竜の位は大きく四つに分けられる。
下位の竜、上位の竜。そして、下位の龍、上位の龍である。なお、これは本当に大雑把な分け方である。
・下位の竜
産まれたばかりの竜はほぼ例外なくこれである。
知能はそこまで無いことが多く、他の生き物によって倒されることが多い。竜語しか使えない。寿命は五百年程である。なお、最も成長の早い期間である。
・上位の竜
下位の竜が一定以上強くなることで成ることがある。
下位の竜に比べると数は少なくなるが、珍しくはない。
下位の竜よりも格段に強くなっており、知能も高い。竜語以外の言語も解す。寿命は七百年程に延びる。
・下位の龍
上位の竜の進化後の姿。色々な面で竜種とはかなり差が出る。野良の者はほぼおらず、国に住んでいることが多い。人の姿(人型と呼ばれる)になることができ、人語なども話すことができる。基本的に『四国』か『本国』にしか居ない。
・上位の龍
龍種の最高ランクの存在。下位の龍の一握りがなれる存在。持つ力は天災と呼ばれるほどである。殆どが『本国』にいる。『竜王』、もしくは『龍王』になる可能性を秘めた龍であり、寿命は万をも超えるという。
〜竜の国〜
その名の通り竜種や龍種が住む国。東西南北それぞれにある国が『四国』、大陸の中心部の湖にある島が『本国』である。『四国』は竜種の割合が多く、『本国』は龍種の割合が多い。
『四国』は『竜王』と呼ばれる竜の王に治められており、その『竜王』は世界に四体しか存在しない。独立国家ではなく、『本国』の統治下にある。
『本国』は、『龍王』に治められている国である。大陸の中心部の湖にある島国だが、かなり大きい。住人は基本的に人型で過ごしているが、人型になれないものは専用の居住区に住んでいる。人族や魔族は居らず、完全に龍や竜だけで構成されている。
〜竜王〜
『四国』を治める王のこと。『龍王』が選んだ信頼出来るものがなる。『龍王』が変わるまで原則的に変わることがなく、その代が終わるまで国を治める。『竜王』を辞めた後は、『本国』で隠居生活を送ることが多い。なお、野心家は選ばれることがない。
〜龍王〜
『本国』を治める龍の王。龍種の頂点でありーーー
「おーい、聞いてるかー?」
本が視界から消えることで意識が現実に引き戻される。どうやら、かなり本に没頭してしまったようだ。目線を上げれば、本をつまみ上げながら目の前で顔を覗き込んでくる親友の姿が。
「ごめん、本読んでた。」
「いや、見りゃ分かるけどよ。そんなに集中して何読んでたんだ?」
彼女の黒い目が私の読んでいた本を捉える。彼女は本は好きではないと言っていたが、気になるのだろうか。
「『竜の世界〜試し読み一部抜粋版〜』っていう本だよ。明日から訓練とか始まるし、多少知識があったほうがいいかなって。」
「へぇ、勉強熱心なことで。」
本の背表紙を撫でながら興味なさそうに言う。どうやらお気に召さなかったようだ。ほい、と私に渡してきた。
「まあ、お前さんの読んでる本はいいんだ。そんな事より、あたしは誘いに来たんだよ。」
「誘うって、何に?」
「竜の様子を見に。」
簡潔に返された。確かに本嫌いな彼女が図書室に来たから何か用があるのだろうとは思っていたが、その返答は予想外だった。それにしても、今日名付けたばかりの竜に接触しようとするのはどうなのだろう。
「ほら、メラウスのおっさんも言ってたろ。君たちはまず竜と信頼関係を築くのが大事だ〜って。」
彼女ーーミコクは、メラウスさんのことをおっさんと呼ぶ。メラウスさんは見かけに反して優しく、自由に呼んでくれと言っていた。だからそう呼んでいるのだが、私には畏れ多くて無理だ。ずっと思ってたけど、その度胸は何処から来るのだろう。
「確かに言ってたけど、今から行っていいの?」
窓から差し込む光は既にオレンジ色に染まっている。時計を見ると午後五時を回ったところだった。二時くらいからここに居たから、割と驚いた。この季節では、もう直ぐ暗くなるんだけど…。
「門限って九時だろ?まだ行けるって。四時間もあるんだから。」
「そうだけどさ…。許可とか貰わないといけないんじゃないの?」
「じゃあ先にそれを取りに行こうぜ。」
あ、これダメだ。絶対行くやつだ。付き合いは割と長いから分かる。こうなったら止められない。
ミコクは早速私の腕を掴むと、走り出そうとした。
「ま、待ってよ。本とか戻さないと。」
「貸し出しも出来ますよー」
「あ、じゃあお願いします。」
私たちが騒がしいからか様子を見に来た司書さんが、嬉しい申し出をして来た。しかも、部屋まで本を運んでおいてくれるらしい。気を使ってくれたんだろう。なんて良い人なんだ。
◇
司書さんに部屋番号を伝えて手続きをし、メラウスさんに会うため職員寮へ向かった。
ミコクが扉にノックをすると、すぐにメラウスさんは出てきてくれた。
「なんだ、ジョウノウチじゃないか。何の用だ?」
「いやさ、竜を見に行きたくてね。許可もらいに来たんだよ。あと、あたしのことはミコクでいいよ。ジョウノウチじゃ長いだろ?」
「では、そうさせてもらうが。竜に会いたいのか?明日から会えるようになる。訓練でな。」
「今がいーんだ、今が。な、ルミエナ。」
「え!?あ、うん。そうなの…かな?」
突然私に話を振らないでほしい。びっくりする。しかも、正直言って私だって今会う意味が分からない。教官の監督無しじゃ危険だと思うから。竜舎に来て一日目にすることではないと思う。
「まあ、今会いに行く程度なら問題ない。ちょうど小屋に管理者が行く時間だ。ついでに挨拶してこい。見ればわかるから。ただし、そいつらに会わなかったら竜に会ってはいけないからな」
「分かった、そうするよ。ありがとよ、おっさん。」
「ミコク…私のことをなんと呼ぼうと構わないが、訓練や公式の場ではおっさんはやめろ。お前が困ることになるぞ。」
「分かってるよ。公私混合はしないって。そんじゃ、あたしらは行くから。」
つっこむ間も無く全ては終わっていた。気付いたら既に許可はおりていた。ミコクは、交渉…と言えるのかは分からないが、こういうのは早い。決して下手に出ているわけではないのに、大抵成功する。私にはできない芸当だ。しかも、タメ口で。所謂憎めない奴だ。
「七時から夕食兼ミーティングがあるからな。」と、七時までに帰ってこいよということを遠回しに伝えられ、メラウスさんは部屋に戻った。それを見送ると、ミコクは小屋に向かって歩き始めた。
○
「管理者さんってどんな人なんだろうね。」
「さあ?おっさんは見りゃわかるみたいなこといってたがな。」
「うーん、分かりやすいのかな?」
歩くこと数分、私たちは小屋と竜舎の分岐路に来ていた。竜のことを考慮して造られたこの建物、もしくは用意された敷地は、とても広い。小屋に行くのに数分は要する。
そんな広くて、緊急時はどうするのかと思われるが、ちゃんと対策はあるらしい。今日のミーティングで知らされるのかな?
小屋への道を話しながら歩いていると、遠くにぼんやりと人影が見えた。遠目では一人に見えるが、よくよく見たら二人いる。彼らがメラウスさんの言っていた管理者さんだろうか。
「ミコク、あそこに人がいるよ。管理者さんたちじゃない?声かけに行こうよ。」
「ん、んー?あー、あれか。よく見えたなお前。そうだな、声かけ行くか。」
というわけで早足に。少し遠いけど、これならすぐに追いつける。すぐに疲れるほど柔な鍛え方してないしね。
「おーい、そこの人達ー!」
「んぉ?何だお前ら!見た事ねぇ顔だな!」
「すみません、呼び止めてしまって。私達は、今年からこの竜騎士団に入った者です。あなた方は竜小屋の管理者さんですか?」
私達が声をかけた二人組は、筋骨隆々の大男と、小柄な獣人の少女だった。そして、ミコクの声に反応した大男は大きな声で返答して来た。ムキムキの大男に大声で言われて怯まなかった私を褒めて欲しい。
私の問いに大男は、
「おうよ!人呼んで竜小屋の守り神、管理者ギルバート・マッスル様たぁ俺のことだ!」
やっぱり管理者さんだった。メラウスさんは管理者さんが複数いるみたいなことを言っていたので、大男改めギルバートさんの隣にいる少女も管理者なのだろう。
「そうか。あたしはミコク。ミコク・ジョウノウチだ。んで、こっちのがルミエナ・エル・エメリアルだ。よろしくな、管理者のお二人さん。あ、敬語は使った方がいいか?」
「いや、敬語はいいけどよ。俺のこともギルって呼んでくれや。しかしなミコクの嬢ちゃん、このちっこいのは管理者じゃねーんだ…って痛えよ!脛蹴んな!」
「………ちっこいのじゃない。…わたしはリーフ…よろしく。」
「いってえなあ、ったくよー。こいつは俺の補佐みてぇなもんだ。管理者補佐ってとこだな。あと、ちっこいけどお前らより年う…」
「うるさい筋肉ダルマ。黙れ。」
リーフさんからすごい怒りのオーラが出ている。第一印象が物静かな人だったのに、一気に変わってしまった。
ギルさんも彼女には逆らえないのだろう。先ほどの失言に対して平謝りしている。
「……あなた達、わたしたち…というよりこの筋肉ダルマに用があってきたの…?」
「あ、はい。竜の様子を見たくてメラウスさんに話したら、管理者さんに会えって言われまして。迷惑でなければ、その……」
「仕事しながらでよければ構わねえぜ!な、リーフ!」
「……わたしは、どちらでも…。」
「んじゃ、決まりだな。ついてきな、案内するぜ!あ、でも今日ミーティングあるからその時間までな!」
ギルさんに案内されてきたのは、厩舎を大きくしたような建物だった。全体的に頑丈な作りになっているようで、風通しもよく、過ごしやすそうだ。
ギルさんは手際よくボードにチェックをつけながら、私達に説明する。
「今俺たちがいるのは上位騎士の竜の区画だ。この辺にいる奴らはみんな上位の竜なんだぜ!あ、上位の竜ってわかるか?」
「はい、下位の竜の進化後の姿なんですよね。たしか人語も解すとか。」
「お、よく知ってるな。その通り、上位竜は人語を解す。だから、念話なんかで相棒の騎士とやりとりしたりするな。」
「へえ、そりゃ良いや。あたしもルリと話せる日が来るのかね。」
「……ルリって最近入って来た子ね…。…あの子はもう上位竜よ……。」
「ぅえ!?そうなのか、知らなかったな…。」
ミコクはその事実にめを丸くしていた。そして、何か考え事をするように目を閉じた。彼女のこんな反応は新鮮だ。それにしても、上位竜に認めてもらうなんてできるのだろうか。いや、ミコクならできると思うけども。
「っし!じゃ、次はお前らの竜だな!こっちだ!」
ギルさんが歩き出すのに合わせてミコクが思考の海から戻って来たようで、私達は四人でまた歩き始めた。
道中でもギルさんは私とミコクに色々なことを教えてくれた。竜の健康状態の見分け方や、接し方などだ。「本当は明日習うんだけどな」と言っていたが、予習をしていても損にはならないはずだ。
「まあ、結局は習うより慣れよって感じなんだけどな。」
そう締めくくると、ギルさんは私達の方を向いて立ち止まり、
「さ、ここが新人区画だ。いや、人じゃなくて竜だから新竜か。ここにお前らの竜も居るはずだぞ。見ててやるから探してな。」
「はい!ありがとうございます!」
お礼を言うと、私達はすぐに動き出した。ミコクはキョロキョロと辺りを見渡すと、竜小屋の出口あたりに向かった。
因みに、竜小屋は運動場をコの字型に囲むような形をしていて、入り口は三つある。両はしと真ん中に一つずつだ。
ミコクについていくと、出入り口付近の檻?部屋?まあ、部屋のような場所にいた。
「おーい、ルミエナ。ルリとマリュウ…だっけ?を見つけたぞー。」
「うん、今行く。」
ミコクの所にいくと、見覚えのある紺色の竜と真っ黒の竜がいた。それにしても、なぜ真っ黒の竜…マリュウは、諦めたような表情をして居るのだろうか。ルリは笑っているように見えるし。竜の表情なんてまだ読めないから間違っているのかもしれないけどね。
「なあ、ルリ。お前って上位竜なのか?そうだとしたら念話とか使えないか?」
ミコクがブッ込んだ。そして、竜たちの立場も一変し、ルリは面食らったような顔、マリュウはいい気味だ、とでも言うような顔をしている……様に見える。
取り敢えずあの二匹は仲良くなれたのではないだろうか。あわよくば、私とミコクの様な、気の置けない仲というのだろうか、になってほしいものだ。
これからの話は、基本的にマリュウとルミエナ視点で展開される予定です。あくまで予定なので変更する可能性大です。
話は変わりますが、題名による盛大なネタバレを投稿した後に気付いたんですよね。題名変えるかもしれないです。