長い目でお付き合いいただけると嬉しいです。
……昨晩は蒸し暑い熱帯夜、なのに広範囲で起きた大停電で冷房のたぐいが使えず、かなり寝づらい夜となったみたい。
「信号機も止まってるとか――雷一発でこうなっちゃうだから。これで科学技術の最先端を行く学園都市、なんて言えるのかしらねぇー」
「今朝のニュースで……雷を回避するために接地された無数の避雷針を通り抜けて雷が地面に着弾したせい、だそうですよ美琴さん」
私のすぐ隣を歩いているのは深音。――黒子はジト目でグチグチとお小言を言って来るけど深音は苦笑しながらやんわりと注意してくるからか、反論がなんかし辛い。
それに、昨日は本当に寝ないで寮全体をカバーするブレーカーに送電し続けたらしい。徹夜作業だったはずなのに隈一つない上にいつもと変わらない。――まあ、御陰で空調の効いた部屋で快適に寝れたんだけど。
……文句の一つでも言えばいいのに、それすら言ってこないんだから、注意くらい素直に聞いておかないとなんか悪い気がするし。
ジャッジメントの人が交通整理をしている横を通る。いや、まあ。罪悪感はあるわよもちろん。
――事件解決を手伝うから帳消し、ってことにしておこう。うん。
「しっかし、昨日の情報は結局スカだったし――「お姉さ、ま!?」……え、なにこの状況?」
横断歩道の、ど真ん中。黒子の声が聞こえたとか思って振り返ってみたら、まあ、案の定黒子がいた。
いたんだけど――。
「なんで肩車?」
深音の上に黒子がいた。私より背の低い黒子を見上げるってなんか新鮮ねー。
「こ、これは慌てていて座標の設定がおざなりに――それよりも緊急事態ですの!」
うん、わかった。とりあえず落ち着きなさい。落ち着いて深音から降りるか、せめて深音の頭頂部に掛ってるスカートを直しなさい今すぐに。
「介旅初矢がアンチスキルの取調べ中に意識を失ったそうですの! その後もずっと意識不明のままだと!」
介旅 初矢って確か……。
「それって前の爆発事件の――って意識不明!?」
「はいですの! 詳しくは病院にてお話を伺おうと――お二人ともあまり身動きせずにいてくださいな――!」
黒子が私と深音の腕を掴んで、いつに無く真剣な顔で連続テレポートしていく。黒子が、自分と一緒にテレポートさせるのは二人が限界だ、って言ってたからね――深音は背も高いから負荷がかかるのかな。
そして、何度かテレポートを繰り返して、病院に到着。
黒子が先導していくんだけど……結構慌しいっていうか――医師の先生やら看護婦さんやらが急ぎ足だったり駆け足だったり。
そして多分、担当の先生、なのかな。病室の前で難しい顔してる先生に黒子が駆け寄った。
「ジャッジメントの白井黒子と申しますの! 介旅 初矢のその後の容態は?」
「! ああ。……いえ、情けない話ですが回復の予兆すら今のところは……」
そういって再びカルテを眺めては唸る。
意識不明、って大体頭、っていうか脳が異常を起こしてるのよね――まさかとは思うけど。
「あ、あの、私そいつの顔思いっきり殴っちゃったんですけど、それってなにか関係あったりしますか……?」
衝撃の直後じゃなくて、時間が経ってから症状が出てきた、なんて話よくあるし。
あれ、私? これって私のせいなの?
「ああ、いや、それは恐らくないでしょう。というより彼の体にはなんの異常もないんですよ。脳に損傷があるわけでもなく――体のどこにも異常なし。意識だけが戻らない、こんな症状は聞いたことも無い上に、全く似た症状の患者が今日だけで十数名運ばれてきていて……」
カルテからチラッと見えたのは、見覚えのある二人。銀行強盗をした火炎能力者の男と常盤台生を狙った姿を消せる女生徒。
――黒子の言ってた、事件の際の能力レベルと実際にバンクに登録されているレベルに食い違いのある人たち。
黒子と深音も気付いたらしい。真剣な顔がさらに引き締まってる。
「何らかの事件性もあるということでアンチスキルの方々も出動なさっているそうで――我々も原因の解明のために外部から大脳生理学に精通している方にご助力をねがったところで――」
「「大脳生理学?」」
――深音とハモッた。最近些細な事で行動とかが被ると気恥ずかしいようなちょっぴり嬉しいような――じゃなくて、なんかどっかで……っていうかつい最近その単語を聞いたような。
深音は思い出してるわね。真剣な顔から、苦味の強い苦笑いを浮かべて頬を引く付かせている。
「――お待たせしました」
私と黒子と、先生は振り返る。だが深音はゆっくりと、ほんとうにゆっくりと振り返った。
そして、そのまま硬直する。
「水穂機構病院から召喚されました、木山春生です――ん?」
茶髪のボサボサとした長い髪に、目の下に刻み込まれたような深い隈。
「ああ、君はいつぞやのシャツを貸してくれた、深音くん、だったか」
脱ぎ女が、そこにいた。
***
パーソナルリアリティ。自分だけの現実。
授業で重要なところだぞー、って言われて二重に丸付けたとこ。他にもその時黒板に書かれた、なんとかっていう学者が言ったなんとかって法則か理論が書かれてる。
「……で、わかる? 初春。『自分だけの現実』って」
「なんで授業を受けてない私に授業を受けた佐天さんが聞くんですか……」
パジャマ姿の初春がノートを取りながら深いため息を付く。――そして私をジィっと見てから、もう一度深いため息を……ってそれはちょっと酷くない?
「っていうかこう、理論付けばっかりでなにがなんだかねぇー……よくわかんない単語とかこんがらがってきちゃって」
「まあ、わからなくもないですけど……自分だけの現実、っていうと、妄想とか思い込みじゃないですか? 私自身レベル1なんでなんの説得力もないですけど」
妄想に思い込み、かぁ……。
「妄想とか想像力なら結構あると思うんだけどなぁ、アタシ」
「……その結果があの教室での寝言ですけど」
「ばっ!? あれは夢で……っていうかそのネタ止めてっていってるじゃん!?」
(抱き寄せられたときの力強さとか近づいてきた顔から感じられる息遣いとか妙にリアルでああああああ――――ッ!!!!!)
顔が暑い。じゃなかった熱い。絶対また茹蛸リンゴになってるよ……。
「……結構経ちましたけど未だに耐性つきませんねー」
ならアンタも見てみなさいよぉ――あんなことされたら純な女の子なんて一発だって……。
なんかあるとアケミたちにからかわれるから溜まらない。噂は何十日かで消えるみたいだけど気配が無い。くそぅ。
「――深音さんと白井さんがレベル4。御坂さんに至ってはレベル5ですしねー……」
顔の熱取りに必死なアタシを放置して初春がいきなりしみじみ語りだす。
「なんか今更ですけど私達、雲の上にいるような人たちとお知り合いなんですよね……」
……顔の熱が、一気に冷めた。
レベル1の初春で雲の上なら、レベル0のアタシにとつて、あの人たちは『どこの上の』存在なんだろう。携帯を使えば、いつでも声が聞こえるし、何時だって会おうと思えば会える距離にいる。
でも、なんか――遠い、よね。
五人の中で、アタシだけ。アタシだけが無能力者。
初春はレベル1だから大して変わらない、って言うかもだけど――この子はパソコンとかで凄いことが出来るし、ジャッジメント。
アタシには、それさえもない。ただの中学生。
――アタシだけが、普通の女の子。
おかしいなぁ、前まで『それがどうした』って笑えたのに――。今はちょっと……笑えそうにないかも。
「? 佐天さん?」
「!? な、なんでもない! ほら、次々!」
……その後、初春と一緒に勉強したんだけど、あんまり頭に入っては来なかった。
家に帰っても、ずっとそのことばっかり。ネットで曲を探しても、イマイチ気が乗らない。
「はぁ――ダメだなぁ、なんかどんどんマイナス思考になっちゃってる」
あの人たちの中にいていいのかぁー、なんて考えもある時点で末期かなー。って。いつも使ってるサイトの上で、いつもよりちょっと雑に、マウスを動かした。
「……あれ?」
偶然止まったところ。矢印から手の形になって、どこかに移動できるようになってる。たまにある裏サイト、ってやつかな。
ポインタを動かさないように慎重にクリックしたら、なんていうのかな、すんごい簡素って言うかシンプルな画面に切り替わって……。
「Level、Upper……レベルアッパー!?」
眉唾物だった都市伝説から、ジャッジメントが本気で調べている噂のもの。
そして……アタシの悩みを、簡単に解決してくれるものが、そこにあった。
(これ、で。立て、る……? 皆と同じところに――!)
迷う必要も無く、アタシはそれを、ダウンロードした。
読了ありがとうございました。
少々短いですが、つなぎ、ということで。
誤字脱字・ご指摘など古座いましたらお願いします。