周りでざわざわと話す声が聞こえる。まだ意識が覚醒しきっていないせいか、詳しくは聞こえない。だが、それでもおそらく俺のことを話しているであろうことだけは分かる。
だが、話し声が聞こえるというのはおかしい。俺はいつも通り一人で寝たはずだ。他人の話し声が聞こえるなんて状況にはならない。
なら、人が俺の寝床に入ってきたかといえばそれこそおかしい。扉には鍵をつけたはずだし、こんなに大人数入って来たらさすがに気づく。
となると、だ。可能性はほぼ三つに絞られる。
俺が動いたか、移動させられたか、まだ夢を見ているか、だ。でも、三つ目は可能性が最も低いと思う。なぜなら、ジッちゃんが「夢の中でこれが夢だと自覚したら目がさめるぞい」とか言ってたからだ。あくまでジッちゃんを信じるなら、だが。
とはいえ、それを抜きにしても可能性はないと言えるだろう。徐々に意識がはっきりして来ているのが分かるから。
では、一つ目はどうだろうか。前述したように俺は扉に鍵を掛けていた。幾ら寝相が悪くても、鍵を掛けた扉を突破するほどアクティブではないと思いたい。そんなの、もはや寝相が悪いとかの次元を超えている。
消去法でいくと二つ目になるが、俺を移動するとかどんな方法を使ったんだ?俺は決して軽くはないから、一人では無理だろう。そもそも部屋に入ってこれない。じゃあ魔法か?魔法ならば可能だろう。使い手がよければ行使されたことに気付かないのも頷ける。
とまあ、色々考察して見たが、結局一番手っ取り早いのは目を覚ますことだ。色々考えていたおかげで意識もはっきりしているため、いざということがあっても問題ない、と思う。
ゆっくり、ゆっくりと目を開ける。すると、目に飛び込んで来たのは見慣れた天井……ではなく、固そうな黒っぽい天井だった。
大丈夫、まだ想定内だ。
視線を横に移す。見えたのは、鉄格子。
は?
いやいや、流石にそんなこと…
鉄格子
あったよコンチクショウ。
何?俺、捕まってる系?捕まってる系男子?何それ笑えない。
ま、まあ鉄格子は置いておこう。現状確認が最優先事項だ。さて、鉄格子の外は、と。
人間人間人間×いっぱい
…流石に思考が一瞬止まった。声が聞こえた時点で誰かいることはわかっていたが、まさか同族ではなく人間だとは思わなかった。しかも、人間達は俺の入っている檻?を遠巻きに見ながら話をしている。避けられているみたいで不愉快だ。
ふと後ろを見ると、鎖に繋がれた同族達…っておい。君たち何で捕まってんの?え、しかも檻に入れられてるのって俺だけ?何この疎外感。いや、もう一人いたわ。紺色の鱗の竜が。良かったボッチじゃなくて。でも、現状確認どころか逆に混乱したわ。誰か説明プリーズ。
「では、これより命名の儀を行う。」
おお、なんか偉そうな人が出て来た。そして命名の儀とな?何だそれ。
「ここにいるのは、君たち竜騎士の相棒となる竜だ。この竜は、諸君の相棒としてその名を背負うことになる。よく考えてからつけるように。」
竜騎士か。話には聞いたことがある。竜騎士、それは竜に騎乗して戦う騎士達のことを呼ぶ。馬に乗ってるやつの竜バージョンって感じだ。そして、その騎竜は下位の竜種--稀に上位--が用いられる。
つまり、俺が今ここにいるのは騎竜として連れてこられたからか。謎は全て解けた!……いや、解けてねーよ。余計大きい謎が残ったよ。俺は下位の竜種じゃないし、というかもはや竜ですらない。なのに、何でこんなとこにいるんだ。問題が原点回帰。やったね。
さて、冗談もほどほどにして、と。実際、こんなとこから逃げ出すのは簡単だ。檻を壊して無理やり逃げればいい。ただ、そうなると事が国際問題にまで発展する可能性がある。それに、体から感じられる力も何故か少ない。ここにいる理由と少なくなった力の謎が解けない限り、無理やり逃げるのは愚策だろう。
そうなると、もう成り行きに任せるくらいしか思いつかないんだが。
「それでは、呼ばれた順から前に出なさい。」
おっと、考え事をしている間にかなり話が進んでいたようだ。しっかし、このままじゃあ俺も名付けされそうだな。さて、どうしたもんか。
「ロエナ・キーリング、前へ。」
「はっ、はいぃ!」
ありゃダメだ。あんな調子じゃ竜になめられる。竜は基本的に自分の認めた者、又は自分より強い者に敬意をはらう。竜は、相手の感情を読み取ることに優れている。個体差はあるにしろ、他の種族よりは優れている事が多い。
今恐る恐る鎖に繋がれた竜の前に立った少女からは、緊張と、恐怖が読み取れる。竜に立ち向かうには、強い精神力や胆力が必要なのだ。それがないと
「あ、貴方の、な、名前は、ニール、ですっ。」
「ガアアァァァァ!!」
「ひっ、キャァァア!」
ああなる。認めてもらうには、それなりの努力が必要だ。ただ、恐る恐るではあっても前に出て来ただけで賞賛に値するだろう。それくらいの度胸があれば、そのうち認められるかもしれない。
他の奴らは、少女の様子を見て顔が引きつらせているやつが多い。そんなんじゃお前らも少女、ロエナと言ったか、の二の舞だぞー。
○
そこから先は、ほとんど似たような展開になった。大抵は少女と同じようになめられ、一部は前に出ることすらできず、ある者は竜に攻撃されかけた。寸前で横に控えていた騎士が止めたから大事にはならなかったが。
にしても、あの騎士なかなか強いな。いくら下位とはいえ、 竜を一人で押さえ込むなんて。
さて、そんなこんなで残りは二人。…うーん、人間と数え方が被るし、俺たちは匹でいいか。そんなこだわりあるわけでもないし。
さて、俺と隣の檻のやつの二匹が残ったわけだが、相手の人間はどちらも女。しかも、少女と言えるくらいだ。最初の子といい、騎士は基本的に男が多いものなのに、何でこんなに女がいるんだか。まあ、女の騎士もいるにはいるし、変な偏見は止めよう。
「ミコク・ジョウノウチ、前へ。」
「はいよっと。」
二人のうち、気の強そうな子が出て来た。さぁ、俺の方に来るか、あっちの紺色に行くか。にしても、その態度。強気なのは竜に対してはいいが、人間の世界ではどうなのだ。不敬と捉えられないのか。
そして、名前からして東の方のもんだな。黒髪黒目が特徴だ。あそこの国はいいぞ。飯がうまいし技術もある。
ミコクが進み出たのは紺色の方。竜の前でも堂々としたその態度に、紺色も何かを感じ取ったようだ。
「そうさね…あんたの名は、ルリ。どうだい、気に入ったか?」
そう言って檻の中の竜に手を伸ばす。周りの人から制止の声がかかるが、気にした様子もなく手を紺色、ルリの頭に近づける。
「グル…」
ルリはその手を受け入れ、それどころか頭を下げた。
周りからは驚愕の声が上がるが、俺としてはまあ、そうなるよな程度の認識だ。ミコクが怖気付かなかったのもあるだろうが、それ以前にあの二人からは似たような空気が感じられる。おそらく似た者同士であろう。
「静まれ。さあ、最後だ。ルミエナ・エル・エメリアル、前へ。」
ミコクが戻った後、最後の人、つまり俺の暫定パートナーが呼ばれた。暫定なのは、この先どうなるかわからないからだ。俺はここから脱出するかもしれないため、この少女の相棒にからないかもしれない。
「はぃ」
小さな声で答えると、意外にもしっかりとした足取りでこちらに来る。その顔には、恐怖や緊張があるのではなく、もっと別の…そう、決死の覚悟の様なものが見て取れる。何でそんな顔してんの?と、思わないでもないが、人間の感情や社会は複雑なのだ。何か事情があるのだろう。
「あの、はじめまして。私、ルミエナ・エル・エメリアルと言います。よろしくお願いします。」
……こりゃ新しい。まさか自己紹介されるとは。しかし少女よ、俺の状態が詳しくわからない以上、人の言葉を話すわけにはいかないのだよ。だから、挨拶は返せない。すまんな。
「えと、名前は前から決めてたんです。マリュウなんですけど、どうですか?」
それを聞いた瞬間、俺の中を言いようのない感情が駆け巡った。別に名前がいいから感動したわけじゃない。むしろ、もう少しひねれよと思う。ただ、このざわざわする様な感覚は止まらない。
そう言えば、前に名を呼ばれたのはいつだっただろう。もう、ずっと呼ばれていないのは確かだ。既に自分の名前すら思い出せない。この感覚は、久しぶりだ。だからざわざわしたのかもしれない。
「あ、あの。嫌でしたか?」
一向に反応を見せない俺に業を煮やしたのか、ルミエナが顔色を伺う様に聞いて来る。正直安直すぎと思ったが、まあ、許容範囲だ。
「グルル」
問題ない、という風に首を振る。すると、ルミエナはパァァッと効果音が付きそうな笑顔になった。マブイ。
「うむ、これで全部だな。では、これにて命名の儀を終了する。参加者以外は帰るが良い。」
様子を見ていた偉そうな人が声をかけると、名付けをしたもの以外がゾロゾロと退出していく。なんだ、あいつら見物人か。そして大事そうな儀式なのに終わりは随分とあっさりだな。それで良いのか。
残ったのは騎士らしき人数名と参加者と偉そうな人。その偉そうた人はなかった人を眺め、言う。
「さて、無事に名付けが終わってよかった。この儀式は大抵怪我人が出るからな。今年は豊作だ。改めて自己紹介をしよう。私の名はメラウス・リーン・ルッセン、竜騎士団の教育主任だ。」
なんだ、あの男偉そうだと思ったら本当に偉かったのか。
「今、諸君は竜騎士になった。しかし、本当に『なった』だけなのだ。まだ実績もなければ、竜との信頼関係もない。竜騎士は、竜との信頼関係と実績ががあってこそなれるものだ。これから君たちには活躍してもらいたい。日々努力を怠らぬ様にしろ。」
はい!と声を揃えて言う新米竜騎士達。若いっていいな。
「うむ。では、これから君たちの過ごす場所、竜舎へ案内しよう。ついて来なさい。」
メラウスはスタスタと去っていってしまう。付いて来いと言ってそれか。いや、そんなもんなのか?
ルミエナはじゃあまた後で、と俺に言うと、ミコクと一緒にパタパタ走り去ってしまった。
ミコクとは友人関係なのか、と思った時、それまで何もしてこなかった騎士達が竜を誘導しはじめた。そりゃ俺らもいかないといかんしな。でも、俺とルリはどうするんだ?
「おい、押すぞ。」
「せーの!」
ガラガラと檻が動き出す。車輪が付いてたみたいだ。ま、それなら運べるわな。
◇
俺たちがいた建物から出ると、目の前には街が広がっていた。遠目に見えるのはこの国の城だろうか。大きいな。
この街は、城下町なのだろうか。街は整備されているし、活気もある。かなり大きな国だろう。
人族の中で大きな国と言ったら、ミラール国か、サリアル帝国だが、このどちらかだろうか。竜騎士はどちらでも盛んらしいから、これ以上は絞れないだろう。ルミエナ達が乗った馬車に国章があるかも、と思ったが、ここからでは上手く見えなかった。
さて、ここまで考えていたわけだが、どうにも俺たちは目立つらしい。
横を通り過ぎる人からの視線が突き刺さるのだ。その程度でどうこう言うつもりは無いが、いい気持ちにならないのは確かだ。
不躾な視線を耐えしのいでいると、大きな門が見えて来た。周りに建物はなく、奥には大きな建物と、その横に平べったい建物がある。あれが竜舎だろう。
ここからはその全貌は見えないが、相当大きいな。あの大きさなら沢山竜が居ても窮屈はしないだろう。
だろうだろうとずっと言っているが、実際わからないもんは仕方ない。
門をくぐって暫く歩いていくと、平べったい建物ともう一つの建物との分岐点が見えた。左が平べったい方で、右がもう一つだ。
その道を左に曲がると、想像通り、いや、それ以上の広さの運動場と思わしき広場と、大きさは段違いだが馬小屋の様な建物の連なる場所に出た。
連れてこられた竜達は、その小屋の中に一匹ずつ入れられた。俺は一番最後で、ルリの隣だった。ただ、右隣には知らない竜が居た。見た感じ上位になって数年といったところか。これくらいならば念話も使えるのだろう。
体色、と言うより鱗の色は緑色で、たてがみも同色だ。
因みに、竜には鱗のあるものと、羽毛のあるものがいる。
また、翼も個体によって有無があり、翼のない奴は専ら地竜、ある者は飛竜と呼ばれる。どちらも一長一短あるため、どちらが良いとは言えないが。
ルリは翼の辺りに羽毛があり、それ以外は鱗。隣の緑色は、鱗がほとんどを占めている。翼は無い。俺は、鱗と羽毛が半々ぐらいで、翼もある。
にしても、緑色の奴大きいな。完全体になれば俺の方が大きいが、現時点ではあっちの方が大きい。三メートルあるんじゃないか?
竜の強さは大きさに比例することが多い。大きいほど強く、小さいほど弱い。そのため、序列を決める際は大きさが重要な要素になる。竜の序列は基本的に強さで決まるからだ。
だからこいつはここの中でかなり上の方にいるんだろう。
ここの序列はまだ知らないが、自分達が下の方なのは分かる。下の者はたいした決定権もないため、自由に動きにくい。上のものが人格者であればその限りでもないが。
現在位置がどこかわからず、ヒエラルキーも最下層。
早く帰りたいのに前途多難だ。そう思った。
初投稿です。至らぬ点が多いと思いますが、温かい目で見てやってくれると嬉しいです。