とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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幻想を掴みしその御手   8-1

 

 

 御坂 深音は執事である。 

 

 それは彼の常時の格好を見れば一目瞭然であり、また彼を知るものの多くが彼が常盤台中学の寮で執事として働いていることを知っている。最近学舎の園内にある寮の寮生たちがなにやらデモ活動を行っている、という噂があったりなかったりするが。

 

 

 御坂 深音は学生である。

 

 それは彼の年齢を考えれば当然であり、事実、夏季休校の後に正式な学生として編入することが決定している。そのために担任になることが決定している月詠 小萌女史に、放課後の特別講習(紳士化計画)を受けていたのだから。

 

 

 そして、御坂 深音は怪我人である。

 

 これは先の連続爆破事件の際、三人の少女を守るべく人体の限界を無視した動きをしたがために体に相当な負荷がかかり、軽く触れるだけで全身に激痛が走るほど。更には内臓まで痛めている可能性もあるとなれば、確実に入院クラスの怪我といえる。

 

 

 だからこそ、美琴は事件の事情聴取を半ば押し通るようにして、深音を病院に引っ張っていったのだから。――その際黒子のテレポートを、という案は却下された。 

 

 

 そしていつの間にか深音の担当医になっていたカエル医師に、『常人なら全治一ヶ月。でもこの勢いだと三日だよ? 全く医学に喧嘩を売るような体だね?』と苦笑交じりのため息を吐かれながらも太鼓判を押され、一応、本当に一応の入院となった。

 

 

 

 

 それから深音が入院との一報を受けて身だしなみもそこそこに飛んできた小萌を筆頭に、黄泉川や固法が続々と集合。少し遅れてやって来た青髪と土御門がその女性率に呆然とし、そしてお見舞いの品として持ってきた『18の数字に×が付けられた本』を小萌に見咎められ、その場でお説教。

 

 ニヤニヤとしている黄泉川はともかくそのほかの女子から絶対零度の視線を浴びた青髪が「女の人の蔑む目ぇが……」とちょっと嬉しそうな顔をしていたので全力で引かれていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんな、爆発事件直後とは思えないような日から――。

 

 

 

 

 

 

 ……一夜明けた、放課後。

 

 

 

「アンタは何普通に堂々と病院脱走してんだゴラァァァアア!!」

 

 

 電撃使いに電撃は効き辛い。

 

 

 だったら物理で殴ればいいじゃない、と言わんばかりに飛び蹴りを繰り出す美琴。しかし……以前のドロップキック(脱ぎ女事変)の時といい……どうしても首よりも上、顔面を狙いたいらしい。

 

 

「これは美琴さんに黒子さん。いえ、朝起きたら普通に治っていたので、カエル先生の検査で時間が掛ってしまいましたが、っと」

 

 

 それなりに加速し、軽いとはいえ女の子一人の重量を乗算した威力はかなりのものだったろうにも関わらず、それを難なく、余裕で受け止める深音。

 

 

 治った、というのも本当らしい。下ろせとジタバタもがく美琴を、涼しい顔で完全に封殺している。

 

 

 

「許可はきちんと貰っているので脱走じゃありません。せめて事実確認をしてから助走しても遅くはないでしょうに……」

 

「うっさい!」

 

「――飛び蹴り、からは離れないんですのねお二人とも」

 

 

 黒子が呆れたようにじゃれ合う二人を眺める。

 

 しかし二人は、言われた言葉に違和感を感じたのか、互いを見合って同時に首を傾げる。

 

 

 

「「普通の殴る蹴るじゃ多分効かないでしょ?」かと」

 

「……被害者と加害者の意見が一致ってどういうことですの……?」

 

 

 あまりにも当然のことを問うように――むしろ『何を言ってるのこの子?』という目で見られる黒子。

 数秒ほど自分の中の常識が崩されそうになるが、『おかしいのはあちら。正しいのはワタクシ』と呟いて平静を取り戻した。

 

 

 

 

 

「かき氷? ですか」

 

「――まあ、初めてよね。細かく砕いた氷の上にいろんな味のシロップをかけて食べるのよ。『夏の風物詩』ってやつね。あ、私イチゴ味で」

 

「百聞は一見にしかず、ですの。ではワタクシも同じものを」

 

 

 

 店員の返事と共に風鈴がチリンチリン、と涼やかな音を奏でる。

 

 

 

「この風鈴も夏の風物詩の一つですわね――不思議とこの音色を聞くと涼しくなるんですの」

 

「ああ、共感覚性ってやつね―― 刺激で複数の感覚を得ること。風鈴だったら、聴覚で得た情報なのに『涼しさ』を感じるってこと」

 

 

 二人の前にトン、と置かれた二つのカキ氷。鮮やかな赤がなんとも美味しそうである。

 

 

「この『色』だってそうね。赤系の色を見たら温かく、青系の色を見たら冷たく。暖色・寒色っていうじゃない?」

 

 

「なるほど……共感覚性ですか。――あ、すみません。では私はこの『ブルーハワイ』を」

 

 

 

 店員はあらかじめ氷だけ作っておいたのか、シロップをかけるだけのカキ氷はすぐさま出てきた。

 

 

 ブルーハワイという、青というより水色に近い、どこかトロピカルな気分にさせるカキ氷。美琴と黒子は、子供の頃に食べ終わった後に舌を見せ合って遊んだ記憶を思い出していた。

 

 

 おー、と目をキラキラさせる深音に苦笑を浮かべる二人だが、すぐにアレ? という顔になった深音に首を傾げる。

 

 

 

「ブルーハワイ、って味なんでしょうか?」

 

「「頼んでから聞くことそれ……?」」

 

 

 何ですかブルーハワイって? と純な顔で聞いてくる深音に、おそらく答えを持っていないのだろう美琴と黒子は視線を逸らす。 

 

 ならば店員に、と思った深音だったが店員は既に店の奥へと避難していた。

 

 

 

 

「まあ、美味しいんだからいいじゃない細かいことは。あ、食べるとき注意よ? 頭にくるから」

 

「頭にくる? ……何か怒るようなことが食べるときに……?」

 

 

 言われて、おそるおそる口に運ぶ深音。それを二人はニヤニヤと見守っているが、普通に美味しいため首を傾げる。怒る要素……? と続けて二口、三口と食べ――……。

 

 

 そして、それはきた。

 

 

「ッ? ―ッ!?」

 

 

 

 正直筆舌しがたい痛みであるため、どうか経験からの知識で納得いただけるとありがたい。

 

 ……自らの頭にアイアンクローをかけながら、未知なる痛みによって若干涙目になりながら二人に無言抗議する深音。

 

 ゴメンゴメン、と美琴が謝ろうとしたとき……その間に割り込んだ影。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「涙目の深音さん撮ったどぉぉぉお――――ッ!!!!」

 

 

 

 佐天がカメラモードになった携帯を天高く掲げていた。

 

 

 

 いつ現れたのか。どうやってきたのか。

 

 それは佐天の足元に残る、タイヤのブレーキ痕のようなものが物語っていた。

 

 

 

 

「あ、カキ氷! おいしそう!」

 

 

 

 呆然としている三人を他所に、カキ氷を買い求める Going my way な佐天だった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 四人揃ってカキ氷を買い、木陰のベンチで口にしてはもだえ、口にしてはもだえ。夏の風物詩を堪能していた。

 

 

 

「つー、この痛みもある意味夏の風物詩よねー♪」

 

「ですよね! あ、それイチゴ味ですか?」

 

「うん、一口どう?」

 

「あざっす! んー、懐かしい!! あ、お返しのレモン味もどーぞ」

 

 

 

 それは、ある意味女の子同士のやり取りでは至極当然のことなのだろう。特になんの意識もしていない二人は、ただ純粋に新鮮な味に満足していた。

 

 

 深音も頭にくる痛みに慣れたのか、そんな二人を見て微笑んでいた。

 

 ……そのすぐ隣りで、なにやら劇画タッチになっている黒子は頭の中から排除して。

 

 

 

(かかかかかかか間接キッス!? その手、いやその口があったとは……!?)

 

 

 しかし二番煎じ。ただの間接キ――もとい、食べ比べではインパクトが薄い。

 

 

 

(ならば、口移し! これしかありませんの!)

 

 

 

 頭にきた痛みで正常な判断力を失ってしまっている――と思っておこう。もう間接キスじゃない、直キスである。

 

 

 

 

「いざ!  はむッ! ほねーは「深音」「了解です」むぅ!?」

 

 

 

 テレポートして美琴の直上に出現した黒子を、美琴は一度も見ることなく、佐天と笑いながら会話し続けたまま。

 深音も椅子に器において、片手でカキ氷を楽しみながら。

 

 

 ――どちらも『ながら』で、黒子を取り押さえた。

 

 

「た、対応速度というかもう予知レベル……ですね。それに応じる深音さんも状況反射みたいに……」

 

 

 黒子だけが動いた、と錯覚させるほどのさりげなさ。佐天でさえ、突然意気込んで消えて、また現れた黒子にビックリしたというのに。

 

 

 

 

「? 黒子なにしてんの?」

 

「……あれ、私は何で黒子さんの頭を……?」

 

 

「「しかも二人とも無自覚!?」」

 

 

 佐天と黒子は本気で戦慄した。美琴は何を遊んでいるのか、という目で深音と黒子を交互に見て、深音も失礼しましたと言ってすぐにその手を離し、不思議そうに自分の手を見ていた。

 

 

 

(え、二人ともしっかり受け答えしてたよ……?)

 

 美琴は名前を、そして、深音は了解と。それぞれ明確に口にして声に出していた。

 

 

 

「(ま、まだですの! 口移しはダメでも間接キスだけでも!)お、お姉様~♪ ワタクシとも間接キs……もとい食べ比べを!」

 

「アンタ私と同じイチゴでしょうが」

 

 

 

 

 一刀両断。

 

 しかし、初めてはイチゴ味だった。

 

 

 

「……黒子の馬鹿! 黒子の馬鹿!」

 

 

 ……お相手は公園の地面だが。

 

 

 

 

「なにやってんだか……あ、そういえば初春さんは? 今日は一緒じゃないの?」

 

「あ、えっと――あの子なんか風邪引いちゃったみたいで……学校も今日、休んじゃってるんですよ」

 

 

 鞄からどこかの薬局の紙袋を取り出す。風邪薬か、解熱剤か。

 

 

 

「心配ですね……昨日が昨日ですし」

 

「アンタが言うかそれを……でも夏風邪だったら確かにちょっと心配かもね」

 

 

 心配そうな顔の御坂兄妹。自分が心配されているわけではないが、それでも、佐天はこの二人の友人であることが嬉しく思えた。

 

 

「……まあ、さっき電話したんですけど、今じゃ少し熱っぽい、ってくらいだそうですよ? 私のコレも風邪にトドメをー、って感じで――あ、そうだ!」

 

 

 にっこりといい笑顔を浮かべて佐天は立ち上がり、いまだ座って、首を傾げる二人を見る。

 

 黒子もようやく自失から復活したのか、赤くなった額を押さえて疑問符を上げていた。

 

 

 

 

「お見舞い! 行きましょうよ! 皆で!」

 

 

 

 

 その笑顔は、簡単に三人へと伝播した。

 

 

 

 

< おまけ >

 

 

「あ、深音ー。ブルーハワイ一口頂戴」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「「……」」

 

「ん? どうしたの二人とも……」

 

 

 

「いや、いくら兄妹でも平然と男女で間接キスできるとは……さすが御坂さん」

 

 

「……………………………」

 

 

 

 ポンッ! という音が、公園に響いたのはこの数秒後である。




読了ありがとうございました。

 お気に入り件数が300件突破。こんな拙い文章にお付き合い頂き、感謝の言葉しかございません。

 今後とも、深音のことを温かく見守って頂ければ幸いです。

 
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