とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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狙われた常盤台執事   4-3

 

 すれ違う。

 三人組、楽しくおしゃべり中。会話の内容はなにを買おうか、どういったものが良いか。人通りの多い商店街に行くだろうと判断。ダメだ。

 

 

 すれ違う。

 一人。何か良いことでもあったのか鼻歌交じりで歩調が速い。方角からして園内の寮。これもダメ。

 

 

 すれ違うたびに確認し、静かにため息をついてはまた次へ。また次へ。

 

 品定めをされるように見られ、しかもダメだしされるようにため息をつかれているにも関わらず、誰もそれを気にしない。気にも留めない。

 

 

 

 当然だろう。『姿が見えないのだから』。気に留めることが出来ようはずもない。

 

 

(一人で出歩いてるのが昨日はあんなにいたのに……まさかもう対応が? いや、昨日の放課後からでそんなに迅速に取れるわけがないし)

 

 

 そう自分に言い聞かせ、品定めを再開。すれ違いつつ避けながら、獲物たる標的を探していく。

 

 

 そして、それから幾度目かのすれ違い様に、その目が留まった。

 

 人数は、一人。歩く速度は遅く、目的地が決まっている様子は無い。歩いている方向も、園内の寮とも、ゲートへとも向かっていない。何処へいこうか悩んでいるようだ。

  

 

 ――昨日の六人と殆ど同じ状況にニヤリとした笑みを浮かべる。後は同じように人気のない場所に勝手に進むのを待つだけ。

 

 

 

 ……なのだが。

 

 

 

「は?」

 

「「ん?」」

 

 

 

 思わず零してしまった言葉を、両手で口を押さえることで慌てて押さえ込む。その『三人のうち二人』は声に反応して振り返るが、数度視線をさまよわせて首を傾げるだけ。

 

 

「? ……佐天さんいま何か言った?」

 

「いや、言ってたら振り返りませんって。空耳ですかね」

 

 

 標的にばかり眼をやっていたため気づかなかったのだろう。標的とする常盤台の制服を着た女学生と、その両隣をに立つ執事。

 

 

 ――いや、むしろなんで気づかなかっただろうか。

 

 

 

(ぎゃ、逆両手に華状態!? これだから常盤台の連中は――しかも執事、ですって……!?)

 

 

 『自分の姿は見えない』と分かっていても建物の影に隠れ、その三人をよく観察する。

 

 

 背の高い執事。美形といって差障りない凛とした顔で優しげな笑顔。高得点。

 さも当然のように真ん中に陣取る常盤台生。化粧っ気のない顔で可愛いとかなにその反則喧嘩売ってるの? と思わず胸倉を掴みたくなる女子。

 

 

 

 そして、最後一人。

 

 

 

「……(ポッ)」

 

 

 人懐っこい笑顔を浮かべ、三人の中のムードメーカーのような執事。背の高さはもう一人の執事の肩程度だが、その顔は女の子といわれても信じてしまいそうなほど。

 美形、というよりも可愛らしいといえば良いだろう。

 

 

 …………まあ、女の子と言われてもなんらおかしくは無い。現実女の子そのものなのだから。

 確認するまでもないだろうが、御坂兄妹と佐天の三人である。

 

 

 

「まいっか。ほらほらお嬢様! 早く次のところに行きましょうよ!」

 

「佐天さんノリノリ過ぎ――黒子たちなんだけど、まだ少し掛るみたいだし……歩きっぱなしっていうのも人の目集めるからどこかのお店に入る? さっきと喫茶店続きになっちゃうけど」

 

「断然オッケーですよお嬢様! 早速行きましょう! ちょっと行きたかったお店があったんですよ!」

 

 

 背を押して押されて、楽しげに進む二人。そしてそれを、一歩後ろに続きながら、微笑みながら見守る一人。

 男子禁制だ、などと無粋なことを言う者はいない。羨ましそうであったり、微笑ましそうにその三人を見ていた。

 

 

 

(……常盤台ッ……!)

 

 

 

 そんな中……ただ一人、強い怒りと嫉妬の炎を上げる誰にも見えない存在がいた。

 

(なになになんなのその待遇!? まじふざけんなリア充が!!!!)

 

 どんなフィルターを通せばそう見えるのだろうか。とりあえず、佐天を男の子と見ている時点で間違いなのだが、それ訂正してくれる存在がいるわけもなく――。

 

 

 

 標的を美琴に定め、美琴たちのすぐ後ろ――ではなく、数メートル後ろを付いていく。……忍ばせたスタンガンにはまだ手はかけない。

 

 

 昨日から六人。標的を決めて、すぐ隣か真後ろを小馬鹿にするように付いて歩き、人気のない場所で一人になったらスタンガンで気絶させ、落書きをするのだ。

 

 

 ……眉毛に。

 

 

 それが彼女、重福 省帆の手口だった。

 

 終わってみれば性質の悪い程度の悪戯(落書きされた当人達は納得しないだろうが)だろうが、過程は十分な犯罪行為だ。

 スタンガンで気絶させられ、倒れた先が悪ければ怪我では済まないことになるかも知れない。落書きされた後、別件の事件事故に巻き込まれる可能性も十分にある。

 

 

 ……と、つらつらと危険性を並べてはいるが、手口『だった』と言うとおり、過去形である。今現在、重福は犯行どころか近付くことさえ出来ていない。

 

 

 

 

(何で……)

 

 

 

 ……もちろん、三人という人数によるところもあるだろう。しかし、『見えない』『視覚されない』という絶対のアドバンテージがある限り、彼女の優位は変わらず、三人連続で気絶させれば済む問題である。

 

 

 

 

 

 

「……(チラッ)」

 

(なんで思いっきり私のこと見てるのぉぉぉぉぉぉぉおおお!?)

 

 

 

 

 

 二人いる執事の背の高い方。つまりは深音なのだが――時折チラリと、明らかに重福を見ていた。簡単な話三人連続の、一人目で食い止められていたのである。

 もちろん、彼女の能力が効力を失っているというわけでもなく、深音以外には誰も彼女を視覚出来ていない。現に美琴や佐天が何も無いところを頻繁に振り返り見ている深音に疑問を感じているほどだ。

 

 絶対的な不意打ちが無効化された今、姿が見えないにも関わらず身を隠しつつ尾行するしかない。

 ここで標的を変える、という選択肢が出ないあたり、相当美琴の現状(両手に華 逆ver)が気に食わないのだろう。

 

 

 

 

(私の『ダミーチェック』が効かない!? 透視能力者にも見えなかったのに!? 何か別系統の能力者なの……!?)

 

 物陰から顔をのぞかせた瞬間に振り返られたとき、重福は完全に自分の存在が知られていることを察した。

 空間系か、それとも認知度の低いレアスキルか。再び隠れつつ、必死に考える。

 

 

 

 ……ここで種明かしをしよう。

 深音は別に、重福の姿が見えているわけではない。『重福がいる場所に何者かがいる』程度の認識しかしていない。

 

 深音が用いたのは簡単な話、常時体から発している電磁波である。周囲に向かってソナーのように放たれる電磁波の反射波を受けとることで、周囲に何があるのか判断できる。コウモリが超音波で障害物を察知するのと原理は同じだ。

 重福の体に当たり反射してきた電磁波を受け取って重福の存在を察知はしたのだが、ダミーチェックの能力で誰もいないようにしか見えない。いるはずなのに見えない、という違和感を持って『誰かしらが何かしらの能力を使っている』と判断した。

 

 そんな人物が後をつけてくるのだ。警戒して当然であるし、守るべき二人もいるので『警告』して当然だろう。

 

 

 もちろん、同じ電撃使いであり、よりレベルの高い美琴も同様のやり方で察知することは出来るだろう。

 しかし、不特定多数の人通りがある路上では多くの人や物に電磁波か乱反射し、その中からたった一人の空白を感じろ、というのはまず無理な話である。

 

 

 能力操作性で美琴を上回り、かつ扉越しの気配だけで人数すら察知できる人間離れした感覚を持つ深音の勝利である。

 

 

 

 

 そして、そんなどこかチグハグとした追跡劇は、美琴達が目的の喫茶店に入るまで続いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「これが、その被害者の方達、なんですよね……」

「そうよ。……顔は本人立っての希望で伏せてるけど、どういう風に、って言う記録は残さないといけないから」

 

 

 ジャッジメント177支部。初春と黒子は呼び出しの連絡後、数分と置かずに駆けつけ、事件の概要を把握していた。

 

 

「……初春さんの格好にはノータッチの方が良いのかしら?」

 

「水溜りで滑って転んでヌレヌレビチョビチョになったのでワタクシのを貸していますの」

 

「……そんな一行で簡素簡潔に事務応対しなくたっていいじゃないですか……」

 

 

 

 るー、と涙を流しつつ、パソコンをよどみなく操作する初春(常盤台ver)。二つあるモニターのうち、一つには被害者六人の写真が、もう一つには、学舎の園内に設置されている監視カメラが捕らえた犯行の瞬間の映像がそれぞれ映しだされている。

 

 

「常盤台の学生ばかりが、昨日の放課後から夜の間の短時間で六人も。それも、六人とも犯人を認識すら出来ずにスタンガンで気絶」

 

「でも監視カメラでは並んで歩いてたりすぐ後ろにいたり、と。――もう少しカメラが近くにあったら画質改善で顔が分かるかも知れませんけど……」

 

 

 この距離では、と難色を示す。さらりと初春は言っているが、かなり高度な作業なのであしからず。現状で分かることは、犯人が女学生であること、そしていくつかに絞り込まれた学校。そして、何らかの能力を持ち、かつ高位能力者である事。

 そして――。

 

 

「後は、眉毛に相当な恨みがあるといったところですの……」

 

 

 被害者となった常盤台の生徒はノートや手で自分の顔を隠している。しかし眉毛から額にかけて公開されているそれは、悲惨なものだった。

 

 

「一人目は極太、二人目は公園前派出所の巡査長、三人目は某海賊団のコックさん、四人目は麻呂、五人目は熱血タイツ忍者のゲジ眉。最後の人は前衛芸術みたいなかんじですね……」

 

「二人目と三人目と五人目の著作権が心配……? あれ、私今何を……いえ、まだ怪我人が出ていないだけマシ、って所かしら。園内だから可能性は低いけど、気絶しているところを誘拐されて、なんてことになりでもしたらそれこそ一大事よ」

 

 

 固法がもう一度、手がかりは無いかと監視カメラの映像を再生し細部まで眼を凝らす。

 

 

「そう、ですわね……(この六人目の被害者の髪型と顔を隠してる扇子って……ネタがなくなってとりあえず書かれたとは)」

 

 

 まず『彼女』だろうと確信し、いけ好かない相手ではあるがどうか安らかに、と心の中で十字を切った。死んでない、と一応こちらでツッコミを入れておこう。

 

 

「白井さん、御坂さんにも連絡しておきますか?」

 

「そうですわね……お姉様にスタンガンは効果は無いですけど、万が一お姉様の眉ガがガ餓蛾賀……」

 

 

 六人の被害者の眉を美琴に重ねてしまったらしい。怒りか絶望でか言語障害に陥った。

 

 

 

 

 

 

 ―― しばらくお待ちください ――

 

 

 

 

 

「直った?」

「……そこは『治った』にしてくださいまし。人の頭を壊れたテレビの用にチョップするのも……」

 

 ……手刀を構えた固法と、頭を抑えている黒子。何があったかはご想像にお任せする。

 痛む頭を抑えつつ、携帯で美琴をコール。

 

 

 

 

『……おかけになった電話は現在使われておりません。だから二度とかけてくるな』

 

 

 

 もしもし、すら返ってこない。

 なんということだろうか。美琴にかけたつもりで地獄かどこかにかけてしまったらしい。声は美琴そのものなのにやたら低い上に電話越しにもその怨嗟が感じられるではないか。

 

 

 

「あ、あのお姉様? なにをそこまでお怒りに……?」

 

『私の携帯の着信音、って言えば分かるわね?』

 

「あ……」

 

 

 

 曲ではなくメッセージ着信。黒子の肉声である上に色々と色々してしまっているもの。

 身に覚えがありまくる黒子は、一筋の汗を流した。

 

『で、何? くだらない内容ならチャッキョ(着信拒否)に入れることも辞さないけど?』

 

「真面目ですの! 大真面目ですの! だから着信拒否だけは!?」

 

「「……」」

 

 初春と固法が痛い子を見る眼で黒子を観察している。コレが私の後輩かー、この人が私のパートナーなんですよ、と言葉のない意思がありありと見て取れる。

 

 

 

 

『ふーん……姿の見えない女学生、ねぇ』

 

「ですの。お姉様にスタンガンの類は通用しないことは存じておりますが、人を気絶させる方法などいくらでもございますので注意を、と」

 

『わかったわ、コッチでも注意して――……? 深音? ゴメン黒子、ちょっと深音に代わるから』

 

 

 僅かな間と、遠くでお礼の言葉が聞こえる。

 

 

『もしもし? 深音ですが……』

 

「深音さん? どうかなさいまして?」

 

『いえ、姿を消した女学生さんと聞きまして……姿を隠している方が先ほどからずっと付いてきているのでもしやと』

 

 

 

 

『「はい?」』

 

 

 

 なんだかんだで、黒子と美琴は仲が良いらしい。遠く離れているにも関わらず、全く同じリアクションをして見せた。 

 

 

 

 

<おまけ>

 

 

『お姉様ぁぁぁああああ!! 愛しの愛しの黒子からのラブ・メッセェェェェェエエジ! さあ、さあ早くお出になってくださいまし! 黒子は、黒子はもッ』

 

「「「「「……」」」」」

 

「……いつか。消し炭にしてやるわ」

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。


 魔術方面でも深音を頑張らせることにいたしました。タグ追加いたします。
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