幼女の影に這い寄る紳士はペドフィリア   作:雨英

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遅くなりました。

色々手直しをしたり、書き直したりしたのもあるのですが。
後ろの方の表現をこのまま上げるかどうかで悩んだ──という箇所は修正しましたので気にせずお読み下さい(追記2)。

それと、ギャグの代わりに、皮肉というか、ブラックジョーク擬きを入れておきました。というか、そのオンパレード、です。

さて、前置きが長くなりましたが。

今回本文も長めです。
なんと驚きの7000超え。

ごゆっくりお楽しみ下さい。


狂気胎動

 やあ、やあ、ご機嫌よう、諸君。

 

 時が経つのは早いもので、気づけば入学から1年。申し訳程度の庭にコスモスが咲き、風に揺られる季節がやってきた。

 

 

 つまりは、可愛らしい新入生がやってくる季節な訳である。

 

 

 まあ、年上だが。

 

 あれだ、可愛らしいというのは、おろおろしたり緊張したりしている様子が初々しいとか、そういう意味だ。

 どちらかというと、戦時でも意気揚々と士官学校にやって来て、天真爛漫さを見せる姿が可愛らしいという皮肉の意味合いが強いが。

 

 

 さて、新入生がやってくれば当然、形はどうあれ歓迎せねばならない。

 

 それをするのはもちろん在校生な訳で。

 

 

 今は指導先任となった在校生が前に立ち、代表としてターニャ殿が新入生、つまりは二号生に洗礼を浴びせているところだ。

 

 

 

「栄光ある帝国軍魔導士官学校の狭き門を潜り抜けてきた、諸君。合格おめでとう」

 

 そう、現在、ターニャ殿が二号生に訓辞を述べているはずなのだ。

 

 

 が、しかし、彼女、声も顔も全くの無表情である。

 

 

 お陰で二号生は戸惑っているようだ。無理もない、ターニャ殿はどう見ても祝ってないからな。彼女の機嫌もあまりよろしくなさそうな雰囲気であるし。

 

 今日は何かあっただろうか?

 特にからかったりした記憶は無いのだが。

 

 だとしたら、あれか。

 

 この場に立つと伝えられたのが、1時間前だったからか。あの時、妙に空気が固くなったからな。

 なるほど、理由が分かって安心した。

 

 

「私は、諸君ら二号生の指導先任となるターニャ・デグレチャフ一号生である」

 

 

 ちなみにだが、指導先任に選ばれるのは数人といったところだ。

 私も何を間違えたかその中に選ばれてしまったのだが、ターニャ殿を見ているだけの仕事になりそうだ。

 

 なにせ彼女、年齢に見合わぬほど優秀なのである。それでもって評価のためにキリキリ働く。

 

 そんな彼女と同僚になれば?

 

 いつも姿を見ていられる──のはそうだがその話ではなく。

 私が言おうとしたのは、彼女ができる限りの仕事をこなしてしまい何もすることがなくなるという話だ。

 

 席次は第三席、座学だけで見ればトップである彼女のやった仕事に手を加えるなど、当然できるわけもない。

 

 

 

 学校なんて、転生者で二回目の人生なのだから余裕だ、楽勝だ?

 

 

 そんなことはない。

 

 小学校のテストならともかく、ここは15、6歳の青少年が通う士官学校。高得点を出すのは子供の吸収力があっても楽ではない。

 学習内容だって平和な日本の学校ではまるで耳にしなかったことばかりである。生かせたのは精々勉強のノウハウと数学に物理くらいだった。

 

 それに加えて、そこいらの少年少女に負ける私ではないのだが、競争相手がターニャ殿なのである。競争相手と言っても、私が追い縋る形だが。

 

 

 何故、相手が彼女であるか、か?

 

 

 簡単な話だ。

 

 少しでも、卒業後に彼女の同僚となる、あるいはなれる可能性を上げるためである。

 

 我々が幼児の身である以上、前線に送られる可能性は低い……筈だ。少なくとも、ある程度危険性の低い職場になる……と信じたい。

 

 しかし10にならないというのに士官学校にいるわけだしなぁ……うーむ。

 

 帝国軍の信頼性に欠く倫理観はさておき、士官学校出の就く安全な職務とは内地勤務に他ならない。そこでは並の成績など論外であり、集められるのは天才と秀才、つまりは成績上位者である。

 

 当然それを目指す彼女に、ついていくために私の成績の要求水準も上がる訳で。

 

 仮に、勤務先が違ったとしても、階級は上に行けば行くほど同僚が減る。彼女は確実に残るだろうから、遅れずについていけば結果として会う機会も増える。

 

 

 生き残れたら、だが。

 

 

 何にせよ、ここは、学校は能力をはかるのだから、出し惜しみすればどうなるかは目に見えている。

 

 最初から、結論は出ているという訳だ。

 

 

 しかし、これでもまだ楽勝だと言えるなら、私とは頭の構造が違うのだろう。良い意味でも、悪い意味でも。

 

 いや、別に言い訳ではない。

 これはただの事実だ。

 

 事実なのだ。

 

 良いね?

 

 

 

 

 しかし、ターニャ殿は本当に優秀だぞ?

 

 それこそ、彼女の先任が、廃人となるくらいには。

 

 

 いやはや、不幸な出来事であった。

 

 

 彼は悪くなかったよ、恐らく。ああでも──死体蹴りの趣味はないのだが──頭の出来は彼女より悪かったな。

 幾つも年の離れた子供にあらゆる点で負かされ、ポッキリ心が折れたらしい。いつの間にか消えていた。

 

 彼の名前を覚えていなかったからターニャ殿に聞いてみたところ、彼女も覚えていなかったらしい。

 彼女の中での彼の評価は、無能でも有能でもない、毒にも薬にもならない奴、だったのだろう。

 

 その“何でもない”という評価がトドメだったに違いない。

 

 どこまでも哀れな奴だった。

 

 

 彼女はわりとそういう類いの話に疎いからなぁ。

 

 

 

「はっきりと言おう。我々は、実に困難な情勢において、常に最良の結果を求められる」

 

 

 さて、それほど優秀であるからこそ、彼女の“常に最良の結果を求められる”という台詞は重い。

 だがノコノコと死にに来た気楽な二号生には、分かるはずもないか。

 不穏な情勢の中で、死者も出ている軍にどうして入ろうと思えるのか、不思議で仕方ない。活気溢れる若者の愚行、というものなのだろうか。

 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

 

 

 

 しかし、最良の結果、か。

 

 

 私にそれを出せる自信はない。

 

 ああ、確かに最良の結果を出せると思うのは増長以外の何ものでもないがそういう話ではない。

 自分で思うのだ。私は士官に向いてない。集団を取り纏めるのが好きでないからな。

 

 単独任務を黙々とこなすのが性に合う。

 

 やりたいことをやる。

 思うがままにやる。

 バレずにやる。

 

 それが、私の好きなことだ。

 

 

 何で軍に入っているのだろうな、私は。

 

 いやまあ、何故ってそんなのは自分でも分かりきっている。

 それしかなかったから、だ。

 選べないというのは、精神的負荷である。だが同時に、“選べなかった”という逃げ道たり得る。精神を崩壊させないように圧力をかけるなら、うってつけだ。

 

 おのれ、存在Xめ、上手くやりよる。

 

 何とも、面白くないものだ。

 

 

 

「だが、安堵してほしい。我々は、貴様らに期待しない。だから私としては、望む。私を絶望させるなと」

 

 

 存在Xの話はやめだ。何も得られるものがない。

 

 

 さて、さて、さて。

 

 今の彼女の優しい言葉だが間違いなく誤解されるだろう。私が今年の二号生であったなら、期待されてないならやりたい放題だななどと言って、幼女を可愛いがる計画を立てていただろうが。

 

 彼らはどんな反応をするの…だろう……な………はぁ。

 

 

 なんとも、まあ。

 

 彼ら、泣けるくらいに予想から外れてくれない。

 

 何人か、顔が真っ赤になっている奴がいる。額から湯気が出ててもおかしくなさそうだ。

 野郎ども、幼女に興奮していやがるのである。変態だ、士官学校に何しにきたこの変態。慎み隠すという行為を知らんのか馬鹿どもめ。

 

 しかもそれだけではない。顰めっ面の奴も、決して少なくないのである。

 その険しい眉間の奥でいったい何を考えているのだろうな。思春期の猿というのは想像を絶するほどあれだから恐ろしい。

 

 

 

 ああ、変態やら、猿やらは、冗談だ。

 

 笑い話にでもしないと、やってられん。

 ……センスが悪いのは認めよう。あまり、冗談を言う機会がなくて、その、練習とかができんのだ。

 

 別にスベるのが怖いわけではない。

 

 

 笑えない冗談はさておき、彼らについてだが、負の感情をこうも簡単に表に出すのは子供のすることだ。子供はここにはお呼びでない。帰ってくれるなら、飴でも何でもやるのだが。

 

 感情を微塵も隠さないというのは、好ましいことではない。勿論、全否定するつもりはないがな。時と場合による。例えば、部隊のストレス解消には多少なりとも効果的な手だ。常に押し殺せと言っている訳ではない。

 

 だが、今話しているのは一般常識である。

 

 この場では奴らは配属が我々一号生の下。ただ感情的な理由で、上に対し不満たらたらの表情をするなど、あり得ない。これは、相当の教育が、必要だ。

 

 教育というのは分かりやすく言えば対人戦だ。

 抵抗が多いほど相手にするのが面倒になる。

 手の掛かる子ほど可愛いというが、二年しかない本校の教育においてそれはただの邪魔者だ。

 

 ああ、全く以て嬉しくない。

 

 ああいうのは部下にいれば御しやすい戦力(使い勝手のいい駒)になるのだが……志望先を間違えてないだろうか?

 

 

「断わっておくと、私の使命は、帝国軍の防疫である。すなわち、無能という疫病を、帝国軍から排除することにある」

 

 

 帝国軍は、軍の戦略を聞けば分かると思うが、軍が機能する前提として個々人の働きが正常であることが求められる。在り方は精密機械のそれと同じだ。

 異物混入、動作不良、どんな些細なものであっても一つ狂えば全てが狂う。

 

 無能とはこの中では動かない歯車だ。

 故に軍はこれを淘汰しなければならない。

 

 たとえ蟻のように、無能の存在が生物として必然のものであっても、我ら帝国軍においてその存在は許されない。

 許せば、残るのは蹂躙された自国民の亡骸だけ。

 

 味方の無能こそ、最大の敵なのである。

 

 

「かかる情勢下において、帝国軍に無能が蔓延するを許すは、罪ですらある」

 

 

 しかし恐ろしいことに、無能というのは自分の無能に気づかない。厄介なのは言われてもなお認めようとしないところだ。

 無能の耳は非常に良くできている。特定の言葉への遮音性は素晴らしいとしか言いようがない性能を誇る。

 

 無能は無能であるほど、無能であることを認めようとしない。

 

 忌々しい。

 

 

 

 切羽詰まった戦時の今、無能であれば殺されて死ぬ。

 

 敵は勿論言うまでもない。

 それのみならず、味方からの不幸な誤射というのも珍しくないのだ。部下も自分の命が懸かっているからな。

 

 私は己が無能でないか気が気でないが、二号生の彼らは自らが無能でないか、露ほども疑わないらしい。もっともらしく頷く奴らの頭には何が詰まってるのやら。

 

 名は体を表すというが、であるならば彼らの名乗るべき名前は馬鹿か阿呆だな。可哀想だ。祈りを込め、立派な名を付けたであろう、彼らの親が。

 

 

「諸君は、48時間以内に、私の手を煩わせることなく、自発的に退校可能である」

 

 

 これは所謂、入校辞退だ。

 裏で後ろ指さされようとも、表向きには辞退した形となる、この帝国軍士官学校の良心と言える制度である。

 これを過ぎて追い出されるような連中は人生を無駄にしてきたような者達だろう。

 その後の彼らは前線に送られ、有象無象の一人として散ってゆくと、どこかで聞いた。

 戦時とは、まあ、そんなものだ。

 

 

「誠に遺憾ながら、48時間有っても、自分が無能であると判断できない間抜けは、私が間引かねばならぬ」

 

 

 ターニャ殿がやってくれるそうな。

 よし、よし、言質はとったぞ。

 

 が、かと言って、何もしなければ当然無能の誹りを免れえない。

 そうだな、分かりやすい馬鹿を適当に煽って見せしめにしようか。

 少しは教育が楽になるだろう。

 

 

 なんで9歳の餓鬼が、五、六歳年上の奴らに教育するんだとか、そういう前世の常識は投げ捨てる。

 

 郷に入っては郷に従え、実力主義ここに極まれり。

 

 巫山戯た世であるが、存在Xの創った世界ならば、仕方ないと思うあたり、相当疲れているな。

 

 

「まあ、ヴァルハラへ行くまでの短い付き合いではあるが、新兵諸君、地獄へようこそ」

 

 

 地獄、地獄か。

 

 その通りだ。

 

 

 ここは、同じ人同士で殺し合うために、出来るだけ多くを殺すために、その与えられた高い知性を狂気に浸す、そのための場だ。

 

 

 平和ボケしていた私には些か刺激が強く、精神が不安定にもなったさ。

 

 戦争はどこまでも浪費行動である。それに加え、人同士で殺しあう行為が肯定されるとはつまり、殺される未来が幾らでもあり得るということ。

 

 死にたいのか何なのか知らないが、私からすれば不合理の塊だ。

 

 

 だが、ここは、その狂気が、溺れるほどに溢れた世界なのである。

 少し言い過ぎであるかもしれないが、大差は無い。

 

 

 いったい、彼ら新兵のうちの何人が、ここに来ることの意味を理解しているのであろうな。

 

 

 同期でさえも、時々、帝国軍の士官として活躍する夢を誇らしげに語る者がいる。

 

 夢は、無責任で、無垢で、華美なものだ。

 

 期待に胸を膨らます。

 己の雄姿を思い描く。

 栄光を手にする未来を見る。

 

 そして彼は今日も訓練を受ける。

 

 なんと残酷だろう。

 

 未来の名誉は緋色の絨毯の先なのに。

 夢が魅せるのはどこまでも眩い光なのだ。

 

 一将功成りて万骨枯る。

 

 果たして彼は屍山血河を越えられるか。

 

 私はとうに越えることを決心しているが、さて、どうだろう。

 少なくとも、覚悟なくして受け止められるほどの軽いものではない。

 

 

 しかし、私の決意とやらも、戦争の狂気の前ではどれほどのものか分からないな。

 

 

 

 いつか、呑まれるだろう。

 

 

 

 そんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 今朝は朝食が少なかった。

 

 不味いが貴重な飯が減ったのを喜ぶべきか、惜しむべきか。

 育ち盛りなこの体を思えば惜しむべきだが、精神的ダメージの軽減はどうあっても喜ばしいことである。

 

 

 去年の通りならばそろそろ1回目の死刑執行であったから、それなのだろう。

 

 

 気づいてない者は皆無ではなく、不満顔がいくらか見られる。察したまえよ、君ら。士官候補生なのだろう?

 

 一方、我らがターニャ殿はというと優雅に読書中だ。

 

「……何だね」

 

「腹の虫が泣きそうでね。ターニャちゃんのお腹の虫のご機嫌はどうだろうかと」

 

「お前の虫ほど肝が図太くはないさ」

 

「えー、それはどうだろう。だって私とターニャはほぼ違いが無いだろう?」

 

「それはそうだが」

 

「食べる量にいくら違いをつけても変わらないってのは困ったよねぇ、スリーサイズもまだ一緒だったりして」

 

 

 ちなみに一時期馬鹿食いしてたのはターニャ殿の方である。

 

 涙目でお腹に詰め込んでいたのは可愛かった。

 

 矮軀では容易く死ぬと思ったから、とのことで。まあ、少食の子供が頑張ったところで入る量は大したことない。

 成果はなく腹が辛いだけだったようで、2週間もすればいつも通りの量を食べていた。

 

 

 

「さあな」

 

 おっと、乙女の心は硝子なのだ。

 幼なじみの気安さがあっても、土足で踏み入れてしまってはいけないというのに。

 

 うーむ、気を付けなくては。

 

「うーん……朝食足りないなぁ。事の後にでもおやつか何か貰えないかね」

 

「それはないだろう」

 

「あー、やっぱり?」

 

「どれだけおめでたいのだお前は」

 

「バレンタインデーを夢想するくらいには」

 

「本当におめでたいな」

 

「あはは…………今日は、何人吐くんだろうか」

 

「……察せない馬鹿はまず吐くだろうよ」

 

「……違いない」

 

 

 あと、青ざめている奴も間違いなく吐くな。

 人を好んで殺す者など、そうはいない。

 

 あまり考えすぎるなと心配そうに言っておけば、人前で吐くことは無いだろう。後で声をかけておくべきか。

 

 

 いや、しかし、さすがは帝国軍士官学校だ。

 

 今日も今日とて、戦術理論(人殺し)の勉強をすることになっているのである。処刑の後であっても。果たして授業になるかは疑問だが。

 

 

「ターニャ、そろそろ行こう」

 

「ああ」

 

 

 パタンと本を閉じ毅然と立ち上がる彼女。

 

 少なくとも、彼女に関しては、如何なる心配も杞憂に過ぎないだろう。

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、これより死刑執行である。

 

 

 死刑囚の罪状は強盗強姦致死だとか。

 不幸な一家が犠牲になったそうだ。

 

 誰でもよかったなどと声高にほざいた、弁護側も手を出せないほどの黒。弁護士殿も大変だな、こんな奴庇いたくなかったろうに。

 殺すのは誰でもよかったと、そういうのなら自分を殺してくれと思うのだが。

 

 困ったことに、死刑という抑止力の意味をもつ極刑こそが彼の求めてやまないものだったらしい。

 

 前世の中国の宮刑とかがふさわしいのではなかろうか。死ぬまで後悔してくれるというのなら、飼育費こそ惜しいがなかなか悪くない余興だ。

 

 

 

 おっと、冗談だったのだが、伝わらなかったかね?

 ふむ、英国のブラックジョークは帝国紳士の私には難しかったようだ。慣れぬことはするものでないな。

 

 連合王国に赴くことがあれば、是非とも詳しくコツを聞いてみたいが、それはさておき。

 

 

 こういう輩には弾の一発をやるのでも勿体ないと思うものの、これは規則だ。

 どうせ死ぬに変わりないというのに餓死でも水死でも斬首でもなく、銃弾を我々から何発か、ようは銃殺に処すわけである。

 

 銃殺の経験をさせるために、なのは分かるがそれでも気が進まない。

 

 

「えー、分隊の諸君。これから死刑執行であるが」

 

 

 まあ、これも仕事だ。

 

 

 公私の切り替えをしなくてはな。

 

 

 こうやれと言われたら訓練生の身では従うのが義務である。今回は教官殿による気遣いか、同情の余地の無い下種が出荷されてきた。

 

 これを利用しない手はない。

 

 

「死刑囚は、強盗強姦致死の罪を犯している。犠牲者は、一家四人、全て。無辜の民が、殺されてしまった。帝国臣民の平穏な日常を一つ、奴は(いたずら)に奪ったのだ」

 

 

 義憤を煽れ。

 慈悲の涙で頬を濡らせ。

 

 

「彼は、法廷で“殺すなら殺せ”、と。そんなことをのたまったそうだ。どこまでも語るのは自分のことばかり。犯した罪を省みず、殺せ殺せと、汚く喚いていた、と記録にあった」

 

 

 殺意を植えろ。

 憤怒の火で胸を焦がせ。

 

 

「この世には人権などという素晴らしい概念がある」

 

 

 だが、一拍。

 思考に空白をつくらせる。

 

 

「それによれば、人は誰しも、絶対不可侵の生きる権利を有しているそうな」

 

 

 そこには、水を流し込むのだ。

 

 

「そう、人ならば、生きる権利を有していると、そしてその権利を犯してはならないと、そういう訳だ」

 

 

 冷静を装い、正義を騙る。

 

 

「人が、人である限り、人権を有しているのだが、果たして」

 

 

 氷より冷たく、炎よりも熱い。

 

 

「この生物は、我々と同じ人でありえるだろうか?」

 

 

 獣の持たぬ人の性を。

 

 そう、則ち、狂気を。

 

 

 

 

 

「………いえ」

 

 

 

 一つ、花が咲く。

 

 

「…ありえません」

 二つ。

「そんなこと許せませんっ」

 三つ。

 

「決して、認められません」

 

 そして、最後。

 

 

 

 あアぁ、上出来だァ。

 

 

 

 実に、実に素晴らしい!

 

 

 体の芯が、優しく疼いて、淫らに爛れて、甘く痺れる。

 快感で、手足の先から脳髄に至るまで、全身がグズグズに蕩けていく。

 いまだかつて感じたことのないほどの歓喜に、身も心も堕とされてしまいそうだ。

 

 ああ、嫌だ、嫌だ、どうしようもなくだらしない顔なんて、恥ずかしくて見せられない。

 

 まったく、いけない、いけない。

 

 

 ここで笑顔を見せれば、台無しになってしまう。

 

 さあ、この感情を縛り付けて。

 

 

「ああ、全く以て、その通りだ。諸君、これから殺すのは人ではない。人の皮を被った怪物である」

 

 

 頷いて、目を見据え、その狂気を肯定しよう。

 

 どこまでも、この深みへと引き摺り込み。

 

 

「ふむ、時間になったようだな」

 

 

 底無しの蒼に染め上げて。

 

 

「これより、殺処分(死刑)を執り行う」

 

 

 

 

 ───ュ──ス─と──の──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────。

 

 

 失礼、どうも気を失っていたようだ。

 

 時々、こうして、記憶が飛ぶのだ。

 孤児院では無かったことなのだが、士官学校に来てから発症?している。

 健康診断では異常なしと出ているが、どうにも不安が拭えない。

 

 まあ、今それを考える時間はないから、この話は置いておこう。

 

 

「分隊の諸君、生きた人型の的だと思えばいいよ。使い捨てだから、上手く中らなくても気にしなくていい。何より、対象は排除すべき害悪だ。気に病むことはない」

 

 

 適当に声をかけて、では死刑執行へと──

 

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 ──おっと、なかなか意気盛んなご様子。

 

 

 

 いやはや、戦争というものはやはり恐ろしいな。




いつの間にか狂気のベクトル変わってるんですよねぇ。

泣きたい。
果たして収拾がつくのかどうか。

謎です。

趣味全開で行こうとして、加速が速過ぎてすっころんだ感じ。

─↓修正しました↓──
最後の■■■■■■■■■■■■、にルビが無いのは仕様です。
他の所も隠したままにしようと思ってましたが、やべぇ黒塗り大杉ということでルビ振りを。
別にそこは隠すつもりなかったので。
─↑修正しました↑──

さて、次回予告です。

『if編、紳士レルゲンは職務を忠実にこなす』

そう、番外編です。
紳士分補給回。
if編、とついてるように本編のレルゲンは帝国紳士会に入っていません。
ターレルの対抗馬としてタ←レルを立ち上げようと思いまして。

番外編の次、ですか?
………書けてないです。
だって番外編もまだ全然なんですよ?
しかも時間が取れなくなるので更新速度はますます落ちますごめんなさい。

のんびりお付き合いいただければと、はい。


─追記─

存在Xに対してや、ぽやっとしてる二号生への皮肉とかって、アンチ・ヘイトに入りますかね?
ちょっと不思議に思って。
暫くはつけないでおくつもりですが。

─追記2─

またもや上げた後に手直ししました。
内容に変化はありません。

─追記3─

内容を多少書き足しました。ストーリーにさしたる影響はありません。

◆近況報告◆

学年末試験、未提出課題、修学旅行のジェットストリームアタックを喰らってました。世界史の試験とか酷かったんですよ。解答用紙の3分の2が記述です。B4で。普通に死ぬ。………たぶんきっと進級できるはず。


◆進捗状況◆

1度、四千字まで書いたのですが、没。
途中から、ロルフとターニャが宇宙人みたいにテレパスしてたので、さすがにこれは、と。
で、書き直してます。今は二千字程。
どっかに執筆速度ブースト落ちてないかな……。

まあ、こんな感じです。

ではでは。
申し訳ありませんが、もう暫くお待ち下さい。(T_T)ゞ

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