とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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特別講習 兼 補習   12-E

 

 

 

誰でもいい。本当に誰でもいい。いまこの状況をどうにかできるなら、本当に本当に誰でもいいから――。

 

 

 

 アタシが隠れるための穴、掘ってくれないかなぁ……。あ、いや、『穴があったら入りたい』っていうだけの穴。うん。

 

 

「無理するからだよー、全く……」

「クフッ、精神が肉体を凌駕した結果がコレとは情けないねー……おお、勇者よ死んでしまうとはナサケナイ!」

 

「死んでないってくそぅ……」

 

 二人とも散々言ってくれるよホント。

 一時間走り続けて、夕立みたいな大雨が降ってきて限界挑戦持久走は終わったんだけど――。 

 

 動けませんでした……じゃなかった、動けなくなりました まる

 

 いや一時間走ったんだよ凄くない? とくにジョギングとかやってない女の子が一時間走りきるとか結構凄くない? 

 

 ……まあ、結果が黄泉川先生の終了の合図でトラックの上に倒れちゃったわけだけど。

 

 脱水症状とか熱中症とかじゃなくて、純粋に疲労とか体力枯渇。それはもー盛大にバタリと力尽きたわけ。

 ――まあ、殆ど雨には濡れなかったけどね。深音さんがダッシュで回収してくれたから。

 

 

 で、現在進行形で動けません。着替えられません。 ……っていうか、アタシ汗かいたまま深音さんに運ばれて――

 

 

「ぐあぁ……」

 

「諦めなって涙子ー。あれだよ、熱血系スポコン女子路線……うわ、ないわ」

 

 慰めになってないよアケミ。ムーちん爆笑し過ぎ。

 でも、汗臭い女の子とか思われたら嫌過ぎる……。

 

 

「……アタイとしてはあの野郎の馬鹿げた体力のほうが驚きだっての……なんで人間一人肩に乗せて走れんだよ」

 

 ヤンキーさんが信じられない物を見たような顔でそう呟く。……うん、これもだ。穴に入りたい理由。

 アタシの中の男の人の基準が深音さんになっちゃってるってこと。――アケミたちが早々に忘れてくれることを祈ろう、うん。学校で広まったらさらにからかわれるよ絶対。

 

 

 ――身体が重い。けど着替えないとこの後も能力検査があるし……。

 

「……まこちーん、へるぷみー」

「はいはい……ほら、ばんざいして万歳」

 

 

 介護士になれそうな手際の良さのまこちんの御陰で――なんとか着替えが終わって。むーちんに圧し掛かりながら教室へ。重い離れろとか言われたけど爆笑した罰、受けるがいい。

 

 

「あ、みなさんも今お戻りですか」

 

 そんでもって教室の前の廊下で、両肩に亡者を担いだ深音さんと遭遇。ヤンキーさんがまたかよ今度は二人かよとか言ってるけど――。

 

 

「か、身体が動かないんだにゃー……」

「15キロてなんやのホント。どこのスポコンなんやホント……でもって何でおとやんは平然とボクらを担げるのホント……」

 

 あ、生きてた。

 まあアタシと同じ時間、殆ど同じ距離って言っても、15キロの加重をプラスして走ってたんだからアタシ以上にしんどいか。

 なのに同情? とかそういうのが一切出来ない金髪の人と青髪の人。

 

 不思議だね。

 

 

 

 

「……なんでヘンタイ二人のほうが普通に見えんだよ……!?」

 

 なんかヤンキーさんが壁をドンドンと叩いて嘆いてるけど。

 でも高校生二人、軽く見ても100kgは超えてるわけで――そう考えれば、深音さんってホントに凄いんだね……。 

 

 

 

「はいはーい皆さん最後の能力検査をおっ始めるですよー、さっさと教室に入ってくださいねー……おおう、土御門ちゃんと青髪ちゃんはダウンですかー。流石はアンチスキルの入隊試験なのですよ」

 

 ひょっこり現れた小萌先生。お互いに立ってると本当に小さいなぁ――って思ってると、ぶら下がってるだけの二人が首だけえらい勢いで動かして小萌先生を見る。

 ――位置的に深音さんがナイスタイミングでターンしてるし。

 

 

「……ちょっと、ちょーっとまって欲しいんだにゃー小萌せんせー。入隊試験とか何? いや結構マジで」

「せんせ? ボクら補習で来ただけですよね? ……せんせ? なんでそないニコーっとした笑顔で……」

 

 小萌先生は、何の説明もしない。

 ほんの少し背伸びをして、二人の頭に手を優しく置いて……。ただ一言、頑張るんですよー? と目じりに涙を浮かべて告げてた。――深音さんもなにやら目を瞑って……。

 

 

 それは、まるで卒業していく生徒や先輩を見送る人だった。

 

 そして、これまたひょっこり現れた黄泉川先生に引き摺られていった。

 

 

 

「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

 

「さ、みなさんは教室に入ってくださいねー。深音ちゃんは能力検査のお手伝いをお願いするのですよ」

 

 能力検査、かー……。焦る必要も無理する必要もない、って分かってるけど――。あったら、なんか役に立てるかな……深音さんの。

 

 

 漠然と能力があったらな、じゃなくて、明確な理由がなかったんだアタシ。

 でも、今は違うって、断言できる。

 

 

 

 

「――たくましくなり過ぎだろ、涙子……」

「……アタイ、明日から頑張る。だから今日はもういいや……」

 

 

 ? なんかアケミたちが遠い眼してるけど……うん?

 

 

 

 

***

 

 

 

 雨が上がって、綺麗に晴れた夕焼け空。雨で気温も下がり、涼しげな風が吹いて――思わず頬を緩めてしまいそうな過ごしやすさ。

 

「はぁ……」

「さ、佐天さん。そう、気を落さずに……」

 

 ……どんよりとした空気の佐天さんに苦笑しているだけですね。気候関係ありません。

 特別補習……佐天さんたちには講習でしょうか? その会場となった学校の玄関、そこの壁に背中を預けるようにして膝を抱えて、うなだれる佐天さんにどう言葉をかけていいものか。

 

 

「深音さーん。レベル0っすよ。無能力っすよ。能力測定の機械ピクリとも反応しなかったっすよ。……電源抜けてたんじゃないのあれマジで」

 

 ……ああ、どんよりからずんよりへ……。

 佐天さんと一緒にいたお三方は、佐天さんの肩をポンと叩いてそのまま帰宅してしまいましたし……。

 

 あと電源は抜けてません。はい。

 

 

「フラグっぽいの立てたじゃん……深音さんの役にー、的な感じのフラグ立てたじゃん。くそぅ意図的なフラグはダメフラグかぁ……」

  

 ……とりあえず。何を言っているのかは分かりませんが。なぜか、何時もの佐天さんだ、と思えてしまう私がいるんですよ。

 

 

「――うし。反省会兼クヨクヨタイム終了!」

 

 

 そして、自分の両頬をパン! と叩いて、勢い良く立ち上がって……まあ、おそらくまだ疲れが残ってたんでしょうね。

 立ち上がる勢いを抑えることが出来ず――しかも、佐天さんの目の前に私がいるわけでして。

 

 

 

 

 

 

「はい、無理なさらないでくださいね」

 

 そのまま、背を向けてしゃがんだ私の背中にライドオン。腹部への頭突きは回避できました。

 

 ……帰りに転ばれてもいけないので、このまま帰りましょうか。

 

 

「ちょっと待って、深音さん。これ恥ずい。お姫様抱っこよりなんか恥ずい」

 

 

 あ、この運び方楽ですね。新しい発見です。

 

 

「そうですか? 私は別になんとも……」

「アタシが恥ずかしいんですって!! あれ!? おんぶってこんなに恥ずかしかったっけ!?」

 

 前で抱えるよりはずっと安定してますけど、暴れないでくださいね?

 ――しばらくして落ち着いたのか、ため息ひとつ吐いて大人しくなる佐天さん。

 

 

「深音さんって、こういうときって結構強引ですよね……いや、嫌ってわけじゃないんですけど――」

「小萌先生が言うには『男の子はたまに強引でいるくらいが丁度いい』らしいですよ? ――たまにをどこで使えばいいのか、ちょっと分からないですけど」

  

 

 

「……地味に合ってるから、ずるいんですよー」

 

 ボソリと呟いて、佐天さんは私の肩に置いていた手を前に回す。相当疲れているんでしょうか……力を抜ききってますね。

 

 

 

 

「あの……深音さん。一個、聞きたいんですけど……能力が使えるって、どんな感じですか?」

 

 

 ――佐天さんの声が近い。距離的なものもそうですけど……なんだか、近くに感じます。

 

 

「――アタシ、レベルアッパーでほんの少しの間だけですけど、能力が使えるようになったんです。その時ただ、その嬉しかっただけで、それくらいしか思えなかったんですよ……だから」

「普遍的に能力が使える話が聞きたい、と?」

「……はい」

 

 ――そう、ですね。

 言葉にしてどれだけ伝えられるか、わかりませんが。

 

 

 

「『力』――ですね。能力の種類関係なく、能力の強度も関係なく――ただ純然な、『力』だと思います」

 

 佐天さんが力、と呟いて――疑問に思っているようですね。黙って、私に続きを促しています。

 

「はい。力です。……知ってますか? 私も、美琴さんも。黒子さんもですね……その気になれば、大勢の命を奪えるだけの『力』があるんです。電撃然り、テレポート然り。……炎でも、念力でも。人を傷つけて有り余る力です」

 

 

 

 

「ですが、それは簡単に『守れる力』にも変わるんです」

「守れる、力……」

 

「だから、私は能力者にはそれ相応の『責任』が必要だとも思います。――それを、美琴さんや黒子さんのような女の子に強いるのはどうかとも思いますが――」

 

 

 私にとって能力強度(レベル)は、力の大きさを示すもの。どれだけの人を不幸に、また守れるかの大まかな基準。そして、その責任の大きさを伝える数字。

 

 だからでしょうか、先ほどまで佐天さんが持っていた能力測定結果用紙が、私はどうしても好きになれない。

 そんな薄っぺらい、ものじゃないでしょう――と。

 

 

 

「……」

「……」

 

 

(佐天さんからの反応がありません……! どうしましょう、重かったですか……っと?)

 

 

 前に回されていた佐天さんの手が、私の首の前で組まれる。

 

 

「……深音――さん。もし……」

「……はい? えと、佐天さん?」

 

 

 

 ……返事はないですね。組んでた手も力がないですし――なにより気持ちよさげな寝息が……。

 はい、寝ちゃいましたね。結構ぐっすりな感じで。

 

 

 

「……おやすみなさい」

 

 

 

 

「おーい、深音ー、何でアンタがここに……」

「「oh……」」

 

――それは、私の台詞ってやつですよ美琴さん。お三方ともなぜここに……。

 

 

 

「説明、しようか。深音」

「……あれ? 何で私怒られてる雰囲気なんです?」

 

 

 

 

 ……結構大きな声と動いたりしたんですけど、佐天さんは変わらず私の服を握って、ぐっすりでした。

 

 

 

《 おまけ 》

 

 

 

「映画ですわよね! 佐天さん!」

「夏祭りよね!? 佐天さん!!」

 

 

「ここはずばり……カラオケですよね! 深音さん! 初めてでしょうし!」

「あ、土御門さんたちと二回ほど……」

 

「「「「あるのカラオケ!?」」」」

 

 

 

 




読了ありがとうございました。


 ――深音が何を歌ったかは……。


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