とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

63 / 85
私『深、音……?』



負の遺産   17-3

 

 

     眼下に散乱する残骸を見つめ、さらに風を穿つ。

 

 

     前方に広がる不穏な気配を感じ、さらに空を穿つ。

 

 

 

 

     そして――それは、目標を捉えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――アタシの、アンチスキルとしての絶対に譲れないものは、二つある。

 

 一つ目、これは理想だな。

 子供、生徒たちを危険から遠ざけること。……まあ、これはもう、理想で終わっちまってんだけどな。……ジャッジメントっていう組織がある以上、そこに所属する学生たちは大なり小なり危険に接する機会が出来ちまう。

 

 しかも悔しいことに、より危険な事件とかにはアタシらの力不足がために、高位の能力保持者にはどうしても応援を要請しなくちゃいけないことが多々ありやがる。

 

 

 ……何度鉄装を適当な理由をつけて自棄酒に連れ回s――ってんなことはどうでもいいじゃんよ。

 

 

 んで二つ目は、これは、決意――に、なるのかね。

 

 

 

 アタシがこの学園都市で教師になって、生徒たちを守りたいってアンチスキルに所属して……スキルアウトっていう、学園都市の風潮が生み出しちまった『生徒』を相手にしなくちゃいけない現実にぶち当たって。

 

 その子らに、明確な敵意を伝えられる銃を――たとえ制圧用で限りなく殺傷能力がないものでも――向けて、撃った。

 

 

 

 ああ、言い訳はしない。したくもない。

 撃ったんだ、アタシが。自分の指で引き金を引いて、守るべき生徒を撃ったんだ。

 

 

 

 ……そっからだ。アタシが、武術なんてものに手を出したのは。

 

 鍛錬の最中に血反吐を吐いたことなんか、腐るほどある。身体のあちこちの骨だって何度も折れたし、砕けたこともある。

 ――まぁ、その度に病院に行って、カエルの先生にお説教&カルテチョップされて……アレが結構痛いんだ、いやマジで。

 

 

 ――でもこれだ、って思えたんだ。アタシに必要なのは――生徒たちに向けるべきは、これだって。

 鉄拳制裁。ようは、拳骨だ。スキルアウトなんてご大層な呼び名なんか必要ない、悪ガキ共にはこれで十分じゃんよ。 殴ったら当然、アタシも痛い。『自分を痛めない打ち方』ーなんてのもあるらしいけど無視だ無視。痛みを感じなきゃ、意味が無いじゃん。熱血教師、大いに結構。望むところじゃんよ。

 

 

 まぁ……女らしくない手だって自覚はあるさ。傷だらけだし、何より硬いし……ネイルどころか爪の手入れも爪きりオンリー。まあ楽だからむしろ丁度いいんだけどよ――。

 そんなアタシの手を見て、深音っちが言うには、なんだ……『いろいろなものを守り続けてきた素敵な手』なん、だってよ。……あれ卑怯だろ。絶対卑怯だろ。あんなの言われたらキュンときてもしょうがな――

 

 

 んん! って、なんか話ずれてずれて来てるな――なんだっけか。ああ、絶対に譲れないものだっけか。

 

 一つ目の理想。子供たちを危険から遠ざける。理想だって割り切っても絶対に捨てないし、諦めない。

 

 

 二つ目が決意。

 

 

『子供に銃を向けることを認めない』

 

 

 子供たちに、生徒たちに銃を向けることを、アタシは絶対に認めない。

 

 

 ――そんなもの――

 

 

 

 

 

「……認めてたまるか……!」

 

 

 

 そんないま、現在進行形でアタシらに向けられている暴力。防御型に特化させた警備ロボの分厚い装甲がなかったら、すぐさま蜂の巣の出来上がりだ。

 ――そんな状況に、あの子達がいるのかと思うと悔しくてたまらない。

 

 

 

「せ、先輩! ほ、本当に『これ』いいんですか!?」

 

 

 ……一連のポルターガイストに関する報告書やらデータやらで、判明したことがいくつもある。――MARによる情報の隠蔽、流用なんて可愛いほうじゃん。

 

 多額の意図不明金に、無理矢理としか言いようのない越権行為。その他もろもろがボロボロと。――軽く叩いただけでこれだけ出てくるのに、今まで誰も叩こうとしなかった。……違うな。『叩けなかった』もしくは『叩いた事実が消された』ってとこか。

 

 

「問題ないじゃん! アンチスキル(うちら)のお偉いさんとこに『匿名』で通報があって、アタシらはそれに応じて出動してるだけだ!」

「いやそれはそうなんですけど――そ、そうじゃなくて!」

 

 

 上層部にってとこにも、匿名ってとこにも物申したいところだけどな――この際どうでもいい。

 

 重火器による戦闘、高速道路に散乱する残骸、緊急発進の告知をかき鳴らした戦闘ヘリ。

 高速道路でドンパチを繰り広げる一方は、特徴を聞いただけであの子達だって分かるほど特徴的だった。正義感ってほどじゃないにせよ、曲がったことに反抗するような子達だ―― 一言相談してほしかった、って思いがないわけでもないけど。

 

 

 発覚してる、MARが秘密裏に納入していた災害救助なんかに絶対使わない――使いようもない兵器の数々。テロでも引き起こすのかって物々しさから強制捜査に踏み込もうとした矢先に、この騒ぎ。

 

 

 一見、後先を考えてないやり方にみえるが――だからこそ、相手は出し惜しみも躊躇いもない行動が取れる。

 

 

 

『黄泉川聞こえるか!? MAR支部と本部は抑えた! あと合流点全部の交通規制ももうすぐ終わる!』中学国語教師

   『――クソガキどもの宿コピテクを日々見破ってるオレらをなめんなぁ!』高校数学教師

 

『ここから先は通行止めよー? 回り道も塞いでるから諦めなさーい? ……こっちも完全封鎖完了よー。……これであそこを走ってるのはあの子達だけねー』常盤台中学保険医

   『生徒たちが頑張ってんだぁ! 気合入れろテメラァ!!』高校科学教師

 

 

 ……わが同僚ながら、なんとも暑苦しい熱血教師どもじゃん。

 

 

「十分じゃんよ! っ、聞こえたかてめぇらぁ!! アタシらも負けてらんねぇぞ!」

「「「「「おうよ!!」」」」」

「嗚呼、通信機の向こうの銃撃戦模様が目の前に広がってる……ああもう! ここは通さないんだからぁぁああ!!!」

 

 

 銃声に、軽い爆発音。加えて甲高い金属音。それになんか連中の怨嗟ってか私怨の叫びがすげぇ。――違反報告が何百件もあったら当然だろうけどな。

 まあ……そんだけみんな頭にきてるってことだろ。ってか、鉄装。ライフルの二挺とかなにげに器用だなお前。

 

 

 相手が一斉に銃を構えて発砲してくる直前に、鉄装の頭をつかんで防壁に身を隠す。

 ――非殺傷の弾幕でいつまで持ち堪えられるか。弾が切れても、やばいしな……

 

 

「で、でも先輩、良かったんですか? 固法さんや御坂さんたちのほうに行かなくて」

「ん……出来ることを考えろよ鉄装。アタシ達が慌てて駆けつけたって間に合うわけがないじゃん。――せいぜいコイツ等の足止めが精一杯じゃんよ」

 

 

 言ったそばからライフルの残弾がそろそろやばいじゃん――急ぎできたから予備もほとんどない。最悪、車両を横転させてでも道を塞ぐか。

 

 

「それに、もう『切り札』は切ってんだ。後はベストを尽くしつつ待つだけ。ほれ、もうひと頑張り行くぞ鉄装」

「は、はい!」

 

 

 ――時間は稼がせてもらうじゃんよ、『所属不明のテロリスト共』。

 こちとら絶対譲れないものを二つとも譲らされて踏みにじられてんだ。

 

 

 

 鉄拳制裁じゃ、すまさねぇぞ?

 

 

 

 

***

 

 

    眼下で香る硝煙の匂いに顔をしかめ、

 

 

    眼下で親指を立ててサインを示す女傑に笑みを返し、

 

 

    それは、理不尽な速度に、理不尽な加速を貫行した。

 

 

***

 

 

 

『――なぁ』

 

 

 ……うるさい、黙れ。

 

 

『なぁ、なぁ』

 

 

 うるさい、黙れ。

 

 

 

 

『なぁなぁなぁなぁなあああ!? 今どんな気持ちなのか教えてくれよ負け犬どもよぉ!!』

 

 

 

 

 後ろから機械拡張された馬鹿でかい耳障りな声が、執拗に聞こえてくる。

 ――もっとも、声だけじゃないか。馬鹿でかいのは。

 

「っ!? しっかり掴まれ!」

 

 とりあえず忠告はしたが、あいにくと返事を待っている余裕はない。ハンドルを切り、車を横にスライドさせることで、その『巨大な刃物』を避ける。

 コンクリートどころか構造体にまで達するだろう長さは根元まで埋まり、そのまま切り裂いて、なお迫るその刃。

 

「調子に、のんなッ!!」

 

 耳につけた端末ではなく――上。天板一枚を隔てて声が聞こえ、ついで、幾度目かの轟音と雷光が響き轟く。

 車上の彼女の、最強(レベル5)たる所以――レールガンがその刃を押し返すが……それだけだ。虫の羽音のような音をかき鳴らし続けるその刃に『負けて』いる。

 

 

『なんどやっても無駄だって言ってんだろぉがよぉ!?』

 

 

 その刃の先には、それを扱うに頷けるだけの『腕』があり、それだけの腕を支えるほどの『身体』があった。今の速度で体当たりするなら、その辺のビルくらい一撃で倒壊させるだろう。

 

 

 

 

 ――少し歪ながらも、それは人型と言えるだろう。十数メートルもあり、関節の位置や数を少々無視しているが――双腕を使って武器を操り、二本の足が起動の要。頭部こそ無いが、それは人間を模している。

 

 実に木原(やつら)らしい。

 レベル6()を創造すると喚くに飽き足らず、人間を創造した神の真似事でもしたいのだろう。しかも似合いもせず、天使でもイメージしたのか問いたいほど、背面に折り畳まれているそれは、翼にも見えた。

 

 

 

 そしてその巨人は腕を振り、彼女の一撃を難なくと弾いた。

 

 

 

「またっ……!?」

 

 

 

 ――そう、また、だ。

 

 ヤツが現われて、不意打ち気味にバイクに乗っていた二人を襲ったことを含めなければ、今の攻防で合計四度。同じ行為を私たちは繰り返している。

 内容は一応引き分け続きなのだが――余裕の無い彼女の声と、余裕ある耳障りなあの声ではっきりと優劣が決まっている。こちらも怪我こそないものの、二台から一台に減らされているわけだからな。

 

 

 それでも、今なお私たちが全員無事でいられるのは一重に――あの女が、遊んでいるからだ。私の、そしてこの子達の命をおもちゃにして。

 

 

「木山先生! もっとスピード出せないんですか!?」 

「無理を言うな! もともと二人乗りの車に六人も乗っているんだぞ!? ――それに離れたら離れたで、蜂の巣にもなれないだろう「またくるわよ!」さっ!」

 

 再びハンドルを切り、ギアを操作しながら車を横にスライドさせる。こんな走り方をそもそも想定していない車種だから、いつまで耐えられるか少し――いや、かなり不安だ。

 

 アレが背中につけているものが飾りでなければ、引き離した時点で私たちの勝機は完全に潰える。レールガンの射程が50m程度であるのだとしたら……この距離がギリギリのラインだ。

 メガネの――固法くんだったか――彼女もそれが分かっているらしく、提案していながらも苦々しい顔をしている。彼女の能力でアレが無人機ではなく有人機、それも、あの女が乗っていることが分かったが――裏を返せば、それだけ厄介な相手ということである。

 

 

 

 離れることも悪手。近接しても決定打がない。いつまで耐えられるかという前に、こいつをなんとかしなければ子供たちを助けることが出来ない。

 

 

「ワタクシの金属矢も打ち止めですの……っ! なんて、馬鹿力っ」

 

 オフェンスの一人がとうとう弾切れ……無人機の相手でだいぶ使っていたようだし、あの巨体相手では小さなダーツなど棘が刺さった程度のダメージだったのだろう。

 

 いよいよ――厳しいか。

 

 

(どうする……どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!? 考えろ、思考しろ! 今ここが『絶対に負けられない戦い』なんだ! 勝たなければあの子達も、そしてこの子達も誰一人――)

 

 

 助けることは出来ない――そう考えてふと、私にも『旅の道連れ』が増えたものだと、そんな結論が何故か、はじき出された。

 

 助手席を見る。

 荒々しい運転に耐えるように必死に掴まっている少女と、その子に抱えられて端末から何かしらの打開策を講じようとしている花飾りの少女。

 後部座席を見る。

 短くうめきながら外敵を睨みつけ、その頭の中でさまざまな可能性を見つけてはトライ&エラーを繰り返しているのだろう。

 

 今は視界に見ることは出来ないが、天板の一枚向こうでテレポーターの彼女が鋭く牽制するように睨んでいるのだろう。

 

 ――そして、その隣にはきっと、自分の無力さに顔をゆがめているだろう彼女もいる。

 ここにいるだけで、五人。

 

 

 ここにはいないが、私にチャンスをくれた医学の権威がいる。そして――

 

 

 

「……あったな――『手』が」

 

 

 

 ……自分を犠牲にすることで、子供たちを守ってくれた、少年がいた。

 

 

 

 

「き、木山先生!? なんか良い手思いついたんですか!? なんかさっきからタイヤが嫌な音――を……」

 

 花飾りの子の、椅子になっていた子が、私の顔を見た瞬間に言葉を止めている。――なんだ、今の私はそんなに酷い顔をしているのか? 

 

 

「ひとつ聞きたい。――確実にテレポートできるのは、自分を含めて三人まで……だったな?」

 

「っ!? まさか……二手に分かれる、ってことですか?」

「……おおよそ二人、ですの。体格・体重にも依りますが……ここにいる人を限定にするなら二人を連れてテレポート可能ですの」

 

「ちょっと、なにするつもりよ!?」

 

 

 いや、本当に。

 理解が早くて助かる。そして、察しの良いことも。

 

 

「……なに、簡単な話さ……私一人でアレの相手をする。君たちはテレポートでここから離脱して、子供たち」

 

 

 ――のところへ、と言おうとした私の言葉を遮るように、車の中にかなり大きな、ガズンという音が響く。運転席と助手席の丁度真ん中辺りか、天板の一部がかすかに凹んでいた。静電気のような電流も流れている辺り、間違いなく彼女だろう。

 

 ……いや、まあ。たぶん怒りはするだろうとは思っていたが――足、だよな。足を思いっきり叩き付けたんだよな? さすがにコブシだったら引くぞ私でも。

 

 

「なに? アンタといい深音といい……自分が犠牲にー、なんて高尚なことすればそれでいいと思ってるわけ?」

 

「はぁ――では聞くが、君に何か妙案はあるのか? 私以外の君たち全員が無事であることが、最低条件なんだが」

 

「そ、それは……ない、けど」

 

 

 彼女だけが声を荒げたが、彼女だけが反対というわけではないらしい。隣も、冷静な判断が出せると思っていた後ろからも、躊躇うような、止めるようん雰囲気が飛んでくる。

 

 

 不謹慎だが――少し、嬉しく感じるものだな。

 

 

「私はな。これでも――こんなでも、自分はまだ『教師』だと思っている。教師が生徒を諦められるわけが無い。……教師は生徒が傷つくことを、認めるわけにはいかない――っ!」

 

 

 もし万が一、私の身に何かあったとしても、研究成果の全てはあの医師の下にある。あの人の伝を持ってすれば、私より優秀な学者を呼び寄せられるだろう。

 彼女たちも協力してくれるだろうし、そうなれば私に――

 

 

『……はいはい、壮大な決意ごくろぅさぁん』

「っ!?」

 

 

 機械越しでも分かる、明確な落胆と嗜虐精神。

 初めて感じるが――これが、殺意か。

 

 

『そんな穴だらけの作戦なんざ通すわけねぇだろぉがヴァアカ!! てめぇら全員、ここでミンチになるって決定事項なんだからよぉぉお!!!』

 

 

 何か来る。勘だが――今までで一番、身が凍りつくような――

 

 

 

『あぁ、訂正だ。……てめぇら全員、跡形ものこさねぇよ』

 

 

 

 

***

 

 

 

    高速航行形態解除――並び、全武装起動。 ――敵は一匹、

 

 

    各部異常――黙認。全力起動を徹底。 ――救うは、六人。

 

 

 

     COMBAT(戦闘) OPEN(開始)  ――果たす力はここにあり。

    

 

 

 




読了ありがとうございました。

 深音を出そうとしたんですが……未熟ゆえに――申し訳ありません……。
 
 誤字脱字、ご指摘などございましたらお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。