とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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とある執事の日常観察   6-2

  ―――――――――――――――

 

 

 クエスト名:執事の生態を観察せよ!

 

 クエスト内容:

   常盤台寮に勤める執事、

   御坂 深音の日常生活を観察・報告する。

   なお、対象に観察されていることを気付かれてはならない。

 

 

 

 クエスト報酬:ゲコ太のヌイグルミ

 

 

  ―――――――――――――――

 

 

 

「「とりあえずクエスト報酬をチェンジで」」

 

「なんで!? 私の宝物だよゲコ太のヌイグルミ!!」

 

「だからそれで飛びつくのはお姉様だけだといったはずですの……」

 

 

 物申す! と言わんばかりに両手を机に叩きつけて立ち上がったのは生粋のゲコラーでご存知の美琴。そもそも、クエスト受注者候補である佐天・初春は二人に対し、ゲコ太は一つ。

 

 ……奪い合いではなく、押し付け合いになることはまず間違いないだろう。

 

 

 

「っていうか、なんでいきなり深音さんの日常生活なんですか? いや、まあ興味が有るのか無いのか聞かれたらすんごい有るんですけど……」

 

「昨日の夜にいきなり電話が来て呼び出されたので……何かなーって一応来てみましたけど……深音さん本人に内緒っていうのは何でですか?」

 

 

 

 日曜日ということもあり、初春・佐天ともに私服である。黒子・美琴は休日にも制服着用の義務があるため、当然制服姿だ。

 

 

 ……日曜日である。二日ある週末の、いわば後半戦の日曜日である。とても大事なことなので二回報告させていただいた。

 

 なんと、『深音のことを知ろう』と決意した金曜日の放課後から、土曜日をまたいで一日を軽く経過していた。してしまった。

 

 

「いや、まあ……あ、そう! うちのマ――お母さんがさ、殆ど野生みたいなところで生活してきた深音がコッチでちゃんとやっているかどうか確かめたいっていって、その……」

 

「殆ど野生って深音さん今までどこに……いや、確かに携帯も知らないくらいだしあの運動神経もやたらといいし――凄い田舎の大自然の中で……」

 

 

 

 ※ 運動神経がやたら良いだけでは車より早く走れません。

 

 

 

「で、ようは都会の毒に染まっていないか確かめたいってことですよね?」

 

「都会の毒って佐天さん……都市伝説をほぼ毎日追っかけてる佐天さんが真っ先にその毒にやられちゃうんじゃ――はい。黙ります。黙りますから」

 

 

 とりあえず失礼な発言した初春を眼力で黙らせる佐天。

 

 そして、どこぞのチラシの裏に書かれた<クエスト用紙>をしげしげと眺める。

 

 

 

「……それで、こうして私達が呼び出された理由と――お二人がやたら敗北感漂う空気を纏っている理由を、聞かせてもらって――いいですか?」

 

 

 

 

「それを言う前に、言っておきますの……」

 

「アイツは――深音は一筋縄じゃあいかないわ。コレを受けるんだったら、覚悟してね……?」

 

 

 

 レベル5とレベル4を誇る二人を、こうもふざけた内容にも関わらず、ここまで戦慄させるほどに何をしたというのか。

 

 

 二人は神妙に頷く。――内容がとてもアレなために、内心で覚悟などこれっぽっちもしていないが。

 

 

 

 

「――黒子、二人に……昨日の結果を教えてあげて」

 

「――了解ですの……では」

 

 

 

 ――

 

 

 

 ……金曜日の放課後。お姉様、御坂 美琴のお母様から、<息子・深音の近況を報告せよ>との一報の下、ワタクシとお姉様の二人で臨時調査隊を結成。

 日々の行動からおおよその計画を立て、翌日、土曜の早朝に作戦決行を決定。早めに就寝しましたの。

 

 

 

「わ、なんかそれっぽいですねー」

「内容が内容だけどね……」

 

 

 

 土曜日、早朝0430。お姉様寝坊「ちょっ!? そこの報告は――」「「御坂さん……って言うか早っ」」さまざまな手段を用いても爆睡するお姉様の起床を諦め、ワタクシこと白井黒子が単独で調査を担当。

 

 同日0445――待ち伏せを試みるも、すでに鼻歌交じりで玄関を清掃していたターゲットと遭遇。目が覚めたので朝の散歩といってなんとか逃れましたの。

 

 

 

「……私、お休みだったから9時ごろまでゴロゴロしてました……」

 

「アタシ、気付いたらお昼だったぜ……とりあえず深音さんは4時ごろにはもう寮にいた……ってことですかね?」

 

 

 

 ……もっと早い可能性もありますが、続けますの。

 同0700、お姉様熟睡続行「「……」」「だ……だからそれはもういいって……」ターゲットは寮内のチェックを開始。

 切れかけた電球の取替えなどを行いつつ清掃。

 

 部活動の早朝練習に出る寮生に挨拶のち、食堂へダッシュ。水筒にスポーツドリンクを用意し玄関にてその寮生に手渡して見送り、そしてまた寮内へ。――というのを、ワタクシも途中で数えるのを放棄しましたので正確にはわかりませんが、少なくとも20回は超えていたかと。

 

 ……最後の一回で、もう早朝練習ではなく普通に起き出した寮生と間違えて水筒を用意をしてしまっていましたの。玄関まで行って間違えに気付き、数秒沈黙。ユーターンしてそのまま寮内のチェックに。

 ――顔が少々赤かったのが見えましたの。

 

 

 

「やばいそれ見たいぃぃ!」

 

「か、可愛い……小さなドジで恥ずかしがってる深音さん可愛い……!」

 

 

 

 同0830、お姉様起床――と思いきや二度寝。おやすみなんだからいいでしょー、と完全に計画を無視。「「御坂さん……」」「――黒子、分かった、謝る。だからコレ以上はやめて。ライフはもうゼロだから」――コホン。ターゲットは朝食のために食堂に来た寮生に通常の執事業務。

 そのまま昼食までさまざまな雑務をこなし、昼食後また雑務、そして夕食ですの。

 

 1900以降は門限に間に合わなかった生徒の何名かを秘密裏に鬼の手から救出。2000に業務が終わりですの。最後に――

 

 

 

「……ワタクシに一日お疲れ様でしたと告げて」

 

「「結局バレバレだったんじゃないですか!?」」

 

 

 

 なんであの距離で気付けるんですの? と戦慄している黒子。そして、黒子の説明の中で散々言われているにも関わらず、偽りのない事実であるために受け入れるしかない美琴。

 

 

 

「い、今の内容から分かる事というと、働き者で気配り上手――で、ちょっと可愛いミスをするくらいですね」

 

「――あと気配に敏感というか鋭い? どれだけ離れてたかは分からないけど、尾行云々は諦めたほうがいいですかね……となると」

 

「「「となると?」」」

 

 

 ニヤリ、と笑みを浮かべる佐天。

 その胸中の秘策や如何に……。

 

 

「本人がだめなら簡単です――深音さんの周りの人に聞き込めばいいんですよ!」

 

 

 名案でしょう! とばかりに鼻を高くして胸を張る佐天。初春と美琴はおお、と感嘆しているが、黒子はやれやれとため息をつく。

 

 

「こう言っては何ですけど……その深音さんの『周りの人』のメインは基本的にワタクシ達ではありませんの?」

 

「…………それはそれで嬉しいですけど、いきなり行き詰まりですか」

 

 

 

 高くした鼻を戻し、背中を丸める。

 一番知っていなければいけない四人がこれほどまで何も知らないのだ。コレでは友人なんてとてもとても。……知人としても名乗れるかどうか怪しいだろう。

 

 美琴に関しては、血が繋がってないにしろ家族なので――もっと重大である。

 

 

 

「で、でも! 私達以外に深音と関わった人が必ずいるはずでしょ? そういう人たちに聞いていけばいいんじゃない?」

 

「なるほど。大きな情報にはなりませんけど小さな情報をつないでいけば深音さんに辿り着く、って感じですね。でも、私達が知ってる人だと――」

 

 

 んー、と唸りだす四人。

 四人全員が知っていて、かつ深音のことも知っている人物。それは相当限られるため、唸る時間は、比例して相当短かった。

 

 

 

 あ、と呟いたのは、仲良きかな。四人同時だった。

 

 

 

***

 

 

 

「――それで、私のところに来たってわけね」

 

 

 場所は変わり、ジャッジメント177支部。偶然なのか人が出払っており、支部長の固法が一人だけでいた。

 

 一通りの事情と一通りの経緯を聞いて、四人を呆れた目で眺めている。

 

 

「そうなんですよ、何か知らないですかミルクさん」

 

「そ、その呼び方止めなさい! なんかクラスメートの間で広がって大変だったんだから!」

 

 

 

 ――それは大変にご愁傷様である。牛乳を持っているとからかわれ、着替えの時なども何故かからかわれたのだという。

 

 それを必死にもみ消していった労力は、もうごめんなのだとも。

 

 

「あれ、でも固法先輩ってあの事件の後深音さんと会ってるんですか?」

 

「あなた達……そんな根底で確認しそうなことも不確定のままここにきたの?」

 

 

 いやぁ、あははー、とそれぞれ苦笑したり頭をかいたり。

 

 ……呆れを通り越してアホの子を見る目で四人を眺める固法。このうち二人がジャッジメントの後輩なのよねぇ、と心の奥底で呟いていた。

 

 

「ま、まあまあ、同じお姫様抱っこされた者同士そういう固いことはい言いっこなしで――って、思い出した! あの恋愛アクション版やってもらってない!?」

 

 

 なにやら吠え出した佐天は放置する。姫抱っこで思い出してしまったのか、ほんのり顔が赤い固法も咳払い一つして顔色を戻す。

 

 

「あ――会ってるわよ、深音君でしょ? 一昨日の金曜日に会ってるし……今週の平日は大体会ってるかしらね」

 

「ま、まさか――毎日が秘密の逢瀬デートですか!?」

 

「おうッ……!? ち、違ッ! そ、そういうんじゃなくて……うちの支部は男手が少ないから力仕事とかそういう時にお手伝いで来て貰ったりしてるだけよ! 本当に偶然居合わせたってときもあって……大体そういう時も手伝ってもらってるけど」

 

 

 最後のほうは尻すぼみ。ジャッジメントではない一般生徒、まだ生徒ではないので一般人だが、さすがに甘え過ぎただろうかと罪悪感があるらしい。

 

 

「……もしかして、今週固法先輩からお呼び出しがなかったのも?」

 

「ええ、まあ……深音君の御陰、って言えばそうなるわね。……正直ホント頼りになるから腕章を申請して渡したいくらいよ……」

 

 

 男四人を軽く持ち運べる腕力。常人場慣れした移動速度。

 人柄良し。仕事も真面目。

 

 

「今更ですけど凄いお買い得人材ですの……」

 

「ですねー……先輩じゃなくても番号知ってたらコールしちゃいます……ってことは先輩、深音さんの番号知ってるんですか?」

 

「? そりゃ知らなきゃ連絡とれないでしょ? 『昨日携帯を買ったので』ってこの前自分から教えに来てくれたんだから――慣れてないのかしらね、ワタワタしながら操作してたのがちょっと、その――うん」

 

 

 思い出し笑いならぬ、思い出しにやけ。それを見て笑うことは出来ず、なぜか癒されてしまったと語る固法。

 

 

「やばいそれも見たいぃぃ!!!」

 

 

 見損ねた! と地団太をふむ佐天は、すぐさま写メはないのかと詰め掛けるも、あるわけがないと一蹴。

 可愛かったわよー? と意地悪げに耳元で呟く固法も、さりげに少し大人気ない。

 

 

 

「平日の放課後はジャッジメントの手伝いもしている、と。――機械が苦手、というのも一応情報といえますでしょうか?」

 

「微妙なとこね……携帯を初めて持った、っていうなら有り得ない話じゃないけど――最近は普通に使ってるし」 

 

 

 『仮免許ジャッジメント』『機械オンチ疑惑』という、情報を得た美琴と黒子。しかし、内容がイマイチなのか、それとも内容が少ないからか、その表情は渋面だ。

 

 絶対に知っていないとマズイ! という内容でもなければ、二人の知っておきたい情報でもなかったので当然かも知れないが。

 

 

「他に、何か深音のことで知ってることないですか? なんかこう……、意外と!? っていう感じの」

 

「意外と、ねー……んー……意外っていうのは全然ないわね。『やっぱりなぁ』っていうのは結構あったんだけど」

 

「やっぱり、と申しますと例えばどんなですの?」

 

 

 

 

「子供好き。っていうか子煩悩? って言えばいいのかしら。

 ……この前迷子の女の子がいたんだけど、大泣きしちゃってね……こっちが聞きたいこともろくに聞けなくて――その時一緒にいた深音君が、何にも言わずにギュッて抱きしめたのよ。

 そうしたら大泣きしてたのが嘘みたいに泣き止んで、そのままその子を肩車してお母さん探し。その子のお母さんは見つかったんだけど……」 

 

 

 母親が見つかるまでずっと肩車し、不安がらないように話しかけたり肩車状態で遊んだり。

 

 最終的には、迷子ではなくて深音のところに遊びに来たような感じだったという。

 

 

「あー……やりそう。っていうか深音ならやる」

 

「いやだから、実際にあったことよ?」

 

 

 子供を泣き止ませて肩車をする深音を、簡単に想像できた美琴。……ついでに、その状態で子供と一緒に笑いながら屋上を疾走する姿も想像できてしまった

 

 ……流石にそこまでは、と否定するも、もし子供のほうから頼まれたらやりかねない。

 

 

(一応、もう一回釘刺しとこう……うん)

 

 

「……まあ、確かに子供好きというよりも、子煩悩ですの」

 

 

 深音らしい、と一同がほのぼのとしている中、一人だけすぐさまその空間を抜けたものがいた。

 

 

 

「――で、固法先輩? もしかしたらもしかしなくても、その肩車してる深音さんと一緒でしたよね?」

 

 

 

 何を当たり前なことを、と質問された固法だけではなく、美琴も黒子も初春も、可笑しなことを言う佐天を見た。

 

 当然、固法もその迷子の母親を探すべく一緒に行動した。したからこそ、この話をしたのだから。

 

 

 

「想像してみてください。小さな女の子を肩車している深音さんと、その隣を当然の様に歩いている固法先輩を。 ――想像しましたか? ……したら、この言葉を当ててみてください……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲良し親子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――日曜日。ジャッジメントのある支部から、数人分にもなる女の子の悲鳴が、聞こえたという。

 

 

 

 

 

 

 

< おまけ >

 

 

 

「私だって眼鏡をかけているぞ深音君。そしてかなり最初のほうから出演しているぞ深音君。――なぜ私ではないのだ?」

 

『あ、あの、寮監さん? いきなり過ぎてなんのお話かさっぱりなのですが……? というより、着信音が普通のと変わって……鈴というかベルの用な音になっているんですが』

 

「その音が使用人を呼ぶときに鳴らす鈴の音だ」

 

『こういうのは設定しないと変更できない、と聞いているのですけど、設定した記憶は――』

 

「気にするな。私は気にしない」

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