ガンダムSEED外伝―Lost Fragment― 作:ケリュケイオンの蛇
あらすじというより注意書きとして――
・オリジナルキャラ及びMSが登場する。
・設定や世界観に関して筆者独自の解釈がある。
・それに伴う原作との齟齬がある(平行世界として解決)
・オリジナルキャラ、版権キャラ問わずチート要素が一部見られる(ご都合主義含む)
以上の4つが許容できる方だけ、閲覧してください。なお、当作品では他の執筆者様から投稿していただいたキャラも登場しております。投稿してくださった執筆者様にはこの場でお礼を申し上げます。
投稿キャラに関してはコメントにて受け付けます。しかし筆者の描写力と合わせ、採用するかは不確定なのでご容赦ください。
C.E..(コズミック・イラ)……人類は本格的な宇宙進出を果たし、生活圏を地球から宇宙へと拡大していた。
科学という人類の英知は発展を繰り返し、遂には母なる大地を離れ、限定的ながら宇宙に新たな生存空間を作り出すまでに至っていた。
当時、歓喜に湧き上がる人々の中で、誰かが言った……『神は死んだ』と。
英知の象徴とされた神は死に、今こそ我々が新たな神になったのだと。
その思い上がりは、人々から理性を奪い、遂には遺伝子を操作することで更なる高みを目指そうとした。
コーディネイト技術。先天的に遺伝子を操作することで、人為的に才能を与えられた人類『コーディネイター』。
新人類として歓迎されるべきだったはずの彼らは、皮肉なことに生み出したはずの人々である『ナチュラル』から、拒絶と弾圧という栄光とは程遠い歓迎を受けることとなる。
嫉妬から生まれた悪意は憎悪に代わり、痛みは怨嗟に代わり、いつからか互いが互いを傷つけることでしか生きられなくなっていった。
そして遂に、ナチュラルとコーディネイターの間で、決定的な溝を造る出来事が起こる。
C.E.70年、2月14日に起こった悲劇、通称『血のバレンタイン』。そう呼ばれたこの悲劇は、たった一つの核によってもたらされ、多くの命を奪った。
24万3721名という多くの犠牲を生んだこの悲劇により、地球とプラント間でのいつ終わるとも知れぬ戦争が始まることとなった――
闇が閉ざした空間に、薄い光が明滅した。狭く息苦しさを覚えるその空間で、薄く明滅した光が一人の人間を照らし出す。
淡い光に照らされ、茶色混じりの黒髪がその存在をあらわにした。黒髪から見える整った顔立ちは東洋系の青年であることを伺わせる。
青年―ケイ・ミナサト―は、自らの呼吸音と機体の駆動音に支配された小さな空間で、計器類に手を動かしていた。
≪ミナサト一尉、応答を願います≫
唐突に飛び込んできた女性の声に、計器類を弄る手を一度止める。黄昏色の瞳が写したのは、モニターに映る『VOICE ONLY』の文字。顔が映し出されないのは、これから行うことに対して極力ケイの気を散らさないようにという配慮のようだ。
ただ顔を見なくともスピーカーから伝わる女性の声音に僅かな緊張を感じ取って、ケイは微苦笑を漏らす。おそらくケイより今後のことに気を使っているらしい。
それに、顔を見ずとも女性の声を聞くだけでケイは内心穏やかではなかった。この点は、一般的な男性としては当たり前の反応だ。
「こちらケイ・ミナサト一尉。スタンバイ、完了しました」
内心の変化を悟られず、なおかつ通信相手の緊張をほぐす意味でもつとめて柔らかな口調で返答する。その後に女性がこぼす息の音が聞こえ、内心の揺らぎが声音に乗らなかったことに安堵した。
≪ではこれより、MBF-X001『イクリプス』及びMBF-M1『M1アストレイ』の模擬戦闘を行います。なお、室内空間においての限定戦のため、両者はアクティブエリアも考慮した上での作戦行動をお願いします≫
管制室から見える景色は、巨大な屋内空間に佇む人型をした二体のシルエットだろう。
ケイが操作してカメラを切り替えると、そこにはそのうちの一機が映った。
白を基調とした色合いに、黒い胸部、露出した赤いフレームが特徴的な巨大な人型をしたシルエットの機体は、先ほど女性士官の言った『M1アストレイ』と呼ばれる人型戦闘兵器―モビル・スーツ―だ。
Gタイプと呼ばれるMSによく似た赤いV字アンテナを持つ頭部は兵器としての力強さと芸術品のような美しさを持つ。ケイの乗っているイクリプスとも、よく似ていた。
これから相手をする機体に目を奪われていると、突然モニターに女性の顔が表示された。
≪こちらアタル・ヒビキ。お互い、ベストを尽くしましょう?≫
跳ね癖の目立つ艶やかな黒のロングヘアー、ケイと同じく日系人特有の顔つきは可愛らしく整っており、大きなアメジストの瞳が特徴的な美少女だ。しかし、若干垂れた瞳に似つかわしくない、釣り上げた眉から、今の言葉の意図するところが伝わってくる。
先ほど通信していた女性士官とは違い、これから行う模擬戦の相手に、ケイは苦笑した。
「傭兵相手に手加減できるほど俺は慣れていませんよ」
≪上等よ。その言葉が聞けて安心したわ≫
その言葉に満足したのか、アタルの顔がモニターから消える。だが、モニターの片隅に表示が残っている限り、回線は切っていないようだ。挑発でもしているのだろうか、先ほどニュアンスだけとはいえ全力を出すことを誓った以上、安い挑発は意味をなさないのだが。
≪えっと……あの……両機とも、作戦行動を開始してもよろしいでしょうか?≫
お互い戦意が高まっていた空間に、恐る恐る女性士官の通信が入る。結果的に無視されたことになっていたからか、女性士官の声音が若干拗ねているようにも聞こえて、ケイは吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
気持ちをリセットする意味で息を吐き、気を引き締める。兵士として必要な技能として獲得した精神制御だ。これから行う模擬戦の持つ意味を考え、改めて目の前に集中する。
「いつでも構いません」
≪こっちも準備OKよ≫
管制室の女性士官に向けてケイが返答すると、それに続く形でアタルの声が耳に入った。モニターの片隅に視線を移すと、不敵な笑みを浮かべたアタルが見える。
言葉通り、完全な戦闘体勢のようだ。相手が傭兵であることも踏まえ、ケイは自然と力が入るのを知覚する。
≪では、イクリプス及びM1アストレイによる模擬戦闘を開始します。両機――始め!≫
まるで東洋の格闘武術にあるような号令を女性士官が放った直後、ケイは即座に手を動かした。
ケイの操作に従い、コックピット内に急激にGがかかる。外から見える光景であれば、白を基調としたトリコロールに彩られたイクリプスが、凄まじい速さで地面を駆け抜けるのが見えるはずだ。
接近するイクリプスに向け、M1アストレイがビームライフルを向ける。瞬時に照準を定めたのか、ケイの耳にアラートが聞こえ、M1アストレイがビームを放った。
当然、模擬戦であるために見掛け倒しのビームだ。攻性を持たない光子の投影に過ぎないが、この場では本物のビームと同じ意味を持つ
アラートが聞こえた時点でケイは機体を操作、イクリプスが跳躍し、身を宙に翻す形でビームをかわす。
すぐさま背部と脚部のスラスターを点火、重力下であるにも関わらず空中で姿勢制御を行い、静止したようにその場にとどまると共に、ビームライフルを構える。
イクリプスから放たれたビームは一直線にM1アストレイへと迫るものの、シールドで弾かれた。モニターを見る限り、シールドを破壊するまでに至らない。擬似ビームによる直撃に、M1アストレイのシールドは3発まで耐えられる設定が為されていた。
≪こんなものなの? 新型機って!≫
「チィッ」
カタログスペックの限界速度に及ぶ程の速度でM1アストレイが迫る。右手にはビームサーベルが握られており、いつの間にかライフルから切り替えたようだ。
アタルの分かりやすい挑発的な言葉に、ケイは思わず舌打ちした。
フットペダルを蹴り飛ばすように踏み、機体を操作。イナバウアーに勝るとも劣らないしなやかさでイクリプスが背面に反る形で仰け反り、寸前でビームサーベルを回避する。
大きく反った機体は重力に逆らわず、地面に手をついて一回転。器用に体勢を立て直した。
≪嘘…ッ≫
イクリプスが見せた柔軟性に、アタルの驚愕する声が聞こえる。実際、操縦しているケイにとっても今の運動性には驚いていた。正直、姿勢を崩すことは覚悟していたくらいだ。
ひやりとする程正確なアタルの斬撃に、そこまでしなければならなかった現状と、その状況で無理な回避運動に追従したイクリプスのスペックを脳裏で記憶。
自身の操作を、強引な動きも混ぜたものへと変える。
モニター越しに、先ほどイクリプスが回避行動で落としたビームライフルをM1アストレイが拾い、構えるのが見えた。
――どこまでいける? イクリプス……ッ
自然と笑みを浮かべ、ケイは自身が高揚するのを感じる。ごく僅かな時間にもアタルは的確な攻撃を行ってくる。その動作は流麗で、おそらく同型機ならば、自身は今よりも苦戦することは明白だ。
それほど実力差のあるパイロット相手にここまでの戦闘を行えるのは、一重にイクリプスの基本性能の高さの証明になる。
「まだまだァ!」
模擬戦で得るべきデータは何か。手探りで操縦するケイにとっては、イクリプスの限界と眼前に立ちはだかる傭兵の少女だけが、自分の取るべき行動の指針だった。
ビームサーベルを抜き放ったイクリプスが、M1アストレイに飛びかかる。それを迎撃するべくM1アストレイの放ったビームが、イクリプスの装甲をかすめていった。
微細な操作で空中回避をこなしつつ、接近。ビームサーベルを振り下ろすと、M1アストレイが半身を逸らすことで回避する。
≪甘い!≫
直後、M1アストレイがイクリプスを蹴り飛ばす。咄嗟に腕を構えるも、大きく吹き飛ぶイクリプス。姿勢制御スラスターを使用して体勢を立て直すと、そこには強烈な加速力で接近するM1アストレイ。
「くっ……」
≪チェックメイト、なんてね≫
ビームライフルを頭部に突きつけ、更にもう一方の手でビームサーベルを構えるM1アストレイが、モニター越しに映る。
そのモニターの横側に、おどけたような笑みを浮かべるアタルが見え、ケイは苦笑をこぼした。
確かに、イクリプスは一切の動きが封じられ、打つ手はないようにも見える。少なくとも、この状況ならば打開できる可能性は低い。
もっとも、それが普通のMSならば、だが。
モニター越しに見えるアタルに気づかれないように、操縦桿を弄る。グリップ前方に用意されたトリガーに指を引っ掛け、微細な動作を入力する。
「確かに、チェックメイトだな――君の方が」
ケイの言葉に不穏な空気を感じたのか、アタルがビームライフルの引き金を引こうとする。が、それを行う前にアタルのコックピット内にアラートが響き渡った。
≪M1アストレイの被弾、大破を確認。M1アストレイを撃墜されたものとみなし、模擬戦闘を終了します≫
再び通信回線から聞こえた女性兵士の声に、モニター越しにアタルが目を瞬かせた。
ケイの操るイクリプスが、バックパックにマウントされた残り一本のビームサーベルをビームガンとしてM1アストレイに撃ったのだ。現状、イクリプスのみが有する、ビームガンとしての機能を持たせたビームサーベルがあったからこその攻撃だった。
アタルはわなわなと震え。
≪えぇぇぇぇぇぇ!?≫
回線が一瞬ハウリングを起こすほど甲高い声が響き渡ることとなる。その音量に、ケイは一時耳鳴りを起こすほどだった。
模擬戦が終了し、汗を流すためのシャワーもそこそこに管制室へと戻ったケイは、そこで見知らぬ顔ぶれがあることに気づいた。
近くにいた知り合いの―実質この場では上官に等しい―女性であるエリカ・シモンズ技術主任に近づく。シモンズ主任は30代くらいの、大人の色香を漂わせている女性だ。
「ご苦労様、ミナサト一尉」
接近するケイに気づいたようで、シモンズ主任が笑みを浮かべて労わりの言葉を投げかけてきた。
年齢よりも若く見える肌と、動きやすいように縛った金色の髪が彼女の魅力を引き立てている。これで結婚済み、更には子供までいるというのだから、泣きを見た男性も多いようだ。
もっとも、そんな感情など抱いていないケイにとっては無駄な知識とも言えるのだが。
「いえ……そちらの方々は?」
シモンズ主任と交わす言葉もほどほどに、ケイを視線を移し替えた。
ケイの視線の先には、二人の少年が映っている。どちらも十代半ばか、十代前半といった感じだ。まだ学生であるはずの年齢の彼らが、何故機密の高いこの部屋にいるのか、軍人であるケイがそんな疑問を抱くのも無理はない。
「あぁ。こちらは今回のテストデータを見てもらうために私が呼んだ、関係者よ」
「関係者?」
シモンズ主任が放つ言葉に、ケイは首をかしげた。確かに、この場にいてシモンズ主任が黙認している以上、関係者であることは間違いないだろう。
だが、たかが十代の少年が新型MSによる模擬戦のデータを見るとは、どういった経緯の関係者なのか。
「こちらが今回、M1アストレイに搭載しているOSをアップグレードしてくれた、キラ・ヤマト君。今招かれているお客さんのひとりで、ストライクのパイロットよ」
「彼が、ですか?」
「よ、よろしくお願いします」
続けて出たシモンズ主任の言葉に、ケイは驚いた声をあげた。慌てて立ち上がったキラが頭を下げるのが見え、ケイも頭を下げ返す。
シモンズ主任の言った招かれている客、というのはケイも知っている。
ケイたちの居るオーブ連合首長国は、戦争を続ける世界の中でも中立の立場を表明する国家の一つだ。しかし、最近戦争を行っている勢力の一つである地球連合軍の所属である軍艦が一隻、このオーブに入港したという噂になっていた。
ケイはイクリプスのテストパイロットを引き受けていたため、その当時にはオーブ軍として出向くことはなかった。そのため、噂を真実かどうか見極めることができなかったのである。
とはいえ、シモンズ主任が言うのならば本当だろう。何より、キラ・ヤマトという少年の存在がそれを裏付けている。
キラ・ヤマトが乗っているストライクというのは、ケイの担当するイクリプスのモデルとなった機体だ。こちらも地球連合軍所属のMSで、前述の戦艦唯一のMSでありながら、高い戦闘力を示し、オーブまでの戦闘を乗り切る一因になっていたということらしい。
これも含めて、中立国であるオーブに入港させるのは外交問題の危険性を持っていたはずだ。しかし、現在進行形でMSを開発しているオーブ軍にとって、高い性能と戦績を持つストライクのデータはこの先のオーブで絶対必要になるものだ、そう判断した上での現在があるのだろうとケイは思う。
以前はお世辞にも太極拳程度のモーションがやっとであったM1アストレイをあそこまで仕上げた、というキラのプログラミング技術も驚異的だ。
「是非ウチに欲しいですね、彼」
「えぇっ!?」
「変な意味じゃないですよ」
「ダメよ、キラ君は地球連合の子だから」
思わず声に出してしまい、シモンズ主任に嗜められる。キラがびっくりしたように声を出したが、誤解を招きかねない発言だったので訂正をしておいた。
その時、扉が開く音が聞こえ、ケイたちはそちらへ顔を向けた。
「ミーティング始まってる?」
慌てた様子もなく、落ち着いた様子で入ってきたアタルに、ケイは挨拶をかわす。シモンズ主任も続く形で声を出し、それにアタルが答えていた。
「お疲れ様です、アタルさん」
「あれ、キラ君。なんでいるの?」
同じように放たれた言葉を聞いて、アタルはやっと存在に気づいたようにキラに向き合った。ちょっとショックを受けたようなキラだったが、すぐに乾いたような笑みをこぼす。
「前に言いませんでした? M1アストレイの調整をしてるって」
「あぁ、じゃぁ今日の模擬戦見てたんだ。知ってたらもうちょっとやる気出たのにな~」
「え? 俺とはお遊びだったって、そう言いたいんですか、あなたは!?」
ほのぼのとしたキラとアタルのやり取りを見ていたが、そこで聞こえた言葉に思わずケイも反応してしまう。
あえて誤解を招く発言をしたのだが、アタルに簡単にあしらわれたため、あまり意味はなかった。
早々に会話を切り上げ、アタルがある方向に指を向ける。
「そういえばあそこの子。誰なの?」
アタルが指差した方向にはもう一人の少年がおり、目の前のモニターをじっと眺めては何か考え込む仕草をしていた。
アタルの疑問に、あぁ、とシモンズ主任が返答する。
「あぁ。そういえばアタルさんも初めて会うのよね。あの子はミナサト一尉の乗っていたイクリプスの設計者、カイゼル・エンドレート君。このオーブに住んでいて、特例でモルゲンレーテに協力してもらってるのよ」
何でもないように答えたシモンズ主任だったが、ケイは二度目の驚愕を覚えていた。視線をずらすとアタルのみならず、キラも少なからず驚いているのが見える。少なくとも、イクリプスを設計したという事実を、キラも知っていなかったようだ。
自分だけが蔑ろにされているわけではないことに、ケイは奇妙な安堵を覚えた。
「……カイゼル・エンドレートです。よろしく」
シモンズ主任に呼ばれたからか、カイゼルが近寄ってくる。クセのある青みがかった銀色の髪に、メガネの奥に覗く澄んだ蒼穹色の瞳が印象的だ。まだ成長途中にもかかわらず、その端正な顔立ちはTVで見るアイドルグループと比較しても見劣りしない。むしろ、下手なアイドルよりもレベルが高いと思えた。
その特徴的な容姿から、おそらくコーディネイターだとケイは推測する。そもそも青みがかった銀色の髪など、自然界に存在する色素で表現できるはずもない。
その外見から、キラよりも若い年齢を思わせたが、妙に落ち着いた雰囲気を纏っている。頭を下げる動作や挙動の一つ一つが洗練されており、どこか上流階級を思わせる雰囲気をしていた。
「文字通り、神童と言われるほどの天才よ。彼が居なければ、イクリプスどころかM1にまで――」
「主任。俺のことより、ミーティングしませんか?」
まるで我が事のように嬉しそうな表情のシモンズ主任と違い、あくまでも冷静な態度でカイゼルが遮る。
ただ、指でメガネの位置を直す辺り、表情に出さないだけで照れているのかもしれない。面白いな、などと観察していたケイだったが、本題のためにも、カイゼルに同意する。
「そうですね。設計者本人や技術的な貢献者がいるなら、今行うべきです」
「お互い、時間も限られているしね」
ケイの言葉に、アタルも続く。キラも声に出しこそしなかったが、頷くことで同意を示した。
それに押される形となったのか、気持ちを切り替え表情を引き締めたシモンズ主任が口を開く。
「そうね。では只今より、M1アストレイ及び、イクリプスによる模擬戦闘を踏まえたうえでの両機に関するミーティングを行います」
シモンズ主任の言葉に、その場にいた全員が真剣な表情へと変化した。
今回のミーティングは、模擬戦闘を踏まえたうえでの機体の有効性を示すためのものだ。そのことを踏まえ、ケイは内心で考えをまとめていく。
「M1アストレイに関してですが、以前提出したものにさらに発展性を加える形で、OSを改良しました。先ほど見せていただいた模擬戦闘のデータを踏まえ、アタルさんのモーションをサポートとして一部プログラムに組み込んでいます」
まず最初に、キラがM1アストレイに関する言葉を述べはじめた。キラは先ほどの模擬戦で得たデータをもとに、模擬戦終了後のわずかな時間でOSに拡張性を与えた旨を示した。
先ほどのM1アストレイの動きも、パイロットのアタルと合わせて十分実戦で耐えうるレベルに達していたと思われたが、更に性能向上を目指して拡張をしたようだ。
何故か自慢げに頷くアタルはさておき、シモンズ主任やカイゼルは少なからず感嘆の表情をしていた。特にカイゼルは、キラに対する評価を上方修正したようだ。時々挟む口調が、先程までの余所余所しいものではなく敬意を含んでいるようにケイは感じた。
「模擬戦において使用したOSの評価はアタルさんに任せるとして、こちらはパイロットがナチュラルの場合でも先ほどのモーションが可能となるようにしています。追加要素以外は先ほどの戦闘で証明されたものですので、検証の必要はあまりないでしょう」
全面的にアタルの評価を信じるというキラに対し、アタルは照れたように微苦笑をもらす。
キラの意見が一旦終わり、全員の視線がアタルに向かう。
その視線に物怖じせず、アタルが凛とした声を響かせた。
「私の動かした限り、M1アストレイの要求する量産型主力兵器、としての性能は現時点で十分満たしていると感じるわ。少なくとも以前私が経験したジンと比べても操縦性、戦闘スペックは圧倒していると思う。一般的な兵器としてはあれで十分。キラがあれよりOSを拡張したことを踏まえても、後はパイロットの練度に依存するというのが私の感じたことよ」
キラの意見を引き継いだ形で放たれたアタルの言葉を、ケイたちは黙って聞いていた。結果的にOSの実用性が証明された形となったキラはどことなくほっとした様子だ。
シモンズ主任も頷いていたが、やや間を置いて口を開く。
「では、M1アストレイはあれで十分、と。そういうことでいいのね?」
「キラが行ったOS改良も十分だし、M1アストレイもカタログスペックは十分発揮できる。私からの結論は、M1アストレイは実戦に十分投入できるレベルになった、ということだけね」
その答えに満足したのか、シモンズ主任が笑みを浮かべた。
次いで、ケイに視線を送る。そのことに気づき、ケイは自分の言葉を紡いだ。
「では、イクリプスに関してですが……」
口を開いたケイに対し、全員の視線が集中する。多数の人間から注目される感覚に揺れ動く心を抑え、ケイは自分の感じたことを伝え始めた。
「全体的に高いバランスでまとまっているというのが俺の感じたことです。特に柔軟性、反応速度には目を見張るものがありました。武装も平均的ですが、サーベルのビームガン機能は相手の意表をつける点やビームライフルに依存しない点からも便利でしたね」
ケイの言葉に、アタルがびくっと反応した。やや不満そうな顔をしていることから、先ほどの結果に納得していないのだろう。次は負けない、というようなオーラが立ち上っているようだ。
ケイの感想に、シモンズが満足したように頷いてみせる。
しかしその一方で、設計者であるカイゼルの表情は納得し難い、といったものとなっていた。
「他に気づいたことはないんですか……?」
少しの間を置いて、顔をあげたカイゼルがケイに問う。その目には鋭く、少年のするような視線ではないだろう。いっさいの妥協をしない。そうカイゼルの目が訴えてくるかのようにケイは感じた。
「じゃ、私からいいかしら? 欠点、というか…そういう点でいいなら、だけど」
そこに、アタルの声が響いた。その言葉に、カイゼルが頷く。
「構いません。そういう意見も必要ですので」
「そう、じゃぁ言うけど。私が感じた限り、イクリプスには大きな問題点があると思うの」
「問題点?」
アタルの言葉に疑問を呈したのはシモンズだった。逆にカイゼルは、続きを促すかのように黙っている。
その反応を見て、アタルは言葉を続けた。
「まず1つ、運用する場合においてオーブ防衛を考えたときのスペック不足。特に遠距離砲撃手段か航空手段がないと地理的に不利だと思うわ」
人差し指を立てながら話すアタルに、ケイはハッとした。一般的に評価されるべき性能に目が行き過ぎて、地理的な条件を入れてなかったのだ。まだ若いとは言え、オーブという国を守る兵士とはしては、十分失態だった。
「その点に関しては俺も考慮しました。イクリプスのバックパックにはストライカーパックと同様のプラグ規格を採用しています。バックパックを取り外す必要はありますが、ストライカーパックを換装することでオーブ防衛に対するスペック不足は補えるはずです」
「ストライカーパックが、使用できるんですか!?」
アタルの言葉にカイゼルが対応する。その言葉に驚いたのは、アタルやケイではなく、キラの方だった。
「非公式だけど、元々ストライクにはモルゲンレーテも関わっていたの。だから部分的だけど、ストライカーパックの技術を持っているのよ」
「シモンズ主任の言うとおりです。同じ技術の流用、という点ではイクリプスはストライクの兄弟機と言っても良い。もっとも、ストライカーパックの技術も一部だけですので、新規にパックを作るにしても厳しいのが現状ですが」
それが他の欠点に関係するんでしょう、というカイゼルの言葉に、アタルが頷いた。首をかしげるキラとケイを見て、アタルが先に進むための言葉を放つ。
「ならこの問題点は、ストライカーパックに依存する汎用性、も含まれるわね。どちらか一方でも解決すれば自動的に解決されるけど」
「ですが、ストライカーパックの拡張性にも限界はあります。試験機とは言え実戦を考えなかったわけではありませんが……」
「今の状態だと、M1アストレイと役割が被ってしまっているのは否めないしね。数があれば、なんとかなるけど」
「性能面でも、配備数でも、決定打にはならない。そういうことですか」
次第にカイゼルとアタルが盛り上がっていく様子を見て、ケイは息をついた。ついていけない、とばかりに首を振るとそこには同じように乾いた笑みを浮かべたキラが居る。
「どうする?」
「えっと……まだ続きそうですし、僕たちは離れましょうか」
「そうだな」
手に負えなくなってきたことを自覚し、ケイはキラに助けを求める。それはキラも同様だったようで、盛り上げっているアタルたちから目をそらしつつ、言葉を返してきた。
先程までの張り詰めた空気は、今はもう緩んでしまっている。その緩んだ空気を感じて、ケイは笑みをこぼした。
「まぁ、こういう平和な一時もオーブらしいといえば、オーブらしいか。君も休んでおけ。ヤマト君」
最近は特に、イクリプスや他の新型MSの傍に居たせいもあって、気を張っていることが多かっただけに、この緩んだ空気はケイにとって息抜きにちょうど良かった。まだ知り合ったばかりだが、キラに対してもそれは言えることだろう。そう思い、ケイはキラに休息を促した。
その言葉に、キラは疲れたように頷いてみせた。
一刻も早く頭を休ませたい、そう呟いたキラの肩は下がっており、若干哀愁が漂っていたことを追記しておく。
コズミック・イラ:71年。地球連合とプラントによって引き起こされた大戦は、すべての国で少なからず影響を与えていた。そのことは中立国として大戦への参加を拒否し続ける国にとっても例外ではなく、中立国の中でも特に影響力の高い『オーブ連合首長国』でも、秘密裏に自国の防衛力を上げることを選んでいる。全ては万が一、ということだが、その選択をした時点で、オーブという国もまた巨大な戦争の波に飲まれていくことは、決定づけられていたのかもしれない。
同年、6月13日。中立国オーブは、戦争という悲劇から、逃げることはできなくなっていた―――