……もう、いつまで寝てるんですか。
そろそろ起きないとクライマックス、見逃しちゃいますよー?
……佐天さんのいないクライマックスなんて――盛り上がらないじゃないですか。
***
――見返してやる、力が欲しかった――
――夢を、諦めるしかなかった――
――能力にあこがれて、結局ダメで……でも憧れは捨てきれなくて――
――どれだけ努力しても才能の壁が邪魔をする――
――強いやつに虐げられ続ける毎日なんか嫌だ――
――ただ、皆と同じ世界を見たいだけなのに……それも、許されないのかな……?――
……レベルアッパー。木山先生の言葉が正しければ、それの使用者は一万人にもなるって――。
頭に響いてくるこの声は、きっとその人たちの叫び。心からの、叫び。
今まで、その人たちが何を考えてそんなものを使っているのか……正直分からなかった。でも、今なら……少しだけ分かる気がする。
バーストに電撃を放つたびに、レールガンを撃ち込むたびに――聞こえてくる、届いてくる声が次第に増えていく。自分達の憤りをぶつけてくるような荒々しい攻撃も、また同じようにその密度を増やしていくし。
「ねぇ――深音、アンタにも……聞こえてる?」
「はい。しっかりと。……美琴さんにも聞こえていましたか」
さっきから深音は、なにかに躊躇うように攻撃していない。思いっきり斬り込めるような隙があっても――もう、右手から剣を出す気配もない。
そして私も、大分レールガンを撃ってない。ううん、撃てない。深音が何かをこらえるように唇を噛み、手を握りしめていて、私も同じ感じで――私達はただ、防御に専念しているだけ。
コイツにもこの声は聞こえてたみたいで――きっと佐天さんとのことを、思い出しているのかな……。最後の声、あれは間違いなく佐天さんの声だったし。
『皆と同じ世界を見たい』
……そんな悩みを、抱えていたんだね……佐天さんは。
そして、段々私達を標的としていない、むしろ何も狙っていないような、攻撃の嵐になる。当り散らすような破壊をただ繰り返す『皆』は、どこか……苦しんでいるようにも見えた。
「まだ、時間はかかるみたいね……」
初春さんたちのほうを見ても、戦っている最中に結構動きまわっちゃったから相当離れてる。何をしているのかはわからないけど……でも、なんの変化もないってことは、まあ、そういうことだろうし。
――お前なんかにわかるもんか――
――邪魔しないで――
――力を見せ付けて楽しいのかよ――
「コレが、皆の悩み……」
ずっとずっと心の中で溜め込んでいた、思い。
「……深音、ちょっとだけ、お願い」
無言で頷いてくれた深音は、私を後ろにして半身で構えてくれた。……ごめん、わがまま言って。でも多分、これは私がやらないといけないことだから。
眼を閉じて、一つ一つ、聞いていく。不安や、不満を、全部。
誰かに言っても相手にされなくて、誰にもいえなくなっちゃった言葉。
でも誰かに聞いて欲しくって、心の中で叫び続けて――。
……そっか。
「……頑張りたかった、のよね?」
その言葉に、その思いに。誰かに気付いてほしくて、それでも気付いてもらえなくて。
努力をしたくても、努力の先に才能の壁を見せ付けられちゃって……。
バーストの……皆の行動が止まる。発動されかけた能力は放たれることなく消えて、深音に打ち付けられようとしていた腕は力なく地面に垂れた。
――ああ、そう、だよ――
――頑張りたかったわよ。頑張って、――
――それでもダメだった――
――それでも、諦め切れなくて―
――……みんなと、一緒の場所で、同じものを見たくって――
「でも、だったら……もう一度、頑張ってみようよ。こんなところでクヨクヨして立ち止まってないで――自分ひとりで背負い込まないで――もう一度!」
これはね、皆に向けての言葉なのよ。コイツと私が知らない、それでも助けたいの願った人たちへ向けての言葉。
んでもって――
「ごめんね、佐天さん――気付いてあげられなくて。けどね……それでも私は、やっぱり言うと思うんだ。『能力なんてどうでもいい』って」
――え……――
こっからが佐天さん宛。……しっかり、受け取ってよね。
「能力なんて、関係ないでしょ? 友達と一緒に遊んで、泣いて、笑うことに……さ。だから……!」
左手を伸ばす。誰かの手を引くように、佐天さんに。
深音もアーマー越しの右手を、佐天さんへ伸ばしてくれた。
「……一緒に、帰ろ? 皆で、皆のところに……」
……佐天さんの返事だけど、実は聞くつもりない。
寂しそうにしている、辛そうにしている。
そんな手を放っておく、私達だと思う?
『深音っち! コッチの準備終わったじゃんよ!』
深音の
『貸せ! 聞こえるか深音くん。木山だ。レベルアッパーのアンインストールで意識不明者とのそのバーストとのリンクは切れる。だがバーストそのものが消えるわけじゃない……肥大化が抑えられた程度で再生能力は健在だ――寧ろ暴走度合いはリンクが切れて子供達からの思念がなくなった分、上がるだろう』
肥大化しないだけマシ、と思えばいいのこれ?
再生能力が健在っていうのはなぁ――ちょっとキツイかも。
「なんか弱点とかないの? 私と深音でも、さすがに一気に消し飛ばすとか無理よ?」
『それなんだが……バーストのどこかに、力場を維持させる核があるはずだ……憶測だが……』
あるだろう場所は不明。そもそもあるのかどうかも不明、っと。
「……だ、そうよ。深音。なんか問題ある?」
「? 問題がありますか? 私的には佐天さん達とのつながりがなくなったという利点しか見えませんけど」
あー、ダメだ。
コイツ、私と同じ考えだから意見交換が出来ない。
佐天さんたちとリンクしている分、やっぱり躊躇ってた部分がどこかにあった。でもソレがなくなる、ってことは。
『いや、聞いていたか深音君? 凶暴性が増すということはより攻撃が激しくなるんだが――』
「「なら、
足止めはもう終わり。
……さっさと終わらせて、皆で帰るんだから。
***
「……コレが木山先生の言っていたアンインストールの曲ですか……なんというか、不思議な音色というか」
「こう、聞きたい! っとは思えないわね。ま、コレで佐天さんたちが眼を覚ますんだから文句はないわ」
都市部から聞こえてくる、さまざまな音階の電子音を合わせたような音。それを背に、私と美琴さんはバーストの前で、その効果が表れるのを待っています。
「あ、そういえば美琴さん。ひとつ相談があるんですけど……」
「ん? 何よ改まって、今さら『ここは私がやりますー』とかいう内容じゃないでしょうね?」
あ、いえ。その点は諦めてます。はい。
そうではなく――
「……佐天さんに、私のことを話そうと思います」
「……そっか。うん、そのほうがいいわよ、絶対……あれ? でも相談って何よ? 報告なら分かるけど」
はい、相談です。報告ではなく。
「いえ、この姿を思いっきり固法さんにも見られてますよね……?」
「あ」
しかも殆ど動揺していない初春さんと美琴さんもばっちり見ているでしょうし。『自分だけ知らない』という佐天さんと同じ状況な訳でして。
アンチスキルの特殊武装、って説明は――通じそうにないですし。
「一緒に説明するべきでしょうか? それとも個人的に説明するべきでしょうか……?」
一緒に説明すれば、普通に考えて一度で済みますから二度手間にならずに済むんですけど……なぜかそういう問題じゃないと思えてしまって。
かといって、固法さんと佐天さん。どちらから説明すればいいんでしょう?
「そ、そういうことは自分で考えるべきよ! うん!(答えられるわけないでしょそんな難題!?)」
「ですよね――むぅ」
固法さんと佐天さん、どちらも大切な方ですし、やはり一緒に説明するべきでしょうか、ですが、佐天さんには『約束』がありますし。
むぅ……。
「ほっ、ほら! そろそろ用意しないさいよ! 来るわよ!?」
っと、いけません。確かに大切なことですが、目の前のことに集中しませんと。大人しかったバーストは、どこか苦しむそぶりを見せたあと再び沈黙し……雰囲気、といいますか。それがガラリと変わる。
ギョロリと開いた無数の眼で、私と美琴さんを捉えた。
そして、おおよそ生き物が出せるとは思えない絶叫を上げて、木山先生の言葉通りに先ほどまでの比ではないほどの密度の攻撃の『弾幕』。
……回避は難しいですね。
「なによ? この程度?」
「全くです」
ですがまあ、ものの数ではありません。用意の必要もありません。美琴さんが大量の砂鉄を唸らせ、身動きひとつせずに迎撃。
私もリミッターを外したレーザーソーの一振り。
それで数百には上るだろう能力攻撃と、同数程度にはあるだろう腕を無力化できます。
「ってか何よその剣? 今いきなりブワーッて……」
「正式名称、高過出力レーザーソー『オーバー・エンド』……です。今まで出力を限界まで抑えていたんですよ。抱えてた美琴さんが本気で危ないので」
高出力、ではなく高『過』出力。ええ、何を斬ろうとしていたんでしょうかね、開発者は。
美琴さんのいう『ブワー』というのは、範囲を限界まで広げて振ったからですかね。最大距離は10mくらいにはなりますし。
「全く、危ないけど頼もしいわ、ねっ!」
今度はこっちの番だというように、美琴さんが電撃を、バーストを飲み込むように放出する。
しかし、バーストの表面に不自然な電界の流れが発生し、美琴さんの電撃はそれに誘導される。それは想定済みだったのか、悔しそうでもなく苦笑しているだけ。
「木山先生の時には出来なかったけど――コレ、ならッ!! どうだぁッ!!!」
電流が、そして電圧が一気に跳ね上がり――もはや電撃などという言葉では生ぬるい、雷撃がバーストをバリアごと飲み込んでいく。バリアで雷撃から守られているはずのバーストの体は、表面から焼け焦げ、ボロボロと崩れていく。
10億ボルト、流石ですけど――。
「美琴さんも隙だらけですよ、っと」
「ちょ、なに……!?」
ええ、雷撃に隠れてバーストもしっかり反撃してたんです。まあ、私からは丸見えでしたけど。
美琴さんを抱えて跳んだ直後、太い腕が何本も殺到して地面を砕く。いえ、膨れないでくださいよ美琴さん。危なかったのは事実なんですから。
バーストは全身の同時再生は流石に時間がかかるのか、焼かれた部位の再生は難しいのか――。
一部を除いて、再生が遅い。
そしてその部分から広がるように、全体が再生していく。
「……あれだけの大きさですから、今の攻撃で削りきるのは難しいですよ。……それより、美琴さん」
「さっき言ってた核、ね。場所的に言うと丁度心臓の当たり。分かりやすいっちゃあわかりやすいけど――狙ってみる?」
狙わないと長引くだけですよ?
「……美琴さん、正直に答えてください。余力はどの程度残ってますか?」
「――全力で撃つなら後レールガン2発、ってところね――さっきのでかなり消費しちゃったし、そもそも残りのコインも二枚だし……だぁ! 作戦タイムくらい取らせなさいっての!?」
作戦タイムを取れる相手って最初から――まあ、取れないですけど、その分大きな声でやり取りしても手の内が伝わらないと考えましょう。
しかしレールガン2発、というのは少々心許ない……急がないといけませんか……。
「では――次は私です、ね!」
一気に接近し、バーストの巨体を駆け上がる。そして美琴さんが言うには心臓の位置、いや、人体とは程遠い形なんですけれど……先ほどの再生が最も早かった部位を、両腕のオーバー・エンドで『削り取る』。
そして、三角柱状の、明らかにバーストの一部とは思えない無機質な物体を確認しました。
いえ、確認できてしまったというのが正しいですね。オーバーエンドの最大出力に耐えられるだけの強度がある、ということですから……。
零距離にて三連射のレールガンを放っても、何かバリアの様なもので阻まれて――弾丸が威力を失って地面へと落ちる。
「っ、美琴さん!」
悔しくも思いますが、私の役目はここまで。『核の確認』と『さらけ出すこと』は成功しました。
美琴さんも意図を感じてくれたのか、最後の二発のうちの一発を躊躇いなくチャージ。そして、私が回避したところで、美琴さんの最大攻撃力を誇るレールガンが大気を切り裂き、三角柱の物体へと迫る。
――コインが融解し、レールガンとしての威力を失って消えるまで、核は残っていました。
美琴さんの隣りに降り立ちますが、トドメの一撃と考えて相当電圧をかけたのか。美琴さんから感じ取れる電気量がもう殆どありませんでした――今の美琴さんでは手加減したレールガン一発がギリギリ、といったところでしょうか。
「嘘でしょ……!?」
これで、私の最大威力と美琴さんの最大威力。そのどちらも防がれてしまったわけですが――。
「私のレールガンもしばらくは使えません、オーバーエンドも高過出力状態はしばらく使用不可ですね」
大きく削り取ったのが幸いしたのか、それとも核と触れていないからなのか。バーストの動きが鈍い上に再生も遅い。
しかし、私の主だった武装はチャージ&冷却中。美琴さんに至っては電力切れ一歩手前。
「……いや、ですねってアンタ……! もうちょっと焦りなさいよ!? アンタの一番強い武器も防がれたんでしょ!?」
まあ、確かに私の最大威力と美琴さんの最大威力、そのどちらも防がれてしまいました。
「ええ、防がれました。最大威力の武装はまだ修理が終わっていませんので、現時点ではオーバー・エンドが最強武器です。ちょっと悔しいですね、やっぱり」
――美琴さんが険しい顔のまま、疑問を浮かべています。まあ当然でしょう。手立てのない危機的状況。
そんな中で、不謹慎に笑顔を浮かべている私は、ひどく場違いかも知れません。
「一人でダメなら、二人で――ですよ。美琴さん」
「さっきの一緒に撃ったレールガン? って――ならさっさと言いなさいよ!? 弱音言いたくないけど全力で撃てるだけの余裕はないわよ!?」
息を切らしながら詰め寄ってくる美琴さん。ですが、先ほどのツイン・レールガン? でしたっけ。それじゃあないんですよ。
美琴さんを落ち着かせて、バーストに向き合う。
「――美琴さんの超電磁砲は、電圧に物を言わせたいわば擬似的なものです」
「えと、深音?」
本来、超電磁砲――レールガンという兵器は、偶数本の
しかし、美琴さんのそれにはレールガンの所以たるレールがない。レールを介さず電磁誘導力場を発生させ、コインを加速させているわけです。
超高電圧と電子の精密操作が可能な美琴さんだからこそ出来る荒業といえるでしょう。
……肩の装甲を展開――両腕のパーツに接合し、更に展開。
自分の全高の二倍を優に超え、塔の様に真上に伸ばした双腕を下ろし、ターゲットロック。
「では、ここで問題です。……美琴さんのレールガンに、正しいレールガンの構造機構を合わせたらどうなるでしょうか?」
「はは……なにが『私の最強武器はオーバーエンド』よ……とんでもない秘密兵器じゃない……!」
理解した美琴さんが私の前、二本のレールと化したその間に入りこむ。そして再び顔を驚かせ、私を笑いながら睨んでいた。
「……これもアンタの隠し玉?」
「……隠しておいたわけではないですけどね?」
美琴さんの消費した電力が、少しずつ回復していく。
私の発生させている電界が、電流が、美琴さんへ流れていく。――私が美琴さんから漏電する電流を自分の集めていたものの応用です。
『電撃使いから電撃使いへの電力供給』――いわば、私が非常用のバッテリーというわけです。
さて――学園都市謹製の軍用機動駆鎧『ストリームライン』の真骨頂。
特と、ご覧に入れましょうか。
「――レール内電圧、臨界。電磁誘導正常稼動。ターゲット補足完了。射撃タイミングをパートナーへ譲渡……これで、私の手は終わり。最後の仕上げ、お願いします」
いまだ再生に手間取っているバーストに、私たちを止める手立ては、あるはずがありません。
「――木山先生が言ってたわね……『電撃使いの天敵は電撃使い』って……あれ、確かにそうかも知れないけど、もう一個付け加えときましょ『
ずいぶんと嬉しいことを言ってくれた美琴さんが、両手にコインを構える。恐らく無意識で反動の強さを察知したのか、背を私に預けました。
……撃鉄は起こされ、引き金に指はかけられた。
阻むものも、止めるものも無し。
「いっ、けぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!!!!!」
裂帛の気合とともに放たれたレールガンは更に加速。眩いばかりの光と轟音を纏い――私たちの知覚できる速度を超えて、バーストの核に直撃した。
鈍く、そして高い音が響きわたり、核と光は――防御力と破壊力を拮抗させる。
しかしそれは僅かの間。 光は核をバーストの体外まで押し出して遠く遠く撃ちあがっていく。
……そして、ガラスの砕けたような、澄んだ破砕音とともに――光も核も、砕け散った。
核を失い、消滅していくバーストを、地面に座り込みながら見上げている私と美琴さん。
……正直、疲れました。ええ、だってまだ木山先生に打たれた麻酔が残ってるんですよ……まぶたが重いこと重いこと。
「あー……やっと終わったー……そだ、深音。『コレ』に名前ってあるの?」
どこか期待をするような顔で、レールのままとなっている私の腕を叩く。
「いえ……あるにはありましたけど、とんでもなく長ったらしいものだったので――忘れました」
忘れたという私の言葉に……そっか、と呟いて、にっこりと笑う。
「じゃあさ、私が名前、付けてもいいかな?」
「拒否する理由がありませんので、ご自由に」
既に考えていたのか、とくに考えるそぶりはなく。にっこり笑顔のまま。
「『ストリーム・レールガン』――なんてどうよ?」
とりあえず、ビックリするほどまともでカッコいい名前に頷いて返す。やった、と喜ばれたので良しとしましょう。
さて、と。まだ正直座っていたいですが――そろそろ行きましょうか。
約束、してしまいましたからね。守らないといけません。
***
――夢の中で、言われた言葉。
誰に言われたのか、何を言われたのか……あいまいでどっちも覚えてないんだけど、それでも、そう言われて……本当に嬉しかったのだけは覚えてる。
なんか不思議な、なんていったらいいんだろ。久しぶりに自分の体に戻る……ような感じ? ごめん、アタシもよくわかんないや。
(知らない、天井だなぁ……あ、これってネタだったり?)
まず間違いなく、アタシの部屋じゃないことは確か。まあ、状況からして病院かな。私も意識不明者っていうのになっていたわけだし、多分一緒の病室の人の寝息も聞こえるし。
意識不明者、レベルアッパーを使った、副作用。
……謝らないと、いけないよね。絶対怒られるだろうけど、これだけは絶対謝らないといけない。――考えるだけで気が重いし、気が重いせいでなんか体まで重いけど……皆に、ちゃんと言わなきゃ――……
「……っていうかちょっとまって? ホントに体が重いんだけど……?」
気分とか精神的とかそういうんじゃなくて本当に体が重いよ!? え、アタシってそんなに筋力とかなくなるくらい意識失ってたの?
……結構本気で焦って、周りを確認しようと思ってやっと気付いた。
ここ、病室は病室でも、『個室』なんだ。それで、さっき聞こえた寝息。
右側に、アタシの体を押しつぶすようにして抱き枕にして寝ている初春がいた。でもって、左側には御坂さん。近くの椅子には白井さんが座って、二人とも寝てる。
でも、聞こえる寝息はこの三人だけじゃない。
初春を起こさないように、首を動かせる範囲で動かして、周りを確認していく。
壁際にある長椅子に座って、頬杖を付いている固法先輩。同じ椅子で反対端にいる木山先生。
アタシの寝ているベッドに背中を預けて、床に座り込んでいる黄泉川先生。ともう一人のアンチスキルの人。
みんな全員、服とかボロボロで、顔もドロとかで汚れて……すんごい大変なことがあった、ってことしか分からない。窓の外を見てもまだ夕方くらいなのに、コレだけ疲れて眠っちゃうくらいに疲れて果てて。
それで、見える範囲をどれだけ探しても、部屋中見回しても……一人だけ見つけることが出来なくて……アタシは自分で自覚できるくらいに、がっかりした。
「……おはようございます、の時間にはちょっと遅いですよ? 佐天さん」
――うん、アタシ本当にわかりやすいね。あー……いいや、もう。わかりやすくていいや。
扉を開けて入ってきたのは、両手に何枚ものタオルケットを抱えた、深音さん。
いつもの執事姿で、いつものあのホッとする笑顔で。
「あの――私皆に「その前に私から、いえ、私たちからですね。一言あります」……はい」
笑顔から真剣な顔になって――抱えていたタオルケットをひとまず置いて、ベッドのすぐ脇までくる深音さん。――怒られる、よね?
真剣な顔は――またあの笑顔に戻って――
「……おかえりなさい。佐天さん」
……アタシの涙腺って、こんなに緩かったのかなぁって思えるくらい、ボロボロ涙が出てきた。深音さんがそれに苦笑して、何度も何度も、拭ってくれて。
「ただ、いま……です!」
そう返せたのは、騒がしくなって、御坂さんたちが起きだして――アタシを泣かせたって誤解された深音さんがオロオロしだしてからだった。
――うん、ここが、アタシの帰ってくる場所なんだ。
それがいま、心から言えるし……心から、想える。
《 おまけ 》
「ちょっと深音!? アンタ佐天さんに何したのよ!?」
「女の子を泣かせた罪は重いじゃんよー深音っちー」
「い、いやだから違います! 冤罪です! 私はただ『おかえりなさい』と≪カシャリ≫……?」
「へへ♪」
オロオロしまくるレアな深音を、しっかり保存した、少女がいたそうな。
読了ありがとうございました!
データが一度飛んで一から書き直しておりました……。
これにて、大きな節目のひとつ。レベルアッパー・AIMバースト編の完了です。
お付き合い頂き、ありがとうございました。
誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。