とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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炎天下の作業には水分補給と帽子などの事前準備もお忘れなく   3-2

「予想以上に時間が掛ってしまいました……」

 

 

 路地裏でスキルアウトの集団を回収、その後、黄泉川かアンチスキルかに恨みを持ったこれまたスキルアウトを一掃・回収。

 

 

 ……これが、買い物帰りの一部始終であるというのだから世の中分からないものである。

 

 

「美琴さんは荷物を放り出して走り出してしまいますし……」

 

 

 話の流れがイマイチつかめないので、此処で一応説明しておこう。

 

 

 

 美琴ルート

 買い物帰りにスキルアウトに絡まれ殲滅 → 警報 → 美琴爆走 → 同じく買い物帰りの深音に激突、逃走に邪魔な手荷物を押し付ける → 美琴激走 → 警報範囲から逃れたのち初春・佐天と合流

 

 

 深音ルート

 警報を聞きつけた黄泉川と共にスキルアウトたちを回収 → すきるあうと が あらわれた!×20 → 黄泉坂クロスブレイク → 後にスキルアウトを震撼させる黄泉坂コンビが結成 を阻止 → スキルアウト回収後 美琴の荷物を届けるために常盤台寮へ

 

 

 

 ……お気づきだろう。 美琴の時にせよ黄泉川の時にせよ、深音は完全に巻き込まれただけである。

 それにも関わらず、美琴に対しては荷物を押し付けられたことの苦笑のみ。黄泉川に至っては大変な仕事を、という尊敬すら抱いている。

 

 これを後で知ったどこかの二人が、罪悪感と感動に胸を打たれたのは完全な余談だ。

 

 

「……おかしいな。通信回線の故障か……?」

 

 

 そしてやっと辿り着いた常盤台寮の玄関前にて、小包を抱えて途方にくれている配送業者を発見した。

 

 

「どうかしましたか?」

「あ、いや。ここの学生さん宛の荷物なんですけど……何度呼び出しても応答がないもので――その格好、失礼ですけどここの、その、執事の方で?」

 

 配送業者は執事を見るのが初めてらしい。珍しげに深音を眺め、ついで苦笑を浮かべつつ寮を眺める。

 

「はい、そうですが……?」

「そうですか。申し訳ないんですが代わりに荷物を届けていただけませんか? 下手に入ると通報ものですし……次の配送の時間もあまり無いもので」

 

 本当に時間が押しているらしく、チラチラと腕時計の時間を確認している。半開きになったトラックの荷台にはまだ相当な荷物の山が見えた。

 

 

「あまり代理受け取りは好めませんが……そういうことでしたら承りました。私のほうでお届けしておきます。サインは私のでも大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。無理を言って申し訳ない……はい。それでは、よろしくお願いします」

 

 

 深音のサインを受け取ると、一礼してそのまま車に飛び乗って発車。

 スピードに乗る前に追いついた深音が半開きの扉を閉めたことに気づくことなく、そのまま走り去っていった。

 

 

 

「事故など起こさなければよいのですが……さて。寮生の方の郵送物は寮監……ってこれ白井さん宛ですか。……なら、そのまま持っていったほうが早いですか」

 

 

 それにしても、今日はよく荷物を預かる日だ。と苦笑を浮かべながら美琴と黒子の部屋へと。

 

 

 その前に、一歩。常盤台の寮内に踏み入れた瞬間に、顔を引き締める。執事として。

 やっと深音に慣れてきた寮生達に礼をしつつ、他の部屋よりずっと親しみのある部屋の前へと着く。

 

 

「(気配が四つ――? ……お客様でしょうか) 美琴お嬢様、黒子お嬢様。お取り込み中申し訳ございません、少々よろしいでしょうか?」

 

 

『はーい……って深音? ちょっと待ってー』

『深音さん!? 御坂さんホントにちょっと待って開けるのちょっと待って! ……初春アタシなんか可笑しなところ無い!? 髪とか服とか……』

『私のスカートバタバタさせながら焦らないでください! それさえ止めれば全然大丈夫ですから!』

『……と、とりあえず、開けるわよ?』

 

 

(にぎやかですねー……おっと)

 

 

 この寮では考えられないほど賑やかなやり取りに笑みを浮かべかけるが、自分は執事、と暗示をかけて押し込める。

 

 扉を開けて真っ先に顔が見えるのは当然美琴。しかし、真っ先に視線を向けてしまうのは部屋の真ん中で気をつけの状態で硬直している2人だ。

 その2人が風を唸らせるほどの速度で頭を下げれば、いやでも目が向いてしまうだろう。

 

 

「「お、お邪魔してます! 深音さん!」」

 

「昨日もお会いしてるでしょうに……何をそんなにガチガチに緊張してますの?」

 

 

 呆れた、とばかりの半眼で二人を見る黒子。パーティでもやっていたのか、机の上にはお菓子やら飲み物やらが並んでいる。

 

 

「……ようこそおいでくださいました佐天様、初春様。お取り込み中申し訳ございません、美琴お嬢様。先ほどお預かりしたお荷物をお届けに。それと、黒子お嬢様へのお届け物もございます」

 

 どこかノンビリとした雰囲気がどこにも見当たらない深音。幾度と無く『凛とした』と言い表している顔つきはスッと引き締まり、真剣そのもの。

 

 

 先日――と言っても昨日なのだが、そのとき初めて会った佐天や、意識した初春にはとんでもないギャップを感じていた。昨日会ったときと同じく執事服ではあるものの、そのときはノンビリと、のほほんとした雰囲気が柔和な笑顔から感じられたのだが、今はそれが完全に消えている。

 

 様付けでどこか他所他所しい態度は少し寂しいが……。

 

 

 

「く、クールな深音さん、だと……!?」

「わ、私としてはコッチのほうがー……」

 

 

 

 ……2人は大して気にならなかったらしい。佐天は驚愕しつつも赤面し、初春は初春で傅かれる立場に感動していた。

 

 そんな様子の二人にか、それとも、自分が押し付けてしまった荷物以上の難事のことを考えてか、苦笑する美琴。 

 

 

「あー、その、大丈夫だった? あの後」

 

「いえ、特にはなにも。それとこちらが黒子お嬢様宛のお荷物になります」

 

「?ワタクシ宛に荷物ですの? そんなもの身に覚えが……あー! はいそうですのワタクシ通販で「依頼主に『株式会社・愛と漢方の絶倫媚薬』とありますが?」……oh my god」

 

 

 深音がサラリと告げた会社名。明らかに表通りに堂々と掲げられる社名などではなく、18歳未満の利用は出来ないだろう。

 しかし、深音がそんなことを知るわけがなく、精々変わった名前の会社だ――としか考えていない。

 

 

 

 それでも、理解した。利用してはいけない、関わってはよろしくないものなのだと。

 

 

 

「くーろーこー?」

 

 

 

 目に見えるほどに帯電し、今にも雷撃を解き放たんとしている美琴を見て。

 

 

 

「媚薬ねぇ。アンタの言う『二ヶ月目の記念日』とやらにどうしてそんなものが必要なのかしらねぇ……!?」

 

 

 メタ発言をしてしまうが、ご覧の上では僅か一行ちょっとの台詞だろうが……しかしそこに蓄積された怒りの塊が、確かに存在している。矛先を一切向けられていないはずの佐天と初春が互いに抱き合って震えるほどの、だ。

 

「こ、これは、そのー」

「アンタのそのヘンタイ精神は、ちょっとやそっとの荒療治じゃどうにもならないみたいねぇ……!!??」

 

 ちょっとやそっとの荒療治……なんとも、不思議な言葉ではある。

 そして、ちょっとやそっとじゃない荒療治を、これから行うのだろう。

 

 

「アンタのその名前の通り……真っ黒こげになりなさい!!!!」

 

 

 臨界点突破。

 迸る雷撃は黒子を捕らえようと空気中をかけるが、それよりも僅かに早く、黒子がテレポートした。……深音から件の荷物を掻っ攫った上で。

 

 

 それなりに頑丈なつくりの扉を容赦なく吹き飛ばし、美琴は黒子を追って廊下に飛び出した。

 

 

「オォーッホッホッホ! ワタクシの能力をお忘れになってもらっては困りますわお姉様……こうなったら致し方ありません。実力を持って黒子の愛を! お姉様にぶつけさせて頂きますの……!」

「むぅ……」

 

 部屋のすぐ目の前の廊下で、西部劇さながらに対峙する二人。

 理由などはとても馬鹿げているものの、驚く無かれ。これがレベル5<超能力者>とレベル4<大能力者>の一騎打ちなのだ。

 

 

 

「……ああ、これは手遅れですね」

「み、深音さん。そんな冷静に……早く止めないと二人とも廊下で決闘でもはじめそうですよ!?」

「白井さんも御坂さんも高レベルの能力者なんですよ!? 早く止めないと凄いことに――って、アレ……?」

「手遅れです。手遅れなんですよ……二人とも」

 

 

 

 決闘もやむなし、と決意していた美琴の顔が、一瞬にして蒼白になる。 

 体は軍隊の用に直立不動。にも関わらずガタガタと震え……呼吸さえも乱れる。

 

 

 

 

「……『寮則 第一条 如何なる状況を持ってしても是は寮敷地内での能力の使用を禁ずる』」

 

 

 

 

 背後からのその言葉に、黒子も美琴と同じ容態になった。

 

 いつからそこにいた。どうやって現れた。

 ……そんな些細な疑問は、通用しないのだ。

 

「忘れたとは言わないだろう? なぁ、白井、御坂」

 

 ――常盤台の寮監には。 

 唯一その接近を感づいていた深音は、執事の体裁など投げ捨てて頬を引きつらせる。深音の言った手遅れとは、能力者同士の激突などではなく……起こしてはいけない鬼を、起こしてしまったことをさしていた。

 

 

 

「これはこれはご機嫌麗しゅう寮監様! 寮則に付きましてはそれはもう重々、重々承知しておりますの! ですがこれには止むに止まれないふかぁぁい事情が……」

「なるほど……」

 

 

 美琴・黒子のお嬢様スマイルを貼り付けた愛想笑いを受け、それらしい弁明も受けた。

 

 

「止むに止まれぬ事情、確かにそういった事情もあるのだろう……」

 

 もしかしたら切り抜けられるかもしれない。そんな希望が芽生えた二人。一縷の望みに賭けてなおも黒子が畳み掛けようと言葉を紡ごうとするが。

 

 

 

 寮監の片腕が霞み――

 

 

 

グルキ

「も゜っ!?」

 

 

 

 おおよそ人が出してはいけない音と声を奏でつつ、黒子の首と意識が……刈り取られた。

 

 

 

「「ひっ!?」」

「く、黒子ーッ!?」

「だがな? そんなことは『どうでもいい』んだよ。なぁ? 御坂」

 

 佐天と初春は、悲鳴を口を押さえることで飲み込んだ。『目をつけられたら私達もマズイ』と本能から察したのだろう。

 

 寮監は腕の中でぐったりとしている黒子を一瞬たりとも抱き止めることなく放り投げる。その所作はもはや人に対してのものではない。邪魔なものをどかす。ただそれだけだ。

 

 

「どんな理由があれ、如何なる事情があれ……貴様らが寮則に反した事実は変わらない。違反者には罰を――そうは思わないか? なぁ? みぃさぁかぁ……?」

 

「ひっ……」

 

 

 生まれて初めて『地の底から這い出てくるような声』を耳にした美琴は、もはや呼吸すらまともに出来ていない。

 レベル5? 学園都市最強の7人? そんなものはなんの役にも立ちはしない。どんな肩書きや称号を持ってきたとしても、狩人と獲物の関係は覆ることはない。

 

 

 

 

 

「――寮監様、今回の件。少々誤解なさっておりませんか?」

 

 

 

 

 

 しかし、その獲物を守る存在がいたとしたら、話は別だ。

 

 

 

 

「ほう? 誤解と……」

 

 寮監と美琴の間にすっと体を滑り込ませ、精一杯胸を張る。右手は心臓の上に、左手は、背中の心臓の位置に。

 そして、左手の平を見た美琴は、その意味を理解した。理解して、心のそこから叫んだ。

 

 

 

 

『頑張ってみます』

 

 ――お願いだから頑張って、と。

 

 

「はい。確かに美琴お嬢様、黒子お嬢様共に能力をお使いになられましたが、それはこちらのご学友の能力開発の参考になれば、との理由がございます。勉学のため、そして何よりも後輩の糧にとの思いがありまして」

 

「……それで、扉が破壊されると?」

 

「何事にも事故はつき物です。むしろお怪我が無かったことを喜びましょう。もちろん扉は私が責任を持って修理いたします」

 

 

 無理矢理なこじつけであることは承知である。しかし、深音が責任を持つとなれば、扉の件は是で終わりだ。

 

 

「しかし、寮則を破ったことに変わりはないぞ?」

「はい。もちろん、御両名は寮則をお破りになられました。それには当然、然るべき罰則が与えられるべきでしょう。――ですが、その能力を行使した理由も勉学の向上心やご学友の参考になればとのことです。その点を無視なさり、そのまま罰則というのはいかがなものかと」

 

「ふむ……つまりは、罰則の軽化を――ということか」

 

 言うことはない、とそのまま眼を閉じ一礼する。

 寮監は、深音の言ったことを一蹴しようと思えばできるであろう。しかし、深音の言ったことの真偽は定かではないため、本当であった場合確かにそのまま罰則は、との思いが浮かぶ。

 

「ちっ……仕方ない。本来であれば、以前から眼をつぶっていた罰則を諸々詰め込んで夏季休校中常盤台中学の清掃でもさせようかと思っていたのだがな……」

 

(舌打ちした!? それに常盤台中学清掃って――学校『全体』を掃除しろっての……!?)

 

 

 学び舎本体から、運動施設などなどなど。生徒の行う簡易清掃ならまだしも、そんな生易しいことなどさせるはずがない。執行されれば今年の夏休み終了のお知らせがアナウンスされるだろう。

 

 ……それだけの罰が用意されるほど、美琴と黒子は何をしてきたのだろうか。

 

 

 

「では、次の休日、常盤台中学のプール掃除でもしてもらうとしよう。それでいいな?」

「は、はい! 分かりました!」

 

 ……炎天下の中のプール掃除。過酷は過酷だが、夏休みがマルマル潰れることと比べたら些細なことである。

 

 

 

 寮監が去り、それを角の向こう、足音が消えるまで見送り……御坂兄妹は互いに寄りかかるようにして、廊下に座り込んだ。

 

 

「ハハハ……すみません、美琴さん。あれが私の精一杯でした」

「いや、助かったわ――これでアンタに文句なんて言ったら私どんだけ恩知らずよ……」

 

 

 今だ意識を戻さない黒子に、頬を引きつらせる。最悪自分もあそこに伏していたかも知れない上に。謳歌する夏休みが消し飛ぶところだったのだ。

 

 

 

 力が抜けた体では、いま暫くは立てないだろう。迷惑かけついでに、力が戻るまで深音の背を借りることにした。

 

 ……なんとも可笑しな話だが、二人が初めて兄妹に見えたのは、それが初めてのことだった。

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

「……無能力者でも、高位能力者に勝てるんだ……」

 

「「佐天さんそっちの道はダメ!!!」」

 

 一人、修羅の道の入り口を見つけた少女がいた。

 

 

 

「っていうか誰もワタクシの心配はしてくれませんのね……」

 

 一人さびしげに首をさする少女もいた。

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

若干無理矢理な感じが否めませんが……

誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。
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