とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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MAY DAY   1-3

 

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 ― お前、空見たことねぇのかよ!? ―

 

 ソラ、とはなんですか?

 

 ― なにって……空は空だろ ―

 ― お退きオバカ。あたし達の弟に馬鹿をうつすな ―

 ― んだとこのヤロウ!? ―

 

 馬鹿ってうつるんですか?

 

 ― おい、なにもよりにもよってそこに疑問を持つのかよお前は…… ― 

 ― そうよ? だから気をつけないとね。で、空ね。えっと。ここには天井があるでしょ? それがないの。その代わりに、空って言うのが広がってるの ―

 

 天井がない……???

 

 ― ……おーい、お前の説明でもわかってねぇぞ。っていうかお前の説明分かり辛い ―

 

 

 それから……色々なことを教えてもらいました。現物を見ることは出来ない。だから、精一杯の想像で皆が見ただろうものを、皆と一緒に見ようと。

 

 ― 春には桜という綺麗な花が咲くんですよ ―

 

 四季という季節を知り、花を知った。そこから連なるように、夏を、海を、魚を。秋を、山を、動物を。冬を、雪を、天気を。

 

 

 ― 皆で、見に行きましょう。それで、皆でこの子に教えてあげればいいんです ―

 

 

 夢というものを教えてもらい、本物を見たときに、また皆に改めて、教えてもらおう。そんな『夢』を抱いて、そんな日を心待ちにした。

 

 

 そして夢は、夢のままで終わった。

 

 

 

 ……私の手で、終わらせた。

 

 

 

 

(――皆、もうすぐです。 もうすぐ……)

 

 ……生命維持をギリギリのところで保ち続け、仮死状態にしてずっと、待ち続けました。

 かすかな希望を、誰かが、ここに来てくれるという希望を。

 

 研究所が閉鎖されても、なお稼動し続けるシステム。ロックのかかったままの培養機をこちらから開けることは出来ず、拘束され、筋弛緩剤を長期にわたって投与された体では破壊することもできません。

 

 しかし、システムが正常に稼動しているならば、IDを持たずにあのエレベーターを降りてきた人たちをここのシステムは『侵入者』と判断するようになっています。

 そして、それの侵入者を排除するために……私達を使う。研究や試験以外で培養機のロックと拘束が外される唯一の瞬間――らしいです。説明されただけで、一度もそんなことは無かったので本当に作動するかどうかとても不安でしたが。

 

 

 そしてその希望が、私に残された唯一のチャンスが、訪れました。

 

 

 私は、きっと処分されるでしょう。あってはならない研究の、あったという証拠だから。

 実際、私の元にきた――あの女の子。インストールされた情報にある、学園都市最強のレベル5の七人のうちの一人。 私を建物ごと廃棄できる力を持った少女。

 その女の子が扉を開けた瞬間に外へ、アーマーを装備している間に追いつかれそうになりましたが、なんとか振り切りって、同行者だろう2人の女の子を突破して……エレベーターシャフトでとにかく上を目指しました。

 

 

(とにかく上へ……そうすれば!)

 

 

 シャフトを飛び出して、歪な形に切り取られた壁を通って、階段を出せる限りの速度で飛び上がり……最後の扉を、両腕に搭載されたレーザーソーで切り裂いて突破した。

 

 

「……そこまでよ」

 

 私のところに来た、女の子がいた。隣には突破した2人の女の子のうちの1人もいる。

 電撃使いの超能力者と、おそらく、転移系の高位能力者でしょう。丸く小さな金属板を弾くように構え、もう1人の子も金属の棒を油断なく構えている。

 

「抵抗はおよしくださいませ。この距離ならば、お姉様のレールガンを避けることは不可能。例え避けられたとしても、私の金属矢で止められます」

 

 超電磁砲、レールガン。きっと、私達の使っていたものよりずっと強力なものなんでしょう。防弾防刃・耐衝撃性に特化したこのアーマーでも、防げるとは思えません。

 

 

 もっとも……抵抗できるだけの力なんて、もう無いんですよ、私には。

 

 だから。

 

 

『少シ、ダケ。少しダケ待ってクだサい』

「「!?」」

 

 ――えっと、私、こんなにひどい声していたでしょうか……ああ、数年間出してませんでしたね、声。培養液を体に入れないようにしてましたから喉もガラガラでした。

 

 

『……抵抗は、しマセん。私は、あまり長くは生キラれません』

 

 

 数年の断食と、延命のための常時能力使用による衰退。……よく生きていましたね、私。

 本音をいうと、今にも倒れそうです。――でも、まだ倒れるわけには行きません。やらなきゃいけないことがあります。

 

 

 

『数分だけ――私に、クダサイ。皆に、空を――最後のお別レを、させてください』

 

 

 みんなの弟である私の、最後の役目を。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 屋上に先回りしていた私たちを見て……かすれた、でもしっかりとした声で私と黒子にそういった。懇願してきた。

 

抵抗はしない。……皆に最後のお別れをさせて欲しい、って。

 

 抵抗の意思がないと証明するつもりなのか、アーマーについている武器の類を淡々と外していって、自分を守るアーマーも外していく。

 ここに来るまでに見せた機敏な動きは何処にもなく、ゆっくりとしていて、どこか力ない。地面に落ちたアーマーは一つのパーツでも相当重いのか、屋上の床にくもの巣みたいなヒビを次々と作っていく。

 

 

 

 そして、その子は……そいつは姿を見せた。

 

 ……誰かを見て、それだけで泣きそうになったのなんて初めてかもしれない。隣に立って警戒していた黒子も、手に持っていた金属矢をポロポロと落として――その手で口を覆っている。

 

 ――なんで生きていられるの、なんで動けるのって、そう思えるくらいに――そいつはやせ細ってた。肋骨が一本一本くっきりと浮かんでいる。肉とか潤いとかいう概念が一切ない。

 

 痩せこけた頬で、それでも――優しそうに、今にも消えてしまいそうな笑顔で笑っていた……はずしたアーマーに手をかざして、そこからたくさんの、小さな金属板が浮かび上がってきた。

 

 

 

(念力……違う、これって電磁作用?! ってことは私と同じ……電撃使い)

 

 

 黒子もちらっとコッチを見てきて、私よりも半歩前に出る。私に電撃が通じないように、電撃使いには電撃は効果は薄い。なにかあれば、自分が、とでも考えてるんでしょうね。

 でも浮かび上がった金属板は浮かぶだけで動きはない。形は歪で、統一感なんてない。でも、それがドックタグだってことは、傷のように刻まれた名前で分かる。

 

 

「皆、随分、お待たセシマした……やっと約束が果たセマす」

 

 

 数百枚はあるそのドックタグは、そいつの手から流れる電流を受けて一箇所に集まって、電磁熱で一枚一枚接合されていく。あんな状態でアレだけの量を制御して、そのうえで融解させるだけの電量を出せる。

 ――私でも出来るかどうか、っていうよりあんな状態で生きていられるかどうか。

 

 一つ一つのタグを丁寧に、そこに刻まれた名前を自分にも刻み付けるように、499枚の接合は終わった。形は少し歪だけど……それは一本の十字架になった。

 

 

「あの……これが、空――なんですよね?」

 

 

 

 ――ああ、ダメね。もう無理。泣くなってのが無理よこんなの。

 当たり前のことなのに……不安げに聞いてきてんじゃないわよ……それになんでこんな時に限って……。

 

 

「ええ。間違いなく、『空』ですの。残念なことに……曇り空ですが」

 

「ありがとうございます……教えてくれて」

 

 

 その十字架を床に立てて、そいつは、ゆっくりと座りこむ。

 

 

「みんな……随分、長くお待たせしました。空、ですよ。曇り空というらしいです。約束は、守れました。ここでゆっくり、休んでください」

 

 空って言ってるのに、もう見上げてない。見上げるだけの力も、もうないんだ……。

 

 

 

「……ありがとうございます。わがままを、聞いてくれて。あとは、お好きにしてください。もう、私のすべきことは終わりました」

 

 

 わがまま? どれがよ……私達はただ黙ってただけじゃない。

 ……ふざけんじゃないわよ。 わがままっていうのはね……。

 

 

「……あ、あの?」 

「お姉様……」

 

 あーあ。軽すぎるわね。肩貸すとかじゃなくて負ぶって余裕で走れそう。そうね、病院まで全力疾走できそうね。いやできる。してみせる。

 

「何? 好きにさせてもらうだけよ。黒子、病院にこいつ連れてくわよ。……曇り空だけしか知らないなんて、冗談じゃないわ」

「そうですわね。 この方はこの件の重要な参考人。証言してもいただかなければならないことが山ほどありますの――まあ、お姉様が? ワタクシがそんなことを言うまでも無くお連れするようですけど?」

 

 

 ……黒子。とりあえず、そのによによした笑いを今すぐ止めなさい。雷落すわよ。

 

 

「お気持ちはうれしいのですが……もう、助かりません……。それに、みんなと同じ場所で眠らせてくだ「だーめ。アンタのわがままはさっき聞いたわ。二度目はなし。それに、この建物はもうすぐ取り壊されるの。そんなところにアンタの言う『皆』を置いていくつもり?」……それは……」

 

「それに……アンタはまだ、生きてるんでしょうが。 生きてるうちに諦めてんじゃないわよ――。私はね……死んだって諦めないって決めてんのよ!」

 

 これは私のわがまま。さっきこいつのわがまま聞いてあげたんだから、こいつだって聞く義務がある。あるったらある。絶対。

 ……こいつが、普通の生活を送れないってことは私にも分かる。普通の人なんかと比べ物にならないくらい、大変だってことも。

 

 でも、それでも――目の前で生きてる奴を放っておけるわけ無いでしょうが。

 

 

 

「だから……お願い。諦めないで……!」

 

 

 私の言葉を聴いてなのかどうなのかは分からないけど……さっきとは違う笑顔を浮かべて、そいつは意識を失った。

 触ってる所から、少しだけあった温もりが少しずつ消えていく。

 

 

(死なせるか……死なせるもんか絶対に!!)

 

 

 

 

 

 

 

 




少し短め・かつ本人達の視点です。
読了ありがとうございました。
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