きとか髪型をスキャニング出来るから…。」

 

「じゃあ…体格は…」

 

「こりゃあ…俺の勘だケドよ。ナーヴギアを起動すっ時、身体のキャリブレーションをしたじゃねぇか。アレじゃねぇか?」

 

確かに…自身の身体をぺたぺたと触って、体格情報をナーヴギアに登録はしたが…まさかこのようなことに使われるなどとは夢にも思わなかった。

しかしこうなっては、このソードアート・オンラインを続けていく上で、より生身でプレイしている気分に否が応でもなってくるものだ…。

だが、分からない。ここまでして、こうまでして茅場がソードアート・オンラインをプレイさせようとする理由は何だ?まさか閉じ込めるためだけにナーヴギアを、そしてこのゲームを開発したのか?

 

『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は…ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?と。私の目的は、そのどちらでもない。 それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。 鑑賞するためのみ、私はナーヴギアを、ソードアート・オンラインを造った。 そして今、全ては達成せしめられた』

 

そして…言うだけ言って彼は満足したか…

 

『……以上でソードアート・オンライン正式サービスチュートリアルを終了する。 プレイヤー諸君の…健闘を祈る。』

 

その言葉と共に、ローブは現れたときの逆再生の如く空へと吸い込まれ…赤黒く染められた空は、夕暮れの茜色へとその色彩を変えた。

そして…この時から始まった。

平穏な現実の終わり

そして生き残りを賭けたデスゲーム攻略のはじまり。

 

 

ややあって…

 

 

 

 

広場は怒号と悲鳴に包まれることとなった。

 




とりあえず切りの良いとこで切ります。
少しずつ…少しずつ執筆速度を上げれたら良いなぁ…
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