とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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幻想を掴みしその御手   8-2

 

 

 『自分の死を予感する』――そんな瞬間や、状況になったことはないだろうか?

 ……いや、もっと分かりやすい言葉で例えよう。

 

 

 ――本気で死亡フラグが立ってしまったことはないだろうか?

 

 

 

 やったか!? 攻撃の直後に言ってしまえば、敵の生存確実のフラグ。

 

 あいつに限って……という言葉の後に、その人物がやらかしてしまったり。

 

 いつもとは違う道を気分で選んで進んでみたら、幸か不幸かの事象に遭遇したりと。

 

 

 これらは、言ってしまえば人間のこじ付けである。『何かをした』から『どう』なった。などと、イコールで結ばれてはこの世界はフラグだらけであるだろう。結果において原因を求めてしまう、人間の悪癖ともいえるかもしれない。

 

 彼女自身、明確にフラグ論? を信じていたり日々に感じていたりなどはしないのだが……。

 

 

 

 今日の初春は、明確過ぎるほどに、そのフラグとやらを感じていた。

 

 

 

「白井さん――私が死んだら花飾りはお墓の上に飾って置いてくださいね……」

 

 

「貴女死んでも頭に花飾りをつけますの……? いえ、というよりいきなり何を言っているのかさっぱりですの。高々風邪くらいで命を落す時代はとっくのとっく、そんな大昔でおわってますわよ?」

 

 二段ベッドの上、そこで横になりながら涙を流している初春を、わけの分からないものを見る目で見る黒子。

 

 

 

「いやー、だって……

 

 

 

 

 

 

 こんなに甲斐甲斐しくお世話してもらえるなんて、絶対オチがあるに決まってるじゃないですかー」

 

「初春、お墓だのと言う前にとりあえず貴女は鏡を見てきなさい。そうすればとびっきりだらしのない顔をした方にお会いできますの」

 

「……深音、とりあえず看病ストップ。ほら佐天さんもハンカチ噛んで……パルパル? ってさっきからよく分からないけど、『羨ましい、妬ましいッ!』っていう眼光ストップ」

 

 

 二段ベッドと洗面所やキッチンを行ったりきたり忙しなく看病に動き回る深音と、どこからか取り出したハンカチを噛み千切らん勢いで引いている。

 

 

「はーい」

 

「水枕の交換、いえ、その前になにか栄養のあるものを「落ち着きなさいっての」あたっ! ……? 私は今まで何を……?」

 

 

 美琴の投げた何かが後頭部にて良い音を立てる。それによりなんとか正気?を取り戻したらしい。

 

 

「でも安心したわ、大したことなさそうで。でも今日明日はしっかりと休養とらないとね」

 

「そうだぞ初春ぅ~。もうおなか出して寝たりしたらだめなんだからねー?」

 

「出してませんよ! それに、冷えたとしたら十中八九佐天さんのスカートめくりのせいです!」

 

 

 深音の用意した水枕から跳ね上がり、深音が額に乗せたタオルを弾き飛ばしながら、初春は譲れんとばかりに申し立てる。そしていつの間にそこまで移動したのか全くわからない深音に肩を押されてリターン。

 

「いやぁ、アタシは親友の初春が、ちゃんと毎日パンツ穿いてるかなって心配になってたりするわけよ」

 

「穿いてますよ!? ちゃんと毎日欠かさず穿いてますからね深音さん!」

 

 

 

 男性の目前でノーパン疑惑をかけられてしまった初春はそれはもう必死である。

 

 

 

「もう……そういえば白井さん。どうですか? 例の連続爆破事件の進展は」

 

「有るといえば有る、ですが、無いといえば無い……という感じですの。分かったのはあの犯人、貝谷 初矢の能力がレベル2だということだけですの」

 

「レベル2って――あの破壊力はレベル4クラスは軽くあったわよ?」

 

 

 倒壊、とまではいかなかったが、それでも広範囲かつ高威力の爆発に違いは無かった。それを目の当たりにした美琴と初春、そして深音は揃って首を傾げていた。

 

 

「……能力効果を蓄積させた、ということは無いのでしょうか?」

 

「それも考えられましたが――蓄積という高難易度の能力使用も最低レベル3の上位くらいはないと出来ないだろうと」

 

 

 どちらにせよ、レベル2であるあの学生には出来ることではない。

 

 

「つまり、『さらに分からないことが増えた事がわかった』――っていう進展ですか?」

 

「まぁ、そういうことですわね。――それに今回だけではないんですの。能力者の犯行でレベルに食い違い、というのでしょうか。それが多数報告されていますの」

 

 

 五人が出会ったときの強盗事件の火炎能力者然り、常盤台中学生を狙った姿を消せる女学生然り。誰も彼もが、事件の際の能力現象とバンクに登録されているレベルに矛盾が生じているのだという。

 

 

「同時期に何人も急激なレベル増加、なんてありえないだろうし、あったらあったで、学者とか能力開発の先生なんか立場ないでしょ」

 

「急激なレベル増加――んー、それってレベルアッパーじゃないですか?」

 

 

 

「「「「レベルアッパー?」」」」

 

 

 

「ああ、いや――この前の脱ぎ女の話したじゃないですか。あれと一緒で都市伝説なんですけど……最近やたらレベルアッパーの話題が出るんですよ。それもいろんなサイトで――え、まさかマジモンなんですか、レベルアッパーって……」

 

 

 

 話の途中から身を乗り出してきた黒子と美琴に、僅かに身を引く佐天。

 

 

「どういうものなんですのその『レベルアッパー』というものは?」

 

「え? いや私も詳しい内容は……いろんな噂があってどれが正しいとか――あ! でも使った人たちが書き込みしてるサイトが――えっと、どこだったかな……」

 

 

 単なる度忘れなのか、それとも相当数のサイトを見ているためなのか、サイト名が出てこない佐天。

 

 するとベッドの上。というよりも初春の元から、カタカタと高速タイピングが響く。

 

 

「お、ヒット。ありましたー、ここじゃないですか? レベルアッパーらしきものの使用者の人たちが書き込みしているみたいですね……」

 

「お手柄ですわ! あとはその連中の素性やらが調べられれば――」

 

「……素性は分かりませんけど、多分たまり場にしているお店があるみたいです。思いっきり学区と店名が載ってます」

 

 

 

 初春が見せる端末には、確かに学区と店名、それに一言二言が明記されている。

 

 

 

「ありがと初春さん! 早速行ってみるわね! あっと、それと! お大事にね!」

 

『お姉様!? それはワタクシ達ジャッジメントのお仕事――ちょっとお姉様ーッ!?』

 

 

 それを確認するや否や、鞄も持たずに飛び出す美琴。その後を追うように黒子もテレポートし、嵐の直後のような微妙な静けさの中三人が残された。

 

 

 

「……とりあえず、初春さんの端末は没収です。病人なんですから、安静にしていてくださいね?」

 

 

 宣言どおりに端末を取り上げ、初春の前髪を待ち上げて、掌を額に乗せて優しく押す。

 

 人肌としては相当冷たいその手に驚きながらも、熱っぽい頭には心地よく、されるがままに布団に戻る初春。

 

 布団に戻されても数秒ほど、深音も目を閉じて額に手を当て続けた。

 

 

「あ、あのー、深音さん?」

 

 

 風邪とは違う意味で顔を赤くする初春に構わず、深音は手を当て続けた。

 

 

「……うん、もういいですかね。今日一日、無理をしないで安静にしていれば大丈夫なはずですよ」 

「あ、はい――えっと、良いんですか? 御坂さんたちと一緒に行かなくて……」

 

 

 基本、美琴と一緒に行動する際は見守るように数歩後ろから付いていくのが深音、というイメージが有ったのだろう。佐天も同意見らしく、不思議そうだ。

 

 

「付いていきたいのは山々なんですけどね……今日は黄泉川先生からお呼び出しを受けていまして――」

 

「黄泉川先生、ってたしかアンチスキルの?」

 

 

 困ったように笑う深音に、かつて『深音身辺調査隊』の際にあった一人の女教師を思いだす。――ついでに、スキルアウトを鉄拳制裁した話も思い出し、今回もそれか、と苦笑を浮かべた。

 

 

「いえ、何やら私に見てほしいものがあるとか……詳しい話は黄泉川先生が大分言葉を濁されていたので良く分かりませんでしたが――」

 

 

 それでは私もコレで、とだけ告げて初春と佐天を残し、部屋を後にする。

 

 

 

 

 

「……初春良いなぁ……私も風邪、ひこうかな」

 

「佐天さんが病気とか、私想像できないんですけど」

 

 

 

 

 ――そんなやり取りの後、ひと悶着があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 御坂 美琴はバトルジャンキーである。と、彼女のその一面を見たものであれば大体、ああ確かに――と納得し頷くだろう。『強いやつ』と聞けば力試しで勝負を吹っかけることもあれば、納得いかなければ地の果てまで追いかけて決着を付けるような執念もある。

 

 しかし、だからといって彼女自身が粗暴なわけではない。喧嘩が好きなわけでもないし、ましてや人を傷つけて喜ぶような少女でもない。 

 

 ただひたすらに、ひたすらすぎるほどに不器用なのだ。そして負けず嫌いなのである。

 

 まあ若干短気であったり等々など他の理由はあるかもだが、おおむね、そういうことにしておいていただきたい。 

 

 

 

 

「……」

 

「「…………」」

 

 

 

 

 美琴は腕を組み、そっぽを向くようにして沈黙を必死に守りながら僅かに早足。駆けつけた二人は半眼と苦笑交じりの沈黙でそれぞれ分かれて、すぐ後ろを歩いていた。

 

 

「……ワタクシ、多分ギリギリですけど声はかけましたの」

 

「あ、あんなタイミングで言われたって止められるわけないじゃない!」

 

 

 美琴も、久々に熱くなっていた、という実感はある。

 

 自分のことを知りつつ、それでも真っ直ぐ挑んでくる相手など本当に久々だったのだ。最初こそ手加減した電撃であったが、『本気で来い』と闘志溢れる眼光言われてしまって――火がついた。

 

 

 

 実を言えば、黒子の静止の叫びは美琴に届いていた。届いていて、恐らく止めようと思えば止められたのだが、それが『戦闘行為を止めろ』という内容だと勘違いした。

 

 

 

 

「そ、それに! まず変電所(あんなもの)があるってことを伝えなさいよ!」

 

 

 

 ……『ここで電撃を使っちゃヤバイ』という意味だったとは欠片も思わなかったらしい。

 

 美琴の放った雷級の雷撃の余波で変電所は緊急停止。送電が絶たれたため街灯どころか周囲一体の光源という光源が光を失っていた。

 

 

 星空の光が唯一の光源、とはなんともロマンチックだが、原因が原因だけに苦笑しか出来ない。

 

 

「レベルアッパーがあったかどうか、というのも空振りですし――ぶっちゃけお姉様がお一人で暴れたようにしか思われませんの」

「うっ……」

 

 

 美琴が言うには、アスファルトの粘度を操る能力者と対峙したとのこと。その相手は地面を泥状にしたり盾の様にしたりといろいろしたそうなのだが……その能力形跡も残さず美琴の電撃が大穴をぶち開けた。

 

 

 

「……って言うかなんで深音がここにいんのよ」

 

「この近くで丁度実験、というよりも調整ですかね。それをしていたんですが……いきなり広範囲が停電したので……」

 

 

 そして、単独かつ高速で動ける深音が確認に来た、とのこと。

 

 ジャッジメントでは黒子が、アンチスキルには深音が。それぞれ事故との報告を入れたために美琴は拳骨ではまず済まされないだろうお咎めを免れた。 

 

 

「やはり、それぞれの事件の犯人が急に能力レベルを上げた、ということになりますの?」

 

「システムスキャンの合間にレベルの飛び級をした、なんて正直信じられないわよ?」

 

 

 

 ――謎は、更に深まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

< おまけ >

 

 

 常盤台寮にて

 

 

「さて、御坂、白井。門限破りの罰則の覚悟は出来ているな?」

 

「「……」」

 

「ああ、深音君もいるのか。丁度良い。なにやら停電でな、一晩頼むよ」

 

「「「……」」」




読了ありがとうございました。

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