とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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盛夏祭 ( という名の )   13-2

 

 

「あっ――……っ」

 

 

 

 思わず零してしまった……はしたない声に赤面してしまう。

 

 

 

 それは、快感といって差し支えなく。それは、快楽といっても差し支えなかった。

 

 背中を大きく仰け反らせて、ピンと筋を張ってしまうほど快感の放流……しかしそれは優しく――そして強い力で押さえつけられてしまう。快感の波をどこにも逃がすことが出来ず、僅かな発散がついには口から零れ落ちてしまったのだ。

 

 

 ――しかし、それは流石に恥ずかし過ぎるのだろう。指をくわえ、声に乗せまい、聞かれまいと――

 

 

「くふぅっ……!?」

 

 

 

 ――そして、そんな努力をあざ笑うように――快感は、快楽は止まってはくれない。

 

 時には強く、時には弱く……イジワルなまでに、緩急をつけて。

 

 

「――もう、やめておきますか?」

 

「もっ……と、してぇ……」

 

 

 

 恥ずかしい。恥ずかしいが、止められない。やめて欲しくない。

 

 その心の吐露にはっとして口を両手で塞ぐのだが、もう遅い。艶に、そして色に染まった言葉は、聞かれてしまっているのだ。

 

 

 

「お、お願いします、その――続けてください」

 

 

 ならば、いっそのこと開き直ってしまおう。 

 快楽に身を任せ、快感に流されてしまおう。

 

 

 

 

 

「かしこまりました――……

 

 

 

 

 

 では、マッサージ延長、入りますね?」

 

「きゃふぅ!?」

 

 

 

 

 

 ……肩に置かれた手が、コリッとした部分をグリッとした。

 

 

 

 

「し、執事の無料マッサージの最後尾はこちらになりまーす」

 

 

 ずらりと並ぶその最後尾にて、本来ではいるはずのない誘導員が赤い顔で待ち時間の書かれた看板を手にしている――ちなみに、今現在で一時間待ちのようだ。

 

 並んでいるのは女性が中心であり、扉一枚を隔てて聞こえてくる声に顔を赤くするかゴクリと喉を鳴らしているか。

 

 

 

 ――出てきた高校生ほどの少女の頬は紅潮し、心なしか肌もツヤツヤとしている。それだけならば大変色っぽいのだが――残念なことに表情はなんともだらしないものだった。

 

 

 

 

「……いやさ? アタシも最初は深音っちにセクハラさせるなーとか思ったじゃんよ……まぁたこれが絶妙な力加減で……」

 

「気持ちよかったですねー……ビリビリーって言うのがまた……」

 

 

 一人三分という時間制限のなか、一番最初に延長を要求したのは何を隠そう、現在進行形で腰砕けになってイスに座っている黄泉川である。鉄装も向かいに座って余韻に浸り――警護できたアンチスキルは休憩中のようである。

 

 

 そして、黄泉川が若干恨めしいような羨ましいものを見る目で、自分の隣に座って腕を組んでいる寮監を半眼で睨んだ。

 

 

 

「……お前、深音っちがマッサージ上手いこと知ってたじゃん? 独り占めはずりーじゃんよ」

 

 

 マッサージをされてからそれなりに時間が経つが、いまだに首を動かせば快音と共に心地良く関節がなる。

 座ったまま大きく伸び、隣どころか向いに座る鉄装にも聞こえるほどゴキゴキと骨を鳴らし、深いため息を吐いて余韻から脱する。

 

 

「アタシも事件とかで身体痛めたりしてマッサージ院とか結構知ってるけどよ……深音っちがダントツじゃん。小萌っちもなで肩だから肩こりもちだし、教えてやるじゃんよー」

 

「うむ……電気マッサージ的な感じでいけるかと思ったんだが、大当たりだったな」

 

 

 寮監は満足げにうんうん頷いて――。

 

 

 

 

「「……は?」」

 

 

 

 ――余韻は、思いっきりぶち壊された。

 

 

「……まさかとは思いますけど、行き当たりばったりですか?」

 

「深音君は執事だ。出来ないことなどあまりない――マッサージなど出来て当然だろう?」

 

 

 

 寮監は『何言ってんだコイツ』という顔と眼で鉄装の常識を疑う。 

 

 あれ? おかしいの私? ――と鉄装は自分の常識が崩されそうになるが、黄泉川が落とした軽い拳骨でなんとか踏みとどまったようだ。

 

 

「――相変らずの執事馬鹿じゃん……あんまり深音っちに無理させんなよー?」

 

「善処はしている」

 

 

 あれ見てそれが言えるじゃんよ? と一時間から一時間半に伸びた列を後ろ指で示し、ジト眼で寮監を見る。

 

 そろそろ廊下の端で折り返さなければならなくなるだろう。

 

 

「う、うむ――しかしだな、深音君にはやってもらうことがまだ――」

 

「……ってか、深音っちが招待した人が来たらどうするじゃんよ? 確か、招待した子が案内するとか聞いたぞ?」

 

「『執事』の無料マッサージ、って思いっきり宣伝しちゃってますよねアレ……執事にしかやらせない気満々ですよね」

 

 

 眼が泳ぎまくっている寮監を――黄泉川と鉄装は若干冷たい眼で見ていた。

 

 延長を一番最初に要求したのは黄泉川ではあるが、一番最初にマッサージを受けたのはこの寮監なのである。

 

 

「そんな目で見るな! お、お前たちだって自分も自分もと群がったじゃないか!」

 

「ア、アタシらは参加しただけじゃん! 第一深音っちに当日まで隠しとくとかどんな悪徳じゃん!」

 

 

 机越しに立ち上がり、お互いを罵り合う二人。いい大人が、それも女性が。今にも取っ組み合いを始めそうなほどに火花を散らしている。

 

 

「ふ、二人と落ち着いてくださいよ! と、とにかく深音君のやることを一時的に白紙に戻せばいいんじゃないですか? ほ、ほら、それでいろいろ調整してお客さんにも説明できるでしょうし」

 

「ならん! この後にやることのほうが重大なんだ!」

 

 

 鋭い目つきがさらに鋭利な眼光を伴って睨んでくる。うっわ薮蛇やっちゃった――と、悪態を吐きそうになるのを鉄装は必死に抑えた。

 

 

 そして『この後』という言葉に、マッサージ以上にこの執事馬鹿が重要視するものがあるのかと疑問を持った黄泉川と鉄装は、警備上必要とされて渡されたパンフレットを開く。

 

 最後のページにある『執事のお品書き』というなんとも……なんともな見出しには盛夏祭の開催から約一時間ほど『執事の無料マッサージ』とあり――。

 

 

 

「……おい、お前マジで病院行くぞコラ。いやそれよりもアンチスキルとして連行してやるじゃんよ」

 

「ま、まて、権力を出すのは卑怯だろう!?」

 

 

 黄泉川は、いつかの女性研究員に見せたようなアンチスキルとしての真剣な顔とともに……学園都市謹製の、特殊な手錠を取り出す。

 

 片や、学園都市全域のスキルアウトを震撼させる女傑。

 

 片や、高位能力者をも瞬倒させる技術を有する女傑。

 

 

 

「と、とりあえず、私は深音くんを開放できるかどうか頑張ってますねー……」

 

 

 

 ……机越しに、肩から先がかすんで見えるほどの猛攻を繰り広げる両女傑の被害範囲から、さっさと逃げ出した鉄装を誰が咎められようか。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「さすがは世界有数のお嬢様校です――学生寮の催しものってだけでうちの中学よりずっとクオリティ高いなんて……」

 

「いや、初春? その感想は早すぎるんじゃない? アタシたちがいるここまだ玄関だから。室内にすら入ってないからね?」

 

 

 

 佐天は『常盤台』『お嬢様』というだけで恍惚とした顔を浮かべる初春に若干引きながらも、そんな彼女の背を押して進んでいく。

 

 

 

「んで、たしか御坂さんたちが玄関ホールで待っててくれてるって話だけど、っと――」

 

 

 それなりに賑わいを見せる玄関ホールで人を探すのは意外と難しく、そしてまた見つけてもらうのもまた然り。

 

 背伸びをしてもたぶん見つけられないと踏んだ佐天は大きく息を吸い込み、手でメガホンを作る。

 

 

 

「今日の御坂さんの色はー!?」

 

 

 突如として響いた大きな声に、ホールはシンと静まり返り……。

 

 

 

「黄色のお子様ブランドフリル付きぃぃぃぃぃぃぃいい!!!!」

「な、何言ってんのよアンタは――っ!!!???」

 

 一拍の空白の後、悲鳴のような絶叫とともに、ビリビリと人垣越しに見える電光が迸った。……ついでに恍惚とした声も聞こえたが、まあ、無視しよう。

 

 

「あ。いた。ほら、初春ーあそこみたいだよ」

 

「ですねー、電気が見えたってことは近くに深音さんはいないんですかね?」

 

 

 信じられないものを見た。といういくつもの顔を無視し、モーゼのように開いた道を進んでいく。

 

 ……ちなみに、どちらの反応が正しいものかは、玄関ホール内を見れば一目だろう。

 

 

「っくう……深音さんがいないことを失念していましたの……!」

 

「あ、あんたは衆人環視のど真ん中でなにを……! さ、佐天さんも佐天さんよ! いきなりその、い、色なんて聞かないでよね!」

 

「え? アタシは『今日の御坂さんの色はー?』って聞いただけですよ? 色がわかれば目印になるかなーって。……ってあれ、黄色は? っていうかメイド服だし……」

 

 

 正論であるのだが……どこにいるのか、とか、ここにいますよー的なことをまず言ってほしかったと美琴は肩を落とす。

 

 

「……なんでですかね? 今すごい御坂さんと仲良くなれそうな気が……まあ、何はともあれ、今日はご招待ありがとうございます白井さん!」

 

「ひ、久々の電撃が――初春? 何はともあれの前にワタクシの心配を……「「「え?」」」……もう深音さんだけですのね、ワタクシの心配してくれる方は……」

 

 

 

 ……その深音ですら、そろそろ苦笑で済ませそうな頻度なので同情するものはいない。

 

 

「とりあえず、これパンフレットね。のんびり歩きながら回ってもいいし、それ見て行ってみたいところがあれば案内するから」

 

「うわぁ……ほんとにうちの学校の文化祭が見劣りしますねこれ……と、とりあえず全部お願いします!」

 

 

 

 ――とりあえず渡したパンフレットを見てほしい。流し見でもいいから。

 

 痺れから回復した黒子が相変わらずな様子に苦笑し、美琴たちの様子をカメラに収める。よくよく見れば、いつもジャッジメントの腕章がある場所には『記録係』の腕章があった。

 

 

 

「深音さんは今日は別行動ですか? あ、何か仕事があったりします?」

 

 

 

 

 

 

 ……何気なく。本当に何気なく聞いたのだが。

 

 

 

 

 

「あー、うん。そうね、順番に回りましょう、うん。それがいいわ、うん」

 

「それがいいですの、パンフレットの最初から回るとしましょう、絶対に」

 

 

 これが、高位能力者の持つ威圧感。美琴と黒子は二人で掛け合っているにもかかわらず、二人して佐天の肩をがっしりとつかみ、鬼気迫る顔で提案(脅迫)する。

 

 

 その様子に何かあると察したのは初春で、こっそりと最後のページを開けて……停止した。

 

 

 

「っ!? 初春さん見ちゃだめそこは!?」

 

 美琴が気づいて止めにかかるも、ときすでに遅し。『執事のお品書き』と書かれたページが開かれた状態で地面に落ちたそれは――その内容を、さらす。

 

 

「なになに……午前第一部、執事の無料マッサージ。当寮が誇る執事が、あなたの心も体も解きほぐします。午前第二部、お嬢様体験コーナー……執事が本格的な奉仕行動をお届けします……午後の、部」

 

 

 ――ゆらりと、風もないのに揺れる佐天の髪。それは徐々に逆立ちをみせ、完全に重力に逆らって波打っていた。

 

 

 

 

「『執事の一日所有権』……だと!?」

 

 

 

 

 

 鮮明な思い出の一ページになるはずだった一日は……女の子にとって、絶対に負けられない勝負があった日となるのであった。

 

 

 

 

 

 

《 おまけという名のNG 》

 

 

「おおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「はぁぁぁああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 両傑は、どちらも譲らぬ。

 

 衝撃波で間の机は砕かれ、互いの血が飛び散り、部屋を彩っていく。

 

 傷がつく、それが何だ。血が噴出す、どうってことなし。

 

 

「七花○裂……改!!」

 

「不○不殺……否! 断罪○刀!!」

 

 

 それは、必殺。

 

 決まれば、必ず殺す。その意を違うことなき威力を秘めた渾身の奥義が――

 

 

「ちょ!? 作品が違いますよ先輩!? しかもなに本編より描写の熱い激闘をってキャー!?」

 

 

 

 ……余波で吹き飛んだ鉄装が、いたりいなかったり。

 

 

 

 

 

 

 




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