深音の、『見えない誰かが後を付いてくる』発言から、喫茶店内にて計画は立てられ、そのまま実行に移された。犯人の標的は常盤台生。そして、そのときお店にいた常盤台中学の生徒は私だけ。
つまり私が囮って訳ね。
『こ、こちらフラワーガール。目標は佐天さんたち 「『バトラー&リトルレディ』よ。初は……フラワーガール」バトラーさんだって間違えかけてるじゃないですか……とにかく二人を数メートル離れて尾行してます』
『……こちらホワブラですの。フラワーガールの言う場所を見ているのですけど……本当に目標が視認できませんのね……それとバトラー。ワタクシのコードネームの改定を要求しますの。略しミスだと白い女性用下着ですの』
耳につけた小型通信機から聞こえる皆の声。
ナビゲーターのフラワーガール、初春さん。そして囮である『バトラー&リトルレディ』って言うのがね……執事の格好をした佐天さんと、まあ……私よね。
現場監視でテレポーターのホワブラ・黒子。『白』井『黒』子でホワイトブラック。ぴったりじゃないホワブラ。
……聞いた瞬間、ちょっと吹いたのは内緒よ?
『こちら建物屋上よりディープサウンド。ミルクさんと一緒に位置につきました。ですがミルクさんが心此処にあらずな状態で作戦参加は難しそうです』
何気に一番カッコいいコードネーム貰ってるのが深音って言うのがむかつく。でも名前そのままだし文句言えないのよ。名前のままだと私はビューティ・KOTO――黙っておこう。うん。
ミルクさんって言うのは、黒――じゃなかったホワブラとフラワーガールさんの先輩らしい。
……牛乳が好きな人、らしい。
「ねえ佐天さん」
「バトラーです。なんですか――リトルレディ」
今、御坂さんって言いそうになったね。口のカタチが『み』だったね。
「……このコードネーム、本当にいるの?」
「雰囲気作りですって! ……それになんか、コッチのが楽しくありません?」
……楽しんじゃいけないと思うんだ、私。
……でもゴメン、否定も出来ないんだ、私。
「それで、ディープサウンドさん。ミルクさんどうしたんですか? ……いえ、ミルクさんになにしたんですか?」
『? いえ、移動の度に階段を使用すると大幅な時間ロスになるのでショートカットを……建物から建物へ飛び移っただけなんですが』
時々深――ディープサウンドのアクション映画張りのスタントは、どこかで言い聞かせないといけないかも知れないわね。 この前もいきなり上から降ってきた時なんか本当にビックリしたし。
ちなみに、建物間の幅は最低1mくらいはあったはず。あの喫茶店から考えたら、ちょっと大きな通りもあったから……。
『こ、じゃなかった。ミルクさんもそれやったんですか!? 運動神経良いなーとは思ってたんですけどそこまでアグレッシブなんて……あれ、じゃあ何で心此処にあらずなんです?』
『あ、いえ。ミルクさんは「無理! そういうことは映画の世界だけよ!」と言ってかたくなに拒否されましたので――時間も無いので私が抱えて飛びました』
『『「……」』』
うん、言い聞かせよう。女の子に強制絶叫アトラクションさせるなって。
うちの義兄がごめんなさい、顔も知らないミルクさん。
「……ディープサウンドさん……ちなみに、どう抱えました? ミルクさんを」
え、問題ってそっちなの?
アイツなら普通に――……あ。
『? どうと言われましても……あ、私が佐て――バトラーさんを保健室に連れて行ったときの抱え方です』
ってことは……お姫様抱っこで、ビルからビルへ飛び移った、ってこと?
「なにその恋愛アクション映画! いいなぁずるい!」
『こちらフラワーガール。カメラでミルクさん捕らえましたー、正直憧れの先輩像がボロッボロに崩れていくほどだらしないにやけ顔でーす。画像は保存しておいたので何かあった時の保険にでもしておきましょうかー?』
『焼きまわしを希望しますの』
『……はっ!? ちょっと二人とも何いってるのよ!? 初春さんその画像消しなさい今すぐに!!』
――フラワーガールさんがなんか黒い。
そしてミルクさん復活したのかな。初めて聞く声が相当焦ってるし、素の名前だし。
『初春? なんのことですかねー、私はフラワーガールですから』
『こ、今度の定期訓練覚えておきなさい……。と、とにかく全員真面目にやりなさいよ! 本来の目的忘れてないでしょうね!?』
「「『『 あ…… 』』」」
いっけね。
『……忘れてたんですね、皆さん。とりあえず、リトルレディさん達を追いますよミルクさん』
『ま、待って! 今度は心の準備するから! それらしい顔するからちょっとだけ待って! ……OK、良いわよどっからでもきなさい!』
……ふと、ビルとビルの間から見える空を見上げてみた。
一瞬だけど、鳥にしては大き過ぎる影が横切る。
私の自慢の視力が、眼鏡をかけたミルクさんを捉えた。 あーあー、顔が真っ赤ですね。そして『牛乳好き』ってだけじゃないですねミルクさん。――いいなぁ。
まあ、なには置いても――アイツに、スタントアクション禁止とお姫様抱っこ禁止を言い聞かせよう。そうしよう。
「いーなー……頼めばやってくれたりして。うん、私も後でやってもらお。んでフラワーガール、まだアタシ達の後ろにいるの?」
『はい、ばっちり付いて――? 急に方向を変えました!? D-3地区の路地に入ります!』
うそ、気付かれた!? いや、あれだけ騒いでれば疑問に思うのが普通か。
「追うわよ!」
「了解です!」
***
さて、いつまでコードネームで呼べば良いんでしょうか。
「佐天さ『バトラー、です!』」
……走りながらも律儀に応えてくれました。まだコードネーム呼びのようですね。
「で、でも何で気付かれたのかしらね?」
「……おそらくですが、作戦前の私の『警告』の所為かと。何度も見て牽制してしまいましたので、警戒心を高めてしまったかも知れません」
最初は能力の練習かと思い、放置していましたが後を付いてくるのを見ての念のため、が仇になってしまいました。
「あの、ディープサウンド、さん? その……」
「?」
抱えているミルクさんがとても聞き取り辛い声でなにやらごにょごにょと。そういえば、まだ実名を名乗っていませんでしたし、伺ってもいませんでした。
そしてこういう場面は――何度か経験があります、こういうときの言葉を聞き逃すと相手は怒り出すんです。(主に美琴さん、いまはリトルレディさんですが)
「私、その、お……、重くない、かしら?」
「……はい?」
重い? それは当然重さはありますけど……。
……いえ、これも経験というか教えてもらいました小萌先生に。女性の須らくは体重の話をとても過敏に気にすると。女性に『重い』などと言ったら最後、世の女性陣を敵に回すのだと。
これは言葉を選ばなければなりません。下手をするとお勤め先の皆さんに袋叩きにされかねません。
……小萌先生は明確な答えを教えてくれませんでしたっけ……自分で考えろということなのでしょうが。
「本音を、言っていいですか?」
「……おーけー。覚悟は決めたわ。ドンと来なさい。それで私の今後の食生活が決まるから」
いえ、そんな重大決心はしないでください。いままでどおりでお願いします。
「……言われるまで重さを気にもしてませんでした」
「?……ごめん、もう一回言ってくれる?」
この距離で聞き逃すんですか? 風の音で消えてしまったのでょうか。
「ですから、ミルクさんにそういわれるまで気にしていませんでした」
……ミルクさんがなにやら思いっきりガッツポーズ。危ないですから暴れないでください。
『っていうか深音さんたちなにナチュラルにラブコメってるんですか! ちゃんと追いかけてくださいよ!』
『ミルクさん! 深音の軽いと普通の男の人の軽いは全然違いますから! そいつ軽々大男の4人くらい担いで走り回れますから!!』
「……それでも軽い発言されると、うれしいじゃない?」
『『それは分かりますが!』』
皆さん仲がよろしいようで何よりです。何でかは全然分からないんですけど。
「――追いかけてますよ? というよりさっきからずっと真上をキープしてるんですが……どうします? 挟み撃ちしますか?」
『『早く言えっての!』ってください!』
「では――よっと」
「えっ ちょ!?……」
人型の空白の数メートル先を目指して、屋上から降下。 足首膝などの関節で衝撃吸収。
……殆ど衝撃受けていないミルクさんが涙目なのが不思議です。
「はっ――はっ――」
アレだけ走れば、姿が見えなくても、もう呼吸の乱れで十分分かります。
「……ふぅ。さぁて、追い詰めたわよ、『不法侵入者』さん? 詳しい話は、ジャッジメントかアンチスキルでしてもらうわよ?」
美琴さんたちも追いついて、挟み撃ち完成。白井さんもテレポートしてきたのか、屋上から身を乗り出してダーツを構えています。
相手の方も能力を使うことは無意味と感じたのか、それとも純粋な能力切れか。何もない空間から、眼を隠すほどに前髪の長い女の子が現れました。
学舎の園にある五つの女子校。それのどこにも属していない、制服の女の子が。
『制服一致しました! 襲撃の犯人で間違いありません!』
「飛び降りるなら飛び降りるって一言……! まあいいわ。……とりあえず、無駄な抵抗はしないこと。そのポケットに隠してるスタンガンはこっちに渡してもらいましょうか? あと、そっちに入ってるちょっと特殊なマジックも一緒にね」
「っ!?」
……常盤台生の襲撃の現行犯ではないため、別の理由で拘束して『余罪』として襲撃事件を立件する。それしかない、とはミルクさんの判断。
もし彼女がその犯人ではなかったときのための確認として、透視能力者のミルクさんが参加してくれて助かりました。
そして、初春さんの確認も済み。……コレで終わりですね。
「くっ……! こうなったら……!」
くるりと反転し、なれた手つきでスタンガンを取り出す。標的は――常盤台生の美琴さん。気合の叫びと共にスタンガンを突き出し、服越しでも十分に意識を刈り取れるだろう電流が、美琴さんに当てられた。
「……あれ?」
まあ、何も知らないとそうなりますよ、きっと。
……悪あがきの用にもう一度バチバチと響き渡る発電音が、とても、とてもむなしく聞こえました。
スタンガンを持っている、という前情報もあったんですから、当然スタンガン対策もばっちりなんですよ。
「あー、ごめんね。私とあっちの執事、『こーいうの』は効かないのよ」
指先からバチバチと、スタンガンよりも強力そうな発電を目の前で見せ付ける美琴さん。
まあ。早い話が電撃使いの私と美琴さんが前に立つというだけなんですけどね。スタンガンなら私達には効きませんし、もし他の暴力などなら私で制圧できますから。
「こ、このリア充がぁぁぁあああ!?」
……スタンガン返しの際の、最後の言葉。あれ……どういう意味なんでしょうか?
< おまけ >
後日。
「……」
「佐天さんどうしたの? これ以上にない落ち込みっぷりだけど……」
「いえ……先日捕まえた犯人の重福省帆っていう人から……その、ラブレターを貰ったみたいで……」
「らぶれたー、とは何ですか、美琴さん」
「……えっと、まあ、好きな子に送る手紙……よ。普通は、異性に送るものだけど、ね」
「異性に――? あれ、ですが佐天さんもあの犯人の方も「深音、それ以上は黙ってあげて」……」
「どうも、御坂さんと深音さんと一緒に歩いていたときの執事姿に一目ぼれされたみたいで……」
「あー、ボーイッシュ超えて、完全なボーイと思われたと……」
「アタシは女だぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
読了ありがとうございました。
固法先輩は今のところ、アニメ版+αほどの出演です。
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