step1 海で遊べ。
ビーチバレーに興じ、砂で作り上げた城に初春を埋め込み、ハンモックでうたた寝。黒子を投げ飛ばす。やしの木に頭を打ち続けて自分の失言に後悔していてもまあいいだろう。怪我をしなければなんでもいい。
step2 プールで遊べ。
泳ぐ前の準備運動。良い子は必ずやりましょう。間違ってもそこからプロレスに転じないように。プール際のイスに深く座り、時折吹く風に涼めば涼。開き直ってプールの水面を走っても涼……?
step3 クルーザーに乗り込め。
海へ来たなら沖へも出てみては? 免許がなくともご安心の自動操縦。海風に髪を揺らし、そろそろ気になるあの人へアピールしてみては? とストロー二本ざしのジュースをご用意。ジュースは先ほどの撮影料でゲフン。
step4 雪山へゴー♪
「なんでさ!?」
Go……ではなくまさしくゴォォォォと鳴り響くは、吹雪の轟音。温暖化は一転し寒冷化である。当然水着という防寒性ゼロの着衣でいていい世界ではない。
「きゅ、急に寒くなりましたけど――さ、寒過ぎでは?」
「雪山というやつですね……まさかあの着流しが役に立つとは……」
一気に零下まで下がった気温は容赦なく。深音以外の八人は身を寄せ合って暖をとろうとしていた。ちなみに、深音の着流しは早々に八人の風除けとして使われている。
「しかしこれは……まさか美琴さんのカキ氷発言で……?」
「
「(シロップあれば食べるのね……)み、深音君? あ、あなた寒くないの?」
着流しは美琴に奪われ――る前に、深音の手によって風よけとして提供されている。八人の塊の外で、一人平然と立っている深音を見れば固法の言葉も、当然のものだろう。
深音はしばらく風上を眼を細めながら眺め……特に震える様子も、寒がる気配もない。
「寒くないといえば嘘ですが、まだ平気ですね」
「おおお男の人って女の人より寒さに強いんですかかかか?」
寒さで歯がかみ合わない所為か、意図せずラップ調になってしまう初春。佐天は元々冷え性でもあるのか、早くから初春にしがみついて暖をとろうとしていた。
「き、筋肉量はそのまま=で熱量の計算だから男の人がみんなそうって訳じゃないわ」
固法もガタガタと震えながら知識を披露。
……ちなみに熱量は筋肉であるが、寒さに対する耐性は脂肪分のほうが高い。平均的に脂肪分が多くなる女性のほうが寒さには強いはずである。
「しかし流石にこの寒さはマズイで――」
step5 砂漠横断
「……すが、今度は――砂?」
雪山の景色は変貌し、砂の山へ。
しかし、最初の海に出てきた砂浜のような優しいものではなく……灼熱の砂漠だ。
「……今度は暑い!? ってか地面あっつ!?」
寒さの次は暑さと熱さ。足の裏が火傷するのではという熱量に全員が跳ね回り、これも深音の着流しを地面に敷くことで事なきをかろうじて得る。
八人がギリギリ納まる範囲なので、深音は砂の上なのだが……。
「……なんで、アンタは平気そうなのよ……?」
寒さの次の強烈な暑さにうだる美琴たちに対し、平然としている深音。全員が何でという表情で深音を見ているが、平気なのだから平気だと返すしかない。
「さっきは『火が欲しい』って思ったけど――」
「こ、今度は水ですねーうぶわぁ!?」
不意打ちstep6 荒海を制覇せよ。
いきなりの船上。しかも大嵐の真っ只中。
「う、初春が波にさらわれ――……てない!?」
立つこともままならない甲板。そのうえを疾走し、投げ出される直前に初春を掴んだ深音。そのままマストにしがみつく佐天の元に運び――再び平然と立ち上がって八人全員の無事を確認する。
「だから何でアンタは平然と立ってんのよ!?」
そしてついに美琴がキレた。深音はなんら悪いことひとつしてはいないと理解していても、理不尽なことに変わりはない。
「――いえ、今回は私だけじゃないですよ?」
ほら、と指差したのは船頭。そこには仁王だちする婚后が、巨大な魚を掲げていた。
「カツオ獲ったどぉぉぉぉぉお! ですわ!」
「それはスマガツオです! に、西日本では『やいと』って呼ばれて――」
「そういうのどうでもいいってば! なんで二人とも平然と立ってられるんですかぁ!?」
何故だと問われた二人はしばし互いを見合い、親指を互いに立てあってナゾの一体感を見せた。
その直後に、何度目かの地図移動。
「や、やっと普通のところに来れた様ですね……」
「そ、そうですね……見てください、ほら綺麗な星空ですよ」
荒れた白っぽい大地。草一本無い荒野だが、夜空と満天の星空が、視線を地面になど向けさせず……。
「アタシの眼がイカレてなければ、……
step7
「あは、あははは……月面かい!!!」
月にウサギはいましたか?
……地図移動どころじゃないと文句を言うべきか、真空状態じゃなくて良かったと喜ぶべきか。
「……海外旅行の前に宇宙旅行してしまうとは」
通常であれば宇宙へ行くために海外へ渡るのであしからず。
『す、すみません。なにやら撮影機器にエラーが出てしまいまして――さっきの撮影で無理な使いかたしたからか――、あ、いえ、とりあえず、調整しますので一度景色を変えますね』
主任の言葉にはいろいろ突っ込みを入れたい面々だが、そんな余裕は彼女達にはない。今度はどこだ? とどんな環境が襲い掛かってきても即座に対応できるように、腰を低く身構えている。
星空が、荒れた月面が一瞬乱れ――地球しか色彩のなかった世界が、原色の世界に。
森があって、芝生が広がり――先ほどまでとは比べようもないほど穏やかな空間に、身構えていた一同は異常はないかとすばやく眼を走らせ――結局何もなく、肩透かしを受けていた。
大きなテントの横にはかまど場。そしてかまど場の机の上にはさまざまな食材が並んでいた。
「……キャンプ場?」
「の、ようですの。まあ、雪山で横穴を掘って過ごすより砂漠でオアシスを求めてさまようよりずっと楽ですが――あら?」
水着姿の九人の下に、主任がひょっこり現れる。立体映像なのか、全身が透けて反対側が見えていた。
『すみません、調整に思ったより時間がかかってしまいそうで――昼食をこちらでご用意したので、しばらくお待ちいただけますか?』
そのまま薄れて主任の映像は消え……誰かが幽霊のよう、と呟いて苦笑を誘っていた。
step - キャンプ場で昼食!
「――それで、用意された食事、だけど……これは作れってことかしら」
屋根と多少の壁。あとは何の隔たりもない換気性抜群のかまど場に並んだ食材。肉や魚が多く、野菜はとうもろこしや玉ねぎなど。調味料は塩と胡椒、そしてなにかのタレ。
そして、大量の鉄串。
「――ってこれ選択肢一つしかないじゃない。ま、まあ嫌いじゃないけど」
肉があり、魚があり、野菜があって鉄串がある。キャンプ場というシュチュエーションで考えられるものはひとつしかないのだが……。
「あの、御坂様? この鉄のお箸? で食べるのでしょうか?」
「食べるだけで疲れてしまいそうですわね……」
「お皿もないようですし……」
「あー、こういうところで格差を感じるわね。簡単に言うと、焼肉よ。鉄串にお肉とか野菜をさして、それを直接火で焼いて食べるのよ。バーベキューって聞いたことない?」
固法の問いの返答は、名称自体を知らなかったり、コレがそうなのかと興味津々であったり、知らないのに知っていると見栄を張ったり……。
「バーベキューなんて学園都市に来る前以来ですよアタシ! お肉に魚! ……あれ、でも炭も薪もないんですけど、どうするんです?」
そういえば、と周りを見渡してみるが、それらしい一式は見当たらない。
……調理に最も必要なものがかけていたという。
それを伝えて、『あっ……』と以前聞いたことのあるような言葉を聞き、山のような食材を前に、腕を抱える五人がいた。バーべキューとキャンプを知っている面々だ。
バキッ、メキッ……ドサァ……
「私の電気で焼けないかな?」
「焼けなくもないでしょうけれど……こう、情緒というか、ねえ?」
「直火焼き食べたいですよそりゃ――でも、火がないですし――」
「ですねぇ……更に贅沢するなら、夜に焚き火で、って感じですねー」
パチ……パチパチ……
「「「「「……」」」」」
「これが焚き火というものですか! 火の色が調理室のコンロと違って赤くて、なんだか綺麗ですね……」
「ガスの炎は青い上に高温なんですよ。金属の調理器具を熱くしたりそれ越しに熱を伝えないといけませんから。ですが、直接火で焼くならこちらでも十分なはずですよ? やったことはないですが」
かまど場の外。
深音と、バーベキューを知らないお嬢様三名がいた。
斧などの刃物で切られたのではなく、力で折られたというようなむき出しの『薪』。
そしていつの間に準備したのか、石でサークルを作り、草をむしり――火を起こしている深音がいた。
雪山で平然とし、砂漠でも平然とし。
大時化の海原で平然とし、何もない場所で火を起こしてみせる。
「……深音さんがいれば、どこで遭難しても生きていけそうですねー……」
初春の言葉に、四人はとりあえず、頷いておいた。
***
焚き火の光に負けない、満天の星空。丸太のイスに腰掛け、九人は思い思いに食べたいものを鉄串に指しては焚き火の近くに差し立てて焼けるのを待つ。
「景色が変わると温度が変わる、っていうのをこう使うとはねー。あ、深音、魚食べたい」
「こちらが焼けてますのでどうぞ」
生木がいきなり生えるわけがない、しかし、現に深音によっておられ、電気分解で水分を飛ばされ――スパークによって火をつけられていた。火という『景色』は当然熱を持っていなければおかしいので、それを完全に再現しているのだろう。
深音に差し出された、魚の塩焼き。マルマル一匹に豪快にかぶりつき、シンプルな美味に笑みを零していた。
「佐天さん! お肉ばっかりずるいですよ! ……固法先輩も結構食べますね!?」
「お肉好きだし?」
「先輩の『秘訣』ってやっぱ肉ですか! っ深音さん! お肉追加お願いします!」
両隣でパクパクがつがつと肉を納めていく二人。
……佐天はなにやら固法の身体を見て、両手に一本ずつ握っているにも関わらず御代わりを要求。
「わ、みなさんワイルドですわね……ここは郷に従えということで……」
「そ、そうですわね……それに、とてもおいしそうですし――」
「先ほど私の釣りあげたスマガツオ? もここで焼ければ皆様にご提供できましたのに! ま、まあ素朴でよろしいのでは?」
かぶりつく周囲を見て、今まで厳しく言われてきた食事作法を一時だけ忘れて。小さな口でひとつずつ串から抜いて食べていく泡浮と湾内。
口元をタレで汚した婚后を見て、苦笑をホッコリと浮かべている。
「まったく――着替えの時は深音さんを意識だのと言っていた方々が――」
「……私は、こっちの方が好きですよ? 皆さんが心から笑っているのが分かりますから」
黒子が半眼で周囲を見渡していれば、隣りに座る深音がいつもの笑顔でそんなことを告げる――手を忙しなく動かしながら。
「まあ、始めのあのガッチガチの皆さんよりはずっといいですが――」
「深音! 次とうもろこし! 焼きとうもろこし食べたい!」
「深音さん! お水ください! 佐天さんが喉に詰まらせて……だから言ったじゃないですかがっつき過ぎですよってもう!」
「深音君、お肉御代わりくれる?」
「私たちも、その――」
「御代わりを、お野菜を少し多めに……」
「……お肉の焼き加減は、選択できまして?」
「これはお年頃の女の子としてどうかと思いますの……というより意識しろとワタクシに言っておきながら……深音さん、調理はワタクシがやりますのでお水を」
「はい、おねがいしますね」
ドンドンと胸を叩く佐天へ水を持っていく深音を眺め、欠食の雛のような勢いで御代わりを要求する全員にため息を付く。
「……調理も殿方にまかせっきり、これでは立派なレディにはなれませんのよー」
テレポート能力を無駄遣いした高速串捌きで、要望の品々を全員へ飛ばしていく黒子も、口とは別に、いい笑顔を浮かべていた。
(ふむ、まあ、意識を全くしていないわけではありませんのよ?)
恥ずかしいところを見せてしまったのか、それとも深音に介抱されていることにか、焚き火の明かりではない理由で顔を赤くしている佐天と、ほっとしている初春。良かったと笑顔の深音を眺め……。
「……深音さんが『輪の中心』にいないと気になる、程度の意識はしているんですのよー?」
「ん? 黒子、なんか言った?」
「いえいえいえ、ささお姉様、ここは無礼講ということでワタクシと口移しなどを」
「するか! しかも何でピーマンなのよ!?」
わいわいと、賑やかに。
――どこまでも自然体な彼と彼女達の姿はひそかに、修理を終えた撮影機器によってしっかり納められていた。
《 おまけ 》
「結構あったのに、全部食べちゃったね」
「そうですねー、なんか雰囲気もあっていつもより食べ過ぎちゃいましたー」
皆が皆、満足げな顔をして余韻に浸る。
ただ一人。
(私何も食べてないんですけど……まあ、言わぬがなんとやら、ですかね)
一瞬苦笑を浮かべ、すぐにいつもの笑顔に戻った彼がいた。
読了ありがとうございました。
誤字脱字。ご指摘などありましたらお願いします。