ただいま宇宙船を攻略中
それでは第二話どうぞ
まだ暑さの残る十月上旬。
例の黒歴史大爆発から数日後の放課後、僕と後輩ちゃんはいつものように一緒に下校していた。
今日のおごりはコンビニのガリガリ君。こないだの一件で千円以上飛んだのでやむなしである。
シャリシャリシャリ
まあ後輩ちゃんが満足してるのでOKだが。
「……ふう、ごちそうさまでした」
後輩ちゃんがペロリとたいらげ、きちんとお礼を言う。
「それにしても美味しそうに食べるね」
「異常なくらい暑いですからね……もう十月ですよ?さっさと寒くなればいいのに」
「でも寒くなったらなったで早く夏になれって思うんでしょ?」
「…………否定はしません」
例の一件から後輩ちゃんとの距離感が変わることは別になかった。いまでも、一緒に下校するこの関係が続いている。……まあ一時期はとても気まずかったが。
「そういえば、先輩さん。先輩さんは文化祭で何をするんですか?」
「ん?今年も図書委員会で……ああ、そっか。後輩ちゃんは今年が文化祭初めてか」
うちの高校は10月に文化祭がある。高1から高3まですべての生徒が参加し、特に高3にとっては高校生活最後の行事であるため大いに盛り上がる。
「図書委員会は毎年古本市場を出店しててね。今年もそこでお仕事だ」
「古本市場!そういうのもあるんですね……」
「まあうちの文化祭は基本的になんでもOKだから」
高1の時、売店でカエルの丸焼きやら教師同士のカップリング同人誌が売っていて学校の行く末に一抹の不安を覚えたのは良い思い出だ。
「なんか簡単そうな仕事ですね、いいなぁ……」
「そういう後輩ちゃんはクラスで出し物するんでしょ?なにするの?」
高1はクラスごとに出し物を、高2高3はクラスや学年関係なく好きなグループに入って出し物をするのがうちの文化祭でのルールである。まあ、僕みたいに委員会やらクラブがらみのグループで参加する生徒が大半であるが。
……とまあ、そんなことはどうでもいい。それより今は、
「…………」
さっきの質問以来黙りこくってしまった後輩ちゃんの心配をするべきだろう。
もしかして……
「まだ何をするかすらも決まってない……とか?」
「………………………」
……確か残り一週間だった気がするのだが。
「……………………………最初はみんなまじめに議論してたんですよ?だけど何をするかをきっかけにに上位カーストの女子同士の対立が深まっていきまして……」
何だろう。もうオチが読めた。
「それで終わったらよかったんですけど……そこに何も考えてない男子の無責任な発言やら教師の無駄な説教やら他のクラスからの煽りやらが合わさりまして……」
思ったよりひどかった。
「しかもアイツら無干渉を貫こうとした私を引っ張り出してきて……先生や実行委員やらは使い物にならないし、女子はもっての外だし、男子どもは最初からメイド服としか言わないし……」
マズイ、後輩ちゃんから黒いオーラが。
「ああ、うん。その……なんか聞いてごめんね?」
「はぁ、いいんですよ。先輩さんは何も悪くないですし……」
そう言いつつもやっぱり今の後輩ちゃんには元気が無い。何とかできればいいのだけれども……
「まあそれはいいとして……」
イイノカナー?
「その……先輩さんにちょっとお願い事がありまして……」
急にもじもじしながら後輩ちゃんが言う。
「後輩ちゃん、今日はもうガリガリ君食べたでしょ?今日はもうおごらないよ?」
「……先輩さんは私を食欲の塊か何かとでも思ってるんですか?」
思ってないと言えば嘘にはなる。
イヤだがしかしそれぐらいしか僕にお願い事することなんてないと思うのだが……
「あのですね、実はこないだ父親が映画のチケットをもらってきまして……」
うんうん
「ちょうどそれが二枚ありまして……その……」
うんうん
「一人で行ってもいいんですけど、余ったらもったいないなーと思いましてね?だから……」
うんうん、うん?
もしかしてこの流れは……
「今週末一緒に、映画、見に行きませんか……?」
後輩ちゃんが上目づかいで聞いてくる。非常にかわいい。
…………しかしこれはどう受け取ればいいのだろうか。
ただの『友人』としてのお誘いなのか?それとも――?
……ん?いや待て……今週末?
「……ねえ、後輩ちゃん」
「は、はい!」
なんだかすごくキラキラした顔で期待してる後輩ちゃんには悪いのだが……
「今週末、文化祭準備で全部つぶれてるんだけど……」
「あっ……」
後輩ちゃんの顔が凍り付く。……そりゃ何をするかも決まってないなら、週末に準備しようとかの話もでてこないだろうなぁ。
というか後輩ちゃんの落ち込み具合が凄まじい。まるでケンシロウに振られた時のシン(イチゴ味)みたいな顔だ。すごくこちらが申し訳なくなってくる。
「……………」
「あ、あの。ごめんね?なんかこう……ごめんね?」
ヤバい。申し訳なさ過ぎてごめんねとしか言えなかった。
なんとかフォローしなくては。
「ほ、ほら!確か再来週の月曜日が振替休日だったよね?そこならなんとか……」
「……このチケット、期限が今週末までなんです」
おっふ
「……それにその振替休日、多分先輩さん打ち上げありますよね?図書委員会の」
あべし
「それに先輩さん高3だから、文化祭終わったらもう受験勉強モードですよね?休日とか空いてるんですか?」
……これは詰んでますわ。
ああ、後輩ちゃんの目からハイライトが!
「……いいんですよ別に。楽しみになんてしてませんでしたし……先輩さんとデートする口実が消えたことなんて別に何とも……なんとも……」
なんか後輩ちゃんが膝を抱えてブツブツ言いだした。何を言っているのかは聞こえないが十中八九ネガティブなことだ。絶対涙目になってる。
ただでさえ文化祭のせいでダメージ受けてるのに、このまま放っておいたら明らかにマズイ。なんとか打開策を考えなくては。チケットが使えるのは今週まで。だけど週末は予定で一杯。なら週末以外の日に後輩ちゃんと一緒に……あ、そうだ。
「後輩ちゃん。今から映画見に行かない?」
「……え?」
今から行けばいいのか。
後輩ちゃんと一緒に隣町の映画館に入る。もう何だかんだでもう6時30分。
「なんだかちょっと不思議な気分ですね……」
「まあ、普通は放課後に来るところじゃないからね」
しかも夜に。高校生二人で。
「確か入場開始が7時からだっけ?」
「はい。結構時間が余っちゃいました」
今日見る映画は恋愛モノ。どこにでもいる普通の高校生に突然義理の妹ができて――というテンプレものらしい。
……どうにも展開が読めそうなのは気のせいだろうか。
「……私から誘っておいて今更なんですけど、これって面白いんですかね?」
「本当に今更な疑問だね……」
気持ちはわかるが。
「まあそれはどうでもいいんです。重要なことじゃありません。」
映画館に来てそれは本末転倒ではないだろうか。
「映画館にて一番大事なこと。それは――!」
「あ、ポップコーンは買わないからね?」
「なん……だと……?」
あ、パンフレット売り切れてる。出来自体は結構いいのだろうか。……ちょっと楽しみになってきた。
「ちょっと待ってください先輩さん⁉映画館でポップコーン買わないとか狂気の沙汰ですよ⁉」
「いやポップコーンて結構高いし……それに夕食前なんだからおやつ食べちゃダメだよ?」
「オカンですかあなたは!」
そんなこと言われても。
「ポップコーン!ポップコーン!ぽっぷこーん!」
本当に高校生かこの娘。
「いやちょっと落ち着いて……」
「かってくーだーさーいー!」
「大丈夫⁉なんか幼児退行してない⁉」
いつものCOOLな性格はどこ行った!
ちょっとおかしくなった後輩ちゃんを心配していると、その後輩ちゃんが急に静かになった。
そして涙目でこちらを見上げながら……
「先輩さん……ほんとに……買ってくれないんですか……?」
こうはいちゃん の こびをうる こうげき!
こうか は ばつぐんだ!
「い、いやでも……」
「…………」
こうはいちゃん は なみだ を ためている!
「あ、あの。えっとね?」
「だめ……なんです……か……?」
こうはいちゃん の うそなき!
せんぱい は めのまえ が まっくらになった!
「………………………………………………………………………………………一番小さいサイズね?」
「ありがとうございます、先輩さん!愛してます!」
愛って安いんだなぁ……
ほくほくな顔でポップコーンを持つ後輩ちゃんと一緒に入場する。
結局ポップコーンはMサイズのものを買わされた。600円のキャラメル味である。一応僕と後輩ちゃんの二人分ではあるが。
「楽しみですね、先輩さん!」
「ウンソウダネ」
こちらの財布の寂しさも知らずに後輩ちゃんがはしゃいでいる。
……まあ、もう失ってしまったものは仕方がない。今は映画を楽しむとしよう。
それにしても……
「映画館で映画を見るのは久しぶりだな……」
「そうなんですか?」
「1年ぶりくらいかな?確か友達と一緒に来たんだよ」
うん、思い出した。
確か決闘者な友達に『映画特典ほしいから一緒に見てくれ!』て頼まれて……映画代まで出してくれたんだった。
「それ以来は別に見たいものもなかったし……特に機会も無かったから」
「そうですか……」
「そういう後輩ちゃんは?」
個人的にはあまり来そうなイメージが無いのだが……
「私は結構来ますよ?父親と一緒に」
「それは珍しい」
高1の女の子なんて一番父親から離れている時期だと思うのだが。
「そりゃ土下座されながら頼まれたら行くしかないじゃないですか」
なるほどそういう素直なタイプの父親か。
……それにしたって相当ひどいが。
そんな哀れすぎる父親に思いをはせていると、後輩ちゃんが急に歩みを止めた。
何事かと後輩ちゃんを見ると――
「……でもですね、友達と一緒に来たことはなかったんです」
そこには悲しそうな後輩ちゃんがいた
「私はいつも友達が少なくて、いつもそれが当たり前で」
少しずつ言葉が紡がれていく。
「中学校でもいつも一人で。慣れたつもりでもやっぱり羨ましかったんです。一緒に遊んでくれる人のいる、普通の人たちが」
それはとても悲しくて。
「そのまま中学校を卒業して、高校に入って。それでもやっぱり独りぼっちのままで」
そんな顔をこれ以上みていられなくて。
「ずっとこのままなんだなって思って――」
気が付くと後輩ちゃんを抱きしめていた。
もう後輩ちゃんにそんな顔をしてほしくなかったから。
後輩ちゃんにはもっと笑ってほしかったから。
「……すいません。気を使わせてしまいましたね」
特に抵抗することもなく、僕に身を任せて後輩ちゃんは話を続ける。
「だから今、すごくすごく嬉しいんです。先輩さんと出逢って、一緒に帰るようになって、映画を一緒に見て……そんな当たり前のことがすごく嬉しいんです」
……そんなことを言う後輩ちゃんの声は本当に本当にうれしそうな声で。
「だから先輩さん。今日はありがとうございます。それしか言う言葉が見つかりません」
このままの後輩ちゃんにしておきたくなくて。
「後輩ちゃん」
「なんですか?先輩さん」
だから僕は。
いつも通りに戻りそうな後輩ちゃんに――
「……いつでも呼んで」
「ふぇ?」
「いつでも、どこでも、僕を呼んでくれていい。
絶対後輩ちゃんに会いに行くから」
―-だから、もう二度とそんな顔をしないでくれ。
そんな告白まがいなことを言った。
「……」
「……」
沈黙が続く。そんな中、後輩ちゃんがつぶやいた。
「……いいんですか?そんなこと言って」
「うん」
「私、相当めんどくさい女ですよ?本当にいろんなところで呼び出すかもしれないんですよ?それでも……」
「うん。それでもだ」
―-君の笑顔を守れるなら。
再びの沈黙。それを破ったのも再び後輩ちゃんだった。
「……すいません。ちょっとこのままにさせてください」
そういって彼女は僕の胸元に顔をうずめた。
その後しばらく彼女は泣いた。
これまでの孤独をいやすかのように。
しばらくたった後、後輩ちゃんは泣き止んだ。
どちらからともなく抱き合うのをやめ、見つめあう。
「……ありがとうございました、先輩さん」
「どういたしまして」
「みっともないところ見せてしまいましたね。……でもそれも、先輩さんにならいいかもしれません」
そう言う後輩ちゃんの顔は、涙の跡はあっても悲しみのない、とても晴れやかなものであった。
「スッキリしたようでよかったよ」
「ええ、先輩のおかげです」
―-ああ、やっぱり後輩ちゃんには笑顔が似合う。
「さて!それじゃ、気を取り直して映画を見ましょう!」
「うん!」
この笑顔のためなら何でもできると思えるほどに。
「……………………………………あれ?そういえばポップコーンは?」
「………あ」
その後、泣きそうになる後輩ちゃんと一緒に、抱き合った衝撃でしっかり床にばらまかれていたポップコーンを回収するのだが……それはまた別のお話。
映画を見るシーン?
そんなもの、ウチにはないよ……
次は文化祭編。