「眼を覚ましたって本当なのリアルゲコ太!」
「(リアルゲコ太……)本当なんだね? というより病院では静かにね?」
白衣の男性の胸倉を掴んで詰問する女子中学生。
……何を言っているのか分からないかも知れないが、事実なのでご了承願いたい。
黒子がテレポーターである事を忘れ、施設の外でまだ残っていたアンチスキル(じゃん)の車両を無視し、地下に残された初春を思い出すこと無く、美琴は暗くなりつつある学園都市を駆け抜けた―――
というのも、もう三日前のこと。
たどり着いた病院で支離滅裂ながらも事情を話すと、カエル顔としか言いようの無い初老の医師がやってきた。そして彼を見るや否やそのまま集中治療室へ連れて行き、ランプがともる。一日目はそこから出てくることは無く、なぜか現れた常盤台女子寮の寮監に回収された美琴と黒子。
二日目に黒子へ連絡が入り、原因と現状が伝えられる。可能な限り脳への刺激を控えるということから面会謝絶。今も眠り続けているとのこと。その日一日美琴は落ち着きが無く、黒子がいうには『子供の誕生を心配する父親が病院の廊下を行ったり来たりする姿』が一番近かったとのこと。
そして三日目。なにがそこまで彼女を駆り立てるのか、ろくに眠らなかったためにしっかりと隈を作った美琴の元に、黒子を通してカエル医師から連絡が入った。
そして冒頭へと戻る。
「いや、ボクも長年医療に携わっているけれど、あんなとんでもない回復力を持った患者は初めてなんだね? 君達が運んできてくれたときは、どうして生きていられるのか不思議なほどだったし、まともな生活を送れるようになるには数年はかかるだろうとみていたんだけどね?」
それを、三日で修了しちゃったよ彼は。と、どこかうれしそうに話すカエル医師。
「ああ、それと。君達が彼を連れてきたときとは全く様変わりしてるからね? 他の人の病室に入ったわけじゃないからね」
((様変わりってドンだけ……?))
美琴と黒子は一応想像してみる。乾いていない木乃伊、としか表現の仕様が無く、髪もぼさぼさで、失礼だがあの儚すぎる笑顔がなければ、ホラー映画にでも即出演が出てきそうな姿だった。
それが、様変わりしているらしい。
「今はボクの伝で頼れそうな人たちに声をかけて、色々と面倒を見てもらっているんだね? 彼には必要なものが山ほどある。ボクだけだと、どうしても手が回らないし、学生である君達を頼るわけにもいかないしね? さてここだ「ですから!ウチが引き取るといっているのです!」YO……?」
カエル医師のラップ調。誰得なのかはさておいて。
「事情をかんがみても! 同じ年頃の子達と一緒にいるほうがいいに決まっているのです! ウチの学校ならいつでーもウェルカムなのですよ!」
「いえ、第一発見者は常盤台の寮生です。丁度男手が欲しいと考えていたので、我が常盤台の寮が責任を持って引き取ります」
「発見したって、あそこは立ち入り禁止の建物じゃん。学生がそこにいたって言うのは世間的にもよろしくないじゃん。だからここはアンチスキルに任せるじゃんよ!」
「「「「…………」」」」
カエル医師は、瞬き一つせず意識をフリーズさせ、他の面々も大体似たような感じでその光景を見る。
ハムスター VS トラ VS 龍。
自然界ではまずありえない貴重な一戦が、目の前で三人の女傑を通してくり広げられていた。
トラの手にはメジャーが握られ、ハムスターの手にはなにやら書類があり、龍は鞄からなにやら大量の服を取り出していた。
「……なんですのこれ?」
「服の採寸をしているときに誰があの人を引き取るかー、って感じになって開戦ですかね?」
「知らないわよ。そもそも何で当然のように寮監がここにいるのよ……っていうか肝心のあいつはどこよ……」
「えっと、こんな感じでいいんですか――……?」
個室ゆえに当然あるトイレから出てきた――
「「「……執事?」」」
まごうと無き、執事。
黒いサラッサラな長髪をシンプルにうなじで結い纏め、『凛とした顔』を明確的確に再現した顔。輪郭は男性であるはずだが、肌質は神経質になって整えている女性を超えるほどきめ細かい上に白い。
そして、首から下を形作る執事服。
当然、三人に見覚えがあるはずが無い。しかし執事側は知っているらしく、嬉しそうな顔で会釈してくるではないか。そこで三人はここに入る前に言われたカエル医師の言葉を思い出す。
……もっとも、その当人はいまだにフリーズから回復できていないようだが。
「イタッ!? 何するんですか白井さん!」
「夢じゃ、ありませんのね……」
「自分のほっぺつねりましょうよそういう時は! っていうか何で顳顬にデコピンなんですか!?」
現実を夢かと疑うほどに、信じられなかったらしい。
「ふむ。やはり私の眼に狂いはないな。やはり我が常盤台で執事を――」
「何勝手に着せてるじゃん! そっちも言われたとおり着てみちゃだめじゃん!! 確かにすっげえ似合ってるけど状況考えるじゃん!」
「そうなのです! まずは学校で色々お勉強しなくちゃなのです! 似合ってますけど!」
再び三人の論争が始まる。カエル医師はフリーズから回復したものの、人選間違えたかな?とだけ呟いて仕事に戻っていた。
「あの三人は今のところ放置するとして――」
より近くで観察すれば、その様変わりレベルがさらに浮き彫りになる。一歩踏み外せばホラー映画の木乃伊から、街中を歩けば女子に熱いため息をつかせるような美男子である。別人だ、といわれてもそれで信じてしまうだろう。
「あの状態から三日でここまで復活するものなんですの……? なんですのこのしっとりさらさらとした髪質……」
「私はチラッとしか見てないですけど……うわ、凄い。卵肌ってやつですよねこれ? いいなぁぁ……」
「……えっと、まあ、大丈夫なの? 体のほうは」
「お願いです。無視しないで何とかしてくださいこの2人だけでも……」
ついには泣きが入る。目が覚めたら三人の大人が自分の将来を決めようとするわ、希望だと思っていたカエル顔の医者はどこかへ行ってしまうわ、新しくやってきた三人のうち2人は体を物色・考察始めるわ……。むしろ、今まで弱音を吐かなかっただけ凄いだろう。
とりあえず、2人の頭に少し強めの拳骨を打ち下ろした美琴。
「「……」」
「改めて、どうなの? 体の調子は」
「えっと……問題ありません。長期絶食と能力酷使の影響でしばらく能力は上手く扱えませんが……すぐに回復するらしいです。 ただ、私の立場というかそういうのがややこしいようで」
名前が分からないため、出生記録や捜索願いなどは検索できず。DNAなどは研究のため殆ど別物に変えられているため、親族調査などもできず。
「八方塞がりってわけ……」
「物心ついたときからあそこにいましたから、他の皆のように外の記憶も無かったですし……」
「学校にはキチンと通うべきなのです! 青春はエンジョイするべきなのです! 決してウチのクラスにはいない個性の子だから、とかいう理由ではないのです!」
「有能な人材をむざむざ手放せません。……あれほどの逸材ともなればなおさら」
「……逸材って執事服が似合うって意味じゃん? それ完璧お前の趣味じゃんよ。お前昔っから執事萌えだったじゃん。まー、小萌先生の言うことも尤もじゃんよ。けど、アンチスキルとしてもあれほどの人材は見過ごせないし、アタシも弟欲しかったじゃん」
各々が自分の立場からの言い分をいい、3人はかなり私的な理由を述べている。常盤台の寮監など、『逸材』のあたりで彼を見て眼鏡を光らせていた。
「黄泉川先生とあの小柄な先生? は分かりますけど……寮監が何故この場にいるのか、とても気になりますが――でも名前がない、というのは些か不便ですの。これからの生活でもまず必要ですし」
Σ!( <I >ω<I>)
「? 310番じゃダメ「ダメ!」ではNEXT「ダメですの」……「ダ……あれ? 私の出番なしですか?」……」
……先ほどから散々な目にしかあっていない初春。涙目になっているが、それでも放置されるらしい。
「ったく。しょ、しょうがないわねー。ほんとしょうがないわねー!」
部屋の隅で膝を抱える初春とは真逆、やたらテンションが上がり、顔も比例して大変嬉しそうになる美琴。
そこからある推察を立て、そして半ば確信にいたる黒子。
(……もしかして、寝てない理由ってコレですの……?)
そんな様子から大まかな事情を把握した黒子が呆れた顔で美琴を見るも、それすらも美琴は完全にスルー。
美琴が三日前。彼を病院に運んだ後、件の研究所後に戻り……彼が作り上げたドックタグの十字架を回収したのだ。一つ一つが歪な金属版だが、しっかりと名前が彫られている499枚ものタグ。
しかし、当事者である彼が、それらしいものを身につけていなかったことを美琴は思い出す。そこからもしかしたら名前がないのでは。という予想を立て、およそ二日間、考えていたのだろう。
「まさか……ネクストにかけて次郎、なんてのはありませんわよね?」
「……候補に挙がったけど、流石に次郎はね」
――全国の次郎さんにはこの場を持って謝罪いたします。
「大丈夫よ、310番のほうで考えたから。――ミオト、って言うのはどう?」
「みおと……」
「310、み・とお……とても分かりやすいですのね。ですが――お姉様のお名前と響きがかなり似て……っていうか似すぎでは?」
ミコトとミオト。前後が同じな上に真ん中も母音がオ。
「美しい琴でミコト……なら美しい音でミオト?」
「初春。男性に美はあまり使わないんですの。まあ? ……お姉様が確りその辺りも考えているようですし、お任せしましょう」
スカートのポケットから取り出そうとしていた紙を見つけられ、「わかっていますよー」という生暖かい笑顔を黒子と初春に向けられる。
「その笑顔やめなさい! ニヨニヨすんな! あー……深い音で、ミオトよ……ま、まあ、気に入らなかったら、べつのでもいいし……」
(ツンデレですの)
(ツンデレですね)
(ツンデレってなんですか?)
「そこヒソヒソ話するなぁ!!」
怒髪天衝、電気込み。
何時の間に移動したのか、彼の両隣に座ってニヨニヨ笑っている黒子と初春に向かって唸るが、顔が真っ赤なために迫力など一切無い。
「……ですが、私がその名を頂いても……いいのでしょうか」
しかし、ふと漏らした彼の言葉に、すぐに怒りを納めることになる。
今にも泣き出しそうな、そんな顔をしていた。
罪の意識か、はたまた皆という仲間達への想いか。
何が彼にそんな顔をさせているのかは分からないが、美琴はそれを、肯定した。
「……当たり前でしょ。この私が徹夜で考えてあげたんだから、胸張って名乗んなさいよ」
実際、『みおと』という名は最初のほうで候補に上がっていた。しかし、それでもずっと考えていたのだ。
安直ではないか、軽くないか。ほかにもっと良い名はないか。
みおと、としても、どんな漢字を送るべきか。
美琴は自分の頭の位置にある彼の、深音の胸を叩く。心に刻め、とでも言うように、軽く、しかし深く。
「深い音、ってさ。聞いてるとなんか落ち着いてくるのよね。だからさ、いろんな人の心を落ち着かせられるような人――になって欲しいかなぁと……」
言っていて恥ずかしくなったらしい。叩く手が、どんどんと強く重いものになっていく。
「あり、がっ、とう。ご、ざい、ま、すっ!」
「もうご自分の弟の名前レベルの内容ですの。――もうこの際、苗字もお姉様と同じで 御坂 深音でよろしいんじゃないですの? 同じ電撃使いのようですし」
……後に、黒子はこの発言は冗談だったと、ほんの出来心だったのだと語る。
「それだ!!」
そしてその話題に食いついたのは、当事者である深音ではなく、美琴でもなく。初春や黒子でもない。
「りょ、寮監様……?」
先ほどからBGMと化していた言い合いを繰り広げていたトラ。もとい常盤台の寮監。論争していたほかの2人も予想外の行動だったのか、ぽかんとしている。
「御坂の身内であるならば、御坂の近くで生活したほうが何かと都合がいい。いいだろう?いいよな? というわけで、御坂 深音君は常盤台がもらう」
「へ、あいや、今の黒子の言葉は殆ど冗談「黙れ」……はい」
お気づきだろうか。彼女の言はもはや暴論でしかない。
美琴の両親の意見やら美琴本人の意見やら、深音自身の意思も総じて無視している。寮監の目的はただ一つ。執事だった。
「おーい、寮生にとんでもない目で見られてるじゃんよー。まとまりかけてたんだから壊すなっての。一番譲歩したのは
「私のところは学舎の園の外部だ。問題はない」
「深音ちゃん! これから大変ですが、先生と一緒に頑張るですよ!」
三獣のなか、勝利をもぎ取ったのはハムスターであった。竜が実質権利を譲り、トラとの一騎打ちだったという。
「深音ちゃんは、私が担任をする学校のクラスに転入してもらうです!」
「んで、どーしても力を貸して欲しいときアンチスキルを手伝って欲しいじゃん」
「……そして、社会勉強という形で週に何日か我が常盤台で執事として働いてもらいます」
「わかりまし、た?」
なんともグダグダな感じで、彼……御坂 深音の今後は決定した。ついでになし崩し的に、彼の名前も。
<おまけ>
「あ、君のご両親にはボクから連絡しておいたからね? どっちも『息子が出来る』って喜んでたんだね?
……何時の間に? ボクを誰だと思っているんだい? 患者に必要なものは何だって用意するよ」
ふらりと帰ってきたカエル医師に差し出された、彼の身分を証明するための書類。しかも受理されているもの。少なくない手続きをした上である程度の時間を要するその書類を、一つの記載漏れも無く。
つまり、美琴がつける名前を、御坂性になることも予測して。
「「「「「「なにそれこわい」」」」」」
出来る男は、全てを予測して結果を出すのだという……。
コレにて第一話? 終了です。
読了ありがとうございました。
またまだ先は長いですが、途中で終わらせること無く頑張りたいと思います。