先輩さんと後輩ちゃん   作:サリチル酸

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うちのカルデアにアラフィフ紳士がやってきました。やったぜ。
でも毒針が全然足りねえぜ。ちくしょう。

それでは第四話どうぞ。


第四話 後輩ちゃんの質問in文化祭

 

文化祭二日目。開催日が日曜日なのもあって一日目よりもお客は多い。

とは言ってもそれは古本市場にとってそれほど関係なく、

 

「……」

 

後輩ちゃんのことで頭がいっぱいの僕にとってはまったくもって関係ない。

 

「……実行委員長」

 

昨日後輩ちゃんの恋心だなんだと言われたせいで、あの後からずっと考えがまとまらない。僕の気持ちはどうなのか、後輩ちゃんの気持ちはどうなのか。そればかり考えている。

 

「……実行委員長?」

 

そもそも本当に後輩ちゃんは僕のことが好きなのだろうか?確かに何度も優しいことをしてるし、映画館ではあんなことを言ったが……それでも後輩ちゃんが僕を『いい友達』と思っている可能性は十分あるわけで……

 

「……実行委員長!」

 

そんな後輩ちゃんに対して僕はどういう感情を抱いているのだろうか?後輩ちゃんはかわいいし友人以上の関係を僕が望んでいることは自分でもわかる。

ただ『彼女』への気持ちがまだしっかり残っていることもまた事実で――

 

「実 行 委 員 長 ‼」

 

うぉん!びっくりした!

 

「急に耳元で怒鳴らないでよ……」

 

「さっきから何度も呼びましたよ。……大丈夫ですか?昨日の昼から明らかに様子がおかしいですよ?」

 

そう言うのは図書委員会の後輩の一人だ。

 

「たぶん大丈夫……かな?」

 

自分でも大丈夫かわからないもので。

 

「……まあいいです。そんな事よりいいんですか?」

 

「ん?なにが?」

 

なにかミスでもしてしまっただろうか?

 

「もう実行委員長のシフトとっくに終わってますけど」

 

………………ゑ?

慌てて時計を見る。

シフトの終了時刻は12:15.

後輩ちゃんとの待ち合わせは12:30.

現在の時刻は13:00.

 

「………………………………………」

 

こ れ は マ ズ い で す よ !

ヤバい!やってしまった!あまりにも上の空すぎた!

昨日の一件で絶対不機嫌なのにこんなことしたら……いや、自己嫌悪は後だ!

今は一刻も早く後輩ちゃんのもとに向かわねば!

 

「ごめん!あとはよろしく!」

 

そう言ってから返事も聞かず、全力疾走で集合場所に向かう。集合場所が近いのがまだ救いだ。

無駄に多い人の波をかき分けて、後輩ちゃんに指定されていた教室の前にたどり着く。後輩ちゃんがもういない可能性も十分にあったが――

 

「こ、後輩ちゃん!ごめん!遅れちゃって!」

 

後輩ちゃんはちゃんとそこにいた。何やらうつむいているが。

 

「…………先輩さん?」

 

帰ったりしていなかったので一安心。とりあえず謝らなければ。

 

「本当にごめん!気づいたらこの時間で――」

 

「先輩さんっ!」

 

「ゴフゥ!」

 

僕の言葉をさえぎって急に後輩ちゃんがタックルばりの勢いで抱き着いてきた。

てかちょっと待って後輩ちゃんの頭がみぞおちに……!

 

「来てくれた……!よかった……!」

 

アレ?もしかして後輩ちゃん、泣いてる?NANNDE?

というか痛い痛い!締め付けが強すぎる!

 

「ちょ……後輩ちゃん……いったん離れて……!」

 

「…………!」(いやいや)

 

 

僕の言葉に反応して、離したくないとばかりに首を振り振りしながら抱き着く力を強める後輩ちゃん。

いつもなら抱き着いてくる後輩ちゃんの体の感触にあたふたするのだろうが、

 

「後輩ちゃ……!くるし……!」

 

「……」(うー!)

 

ぶっちゃけそれどころじゃない。みぞおちのダメージに後輩ちゃんの締め付けが加わって――

……あ、これはダメかもしれん。グッバイ現世。

 

 

――その後、後輩ちゃんが僕の惨状に気付いて腕を離してくれるまで15分かかりましたとさ。

 

 

「……ホントにごめんね?後輩ちゃん」

 

「……本当ですよ、おかげで要らない恥をかくことになりました」

 

あの後、僕を絞殺しかけていたことに気付いた後輩ちゃんはもう一つ大変なことに気付いた。

自分たちが今、思いっきり他人の目がある廊下で抱き合っていたことに。

そこからの後輩ちゃんの行動は早かった。致命的なダメージを負って動けない僕を思いっきり引きずり倒しながら近くの休憩所に逃げ込んだのだ。

 

「だいたい30分も女の子を待たせるなんて男として、いえ人間としてどうなんです?」

 

「……すいません」

 

ちなみに僕は現在休憩室の床に正座である。まあ、後輩ちゃんにしてしまったことを考えると全然軽い罰だとは思うが――

 

「私、昨日楽しみにしてるって言いましたよね?それなのに一向にやって来ない先輩さんを私がどんな気持ちで待っていたのかわかります?」

 

「……すいません」

 

……後輩ちゃんは、僕たちが生温かい目で回りの人から見られていることに気付いているのだろうか。

 

「ちゃんと聞いてるんですか先輩さん!」

 

「聞いてますすいません!」

 

どうやら後輩ちゃんはそれどころじゃないらしい。激おこだ。

 

「だいたいどうしてこんなに遅れたんです?電話がつながらなかったのは仕事中に電話を切ってたからなんでしょうけど……」

 

後輩ちゃんがこちらを見ながら聞いてくる。

……どう言い訳しようか。本当のことを言うわけにはいかないから適当に嘘を

 

「ちゃんと本当のこと言ってくれますよね?信じてますからね?」

 

よりこちらを追い詰めるため、裏切ることを許さないニコニコ顔で後輩ちゃんが言う。新しい技を覚えたなこの娘。

……しかしマズイ。この後輩ちゃんに対して嘘はつけない。だからといって『後輩ちゃんと僕のこれからの恋愛感情について考えていたら時間のことを忘れていました』なんてことは言えない。言えるわけない。

 

「先輩さん?」

 

今にも鬼に変わりかねない笑顔で後輩ちゃんが追い打ちをかけてくる。

ええい、こうなったらアドリブで真実をぼかしながらごまかすしかない――!

 

「えーと!後輩ちゃんのことを考えてて遅れました!」

 

「…………………………ふぇ?」

 

「…………………………あ」

 

……………………(気まずい沈黙)

アドリブでやった結果がこれだよ!

どうしよう!何回目か分からないけど非常に気まずい!

 

「……えっと」

 

「……その」

 

は、話をそらさなくては!周りの人の視線もとんでもないことになってる気がするし!

 

「そ、そういえば後輩ちゃんはさっきなんで泣いてたの?」

 

後々考えるとこの質問も相当アレだと思うが、僕も後輩ちゃんも平静じゃなく――

 

「は、はい!さっき泣いてたのは待ってる途中できっと私は嫌われちゃって捨てられてきっと今先輩さんは私意外の誰かと文化祭を回ってるんだと考えたらとっても哀しくなって自分の気持ちをどうしようもなくなって現実を直視したくなくてそこから動かないでいたら先輩さんが来てくれて捨てられてなかったんだってわかって本当にうれしくってこれからも一緒にいられるんだって安心したら感情があふれちゃ…………あっ」

 

「……」

 

なんてこった!後輩ちゃんが自爆しちまった!

後輩ちゃんも自爆に気付いたのだろう、さっきまでも十分に赤かった顔がもうヤバいことになってる。そして周りの目もヤバいことになってる。

ええい!後輩ちゃんのためにもさっきの激白は頭の隅に置いてもう一回話題転換しないと――!

 

「せ、しぇんぱいさん!」

 

「はい⁉」

 

後輩ちゃんの方か話しかけてきた⁉

いつもは顔を真っ赤にするだけでフリーズするだけの後輩ちゃんが⁉

 

「こうなったの全部先輩さんのせいです!いいですね!」

 

「え⁉いやそれ」

 

「い い で す ね !」

 

「ハイ!」

 

拒否権はない。修羅となった後輩ちゃんの命令は絶対である。

 

「責任とって今からちゃんと遅れた分もエスコートしてくださいね!」

 

「え?あ、うん……?」

 

「あと全部先輩さんのおごりです!」

 

「ちょっと待って⁉それは」

 

「い い で す ね !」

 

「ハイ!」

 

「よろしい!それならさっさと行きますよ!ほら早く!」

 

こうして僕と後輩ちゃんの最初で最後の文化祭が始まった。

……最後まで生温かい視線に見送られながら。

 

 

 

この後、休憩室を出た僕と後輩ちゃんはちゃんと文化祭を楽しんだ。

後輩ちゃんが目に付く飲食店に片っ端から入っていき、そのせいで僕の財布ポイントがゼロになったり。

たまたま見た演劇のクオリティの高さに二人で驚いたり。

青い占いの出店で明らかにおかしいレベルの占いを披露され、そこで後輩ちゃんの恥ずかしい秘密が暴露されたり。

図書委員長がミスコンで一位に輝くところを目撃し、そのせいで後輩ちゃんの機嫌が急降下たため機嫌直しのためにさらにおごらされることになったり。

二人でゆっくり展示を見たり、休憩したり――

 

そんなこんなで楽しい時間は過ぎ、文化祭終了まで残り十分。

僕は急にまじめな顔になった後輩ちゃんに『話がある』と連れられて、人気のない校舎の端まで来ていた。

……いったい何の話だろうか?

 

「とりあえず今日はありがとうございました先輩さん。最初の遅刻以外はとっても楽しかったです」

 

「……本当にごめんなさい」

 

それしか言う言葉が見つからない。

 

「……ふふ、いいんですよ。その分まで楽しめましたから」

 

「……そう言ってもらえると嬉しいな」

 

「……」

 

「……」

 

しばしの沈黙。どちらも言葉を発しない。

……恐らくここからが後輩ちゃんにとっての本題なのだろう。

意を決したようにこちらを見ながら後輩ちゃんが口を開く。

 

「……三つ質問したいことがあるんです。先輩さんについて」

 

「……うん」

 

こちらも後輩ちゃんを見つめながら質問に身構える。いったいどんな質問が飛んでくるのやら。

 

「昨日の話ですけど……本当に図書委員長と付き合ってないんですよね?」

 

なんだその事か。

 

「それは絶対にないよ。アイツにはちゃんと彼氏いるし。僕とアイツはただの友達だ」

 

「……ふぅ、そうですか」

 

アイツとはいつまでも腐れ縁な友人関係であるだろう。

 

「……二つ目です。今、先輩さんは誰とも付き合ってないですよね?」

 

「うん」

 

それも明らかな真実だ。

その答えを聞いてホッとしたような表情をした後、後輩ちゃんは明らかに怯えながら三つ目の質問を口にした。

 

「……三つ目です」

 

一拍おいてから後輩ちゃんは振り絞るように言った。

 

「先輩さん、好きな人いますか………?」

 

その瞬間、思い出されたのは『彼女』のこと。

 

二年前に出会い、数か月で僕の前からいなくなってしまった『彼女』のこと。

 

人生で初めて恋をした『彼女』のこと。

 

そして最後になってようやく思いをとどけて――

 

「……先輩さん?」

 

不安そうな後輩ちゃんの言葉で我に返る。

……どうにも未だに『彼女』のことを自分は引きずっているようだ。

……それを悪いことだとは思わないが、

 

「あの、答えたくないのなら……」

 

少なくとも今だけは後輩ちゃんに向き合わなくては。

 

「……うん、今でも好きな人はいるんだ」

 

「……え?」

 

後輩ちゃんは驚いた顔をした後、泣きそうな顔で聞いてきた。

 

「そ、それっていったい誰なんですか?」

 

「昔の同級生。今はもう会えないけど」

 

「…………え?」

 

「……ごめんね。これ以上は今は言えない」

 

自分でもまだ整理がついてないから。でも――

 

「……でも、いつかは絶対に話すから」

 

後輩ちゃんには聞いて欲しいんだ。

『彼女』と僕がどういう風に出会って

『彼女』と僕がどんなふうに別れたのか。

だから――

 

「それまで、待ってくれる?」

 

自分でも自分勝手なお願いだとわかっている。

でもこれしか――

 

「先輩さん」

 

そんなどうしようもない僕に対して、

不安に押しつぶされそうな顔で、それでも健気に後輩ちゃんは言う。

 

「……待ってます」

 

ああ、本当に。

ここまでされたらわかってしまう。

後輩ちゃんは僕が好きで

僕は後輩ちゃんが好きだと。

 

衝動的に後輩ちゃんを抱きしめる。

待ち合わせの時とは何もかも違う抱擁。

自分も貴女が好きなのだと伝えるための抱擁。

抱きしめられた後輩ちゃんの様子はわからない。

困惑しているのか、受け入れてくれているのかも分からない。でも――

 

――願わくばこの気持ちがちゃんと届いていますように。




これにて文化祭編は終了。

次の投稿も一週間以内にできたらいいな。
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