とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

54 / 85
 前書きは、スルーしてもらっても問題ありません。




――10月15日。全国的に火曜日であるその日の夜。台風の影響でひどい雨が降っていた。


 余談だがとある二次小説は、アニメそのものを基準としているため、時折アニメを見返し、矛盾がないか、流れはどうかなどを確認している。

 そして、とある科学の超電磁砲。21話『声』を視聴しているとき――事件は起きた(テレビ版をDVDに録画したもの) おおよそ中盤のこと。 美琴と黒子が、春上の個人情報を得ようとジャッジメント支部でハッキングを行おうとしたシーン。



 美琴が支部のパソコンに能力を使用した直後、なんと現実のパソコンが停止。 


「……?」

 あまりにもあんまりなタイミングに、思わず納得しかけたことを誰が責められよう。


「――みこっちゃん。貴女いつの間にレベル6(現実に干渉できるよう)になったの……?」

 ―――――信じるか信じないかは、あなたしだいです。


声応フ、君   15-1

 

 

 

  『――彼にこれ以上の無理をさせるのは、本当に危険なんだね』

 

 

 ……カランコロン、という下駄の音はとてもゆっくりとしたもの。その歩みも当然相応のものであり、さらに浴衣という動きにくい装いから、さらに歩の遅さには拍車がかかっていた。

 

 あわや大惨事――になるところをまさに九死に一生。誰もが『奇跡』と口を揃えるだろう事象のおかげで、彼女は無傷のまま帰路に着くことが出来た。

 ……そんな彼女は片手に携帯を握り締めたまま―― 巾着や懐にしまうこともせず ――自身の寮へと向かっていた。

 

 

 

 

 ――奇跡ではない。奇跡なんかじゃ、ない。

 

 

 

 

「手繰り寄せたんだ。……自分を犠牲にして」

 

 

 

  『原因は、ボクにも分からない……だが彼の身体を蝕んでいる何かが『いる』。それは、確かなんだ』

 

 

 

 病院からの帰路、彼の身を案じながらもそれぞれの寮へ向かうために解散したその直後に――携帯が鳴った。

 非通知からの着信ゆえにわずかに疑問を抱きながらも、出てみれば先ほどまで話していたカエル顔の医師。タイミングを狙っていたのかと思わず周囲を見回してしまったのは――まあ、致し方ないだろう。

 

 そして、医師の最初の――断りの言葉や自分が誰かという言葉を抜きにしての最初の言葉は、冒頭のもの。

 

 

 『彼』というのが誰を指すのか。……よほど察しが悪くなければ、誰でも――先ほどまで一緒にいた誰かならば、絶対に分かるだろう。

 

 

 

 ――彼ならば大丈夫。きっと大丈夫。……そう、心の大きい部分で思っていた。すぐにまた、みんなの中心に戻ってくる。あのあたたかい笑顔で、安心させてくれる。

 

 

 ……しかしその電話は、そんな思い込みをぶち壊す。

 

 

 彼も、無理をすれば倒れる。

 

 彼も、無茶をすれば傷つく。

 

 

 ――彼も、無謀に走れば、命を落とす。

 

 

(……っ)

 

 

 ぞっとした。その光景が、その意味が……容易く想像できてしまうことに。容易に理解できてしまうことに。心のそこから、ぞっとした。

 

 

 彼は――御坂 深音は、きっと無理をするだろう。そして簡単に無茶もする。そして、誰も彼もが無謀だという行為にも、躊躇いすら見せないのだろう。

 現に今日、彼女を含めた六人の命を守るために無理をし、無茶をして――無謀に挑んで、それを勝ち取った。

 

 

 その……代償。六人の命の安全を取るために、切り捨てたもの。

 

 

 執事服の黒はその『赤』をひた隠していたが、滴り落ちるそれまでは隠し切れず――そのまま倒れていく彼を――ただ呆然と眺めることしか出来なかった。

 

 

 

(……冗談じゃ、ないわ)

 

 

 彼を揺り起こそうとしただけで、その手は赤に染まった。引き起こそうとしても、その身体は重く――病院へ連れて行くことも出来ず、ただ連絡をして声を掛け続けるだけ。

 

 深音が……意識を完全に失う直前に、良かった、という呟きをただ聞いているだけ。

 

 

(なに『守られる立場』甘えてんのよっ……!?)

 

 

 握っていた、握り締めていた携帯から小さな軋みが聞こえる。ギリギリと、指先が真っ白になるまで力の篭められたその手は、まさに彼女の――自身に対する怒りを表していた。

 

 

 

  『だけど、彼の身体には何の問題も見られない――つまり、完全に外的な要因なんだね? おそらく、あの振動現象、だったかな? それが関係していると思うんだ』

 

 

 

 カエル医師は、ヒントをくれた。

 

 

 ポルターガイストと呼ばれる振動現象。

 

 その原因は――RSPK症候群の同時多発。ひとつのヒントから、ひとつではない、ふたつのキーワード。

 

 RSPK症候群は同時に起きるものでもなければ、多発するようなものではない。

 

 なぜ多発するのか、なぜ同時に起こるのか。それが新しい手がかりになる。

 

 

 

「あ、おかえり――って美偉!? アンタ人がせっかく綺麗に着付けて……なにこの赤い、これ血、よね? ちょっと、いったい何が――」

 

 

 手がかりがある。ヒントもある。 ならば、自分の頭は廻る。

 

 力は、彼にずっと劣る。男女の差を引いても、彼の盾になることもかなわないだろう。

 だが、彼女は――固法 美偉はジャッジメントなのだ。『盾』の紋章を掲げることを許された、一人なのだ。

 

 力は足りない、前に立って守ることもかなわない。ならば、自分の得意なことで、彼を守るとしよう。助けるとしよう。

 

 そのために――。

 

 

「碧美……ちょっと、貴女の名前(役職)、借りるわよ?」

「……まず、説明してくれる? アンタの思考で話されるとチンプンカンプンなんだからねこっちは」

 

 

 ルームメイトである柳迫 碧美(ジャッジメント副本部長)の、その権限を得る。まずは正攻法で挑む。それがだめなら、非正攻法も辞さないと眼が語る。

 

 

 ――あー、そう。もうとっくに火はついてるのね。

 

 そう、友人で上司なルームメイトが呟いているが、今の彼女にはどうでもいいこと。

 

 

 着替えをする手間すら惜しい。軽くシャワー、そんな時間すら惜しい。

 

 

(深音くんは、たぶん無理をする。言っても、無茶するだろうし、止めても無謀なことを躊躇わないはず)

 

 

 義妹である美琴は当然だろう。黒子や初春、佐天はもちろん――少し気恥ずかしいが、自分も含めて、大切な人たちに危険や危機が襲い掛かったなら、彼は自分の心身を淡々と天秤の片方に乗せるだろう。

 

 それを止められない、のなら。

 

 

  『でもその《外的な要因》さえなくなれば――あまり推奨したくはないけれど……彼はどんなことでも出来る。ボク達が無理だと言い、無茶だと尻込みし、無謀だとあきらめることのほとんど全てを』

 

 

 カエル医師は、何かを『知っている』。おそらく、美琴も知らないであろう深音を。

 

 

「……いいわよ、私には私のやり方がある。教えられるのを持ってるなんて、柄じゃないわ」

 

「えと、あの、美偉――さん?」

 

 

 

  『彼の、力になってあげてくれないかい? もちろん、無理にとは言わないけど――』

 

 

 

「言われなくてもなってやるわよ。彼の、深音君の力に……!」

 

「おうおう、美偉が一丁前に女の顔しちゃってるわ――っていうか私の話聞いてる? ねえ、美偉。ちょっとだけでいいからこっちに思考を裂いてくれない? いや本当にちょっとでいいから」

 

 

 ――結局無視されたルームメイトで上司で友人な彼女が、深い苦笑をこぼしたことさえ、固法の思考に引っかからなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「――AIM拡散力場。まさか、こんなにすぐに聞くことになるとは、思いもしませんでしたの」

「それが、そのRSPK症候群? っていうのを同時多発させてる、っていうんですか?」

 

 放課後のジャッジメント177支部――そこに集合したのは、美琴と黒子、そして、その二人を呼びつけた固法の三人。

 

 

「……固法先輩? その、もしかしなくても昨日寝ないでお調べになったんですの……?」

 

「まあ、ね。疑問自体は最初からあったわけだし――正直、深音君に助けられてばっかりだと、ジャッジメントとして立つ瀬がないわよ」 

 

 そういって笑顔を浮かべる固法は仕切りに欠伸をかみ殺し、眼の下にうっすらと隅を作っている。

 

 

「それに、『寝てない』っていうなら、私だけじゃないみたいだけど――あれから、連絡は……?」

 

 固法ほどではないにしても、美琴にもうっすらと隅がある。……心配で眠れなかった、というのが真相だ。

 

「さっき一応……。授業が終わって、黒子のテレポートで病院に行こうと思ったんですけど『今は会わせられない』って――まだ意識を取り戻してないっていうか、眠り続けてるみたいで」

「……そう」

 

 

 意識不明か、眠り続けているか。どちらの言葉が正しいのかは定かではないが、三人の共通認識としては『あの』深音がそこまで消耗している、ということだ。

 

 

 

「……話を戻すわね。さっき話したAIM拡散力場との関係性は、まず間違いない――というより、それくらいしか説得力のある説明が出来るものがなかった、というのが正しいわ。論文の執筆者は分からなかったけど、理論とかには筋が通っていたし」

 

 

 ……まず、それをなぜ理解できるのか。という疑問が美琴と黒子の間に湧き出してきたが、今は些細なことと流す。

 

 

「それで、二人も大体頭に浮かんでいるとは思うけど――」

 

「……木山先生、ですわね?」

 

 

 AIM拡散力場。それを言葉として知っているものは、科学者であれば相当数するだろう。なにせ、能力者たちは皆微弱な力場を有しているのだ。むしろ知らないほうが少数だろう。

 

 しかし、それを専攻している者は問われれば、極少数であると言わざるを得ない。さらに彼女たちに限り、ひとりの女性が浮上してくるのだ。

 

 それが木山先生……木山 春生である。三人の記憶にも新しいレベルアッパー事件の首謀者であり、また解決に尽力した功労者の一人だ。

 

 

 

 『――あきらめる? 何を言っているのやら……手段の一つが潰えた程度で諦める私だとでも? ……私の頭脳は『ココ』にあるんだ。また、計算式をゼロから始めるさ。まあ、それが『君たちの気に入るやり方』かどうかは知らないがな。気に入らなければ、また止めにくるといい……ああ、そのときには君のお兄さんに海外旅行でもプレゼントしておくよ。うん、本気で』

 

 

 当時は、変わらない態度に苦笑して、気に入った手段であるのなら喜んで手伝おうとも考えられたものだが。

 

 

「? ですが、木山先生は確か17学区の特殊留置場に拘留されているはずですの。いくら木山先生がレベルアッパーの時のように単身で何かを起こそうにも留置場では――」

 

 

 

「そう。拘留されていた、はずなんだけど――釈放されてたわ、彼女」

「「……はい?」」

 

 

 木山は拘留されているから、木山はかかわっていない。ではどういうことなのか――というところまで先読み思考して、二人そろって眼を点にした。

 

 

「釈放……って、確かに死傷者こそいないけど、こんな短期間に許される事件とは思えないわよ!? 何でまた!」

「――さすがにアンチスキルの管轄だし、詳しいところまでは分からなかったわ……ただ黄泉川先生の独り言だと、『保釈人がいての釈放』ってことらしいけど、その保釈人が誰かまでは……」

 

 

 でも、と固法は続ける。その眼には強い意志があり、いまだに辿る跡は残されていると雄弁に語っている。

 

 

「木山先生が釈放されたのは、例の振動現象が一番最初にあった日の二日後。まず間違いなくこの件になんらかの形で関わっていることは確かなの。彼女さえ見つけることが出来れば――」

 

「どっちにせよ進展がある、ってことですね?」

 

 彼女に協力するのか、また敵対するのかは分からないが、美琴の出した結論と同じ結論に至っていた固法は頷くことで賛同する。

 

 

「――あの、固法先輩。ではなぜ初春をこの場からお外しになられたんですの? 正直な話、木山先生を見つける云々であればワタクシ達よりも初春の方が適任だと思うのですけれど……」

 

 この場に呼ばれたのは、美琴と黒子だけである。初春もと黒子が進言したのだが――固法がそれを制したのだ。初春が来なかった、のではなく、固法があえて呼ばなかった。

 結果は同じだが、過程はとんでもない違いがあるため、相棒である黒子はもちろん、美琴でさえ疑問を覚えていた。

 

 

 

「――ねぇ、貴女達。昨日の揺れの前後の……春上さんの様子。どう、思う? どう思えた?」

 

 

「どう、って……まさか、春上さんが!?」

 

 振動現象が収まった直後。深音が倒れ、その状態が危険なものであったことから、美琴は正直記憶に残っていない。しかし黒子は思うところがあるのか、腕を組んでうなっていた。

 

 

「……彼女もなんらかの関わりがある、と思っていらっしゃるので?」

 

「――申し訳ないとは思うし、私自身そんなこと考えたくもないわよ。……でも、私は万が一も見過ごしたくないの――それに、春上さんがいた第19学区だと、振動現象がかなり観測されていたのよ。でも、彼女がこっちに――第7学区に来た日からほとんど観測されていない。しかも」

「同じタイミングで第7学区(ここ)でその振動現象が多発し始めた……?」

 

 

 

 固法はゆっくりとうなずく。

 

 

 彼女が一夜かけて、一夜『も』かけて何度も篩にかけ、精査し、吟味した上で――導き出した『答え』。

 

 

「――木山先生と春上さん。この二人が、今回の事件の重要な鍵よ。しかも、多分春上さんには自覚がない可能性が極めて高いわ……だから、いざというときのために、初春さんに付いていてもらった方が都合がいいと思ったのよ」

 

 

 鍵となったのは、二人にとってはどちらも友人知人。一人はその意志の強さにある種の尊敬すら抱き、もう一人にいたっては大切な友人だ。 

 

 

 ――できるのなら、どちらにも協力する最高の形であってほしい。

 

 

 ……美琴と黒子は互いに顔を見合わせ、心から、そう願った。

 

 

 




読了ありがとうございました。

 誤字脱字・ご指摘などありましたらお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。