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何がおかしいのかは、ほんぺんを ご覧ください。
「おらもっときびきび動けっつってんだろうが!! 倉庫の中でも何でもいいから掻き漁って持って来い!!」
「しゅ、主任! ですが今夏の新モデルは全部他所の貸し倉庫に――」
「ヴァカが!! 今年の新モデルじゃなきゃあんだろうが!! それに他所にあるなら走るなり車捕まえるなりして取って来いっ!! ああ、申し訳ありません。ここでしばらくお待ちいただけますか?」
二重人格。その言葉が脳裏を過ぎったのは果たして何人いただろう。
部下と思われる数名に怒号を飛ばしつつ、瞬間的に人当たりのいい笑顔に変えて接してくる女性を見て、美琴たちは呆然としていた。
湾内と泡浮の案内で連れてこられた、大手水着メーカー。学園都市から日本全国、いや世界各国に向けて最先端が発信される場所――とのこと。
そこは今、起業以来初ではないかと社長に言わしめるほどにばたついていた。
「何着確保できたぁ!?」
「よ、40着です!」
「少なすぎるわドァホゥ!!!」
……ついでに、ここまで怒号が飛び交うのも、初めてだろうとも言っていた。
「――なにやら、大変なことになってしまったようですの」
「いや、黒子。なに『自分は傍観者』みたいな発言してんのよ。アンタも当事者よ?」
美琴は暗に現実逃避するなと言っているのだが、逆に黒子に半眼で見られてしまう。
「この状況、大半がお姉様のせいだーということお忘れではないですの……?」
「うっ……」
この状況。つまり、この企業の社員が慌しく駆けずり回り怒号を交わしている今現在なのだが――美琴が直接的に何かをやらかした、ということではない。デザインに納得いかず放電して水着をダメにしたということでもなく、撮影機材を軒並み昇天させた……ということでももちろんない。
直接的ではなく、間接的な主犯が美琴なのだ。
「佐天さん。私、初めて頭の中で『ドナドナ』が本気で流れました――」
「いや、売られてないからね深音さん。市場に連れてかれてないからね深音さん。……でも否定が出来ないんだ、アタシ」
イスに、膝を抱えるようにして座る初春と佐天は、ボケーっと深音が連れて行かれた扉の方を眺めている。
泡浮と湾内がそれを苦笑するように眺め、大人しく座って待ち――ジャージ姿の固法と、季節感のない着物でガッチリ着込んだ婚后 光子。
いずれもタイプの違う美少女達が勢ぞろいしているのだが―― 先ほどが言われている通り、一人欠員があった。
「……どうして深音君を連れてくるのよ……女子の水着モデルで呼ばれてるのに」
そんな固法のその言葉は、他の誰でもない、一人に向けられていた。具体的に言うとぐむ、と唸り声を上げた一人に。
そして説明しないとまずいかな? と考えた泡浮と湾内が互いを見合い、説明を始める。
「えっと、一応深音様は『女性を被写体にした撮影に自分が行くのは』とここに来られるまで言っていらしてのですけど……」
「御坂様が『大丈夫、何とかなる』と――その……」
「お姉様……ここばかりは深音さんの意志を尊重してもあげても良かったのではないですの?」
拒否する深音が想像でき、何とかなるさ精神でそれを引き摺ってきた美琴も想像できた。
当然、企業としては美琴たち、つまり女の子しか来ないと考えてビキニやワンピースタイプ……早い話が女性ものの水着しか用意していなかった。しかし、そこに深音がポンと現れたのである。
責任者である女性の目が、即座に深音を上から下まで観察。そして顔を凝視、髪質をチェック→怒号。そして冒頭となる。
同僚や部下に対して男性用の水着をかけ集めろと叫んだのである。そしてその被害者――否、駆けずり回る社員はネズミ算式で増えていった。
チラッと『超一級の素材』『ボランティアではありえないレベル』などと聞こえた八人は、涙ぐましい企業努力を現在進行形で垣間見ていた。
そして、深音が拉致されて20分が経っただろうか。やっと美琴達の案内を
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
心のどこかが、思いっきり刺激されている八人。
それは、目の前に広がる可愛い水着に心惹かれている――訳ではなく、これから自分の水着姿を撮られるという気恥ずかしさ――でもなかった。
刺激されたのは……女の子としての、プライド。
何だこのおまけのような扱いは……!! という、嫉妬のような怒り。
「……悔しいわよね?」
固法の言葉に、六人が神妙に頷く。
20分間見向きもされず、というより「あっ……」と担当に言われたとき、確実にプライドに強い一撃を喰らった。
誰のせいでこうなった、などという責任追及は後にして。
今なすべきことは、企業と深音に自分達の存在を、再確認させることである。
「あ、あの――ところで。深音様ってそんなに、その――凄いんですか?」
湾内が顔を赤らめながら、そんな質問をしてくる。彼と話すきっかけとなったプール掃除では終ぞ着替えることはなく――普段も重ね着した執事服の上からではスリムな体型としか思えないからだ。
泡浮は隣りからの発言に顔を真っ赤にし、しかし興味は捨てきれないのか耳を大きくして返答を待つ。身内である美琴ならば知っているだろうと思っていたのだが――。
まじまじと思い出した美琴が、顔を真っ赤にしているのを見て驚愕する。
「ちょっと待ってよ!? 妹の御坂さんまでそんなになっちゃうの!? ……いや、まあ凄い力持ちなのにあのスタイルから考えれば……」
(……私、上裸に近い写メあるんだけど……言わないでおこ)
具体的に言うと、深音がインナー姿(脱ぎ女事変)の時と、ストリートファイター風(私服選抜大会)の時。
あれから更に露出が増えるのを想像すれば――。
「ぐっはぁぅ!?」
「い、いきなりどうしましたの!? 吐血ッ――あ、あら、今確かに赤いものが見えましたのに……」
幻を見せるほどに打ちのめされた佐天を婚后が受け止め、なにやら疑問符を上げている。……いまだノリには付いていけないらしい。
そんな、もはやカオスとしか言いようの無い空間で、意外な人物が淡々と水着を選んでいた。女子としてそれほどプライドも傷つかず、八人の中、固法の言葉に唯一頷かなかった彼女――
「……とりあえず、皆さんさっさと着替えてはいかかですの?」
彼女だけが、この場のイレギュラーであった。
***
シンプルな黒。それは、彼の髪・瞳と調和を見せ、肌のきめ細かさをより引き立てるだろう。かつミステリアスさも忘れない。
深みのある蒼。それは、水辺では殊更映えるだろう。落ち着きのある色意が、彼に年齢以上の大人の魅力をつけるに違いない。
情熱的な紅。それは、夏の暑さを強調し、また彼の熱情を見せつける。きっと火傷では、済まされない。済まさない。
穢れのない白。それは、彼の清廉さそのものではないか。肌ではなく、美しい黒髪や黒瞳を映えさせるだろう。
タイプは決まっている。際どいブーメラン……ではなく、膝下まで丈のある、所謂ボクサータイプの水着。コレは満場一致で可決された。
しかし、問題は色。カラーリングなのだ。下手な柄物は魅力を損なうとすぐさま却下され、装飾の少ないものー、シンプルな柄物が残された。メインカラーで、大きく四つに派閥が分かれたのである。
ちなみに、上の四色の説明は各派閥のプレゼンだ。
「おらテメェら引っ込め! 今回の担当は私なんだから私が決めるのが筋だろうが!!」
鼻息も荒く、眼も血走った女性が四人の討論が続く中、今日の担当となった女性(黒推し長)が吼える。それに他の三人は強く出ることができず、黒が一歩リード。
「で、でも貴女が呼んだの常盤台の子達でしょ!?」
「彼はその子達と一緒に来たってんだろうが!? ああ!? 別扱いとか失礼なことほざいてんじゃねぇぞ!?」
黒派閥が更に一歩リードし――。そして……
「――お待たせして大変申し訳ございません、協議の末決まりましたので、こちらでお願いします」
「……え、あ。はい、ありがとうございます?」
他の競走馬にとてつもない差をつけて、今一着でゴールイン。
(いや、変わり身早過ぎだろ主任……)
(アンタ知らないの? 主任元ヤンよ? 頑張って矯正したみたいだけどたまに出るから。あっちが地よ絶対)
主任には聞こえない声でも、深音にはしっかりと聞こえている。しかし、元ヤンという言葉が何なのか分からない深音には意味のないものだった。
「……あれ?」
手渡された水着は、当然黒のボクサータイプの物。
――だけではない。明らかに水着だけという容量をオーバーしている布面積の物をもう一枚、手渡された。
……接客用の笑みの中に、にやりとした笑みを浮かべいる主任。そしてふと見れば……他の三色を推していた三派閥の長たちも、にやりとした笑みを浮かべている。
深音の直感が告げていた。
この人は、この人たちは
水着は分かる。しかし、二枚目が分からない。薄いが折りたたまれた回数を見るとかなり広いもの。分からないだけで危険性や奇抜性はなさそうだが――。
にこやかな笑みを浮かべた主任に先導され、個室の更衣室へ――色もタイプも、全く自分の意見を尊重されなかったことに、深い深いため息をつきながら入っていった。
執事服をしわにならないようにハンガーにかけ、メインである水着を着用。
そしてもう一枚……。
「着替えが終わりましたら、そちらの扉から進んでいただけると撮影ルームになります。……くれぐれも、全部着てくださいね?」
「――分かりました」
畳みなおして地面に置こうか、というタイミングで声をかけられ、もう覗かれていても驚かない心境の深音。
……意見も聞かれない、逃げ場もない。
ならば、立ち向かうしかないと決意を固めた。
そして扉を開け……直後、野太い女性の雄たけびが十数名分、ビルのロビーから社長室に至るまで聞こえたそうな。
《 おまけ 》
「っ!?」
「……いきなり立ち上がってどうしたじゃんよ?」
「いや、何やら私の存在意義が脅かされたような……」
「何を言ってるのかさっぱりなのです。――あ、それよりも! 常盤台は深音ちゃんを独占しすぎなのです! この前聞きましたよ!? もう殆ど社会人並の就労時間なのです!」
「いや、あれはだな……」
こんなやり取りも、あったそうな。
読了ありがとうございました。
おかしいところだらけな上に対して進んでないという始末……。つなぎということで、なにとぞご了承を。
誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。