とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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都市伝説 火のない所に煙なし   5-E

 

 『電撃使いの天敵となりうるのは同じ電撃使い』。あの妙に危なっかしい大脳生理学者の告げた内容が引き金であったと聞かれれば、そうだ、と答えを返すだろう。

 

 

 ――しかし、それ以前にも火種は多くあったようにも思える。

 

 

 ボロボロの状態にも関わらず、精密な能力操作を見せ付けられたときか。

 

 銀行強盗の際、友人を危険から遠ざけるときに見せた謎の高速移動か。

 

 スキルアウト20人を無傷で返り討ちにした、という話を聞いたときか。

 

 

 同じ状況で自分も同じように出来るかといわれたら、不可・微妙・可能と明確な答えは出ない。

 

 

 レベル4の、大能力者。

 そして自分と同じ、電撃使い。

 

 示し合わせれたようなめぐり合わせだと思えば、運命的にも思えてならない組み合わせである。

 そんな存在が、手を伸ばせば、容易く届く距離にいるのだ。

 

 

 

 

 

「ねぇ深音――?」 

 

「? はい、なんですか美琴さん」

 

 

 危ない大脳学者の車を発見し、そして颯爽と走り去る青の鮮やかなスポーツカーに手を振りつつ、レベル5(美琴)はレベル4(深音)を見上げる。

 

 

 

 

 

「私とたt「お断りします」……」

 

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 一瞥もせず、小さくなっていく車に向かって笑みを浮かべて手を振り続けながら。もう言われる内容を完全に予知していたとしか思えないほどきっぱりと、内容を全く言わせることなく断った。

 

 ――場が凍ったような錯覚を覚えるほどに、不気味な静寂に包まれる。

 

 

 

「せ、せめて最後まで聞きなさいよ!」

 

「聞かなくても最初の一文字で分かりましたよ――っていうか美琴さん。分かりやすいにもほどがあります」

 

 

 予知とは言ったものの、彼女の車を探しいる間中ずっとウズウズと好戦的な顔をしていれば誰だってわかるだろう。いや、車が走り去るまで待ったのだからそれだけは――まぁ、褒められるべき、なのだろうか?

 

 

 

「良いじゃないよ一回くらい! 減るもんじゃあるまいし!」

「いや、物的被害とか色々まずいのでは……?」

 

 

 レベル5の電撃使い。電気機器で埋め尽くされた街中で彼女が力を使えばどうなるだろうか。……答えは、言うまでもないだろう。

 

 

「むぅ……あ! じゃあ公園とか――そうだ川原! この近くに川原があるからそこで!」

 

「……」

 

 

 必死に条件をクリアしようとする美琴に半ば呆れ、深いため息をついてしまう深音。

 

 

 

「……美琴さん。確かに、私は世間知らずです」 

 

 その直後に、振っていた手を下ろして淡々と語りだす。

 

「その上、常識知らずですし、色々な機微にも疎いかもしれません。それは自認しています」

 

 

 と、いきなり自虐に入ってしまった深音に、思わぬ強敵『かもしれない』と勇んでいた美琴は勢いをそがれてしまう。

 

 

「えと、深音……?」

 

「上手くいっているのは実は上辺だけなんですよ。皆さんの見えないところ、知らないところでは失敗が殆どですし失敗の挽回ばかりしています」

 

 

 寮で見る例の完璧執事を見ればそうとは思えないが、逆にそれが強く印象に残ってしまうため見えなかったのかもしれない。

 

 深音が世界を知って、世界に出て、まだ一月と少ししか経っていないのだ。

 

 

 その短い期間で、本来十数年かけて積み上げていくものを学習していくのだから、普通にやって追いつくはずもなく、当然かなり無理をして学び、積み重ねていった。

 それでも追いつかず、失敗していまうのだという。

 

 

「だから、美琴さんは嫌かも知れません。納得していないかも知れません。……それでも、私は美琴さんの、お兄さんなんです」

 

 自虐を言っていたとき、深音は何の後ろめたさもなく胸を張っていた。

 

 そして『兄』と宣言したとき、その胸をよりいっそうに、張った。それを誇るように、それが誇らしいように。

 

 

 そんな、『貴女の兄でいることが誇らしい』なんて態度を取られた美琴は――。

 

 

 

「――っ? ……ッ!? っ?」

 

 当然茹蛸リンゴである。ついでと言わんばかりに言語にも重大なダメージを負わされていた。

 

 

「な、あっ、な納得とかその――い、いきなりアンタはなに恥ずかしい宣言してんのよアンタは!? そ、それ(戦うこと)とコレ(兄)とどういう関係があるってのよ!」

「ありますよ? 関係大有りです。……妹と荒事勝負する兄、なんて――勝敗関係なく、みっともないし情けないじゃないですか」

「そりゃあ、まあ……そうだけど」

 

 

 それが幼い子供……小学生程度の兄妹なら取っ組み合いの喧嘩もありだろう。

 

 しかし中学生であり高校生である兄妹で取っ組み合いはよほどのことだろう。しかも、年上で男性でもある兄は、勝ったら『女の子相手に』『大人気ない』負けたら『情けない』とどちらにしても批判の対照である。

 

 ……最も、深音の場合は別理由だった。しかも二つあり、一つ目は小萌先生の特別授業――『お兄ちゃんが弟や妹ちゃん達より早く生まれる理由は、弟や妹ちゃん達を守ってあげるためなのですよ・上』―― という上下巻に分かれた『兄』としての意識を叩き込まれたことである。

(サングラスにアロハシャツの金髪が勉強そっちのけで参加してきたが)

 

 

 二つ目の理由だが、これは簡単だ。

 

 

「それに戦う理由もありませんし……正直、今日はもう色々あって疲れました」

 

 

 

 肉体的に、ではなく精神的に。

 

 赤点候補の二人に後生だ見捨てるなとゾンビの様に群がられ、車を駐車した場所を探していた女性を手伝ったら服を脱がされ、義妹に暴漢扱いされ飛び蹴り+後頭部強打され、最後の最後で味覚という感覚を冒涜しているかのような辛さのジュースである。

 

 

 ……世を呪っていないのが不思議なくらいだ。

 

 

「むぅ……じゃあ明日とか!」

 

 

 それは深音の戦いたくない理由その二だけの解決方法である。しかしそれの半分も解決できていない。

 

 

 

「……おっといけません。そろそろ時間ですので私はここで……ッ!」

 

 冷や汗を一滴ながし、かかとを基点に回り右。そのまま競歩の勢いで歩き出す深音。

 

 迂闊なことを言って言質をとられてはいけない。

 

 

「ちょッ!? 待ちなさい! アンタなんだかんだ言って面倒ってだけじゃないの!? 待てこらぁぁあ!!」

 

「待てといわれて待った方は多分きっといません! それに面倒ではなく戦いたくないと言いましたよねさっき!?」

 

 歩き、否、逃げ出す深音を、全速力で追いかける美琴。そこで深音も走りだす。

 

 

 不思議なことは、その気になれば数秒で引き離せるであろう美琴に『追いかけさせている』ことだ。

 

 

(……ある程度疲れたら、諦めるでしょう)

 

 

 

 この時、深音は舐めていたと言わざるを得ない。

 

 美琴の『勝負』に対する信念と。

 

 

 

 

 ……戦いに対する――『執念』を。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 言われた言葉があまりにも衝撃的過ぎて、言われた内容を理解するのに時間を要してしまった、という経験はないだろうか。

 

 

「初春! 学園都市の全部の監視カメラ使って深音さん探して! さあ早く今すぐに!!」

 

 

 初春 飾理にとって、それがおそらく、人生で初のことだった。ガクガクと揺すられる頭で「花びら散らないといいなー」などと暢気に考えている場合ではない。

 

 

 美琴との連絡が途切れ、早数分。意味深な「……あっ」という言葉を最後に、電源を切ったのか携帯に何かしらあったのか一切繋がらない。

 その直前に深音の上着とシャツがやられた、との言葉の方が、乙女・佐天にとっては重要そうだったが。

 

 

「こんな、小さ、な! 端末じ、ゃ無理ですっ! 待ってこれ以上は気持ち悪――、ウプッ……」

 

「さ、佐天さんも落ち着いてくださいな。あんな都市伝説を本気にして「甘いですよ白井さん!」」

 

 

 標的変更。初春の肩を掴んでいた両手は黒子の肩へ。揺するこそしないものの、握力以外の何かによるプレッシャーが半端ではない。

 

「深音さんが脱がされたんですよ!? あの深音さんが! そりゃもう見なきゃ損っていうか見なきゃ失礼じゃあないですか!」

 

「いや、まあ私も興味はありますけどー……」

 

「ワタクシは結構どーでもいいですの。深音さんが怪我をした、というのであれば――常盤台寮生が総力を上げて突撃するでしょうけど……」

 

 『常盤台寮生の総突撃』。結構冗談で言ったつもりなのだが――

 

(……あれ、結構現実味が……)

 

 ――あまりにも容易く、そしてあまりにもリアルに想像できてしまう黒子。

 怪我の有無云々よりも、無事かどうかの確認くらいはするべきだろうか。

 

 

 

 

「それに! 脱ぎ男化した深音さんの近くに御坂さんもいるんですよ!? それもかなりの可能性で!」

 

 

 佐天が次に言いたいことは、『脱ぎ男・深音が美琴に襲い掛かるのでは』というもの。

 

 両者とも同じ電撃使いではあるが、美琴のレベル5に対し深音はレベル4。レベルだけ見れば美琴が勝つのだろうが、それに身体能力やら何やらが加われば、十分ひっくり返せると黒子は予想する。

 

 

 そして想像してみてほしい。

 

 

 

「ゴクリ……」

 

 

 

 ……そんな、生唾を飲み込むほどの想像はしないでほしい。

 

 

「そして、感染した御坂さんも――やがては」

 

 追撃と言わんばかりの佐天の一言で、黒子はとうとうどこかの回路が切れたのか、猛烈な勢いで机に頭突きを始める。これが世にいう『顔ドラム』というものだろうか。

 

 

 

「初春! お姉様と深音さんの位置を一刻も早く! そして脱ぎ女を治療する方法を――ッ!!」

 

「そうだよ初春! アンタならやれる! 諦めんなよもっと熱くなれよぉ!」

 

 

 

(深音さんを信用している人がゼロって……私だけは信じてますよー深音さん)

 

 

 

 初春が思うに、仮に、万が一深音が脱ぎ男化していたとしても、誰かに被害を与える前に自分で自分を気絶させるくらいのことはやるだろう。

 

 そう信じてはいるもの、目の前の二人が怖いので渋々端末を操作しだす初春。しかし、おそらく大したことは出来ないだろうと踏んでいる。

 

 初春の情報操作の能力がずば抜けていても、所詮は学生の持つ携帯端末。ハッキングをやろうと思えば出来るが、五つかそこらの監視カメラを掌握できれば御の字だろう。

 それで学園都市のどこかにいる美琴たちを探せ、というのだから――無理難題にもほどが

 

 

「あ、いた」

 

 

 ――なかった。

 

 

 

 

 一つのカメラがほんの数秒であるが捕らえた美琴の映像。その進行方向から順番に監視カメラをハッキングして二人を補足。

 

 

「「――嘘、マジでやっちゃったの?」んですの?」

 

 

 けしかけておいて、二人も無理だろうとくくっていたらしい。ハッキングしつつドヤ顔を披露するという器用な初春だが、二人の姿を追いかけるうちに不思議なことに気付く。

 

 

 

「凄い走ってますねー二人とも……っていうより、これ、御坂さんが深音さんを追いかけてますよ?」

 

「深音さんの格好は!?」

「お姉様はご無事ですの!?」

 

「御坂さんはいつもの制服姿です。……なんか、怒ってるというか凄い形相で深音さんを追いかけてます。で、深音さん、何ですけど。これはインナー、何ですかね。いつもの執事服でもシャツでもないみたいです」

 

 

 

 とりあえずの美琴の無事に胸をなでおろす黒子。そして、初春の言った姿を良く見ようと画面を食い入るように見る佐天。恋に恋する乙女、という女子中学生の姿ではない。

 

 

「むぅ、拡大はできないか……!  ん? でも何で御坂さんが深音さんを追いかけてるの?」

 

「……さあ? 何か怒らせるようなことをするとは思えませんし……」

 

「ま、まさか……! お姉様は既に脱ぎ女になって深音さんを……!?」

 

 

 

 思い出す。都市伝説の内容を。涼しげな相手の服を奪うという一文を。

 

 思い出す。美琴と深音の姿を。一枚の薄いインナーと、サマーセーターを着込んだ美琴を。

 

 

 

 そして二人は想像する。そうなってしまった美琴が深音にするだろうことを。

 

 

 

「「ごくり……!」」

 

 

 

 だから生唾を飲み込む想像はしないで……いや、もはやなにも言うまい。

 

 

 

「行きますわよ二人とも!!」

 

「これは生の現場を――じゃなかった! 止めないと御坂さんを!」

 

「お二人の進路からすると、河川で行き止まりになりますねー。私は此処でナビしますのでお二人でどーぞー」

 

 

 

 テレポートしたのだろうか、二人は音もなく姿を消し、そこに残ったのは初春唯一人。

 

 

「……あれ、ここのお会計ってもしかしなくても私ですか?」 

 

 

 はい、そうなります。

 

 

 

 そして一方。テレポートした黒子と佐天。こちらはいままさに、という美琴と深音の対決場面に遭遇していた。

 

 

「お姉さまぁぁあ!? セーフですの間に合いましたの!」

 

「げ、なによ黒子。それに佐天さんも? ……セーフってなにが?」

 

「うわ、深音さんの体すっごい……アタシあの体にお姫様抱っこされたんだ……」

 

 

 美琴の着衣が乱れていないことを確認する黒子と、深音の上半身を見て顔を赤くする佐天。

 

 

 もはや戦う、などという雰囲気ではなく、深音の思惑とは外れたものの、初の兄妹喧嘩は回避された。

 

 

 

 

 ……手加減を相当されて逃げられたと理解している美琴に、大きな火種を残したまま。

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

 

翌日。

 

「深音――決闘(デュエル)するわよ!」

「闇のゲームはお断りです」

 

 某カードを突きつける美琴。

 

 

翌々日。

 

「み、深音! ぽ、ポケモンバトルよ!!」

「美琴さん。それNGです。黄色いネズミはだめです。っていうか恥ずかしいならやらなければ――」

 

 赤と白のボールを手に、黄色いあかほっぺの全身着ぐるみの美琴。

 

 それ、何か違う気がするんですけど、という深音の意見はおおむね正しいだろう。

 

 

 

 

 

 そして――後日作成される、『美琴黒歴史集』のページを飾る出来事と一枚の写真が増えたそうな。




読了ありがとうございます。

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