とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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 サブタイが違いますが、意図しているもので間違いではございません。

 コレで、大きな区切りがひとつ、終わりました。


大切な人たちだからこそ   11-E

 

 

 ――そこには不気味なほど烏が群がり、一見して確認できる窓という窓は全て割れている。

 外壁はかつて何色だったのか、もはや判断が付かないほど風雨に晒されてボロボロになっていた。

 

「相変らず――『まさしく、ゾンビが出てくる映画にありそうな廃研究所』ですこと――」

「全く不気味よね……ホント。夕方だから不気味さ割り増しだし。――耐震性やらが危ないから倒壊するまえに取り壊す、って話はどこに行ったのかしらね……」

 

 人が訪れなくなって久しいだろうその廃墟――最後に人が訪れたのは、ほんの二ヶ月ほど前であり、実は無人ではなかったという建物。

 

 

 ……そして、いまでは完全な無人となっている廃墟である。

 

 

 

「あー、いいかー鉄装ー、アタシらは『立入禁止の建物の自主見回り』をしにきたダケジャンヨー。この場にはアタシら二人だけ。中では何も『見てないし聞いてない』じゃんよ? ――分かってんだろうな、オイ?」

 

「あ、あれ!? 何で私脅されてるんですか!? 最初から問題にするつもりなんてありませんって、だからその無表情で指を鳴らさないでくださいホント怖いんですって!!」

 

「あ、んじゃあいいや。深音っちー、問題ないじゃんよー」

 

 

 

 

 そしてそんな人気がなく、また集めもしないだろうその場所に、今日に限っては人が集まっていた。

 鉄装が「私の扱いって……」などと呟いて肩を落としているが、全員が努めて流した。

 

 

 

「肝試し、ってワケじゃないっぽいですよね……? 黄泉川先生たちがいるし――それに立入禁止って」

 

「……確かここって、五月くらいに初春さんと白井さんがアンチスキルの応援できたところ、よね? 兵器研究の施設って報告だったけど……」

 

 

 その中で、初めて訪れるのはわずか二人。今にも何か出てきそうな雰囲気に息を飲む佐天と、住所から一件の報告書の内容を思い出している固法。

 二人は互いが『ここに来るのが初めてなのだ』と感じとり、また『他の全員は来たことがあるのだ』とも感じ取っていた。

 

 

 二人――いや、あの事件に関わった全員をここへ連れてきたのは、他の誰でもない――深音だ。

 

 

 水着の撮影が終わり、そのまま解散――という場面で、黄泉川から狙ったような連絡。レベルアッパー事件の一連に関係している六人にある場所に来て欲しいという。

 そして来てみれば、アンチスキルの支部でもなければ、お茶をしながら話をという場所でもない。そして、主導権は黄泉川から深音へと譲渡されている。

 

 

(……深音君があの時使っていた武装――まあ、確かに武器っていうよりは兵器よね……でもそれだけ?) 

 

 兵器の研究所、そして、深音があの事件の際に着用していた流線型の多いアーマー。その二つが恐らく『=』だろうと予測は出来る。

 

 しかし、思考を巡らせれば巡らせるほど、多くの疑問が浮かび上がってきた。

 

(あんな、戦争でも始めるのかっていう武器――アンチスキルの切り札か、押収品かは分からないけど……なんでそれを、麻酔を撃たれて十全とはいえない深音君に使わせたのか……ううん、違うわね)

 

 

 ――何故あのような、戦争でも始めるのかという武装を、深音が完全に、自分のモノとして使いこなせたのか?

 

 そして、『声を出す前に深音と理解した初春』にも、何故と付けられるだろう。

 

 

(ここに来た事がないのは、私と佐天さんだけ……)

 

 アンチスキルとして参加していた黄泉川と、同じくアンチスキルである鉄装。そして、黒子と初春に付いていった美琴。

 

 しかし、黒子と初春の上げた報告書に……深音の名前はなかった。

 

 

 

 

「――固法っち」

 

 そこにも何故、と。頭の中の手帳に付箋をつけようとしたとき、固法の頭に黄泉川の手が置かれた。

 

「……黄泉川先生」

「詮索しちゃダメじゃんよ。これから深音っちが、全部自分の口で、全部自分の言葉で――教えてくれるじゃん。……それまで、そのお得意の高速的確思考はストップな?」

 

 

 黄泉川がほれ、と顎で示したほうを見ると――ここに来るまで一言も話さなかった深音が眼を閉じ、静かに深呼吸していた。緊張ではない。何かを鎮めるような、そんな深い呼吸。

 

 

 

 ……それを見て、少なからずビックリしてしまったのは、その場にいる全員だ。

 いつも誰かを安心させる、ほっとさせる笑顔を浮かべている彼が、固法にも年上ではないのかと錯覚させるだけの落ち着いている彼が、今は見る影もなく――ただの男の子であった。

 

 

「……それでは、付いてきてください。美琴さんたちもお願いします」

 

 

 美琴たちというのは、美琴と黒子と初春の三人。そして、視線で黄泉川や鉄装にも促していた。

 三人は顔を見合わせ、次いで佐天と固法を見る。

 

 

「……ま、確かに私たちも『なりゆき』で知ってるけど、アンタから直接聞いたわけじゃないしね……わかったわ」

 

 そして御坂兄妹を先頭に、初春と黄泉川に背を押された佐天と固法が続き……八人全員が、廃墟の中へと進んでいく。

 

 

 

「まず最初に……私と美琴さんは、本当の兄妹ではありません。血のつながりもないですし、遠い親戚、というわけでもありません」

 

 えっ、という驚きの声がひとつ……佐天のものだ。固法も驚きはしているが、冷静を努めて黙って付いていく。

 深音は振り返らず、そのままゆっくりと、薄暗い廊下を進んでいく。

 

 

「義理の兄妹、とは言いますが――まだ二ヶ月くらいなんですよね、実際」

「え、まだそれだけだっけ? ……あ、そっか、アレ五月だったもんね」

 

 

 ――はい? という声は、今度は二人分。他の四人は苦笑を浮かべている。

 

 

「え、ちょっと待って? ホントの兄妹じゃないっていうだけで結構驚きなのにそんなに最近なんですか!?」

 

「――ごめん、私もさすがに驚いたわ」

 

 

 義理だとしても、それこそ幼少時から一緒にいたのでは? と思わせるだけの息の合い様なのだ。阿吽の呼吸などとうに出来るだろう二人は、コンビ結成して僅か二ヶ月ほどだという。

 

 足が止まりかけた二人に振り返り、かすかに苦笑を零す深音と美琴。

 

 そんな互いを見て、確かに二ヶ月程度の付き合いとは思えないのだが、事実は事実なのでしょうがない。

 

 

 

 

「そして――私が『深音』という名を頂いたのも、二ヶ月前――美琴さんからです」

 

 

 

 歪だが綺麗な穴の開いた隔壁をくぐり――深音は、足を止める。

 

 

 

 

「――本当にお伝えしたいことは、ここから先です――佐天さん、固法さん……そして、ここにいる皆さんにも。聞いてもらえますか?」

 

 

 

 振り返った深音は、七人全員が頷くのを待って――再び歩き出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一番古い記憶は一面の緑色。そして、筆舌しようのない激痛。

 

 しかし記憶にない自分の身体はその激痛にとっくに慣れているらしく、叫ぶことも、顔を顰めることもなかった。

 

 

 緑色が溶液で自分がそれに全身浸かっていること。

 そして、全身に走る激痛が――全身の強化手術を受けた後遺症なのだと知ったのは、もっと後のこと。

 

 

 そして覚える意味のない、研究者達のやり取り。

 

 

 自分に求められるのは数字の列と、予測値を上回るだけの成果。なんの疑問もなく、なんの疑念もなく。

 身体にいちいち走る痛みを億劫に思いながら、無表情に、無感動に山のような『性能検査』をこなしていくだけ。

 

 研究者達は半日交代、しかし自分は一人。

 睡眠という行為を知らず、食事は薬。――壊れかければ、緑色の溶液の中に戻される。そのサイクルを繰り返して、すべての性能検査が終わり……。

 

 

 世界が、一気に色づいていった。

 

 

 声を発することを知らない自分を。表情を変えることを知らない自分を。

 

 

 そんな自分を、なにも言わずにただ抱きしめてくれた……自分と同じ境遇にいる年上の子供達。一番年上の少女でも自分より五歳ほど上というだけ。10歳に届いているかどうかというのに、瞳になにも写さない自分に涙を流し、抱きとめてくれた人たち。

 

 

 

 教えてもらったものは、知識だけではない。

 空っぽの自分に、心を、感情を教えてくれたのも――姉達と兄達だ。

 

 

 口調は、一番上の姉を真似たもの。彼女のように皆を支えて、励ませる存在になりたいとただ思った。

 

 ――研究は辛い。しかし、支えあえた。励ましあえた。500人の大家族がいたからこそ、耐えることも、このままでいいとも思えた。

  

 

 

 ……逆算をすれば、10歳の時。それなりに大きくなったが、大人に近づいていく姉兄には及ばない。

 今日が終わって、また明日も頑張ろうと言い合って……。

 

 

 

 

 ――おはよう、を言うことが――出来なかった。

 

 

 

 

 緑色の、その向こう。一人、また一人と理性を失っていく中――自分だけが正気。

 自分は何故みんなのようにならないのか、と。早く皆と同じところへ……と。

 

 

 

 『殺せ』と命令された。

 

 『殺して欲しい』と……かろうじて正気を残していた、一番上の姉に、頼まれた。

 

 

 自分達がどんな存在であるのか。自分達が学び、積み上げてきたものが何なのか。初めて、理解した。

 

 

 

 ――人を、殺す術。

 

 ――命を、奪う術。

 

 

 

 ――涙は、流さなかった。泣いていいのは、自分じゃない。本当の家族の記憶にすがり、いつかまた、と願い続けた兄や、姉達だけの権利だ。 

 

 

 

 全身を染めた赤。それは兄達と姉達のものと――そして自分のもの。

 

 

 

――ごめんなさい。『私の役目』を、押し付けてしまいました――

 

 

 一番上の姉。一番慕っていた姉。ゆっくりと冷たくなっていく身体は、生きることを放棄していた。

 ――泣いてすがれば、引き止められるかもしれない。

 

 殺す道具になるくらいなら、命を絶とう。誰かを不幸にしてしまう、その前に。年長の兄や姉達だけの、決まりごとだったという。

 

 それを聞いて、泣くのをやめた。すがらないと、誓った。

 

 

 

 

 自分も深い傷を負い――それが癒え切った頃に、研究の完全凍結が執行された。

 

 

 

 ――それが、今から四年前。

 

 

 

 

 

 

 背の高さは、兄たちに並び、そして超えた。だが比べることはもう出来ない。

 

 綺麗な髪だから伸ばせといわれた。そういってくれた姉達に、見せることはもう出来ない。

 

 

 

 

 

 

 徐々に痩せ衰えていく身体で、それでも生にすがりついた。

 

 

 

 

 最後に交わした――約束を果たす。

 

 ……ただ、それだけのために。

 

 

 

 

 

 *** 

 

 

 

 ボロボロと――流れる雫を止めようともせず。

 

 

 

「……約束を果たせれば、死んでもいい――いえ、違います。約束を果たして、死にたい。私は、そう考えていました」

 

 

 

 佐天はただただ、その言葉を聞いていた。固法は口を強く結び、腕を強く握ってひたすら感情を押さえ込む。

 事情を知っていた三人は、それでも涙を流さずにはいられなかった。研究者達の作った資料には当然ない本人達の想いが、それだけ込められていた。

 

 

 

「――でも、今は違います。生き残ったんじゃないんです……私は――生かされたんです」

 

 

 499人の、姉達兄達。空の下に弔うという約束を追えた彼はそこで死ぬはずだった。

  

 しかし、彼は生かされた。499人の姉達兄達の約束と……妹になった、一人の少女――美琴によって。

 

 ――約束がなければ、『その日』まで彼は生きようとしなかっただろう。そして、美琴がいなければ、約束を遂げた『その日』に命の火を消していただろう。

 

 どちらがかけても、なかった命。そして、500人もの家族によってつながれた命。

 

 

「大切な人たちに生きろって言われたんです。――死にたいなんて、何があっても思えませんよ」

 

 美琴は一人、涙目と真っ赤になった顔を隠すように、そっぽを向いていた。『死にたい』という言葉を聞いたときは胸倉を掴もうとしたのだが――『大切な人』のくだりで顔を真っ赤にしていた。

  

 

「コレが、私の過去と――まあ、誓い……ですかね。長々と付き合わせてしまって、申し訳ありません」

 

 

 

 振り返った深音は、いつものように笑っていた。美琴がつけた名前に、込めた願いをそのままに。

 

 

 

 それを見た佐天は、袖で目元を少し乱暴に拭う。

 ――会心の笑顔を見せられるとは思えないが、笑顔でどうしても告げたい言葉が出来た。

 

 

 

 

「っ、501人ですよ! 深音さんっ!!」

 

 

 いきなり過ぎるその言葉。しかし、佐天が言いたいことは、すぐに理解できた。

 

 

「アタシを、忘れないでくださいよ! ……深音さんに生きていて欲しいって思ってるに決まってるじゃないですか!」

 

 

 ……自分が帰ってくる場所と、決めたのだ。

 

 

 初春がいて、黒子と美琴がいて……深音が笑っているこの場所が。

 

 

 

 

「……んじゃあ、佐天ちゃんも忘れてんじゃん? 502人。アタシ忘れんなっての」

 

「わ、私もですよ深音君! 503人目です!」

 

 腕を組んだ黄泉川と、殆ど常時慌てているような鉄装。

 

 

 

「当然ですの、504人目ですわね」

 

「わだじもでず! グスッ、505人目!!」

 

 黒子がクールに、涙と鼻水でボロボロになった初春に苦笑しながら。

 

 

 

「506人目――、出遅れちゃったかしら」

 

 固法は、恐らく言いたくなかったであろう、隠したかったであろうことを教えてくれた深音に感謝しながら。

 

 

 

 

 黄泉川が、代理だといって小萌とカエル医師、一応とつけて寮監を上げ。

 美琴が、常盤台の湾内や泡浮たちも絶対だ、といって人数を増やしていく。

 

 

 

 

 ……たった二ヶ月。

 それでも、コレだけの人が、必死にそういってきてくれることに――深音は心の底から、感謝した。

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

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