優しい世界   作:ぽんDAリング

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続・優しい世界

「ん……ん?」

 

朝目が覚めると知らない天井だった。ただ、それだけならテンプレな三番目の少年を真似た台詞を吐くだけだったんだが…

 

「…おい、雪ノ下。ここはどこで、なんでお前が居るんだ?」

 

知らない部屋で寝ているだけじゃなく、何故か雪ノ下雪乃が眠る俺を見下ろしていた。

 

「……目が覚めたのね。ここは貴方のご両親の部屋よ。

そうね、貴方は風邪をひいて…それはもう、玄関先で意識を失う程の高熱で。

貴方の自室は2階でしょう?か弱い私が貴女を運べる訳ないじゃない。

勿論、小町さんからこの部屋の使用許可は頂いているわよ」

 

「……そうか。どおりで怠い訳だ。いや、すまん。迷惑かけたな。礼を言う。」

 

布団に寝ているが妙に体が重くて苦しい。風邪をひいたとなればそれも納得だ。それに、この部屋の壁紙はなんだか見覚えがある。それが両親の部屋だからだと言うのならそうなんだろう。

そんな俺を雪ノ下は優しげに微笑んでいる。

 

「今、何時だ?」

 

俺は両親の部屋のどこに時計があるか知らないし、視線の届く範囲にもそれらしいものが見当たらないので率直に雪ノ下に問う。首を動かすことすら億劫だったとか起き上がる気力すら無かったというのもある。

 

「今は13時を回ったところよ。……因みに、今日は日曜日で学校は休みだから安心して頂戴。あと、小町さんは少し出掛けているわ」

 

「そうか…スーパーヒーロータイムを見逃すなんてとんだ失態だ。今週のプリキュアは山場だったはずなんだがなぁ…小町はまぁ、いつもの事か」

 

「まったく貴方は…」

 

そう言って額に手を当てて呆れる雪ノ下。

だが、その言動とは裏腹にとても嬉しそうに口元だけは笑っていた。

 

「それはそうと、お腹は空いていないかしら?お粥でも作りましょうか?」

 

そう言われると腹は空いている気はする。だが、それ以上に体が怠くて食欲が無い。

 

お粥でも作ると言ってくれた雪ノ下には悪いが正直に言って断る。

 

「…いや、なんとなく腹は空いてる気はするが食欲が無い。」

 

「けれど、何か食べて栄養を摂っておかないと治るものも治らないわ。そうね、冷蔵庫にゼリーがあったはずだから持ってくるわ」

 

言うやいなやスッと立ち上がり部屋を出る雪ノ下の背中を見送り深く息を吐く。

 

ーー今日の雪ノ下は優しい。

 

いや、病人相手にいつもの毒舌を吐く程雪ノ下は鬼では無いのは知っている。けれど、そういう意味じゃなくて、何というか…こう、親しい間柄の優しさ……的に感じてしまうのは俺の自意識過剰なのだろうか?

 

と、考えていると足音と話し声が微かに聞こえてくる。足音は雪ノ下だろう。話し声は小町が帰って来たのだろうか。にしては小町より幼い子供の声っぽい感じだ。

 

「待たせてしまったわね。やっぱりゼリーがあったわ。これだけでも食べれば少しは違うはずよ」

 

「あぁ、サンキュ」

 

体を起こそうと力を入れてみたが思いの外体が起き上がらない。嘘のように腕にも力が入らず愕然としてしまう。

 

「あぁ!無理はしないで、手伝うわ」

 

雪ノ下は素早く俺の傍に寄って背中へ腕を添えてから少しだけ俺の体を起こし、枕元にあったのか大きめのクッションを背もたれ代わりに差し込んでくれた。

 

「すまん、助かった」

 

「いいのよ。こういう時は甘えてちょうだい」

 

ーーまただ。

 

雪ノ下は優しく…親しい者へ向ける様な微笑みを俺へ向けている。

 

「なぁ、雪ノ下。さっき、話し声が聞こえたんだが他に誰か居るのか?」

 

「…えぇ、その…貴方の親戚の子が来ているの。貴方が風邪で眠っているから静かに、とはお願いしていたのだけれど騒がしかったかしら…」

 

少し動揺しながらも、俺を困らせたくないという風に恐る恐ると言葉を発する雪ノ下。

 

「いや、悪い。ただ疑問に思っただけだから気にすんな。

そっか、親戚に小さい子なんていたのか。初めて知ったわ…俺は親戚からもハブられてんのかよ、流石プロボッチ」

 

皮肉っぽく自虐ネタを口にしたが、内心では違和感が大きくなってきている。

 

そもそも、俺自身が風邪をひいた事は記憶に無い。玄関先で意識を失ったと雪ノ下は言ったがそれ以前の記憶すら失うなんておかしい。

 

「ほら、まずは食事にしましょう。それから横になっておけばその内眠れるわ」

 

「…ん、そうだな」

 

取り敢えず、今は雪ノ下の言う通りにしておこう。今の怠さはマジで辛い。

 

「はい」

 

雪ノ下はそう言ってスプーンを差し出してくる。

 

「…いや、なにやってんの?」

 

差し出されたスプーンには既に掬われたゼリーが乗っていて、所謂『あーん』の状態で俺の口元へ向けられていた。

 

「っ?!あの、つい?」

 

「つい、でそんなことすんのかよ。女子力()高いな。……あ~、その、なんだ?思った以上に腕の力がはいらん。だから、その…そのまま甘えさせてもらっていいか?」

 

俺の言葉に少しだけ驚いた様子を見せたが、驚いたのは俺もだ。何故か自然に『甘えて良い』と思ってしまったからだ。

 

恥ずかしさもあったが病人特有の誰かに甘えたい欲求に従い、迅速且つ早急で速やかに薄い青紫色のプルプルを咀嚼して飲み込んでと繰り返した。色的にぶどうゼリーのそれはまったく味が分からなかったのは仕方ない。

 

「雪ノ下、ありがとな。また横にならせてもらうわ」

 

「良いのよ、これくらいの事」

 

雪ノ下に手伝ってもらい、さっきとは逆の手順で背もたれ代わりにしていたクッションを退けて横になる。

 

目覚めた時にあった少しの空腹感はなくなり、薄らと思考が靄掛かってきた。

 

「…雪ノ下、今日の俺は病人だよな?甘えついでに頼みがあるんだが」

 

「……えぇ、良いわよ。甘え谷くん」

 

口元に手を添えて柔らかな笑顔で答える雪ノ下に、通常なら決して頼めない事を要求する。

 

「俺が眠るまで子守唄を歌ってくれ。文化祭の時の曲、結構好きなんだ」

 

「えぇ、えぇ。いいわ、何度でも歌ってあげる」

 

♪~~♪~♪~~~♪~~♪~♪~~

 

 

目を閉じ、雪ノ下の澄んだ歌声を耳に微睡みへと身を任せる。

 

………あぁ、良い曲だ。雪ノ下のアカペラも心に染みる。

 

「……おじいちゃん、ねちゃったの?」

 

ドアの開くガチャという音の後に小さな子供の舌っ足らずな声が聞こえて雪ノ下の独唱が止む。

 

しかし、もう数瞬あれば深い眠りにつけそうな俺は目を開ける事も出来ずに耳に入る音を受け入れるしかない。

 

「シーッ。おじいちゃんはもう少しで眠れそうなの。おばあちゃんはおじいちゃんに子守唄を歌ってあげてるところなの」

 

「じゃあわたしもいっしょにうたうー」

 

♪~♪~~♪~♪~~♪~~~♪~~

 

 

ーーあ、そうだった。そうか。

 

ーーあぁ、雪乃。ごめんな。こんなボケた老人に合わせてくれて。ありがとな。

 

「ーー雪乃、おやすみ」

 

「っ!……ええ、おやすみなさい。八幡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という夢をみたんだ。

 

夢が自分の願望を表すものなんだとしたら、まさに今日みた夢は俺の願望そのものだと言える。

雪ノ下、お前が夢の10分の1でも優しくしてくれれば俺はもう少し平穏な日常を送れるのではないかという願望だ。つまりだな、俺は日々お前の罵倒毒舌暴言誹謗中傷に知らず知らずの内に心を傷めているって事なんだ。だからもう少し穏便な言葉を選んではもらえないだろうか?」

 

今日も友人たちと昼飯を共にしていたんだが、合流した雪ノ下は今日も絶好調な様子で俺への罵りを紡いだ。

 

発端は単純。座席位置だ。

 

いつもなら隣り合う二カ所に机を並べて6人づつで食べるが今日に限って『皆で食べよ~』とアホの子が提案しちゃった訳だ。

 

で、今日は俺の左に戸塚が座り、右に戸部が座った。葉山・三浦・海老名・由比ヶ浜と並び、由比ヶ浜の隣には雪ノ下が、それから相模・大和・大岡・川崎の順が座席位置となった。

 

形としては長方形に机を並べて皆で机を囲む。この時、俺の対面に雪ノ下が座ったのだ。

 

俺が正面に居ると視姦される~から始まり、俺を犯罪者・犯罪者予備軍を文字ったあだ名で罵倒し、いわれの無い冤罪もでっち上げられる誹謗中傷を受けた。

 

いつもの罵声くらいならそうそう気にはしないが今日は何時にも増して攻撃的だった。…もしやあの日か?なんて思っただけで凍てつく視線を向けられて俺は昼食どころではなかった。

 

周りの奴らは『またか』と気にもせず弁当を広げている。薄情者め。

 

流石にそうなってくると俺でも苛立ち始めるのは仕方ないだろう。そこで、今朝の夢をジークムント・フロイト先生の夢分析を用いて、どうにか罵倒を少なくさせる策に打って出た。

 

すると、なんということでしょう。

あの、止まる事の無かった罵詈雑言のマシンガンが止み、俯き静かになった雪ノ下が正面に居るではないか。

 

「夢とはいえボケちまった俺が訳分かんない事言っても否定せず話を合わせてくれる順応力。困惑しない様に辻褄合わせを瞬時に出来る聡明さ。俺の事を考えて背中を支えてくれて、面倒な食事も子守唄さえも歌ってくれた優しさ。

お前は順応力も聡明さも既に持ち合わせている。それはそのままに優しさを少しでも俺に向けてくれたなら、きっと俺は幸せで平穏な日々を送っていけると思う。今朝の夢はそんな俺の願望の表れだ。そう思わないか?」

 

俯いた雪ノ下はピクリとも動かない。友人たちも俺を見つめたまま動かない。

 

……あ、ちょっと待て!これはアレだ。よくよく考えたら黒歴史じゃね?

 

孫が出てくるって…俺と雪ノ下がアレしてアレでアレだろ?そんでアレだ。

 

「比企谷…俺は君を尊敬するよ」

 

いつも以上の似非スマイルを浮かべた葉山がシンと静まる教室で呟いた。

 

「パネェ。…マジ、ヒキタニくんパネェっしょ!」

「…俺たちに出来ない事を」

「平然とやってのけやがった…」

「流石にこれはヒキオが悪い」

「ウチも優美子に同意」

「八幡?ここ、教室だよ?」

「ねぇねぇ、隼人くんの夢は見てないの?愚腐腐」

 

共に机を囲む友人たちが葉山に続き声を上げるが耳を素通りする。

 

「ヒッキー?」

「比企谷?」

 

般若が2人、俺の腕を左右から掴む。

 

「ヒィッ?!…しょのでしゅね、夢…そう!たかが夢の話れしゅので!!」

 

「ゆきのんだけズルイ!」

「雪ノ下だけズルイでしょ!」

 

 

 

ーーやはり、俺の青春ラブコメは間違い続ける

 




という夢をみた~以降は勢いだけで書いた。何でこんなの書いてんだろ…
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