決着に向けて、一気に加速させようと思います。
13/11/12 人物名修正
草木も眠る丑三つ時。
具体的に何時頃だ、と問われる方は――現代的な時間表示であれば大体AM2時頃だと思っていただければおおむね結構である。
24時間営業を掲げる某コンビニなどの商店を除いて、ほとんどの店が閉店してかなり時間が経ち……都市そのものが最も静まり返る時間と言っても過言ではないだろう。
ごく一部の職に就く就労者や、ごくごく一部の人間を除いて、皆が連れ立って夢の世界へと旅立っている。
「……」
「……」
そしてそんな、『ごくごく一部の例外』となった二人が、夜の高速道路のドライブにしゃれ込んでいた。
――夜のドライブとは言っても、どちらも女性かつ大人と子供。……ロマンチックの要素はどこにもないのだが。
「……君のその格好は、なんだ――ツッコミ待ち、と思っていいのかな?」
「で、できればノータッチで居てくれると嬉しいかな~なんて~……」
会話すらこんなものである。
――青のランボルギーニ・ガヤルド(カスタム車)は、眠りに付いた夜の都市を走る。
それを運転する、一部の少女たちの間で渦中の人となった木山 春生。目の下に刻まれたクマはより深く、ボサボサの茶髪も相変わらずだ。
そして、その助手席に座る――世間的にこの時間帯に居てはいけない常盤台中学の生徒――御坂 美琴。
良い子は寝る時間であるのだが、こういえばきっと何かしらの反論が飛んでくるので、胸のうちにそっとしまっておいてもらいたい。
「まあ、似合ってはいる――と思うがね。ただ、なんだ? もう少しTPOは、考えてだな……」
「……こ、これはその……」
――なぜか、執事服に緑の眩しいカエルのお面という、なんとも――あれでそれな格好で。
そしてTPO論を、最も言われたくない人物の一人に言われてしまった美琴であった。
「そ、それよりもっ! 釈放ってどういうことよ!? 今回のことにも関わってるの!? それにさっきの話の続き! それにあの研究所だって――」
「(話題を変えようと必死だな) 私の車に乗るお嬢さんは、いつも矢継ぎ早に質問をしてきて困る。全て話すよ――言った通り、君も無関係じゃないからね」
最初は、木山の思うとおりの話題転換だったのだが、美琴の勢いは止まらない。今まで抱え込んできた疑問の全てをぶつける。
木山は運転中ということもあり、必死な美琴をチラリと横目で確認し、再び視線を前へ。
「さて、何から話そうか――そうだな。君の質問に順番に答えるとするなら、釈放はちゃんとした手続きの下で行われたよ。アンチスキルも立ち会ってたしな」
「――保釈金でも出したってこと?」
……言い方は悪いが、犯罪者が刑務所から出所するのは二つのパターンがある。刑期を全うするか、法で定められた金額を罰として収めること――なのだが、木山の場合はそもそも『拘留中』。刑罰もなにも決まっていないにも関わらず、拘置場から出てこれるはずがない。
――その犯した罪がそもそも間違いであり、誤認逮捕などという特異なケースでもなければ、だが。これも木山には当てはまらない。
「……意識を失って昏睡してしまった子供たちを、救おうとして動いているのは私だけじゃない、ってことさ」
協力者、という言葉が美琴の頭に浮かび――かつて相対した際に見た記憶が蘇ってくる。
あの事件で――終わりだと思っていた。
少なくとも、美琴たちにとっては終わりだっただろう。
――しかし、木山は戦い続けていたのだ。あれからも、ずっと。
「技術協力、いや、治療協力という名目での仮出所といえばいいだろうか。全てが終われば、アンチスキルの監視下に戻ることになっているよ」
先の事件の罪は忘れていない――と、どこか自嘲気味に笑っている。
「続いて二つ目は、えっと……『この件に関わっているのか』というものだったか。……答えは是。だが――参考までに、なぜ私が関わっているのだと思ったんだ?」
関わっている、という返答に顔を険しくしながらも、固法が少ない手がかりで考察したのだと素直に答える。
名前で思い浮かばなかったのか、レベルアッパーのアップデートに協力したメガネの女子高生、と言われて思い出し、その時にも能力の高さを垣間見たので納得。
――メガネ、という辺りで一瞬だけアンチスキルの女性のほうが浮かんだが、気にしないことにした。
「先ほどの話――の前に、順序としてあの研究所と、あそこに居た理由か。子供たちが昏睡する原因となった実験が行われた研究所――というのは、おそらく君も見たから知っているだろう?」
うなずいた美琴を気配で察し――きつく、ハンドルを握り締める。
「――どうしても、必要なものがあってね。あの子達を眠りから覚ますために、絶対に欠かせないものなんだが――」
一縷の望みだったんだが……と呟き、その無念さを滲ませる。隣に座る美琴にも伝わるほどだ。
しかし、切り替える。無念ではあるし、それがあれば……という思いも当然ある。しかし、無いのであれば、さっさと切り替えて次の手を考えなければならない。
「最後に、君に言おうとしていた話――か。話、というよりも謝罪なんだがね……」
「謝罪?」
はて、と疑問を浮かべるのは美琴だ。謝られることなどあったか、と視線をさまよわせるも、何一つ思い浮かばない。むしろ――。
「えっと、流れ的に謝るのは私のほう、かなー、と……」
――主に、死んでいたセキュリティを電撃蘇生させてしまった先ほどのこととか。
「いや、おそらくあそこには何も残されていないさ……言ったろう? 『一縷の希望』と。あれは……実験に必要不可欠なものだ。逆に、あんなところに放置されていたらおかしい。もしかしたら、という考えだから気にする必要はないさ」
いまだわずかに無念さを滲ませるが、木山の顔は次の手をすでに思案している顔だ。
だからこそ、余計に分からない。
美琴は、自分が謝罪を受ける理由が一切思い浮かばないのだ。
そして、いつの間にか高速を降りていた車は、気付けば見知った道を走っている。知っているも何も、日付的には昨日だが、時間的には数時間前に通った道だ。
そして、美琴は口を閉ざす。
……車は、見知った場所に、止まっていた。
「――詳しいことは、中で話そう。付いてきてくれ」
車を降りて先導するように、木山は歩いていく。
職員用と示された裏口を通り、地下へ。
そして、隠され、守られてきた一室へ、案内された。幾重にも幾重にも厳重に隠そうとしている先にある場所に。
「改めて、紹介しよう。――私の、教え子たちだ」
初めて会う、見たことのある子供たち。しかし、知っている顔からだいぶ成長し――その年齢は美琴にも近いだろう。
しかし、彼ら、そして彼女は眠り続けている。木山や美琴に反応することなく、ただ穏やかに、眠り続けていた。
「――待ち、なさいよ」
「……」
美琴は、理解した。木山が自分にした謝罪の意味と、その理由を。
彼女に身に覚えがなくて当然である。言葉だけ伝えられて、理解できなくともおかしくは無いだろう。
「なんで深音があそこにいんのよ!?」
――気がつけば、木山に詰め寄っていた。
――気が付けば、彼女の胸倉をつかんでいた。
眠り続ける子供たちの中――その列の丁度中心にあるベッドに、御坂 美琴の
木山の教え子たちという子供たちの誰よりも多く――二倍三倍という電極と点滴を付けられ、頭には何か機器が取り付けられおり――何かあったのは明らかだ。
数時間前に、理由も告げられずに面会を断られた。
携帯に掛けてみてもつながらない。当然なのに、それがたまらなく不安を搔き立てた。
黒子たちもなぜか帰宅せず、美琴だけがなにもしていない。という状況が嫌で記憶を頼り、かの研究所に忍び込み――探していた鍵の一人である木山と再会し――。
――何がなんだか、分からなかった。
「答えなさい! なんで、なんでアイツがあそこにいるの!? ――まさか、アイツまで巻き込んだんじゃないでしょうね!?」
烈火。今の美琴を表すのに、これほど的確な言葉は無いだろう。
烈火とは激しく燃え盛る炎――しかし、すぐさま消え果る火でもあるのだ。怒りと、不安。胸倉をつかんでいた手は、片手から……両手に。
……意識不明、昏睡。すぐに治ると、すぐに戻ってくると思っていただけに、その不安は大きいもの。
今だ木山には届いていないものの、半暴走状態の高圧電流が頭付近でバチバチと音を立てている。
「――病院内での能力の使用は、控えてほしいんだね?」
そんな、一触即発の空気が満ちた空間を……どこまでも穏やかな声が、場違いにも吹き飛ばしてくれた。
「ゲコ太!?」
「……病院内でいつの間にかボクのことがゲコ太と呼ばれるようになったのは、十中八九君のせいなんだね? まあどうでも良いんだけど――」
やれやれ、という苦笑を浮かべるゲコ――カエル医師は、二人の隣まで歩き――隔離された空間に、手をかざした。
「……彼のことでなら、責める相手が違う。 彼の協力が必要だと彼女に提案し、そして彼に依頼したのも、ボクなんだ」
……分からないことがさらに+1。
暴電状態になりかけた頭では理解できるはずもなく、美琴はまずは冷静を自分に言い聞かせた。
「……説明、してくれるんでしょうね……!?」
「もちろん。君にはその権利があるし――ボク達にはその義務がある」
落ち着いて『くれた』美琴に笑顔で返し、医師は記憶を呼び起こす。全ての始まりと原因となった一人の科学者の名と、それを、止めようと思えば阻むことができた自身への、後悔とともに。
***
「――あえて問いましょう。
暗黙と――大きすぎる講堂は暗く照明を落とされ、言葉を発するものがそもそも極少人数であるために、異様なまでの静けさで包まれていた。
そんな中、唯一の光源に照らされた壇上の上で、初老をそれなりに超えた……老人といって過言ではない男が声高に宣言している。
「人類を超えた存在、レベル6……それは『神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの』。長らくその解へといたる式の冒頭さえ、我々の手中にはなかった……しかし私は宣言しましょう! 『その冒頭に我々はたどり着いたのだ』と!!」
その男は、老人らしいしわがれ声に――老人らしからぬ力をこめて言い切った。マイクなど必要ないのではないかと思われる声量は、広い講堂に点々と座る、各分野の識者の耳に例外なく届く。
「そのヒントが、暴走能力者――暴走能力者の脳内では通常とは異質なシグナル伝達回路が形成され、各種の神経伝達物質――さまざまなホルモンが異常分泌されています。それら分泌物質を採取し凝縮精製したものこそが――この能力体結晶なのです」
男は、手を高らかに掲げる。それは小さく、講堂の後方で見ていれば何を持っているのか判断つかないだろう。
それは小さな、指先ほどしかない深紅の結晶。男の言葉どおり人の身体から採取されたものなのだと確信させるほどに、鮮やかな血の色をしていた。
「コレを特に選ばれた能力者に投与することによって、レベル6を生み出せるのです。能力体結晶こそ、長らく暗闇に閉ざされていた神のシステム――天上の意志に我々を導くことでしょう!」
――言うべきことは言い切った。否、『種は撒いた』といわんばかりに、男――木原 幻生はその場を悠々と歩み去る。
去ろうとして――質問用に各席に備えられたマイク使用された際に聞こえるわずかなノイズが、その足を止めた。
『失礼――ひとつだけ。――あんなもので、本当にレベル6なんて生み出せるものですかな?』
「もちろん。研究は順調そのものですよ」
暗い講堂では、その発言者を特定するのは難しいだろう。
しかし、木原 幻生は――ほかの科学者を意にも止めず、最後尾に座る一人の医師を見上げた。
『その順調という過程がどういう価値観によって言われているのかは分からないけど――悪戯に意識障害と重篤な副作用を起こすのではないかな?』
「価値観の相違ですなぁ……実験は着実に成果を挙げている。なんの問題もない」
その言葉は、すでに研究が行われ、実験が重ねられ――その能力体結晶か使用されたことを意味している。
『その成果のために、それだけのために、一体どれだけの犠牲を払ったと言うんだい……!?』
科学と、医学。それは真っ向からぶつかり合い、火花を散らしていた。
「いませんよ、犠牲者など。私の研究にそんなものはありません。あるはずもありません――では、私は多くの研究課題が残っていますので、コレで……」
講堂に、響くは男の高笑いだけ。
それを、医師はただ見送ることしか、できなかった。
***
「……彼が、その存在をどういう風に認識していたかは分からないが――犠牲者はいたんだよ。それが、この子達なんだ」
「私が聞かされていた『暴走能力の法則解析用誘爆実験』というのも方便……本当の目的は能力体結晶の投与実験だったというわけさ」
カエル医師は、先の事件――レベルアッパー事件から真相へとたどり着き、行動を起こした。医者である自身の役目を果たすために。
そしてその過程で、専門家である木山を釈放したのだという。
「そして、今起きているポルターガイスト――それの原因となってしまったのが、この子達だ。この子達が目覚めようとすれば、AIM拡散力場が異常な数値を示した――」
「それって……」
固法が推察した、RSPK症候群とAIM拡散力場の関係。それが証明された。
「ああ。能力の、暴走だ。それがRSPK症候群の同時多発の要因となっている」
子供たちが起きようとするだけで、あれだけの規模。それが、本格的な覚醒をしたとすれば――。
「コレまでの比ではない被害が出るだろう。……それこそ、学園都市全域が壊滅しかねないほどの、ね」
「そんな……」
できるのならば、今すぐにでも目覚めさせてあげたい。しかし、その対価といて学園都市全域が有史上最悪級の地震に襲われる。
子供たちか、学園都市か。
そんな理不尽な天秤が、美琴の中に現われていた。
(あれ……?)
現われて、グラグラと揺れて……一つの疑問が浮かんだ。コレまでの話は、とても重要で、学園都市全体にかかわるほど重大な話だ。
――しかしその中に、一つとして深音が関わる話は、ない。
美琴の隣ではなく、子供たちの隣で事件に関わっている理由が、今だ明かされていないのだ。
「……固法君から聞いているかどうかは知らないけれど――例の振動現象の直前から、深音君の身体に著しい悪影響が出ることが確認されているんだね?」
美琴が頷き、木山は視線を、子供たちと深音に固定したまま動かそうとしない。
「……そして彼に聞いた話と照らし合わせて分かったんだけど、彼に悪影響が出た後に、子供たちは暴走状態になった。コレまで何度か覚醒しようとして、暴走状態になることはあったんだけど――あそこまで強いものではなかったんだ。それも覚醒しようとしない状態でなるなんて今までなかった。
そして昨日――深音君の悪影響の原因を探ろうとして、分かったことが一つあるんだね?」
カエル医師が、険しい顔を浮かべる。気に入らない。医者としても、一人の大人としても、許しがたいという意思をこめて。
「誰かが、作為的に子供たち暴走させようとしている。それも、より強い暴走状態に陥るように意図して、ね」
「は……?」
カエル医師の言葉が理解できなかったわけではない。
信じられなかったのだ。子供たちを利用するというのも、学園都市230万人の命を危険にさらすその蛮行も。
「脳波か、特殊な電波か。それは分からなかったが、一つだけ分かったことがある。彼が――深音君が近くにいれば、その干渉を妨害できる。現に昨日のポルターガイスト現象から私たちが観測できただけで四度、深音君の身体には凄まじい負担が掛かったが、子供たちは暴走状態に陥っていない」
木山の続く言葉に、美琴は完全に言葉を失った。
花火大会のとき、瀕死になりかけた深音。しかし、その原因は限界を超えた駆動によるものなのだろうか。もしも、その悪影響によるものだとしたら――深音は都合、彼女の至り知らないところで五回――とてつもない、死に瀕するほどの苦しみを耐えていたことになる。
そして、そんな自殺行為と言っても過言ではない行為を黙って容認した、大人二人が目の前に居た。
いや、この二人は言っていたではないか。
《依頼した》
――と。
「じゃあ、何……? 深音が苦しんでる理由は、あんた達にもあるってことよね……!?」
バチリバチリ、と。先ほどとは比べようもない電流が、美琴の全身からほとばしる。
――止められたはずだ、と。
今知って、憤ることしかできない自分とは違って。
「――止めなかったと、思うかい? ボク達が、彼を止めなかったと……本当に思うのかい? ……何度も止めたさ。何度もあらゆる危険性を教えたさ。君には言い訳に聞こえるかもしれないけどね」
想像ができた。子供たちを守ろうとする深音が、二人の静止を振り切る姿を。
そして、理解もできた。
ポルターガイストは、原因は分からないが、春上の周辺で起きている。そして、その春上の近くに居るのは、美琴たちだ。花火大会のときは奇跡的に全員を助け出せたが――次は? そしてその次は?
どうせ苦しむのなら、より自分に苦痛を科して、美琴たちの安全を確実にさせるだろう。
「っ! あんの、大バカ・・・・・・っ!?」
そんなに、自分は頼りないか。そこまで、自分たちは信用できないか。
点滴につながれ、電極を付けられた深音を見て――絶対一発、ぶん殴ると誓う。
「――私も、協力させてもらうわよ・・・・・・あのバカ、絶対ぶん殴らなくちゃいけなくなったから」
……その言葉に、ほら見ろ、と大人二人が苦笑し――当事者もかすかに、苦笑しているように見えた。
読了ありがとうございました。
誤字脱字・ご指摘などありましたらお願いします。