……このような未熟な文章にお付き合いいただき、感謝の言葉でいっぱいです。
今後とも、精一杯頑張って執筆を続けて行きたいと思います。
完結まで、どうかお付き合いいただけるとうれしいです。
ズグン――という経験したことのない苦痛を伴う心臓の脈動。まるでナイフでも突き立てられたのではないかという激痛に思わず胸を握り締め、爪を立てる。
爪の痛みはあるが……痛みの場所は手の触れている場所から。――だが、この痛みは内側から――本当に心臓から発せられているのではないかと思われるほど、深い位置から。
鼓動の音にぴったりと合う……否、痛みの周期が鼓動の音と挿げ替えられているかのような――。
「ぐっ……!?」
膝を屈する。
姿勢として膝を『突く』のではない。文字通り直立が困難になるほどの痛みと不快感に負けてしまうのだ。……いっそ、目に見えて出血でもしてくれれば対処もできただろうと思えた痛みは、始まりと同じように唐突に終わる。
……鼓動は、少し早いが正常。少なくとも、ドクンという音に安心できた。とてつもない倦怠感と疲労感はあるが、身体に異常は見つからない。
心臓をつかまんばかりに握っていた手を離し――そこでようやく呼吸を『思い出す』。
彼を知るものが見たら、彼のそんな姿に驚愕するだろう。
……力なく膝を屈し、必死に息を荒げて呼吸し――雨に打たれたかの様に全身に汗を浮かばせている姿など、御坂 深音という彼を知る誰に想像できようか。
「今、のは、いったい――?」
自室でよかったなどと少しずれたことを頭の片隅で考えつつ、あまり無視できない場所の、無視できない痛みを思い返す。カエル顔の医師に相談すべきかと考えが一瞬浮かび、近々の予定にして、再び包丁を握る。――包丁を落とさなくてよかったといまさらながらに苦笑を浮かべていた。
――その苦笑の終わりとともに――世界が、大きく揺れる。
重ねられた食器は音を立てて激しく揺れ、照明は接触不良のようにかすかな明滅を繰り返す。
胸の痛みと同じく、これもわずかに数秒の出来事。
「? 地、震……?」
――にしてはどこか不自然だという感想と、自分の住んでいるマンションの耐震性は世界でも最高峰なのだと不動産に紹介されたことを思い出す。
そんな自室で明確な強い揺れを感じるということは――。
――深音は包丁を置き、鍋の火を止める。茹でていたパスタの味は落ちるかもしれないが、この際些細なことである。
代わりにジーンズから携帯を取り出し、登録していた番号からコール画面を呼び出し、迷うことなくコール。
『もしもーし? 地震のことでならわたしも寮も無事よー?』
「正直に言ってください。……何もしてませんよね?」
『おいコラ深音どういうことよそれ』
『……会話が想像できて、深音さんが言いたいこともなんとなーくわかりますのワタクシ……』
『黒子まで!? ……くそぅ、明日覚えてなさいよアンタ……!』
元気よく早めに切られた通話は、おそらく彼がこの後も何名かに連絡を取ると判断してだろう。――冗談交じりではあるが、『直後で真っ先に自分に』ということを理解して、美琴が少しうれしくなったのは翌日だが、これはまた別の話。
『はい! 佐天です! ただいま留守にしております! 御用の深音さんはお名前はいいのでご用件をお願いします!』
「……私専用の留守番メッセージに物申すべきですか? それとも初春さんにかけたのに佐天さんの声が聞こえたことにびっくりするべきですか?」
『いやー、初春の携帯が鳴ったんで開いてみたら深音さんだったものでついつい♪ あ、ちなみにアタシが何でここにいるかって言うと宿題のコp……答え合わせのためです! 初春はいまお風呂――から上がってバスタオル一枚ですよ』
『佐天さん誰ですか!? それ私の携帯ですよね!?』
切ったほうが、いいのだろうか。真剣に悩む。聞いたところ、無事な上に問題がある様子もない。
『それで、どうしたんですか? 深音さん』
「……いえ、今の地震はかなり揺れたので一応確認を。お二人とも大丈夫そうですね」
『地震、ですか? ありましたそんなの? 初春気づいた?』
『いえ、まったく……というより私の携帯返してくださって深音さん!? ち、ちょっと待ってください!? いまこの格好ワキャー!?』
『……えっと、いま、初春が転んだところですね、はい』
「ははは……とりあえず、大丈夫そうなので、これで……」
はーい、という返答を受けて、通話を切る。
感じた『不自然さ』をさらに強くし、深音はコール画面をなおも開く。
牛乳がこぼれたという固法、アンチスキルには人的被害などは報告されていないと黄泉川。
酔っ払って呂律の怪しい小萌、若干慌てた様子の土御門(兄妹)、なにやら落胆していた青髪、ジョギングしていたという吹寄、病院内に異常はなかったとカエル医師。
自分の知り合いに一通り連絡を入れる。幸いにも誰かが怪我をした、大変な状況である、ということもなく何事もなかったことに一息ついて安心。
「そもそも、地震だったんですかね……今の」
学園都市は広大である。しかし、地方単位で震度が同じ地震にしては、都市内で随分認識差が大きい。強弱の差はあるかも知れないが、気づかなかった者さえいるのは、さすがに疑問が残る。
窓を開け、夜風に目を細める。学園都市に、大きな混乱はないようだが――。
「……これが『いやな予感』――と、いうものですか」
規則正しい脈を刻む心臓を確認するように。
――深音は右手で、心臓の真上を押さえ続けた。
***
「転入生、ねぇー……」
二学期、つまりは夏休み明け。第二・第三学年ならまだわかるが、一年生では少し変な時期だ――と今までになら思っただろう。
「? なんですか? 美琴さん」
しかし、ごくごく身近に――というより身内に、まったく同じ境遇がいるのであまり違和感がない美琴。忘れがちになるが、未だに深音も転入待ちなのだ。
小萌などはもう転入してもいいのではと、打診しているのだが、書類上どうしても融通が利かせられない部分があるようで、夏休み明けの転入に変わりはなく。もっとも、クラス全員に紹介は済んでいるため、自己紹介など恒例なやり取りはいまさらだが。
「深音さんと同じ、ですのね。時期としてはまあ――確かに不自然ではありますが、深音さんと同じように止むを得ない事情かもしれませんの」
もっとも、深音さんよりも深刻な事情なんてありませんでしょうけれど、とはいわない。しかし、なんとなく全員がそれを思ったのか、似たような苦笑を浮かべている。
「で、一人部屋の初春さんのところに相部屋と……あれ? 佐天さんも一人部屋じゃなかったっけ?」
「ですよー? でも、ジャッジメントの初春に是非って感じで♪」
四人の先頭をご機嫌な足取りで進んでいくのは佐天。
『初春のルームメイトならアタシの親友候補』と力説し――純粋に友人が増えることを喜んでいた。
「ネタのわかる子っかなー♪ 初春に輪をかけた
「誰がツンデレっ!?」
佐天に向かって美琴が吼え……それを優しい目(×1人)と生温かい目(×2人)が見ている。
味方がいない……肯定3の否定1。可決である。
(……素直にならない意地っ張り屋さんですからねぇ、美琴さんは)
佐天に断固物申す姿勢の美琴を、ほっこり微笑みながら見守る深音。
――どこか、ツンデレの解釈がずれている気がしないでもないが……概ね正しいのでおいておこう。
そして、初春の下宿している学生寮に近づき、制服のままの初春が手を振っているのを発見する。その隣にいる少女が、話題にあがっていたその人だろう。
「み、深音さぁーん!! 佐天さぁーん!」
「……なんか、アタシ達ご指名されてるんですけど?」
「慌てている、っていうか困ってるようですの……」
四人は顔を見合わせ首を傾げ――とりあえず話を聞かなければ始まらないと初春に駆け寄ることにした。
「初春どーし……あー、うん。理解した」
「あ、あはは……なんか、駅に春上さんを迎えに行ってる時に引越し業者が来ちゃったみたいで――」
初春と、春上と紹介されて小さくお辞儀した少女の隣。勉強机や箪笥などの家具一式が、ダンボールの下敷きの上に鎮座している。
「いや、これはさすがに職務放棄でしょ……盗まれたらどうすんのよ」
「あ、着替えとか小物は玄関の前にあって……まあ、おかげで開かないんですけど」
扉の前の小物がどれだけかは知らないが、さすがに学生寮の玄関前から家具を運び出すのは大変な重労働、それも女の子ならばなおのことだろう。
「さすがにワタクシのテレポートでもこれは……」
「ですよねぇ……」
おおよその目安で人二人が限界だという黒子のテレポート。個別に行けば何とかなるかも知れないが、連続で初春の部屋に正確に飛ばせるか、と問われれば微妙と答えるしかない。
――もっとも、そんな黒子と初春のやり取りを聞き流して、家具類を悠々と持ち上げている執事がいるのだが。
「――
「す、すごいの――初春さんとやっても全然持ち上がらなかったのに……」
あんぐりと口をあけて驚愕している春上が、たぶん世間一般的に正常なリアクションである。慣れちゃったなー、と平然としている四人は、手遅れであろう。深音の声がなにやら重なっていたが気にしない。気にしないったら気にしない。
……傍から見れば、家具に足が生えて移動しているような光景である。――重量物を持ったときの不安定さどころか、足取りすら平時と変化なかった。
「……そういえば、なんで執事さんなの……?」
「「「「いまさら!?」」」」
――引越し作業中――
「基本的に家事系の作業が出来る六人がやれば三十分よぉ!!」
もう引越し業者より手際がいいのではないか、と評価されてもおかしくはないだろう。むしろ、春上の引越しと同時進行で部屋の大掃除まで出来たほどだ。
高笑いをする佐天。六人の中でそれだけのスキルを彼女は見せ付けたので代表のような発言に誰も文句はない。
「……いや、時間かなり余っちゃったけど?」
「あまらせたんですよ! この後思いっきり遊びに行くために!!」
コブシを握り締めてさらに力説する佐天 涙子。……自分の時間を確保するためならば労力は惜しまないらしい。やたら張り切っていた理由はそれか、と美琴は納得すらしていた。
「――まあ、残念ながらワタクシ達はご一緒出来ませんけれども……初春ー? その『それは残念ですねー』的な顔してますけど貴女とワタクシですわよー?」
「ふぇ!? な、何でですか!?」
遊びに行くべき場所を探すべく開いていた端末をみて、黒子はかなり本気であきれたという。
「近頃頻発している地震の件でアンチスキル・ジャッジメント合同会議があると伝えたでしょうに――」
「あー……」
ポン、と手を打ち……納得できたらしい。そのままガクリと肩を落として深いため息をついていた。
「それじゃあ、私と御坂さんたちと、春上さんの四人で遊びに行きます?」
「ず、ずるいですよ佐天さん!! 私も遊びに行きたい!!!」
「いやずるいって言われても……終わったら合流すればいいんでない? 普通に」
……。
「――ですよね?」
「うん」
(美琴さん、今風吹きませんでした?)
(気のせいよ。木枯らしとか、全然吹いてないから。うん)
「むぅ……すみません、春上さん。ちょっとジャッジメントの集まりがあるので、佐天さんたちと街巡りに行ってもらっていいですか? 集まりが終わったらすぐに、すぐに! 合流しますから!」
「う、うん。わかったの――……えっと……?」
その春上はというと、これから一緒に遊びに行く、という三人。美琴・深音・佐天の三名を順番にしっかりと、二順して確認し……。
「……えっと、よろしくお願いします、なの」
明らかに、『深音個人』にお願いして、頭を下げていた。
「ちょっと春上さん!? 今の間なに!? っていうか明らかに判定してたよね!?」
「……アタシのとき若干ため息ついたよね? ちょぉっとその辺じっくりしっかり聞かせてほしいね、春上さん?」
大きな声がだめなのか、生来の気の弱さか。深音の背に隠れるように移動する春上。
「……現状がすべてを物語ってますわよー……」
早くも打ち解けている様子に、黒子は苦味のかなり薄い、苦笑を浮かべた。
《 おまけ 》
「あ、佐天さん! くれぐれも、春上さんのスカートめくったりしないでくださいよ?」
「それはあれかい? アタシに『やれ』っていう振りかい? いいぜ初春? ご要望にお答えして……ッ!」
一陣の風となり、前方を歩く春上のすぐ横を駆け抜けざまに手を伸ばした。
「きゃっ……!?」
「ッ!? 見るな深音ぉぉぉおおお!?」
「何がでs目潰しはひどいです美琴さん……!」
めくれ上がった、布。色白の両足がさらけ出され――
「あ、なんだ春上さんも短パン派なんだ、ならいいや。ほら深音、道のど真ん中でうずくまってないでいくわよー」
「……初春、いままで、ごめん」
「……わかってくれればいいんですよ」
……被害者が誰か。
……どうか、察してあげてください。
読了ありがとうございます。
……さて、前書きと本文の温度差が激しい気がしなくもないですが……。
誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いします。