とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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このお話を書き上げて、思ったことがひとつだけあります。


 私、戦闘描写だめだめでしたやっぱり。


 いつか、それとなく書き直そうとおもいます……。


負の遺産   17-E

 

 

 サイレンの音が、遠く遠くから聞こえてくる。反響しすぎて分かり辛いものがあるが、徐々に近づいてきているのは間違いないだろう。しかしその音を聞いても、その二人は特になんのアクションを起こすこと無く、屋上の手すりに肘を付いて呆けていた。

 

 

 ――黄昏ていた、と言い表してもいいだろう。

 

 

 何をしようか、というより、何が出来るのだろうか。 

 お互いに案でも出し合えば、多少なりとも良案が出た可能性が無きにしもあらずだが……どちらも、そんな気さえ起きないらしい。

 

 

「なぁ、コーヒー買ってこないか? 缶で」

「――まずこの屋上からも出られないってさっき確認しただろう……?」

 

 だよなぁ、とコーヒーを要求した側は胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけて一服。タバコの先からの上る細い紫煙を塗りつぶすように、肺にためた紫煙を吐き出した。

 その仕草は何とも投げやりだったが、隣に立つもう一人もそれを咎めることなく……むしろタバコをよこせとばかりに手を出していた。

 

 

 ……二人揃って紫煙を昇らせ、二人揃って、ため息をついていた。

 

「んでよ、マジでどうするよ?」

「マジで――どうしようもない、としか言えんな。オレには」

 

 

 鍵のかかった屋上のドア。やたらと頑丈そうで、工具類の無い自分たちでは突破することは難しいだろう。突破できるかも知れないが、まず間違いなく時間がかかるだろう。その間に、近づいてくるサイレン音の元によって包囲されていることだろう。

 

 ならば、少しでもおとなしくして心象を良くしておいて損は無い。

 

 ――無いったら、無いのだ。

 

 

「どの道、オレたちはクビだろうさ。諦めて次の就職先でも考えておいたほうがよほど合理的だろう」

「クビかぁ――。普通ならその言葉を受けたら少なからずショックを受けないといけないんだろうけどよ……実はオレ、ちょっとホッとしてたりすんだよね?」

「……お前もか?」

 

 とある組織で赤の壱、青の壱とコールされていた二人は、タバコを銜えた状態でお互いを見て、しばし苦笑。盛大に笑ったところでタバコの煙でむせて咳き込んでいるのは愛嬌かも知れない。

 

 ――数回ゴホゴホと苦しみ、タバコをもみ消して深呼吸。

 

 

「しっかし、なぁ。『ありゃ』なんだったんだ?」

「さぁな。最新鋭の戦闘ヘリ二機を一瞬で撃墜――まあ、出来ないことも無いだろうが」

 

 

 手すりにつけていた肘をはずして、半回転。背で寄りかかるようにして後ろを眺めた。

 

 

「アレが、撃墜――か?」

「……言うなよ。必死に考えないようにしてたんだから」

 

 

 つられて、後ろを見る。

 

 ――戦闘機に分類される戦闘ヘリが、敵の攻撃を受けて沈んだ場合。それは『撃墜』となる。

 一般的なヘリでも事故や操縦ミスなどで墜落、不時着となるのだが――それなりの高度から地面へ落ちれば当然原型を留めることなく、直後に炎上爆発――。搭乗している人員の生存はまず絶望的だろう。

 

 しかし、二人は生きている。外傷は特になし。少々精神的なダメージがいっている可能性があるかもしれないが、会話を普通に繰り返しているとあれば問題は無いだろう。

 二人は、自分たちがそれなりの高度を、それも高速で飛行していたと記憶している。そこから撃墜されて助かったのは、一重に奇跡としか言いようが無いのだが――

 

 

 

「――これ、どうやって下ろすんだよ」

「知るか。オレは、もう知らん」

 

 

 二人の視線の先には、二人が操縦していた二機のヘリ――いや、もうヘリとは二度と呼べない『ガラクタ』が鎮座していた。

 

 

 ……プロペラの無いヘリなど一体何に使えばいいのか。ローターを回しても当然飛べるわけが無く、ただ支柱の棒が回転しているだけで燃料の無駄。左右の補助翼に付けられているはずの数々の武器も、補助翼そのものがサッパリとなくなっている。

 

 しかしさらに可笑しいのが、それ以外が、全くの無傷ということだろう。

 

 それなりの高度を、それなりの速度で飛行していたのである。着陸した記憶は当然ないし――空でプロペラが消える瞬間を覚えているのだ。 

 目を瞬いた彼らを、誰が責められようか。というより、責めないであげていただきたい。

 

 

 

「とりあえず、アンチスキルの連中が信じてくれるかどうかだよなぁ……どう説明すりゃ信じてくれっかね?」

「……タバコもう一本くれ。それから、考えよう」

 

 

 とりあえず。もう一服。それが終わってから考えよう。正直に言うとしても、整理しないとチグハグ支離滅裂になりそうだ。

 

 

 あいよ、と渡されたタバコに紫煙を浮かばせて。

  ――真下に来ているサイレン音は、きっと気のせいだと思い込むことにした。

 

 

 遠くに見える極光も、きっときっと、気のせいなのだと言い聞かせて。

 

 

 

 

*** 

 

 

 

 荷電粒子砲、という兵器をご存知でない方は……きっと少ないだろう。

 SFを題材としているアニメや映画で多く存在を示し、その圧倒的威力を持って多大な戦果を挙げた――架空兵器である。

 

 理論上では可能とされているものの、技術水準がいまだその領域に達していない。そのため、空想の物語の中でのみ、その力を示すものであった。

 

 

 だが――それはこの学園都市の外、での話だ。

 

 

 

 空想でもなく、中途の試作実験でもない。その最強の矢は世界最先端の都で完成され、そして放たれたのだ。

 磁場による影響で直進させることが困難である、という重要課題のひとつであるそれをクリアーし……定規を当てたかの様に直進する光は、エネルギーの持つ限りは全てを削り、消滅させる。

 

 世界の勢力図すら覆すだろう一撃を、たった六人の命を奪うために放つ――その狂気も。

 

 

 

 

 最強の兵器を――『同じ兵器』を持って相殺することによって、阻まれた。

 

 

 

 

 耳障りな甲高い音を掻き鳴らしながら、衝突の余波で生じた衝撃で道路に傷跡を残していく。一方は進みながら、一方は引きながら……つまり衝突点が移動しながらであるため、刻まれる傷跡は浅くも『長い』ものとなった。

 

 そんな――長くも短かった放射時間は拮抗に終わり、両雄は無傷のまま攻防は終わる。

 

 ほんのわずかに立ち上った砂塵を突き抜け、テレスティーナはその全貌を視界に捉えることが出来た。

 

 

『……はっ。オリジナル(・・・・・)のご登場ってことかよ』

 

 

 美琴たちと、テレスティーナの間。とはいっても、美琴たちに程近い距離。その射線上に割り込んだそれを、愉悦のままに口角を上げることで歓迎する。

 

 

 テレスティーナの繰る機体の、一回りは小さいだろうほどの大きさ――それでも10mはあるだろう。白いカラーリングは下塗り塗装のため、良い色合いとはとても言えない。

 人型という以外に似ている点はほとんど無いものの、テレスティーナはそれを――はっきりと『オリジナル』と称した。

 

 

 ――ある計画において、最高戦力として設計されたそれは……計画そのものの廃止により、一度として起動することなく、破棄されたもの。

 テレスティーナもオリジナルとは言っているが、実物を見たのはこれが初めてである。ストリームライン同様、秘密裏に送られてきたデータを元に、兵装やメインフレームを改良・改造したに過ぎないのだ。

 

 

 

 ……もう、お分かりだろう。『次』を意味する、その英単語。四文字のアルファベットでつづられた、その計画。

 

 『NEXT』

 

 ストリームラインはあくまで個人用の火器に過ぎない。では、一般の兵士にとっての戦車や戦闘機はなにか?

 その答えが、特殊可変装甲車両――『ライン・アーク』である。

 

 完成形においては車両と人型、二つの形へと変形できる兵器となる。地形をほとんど選ばず、かつ超重量高火力の兵器を複数運用できる、上記の荷電粒子砲も霞んでしまう戦術的価値を有する兵器――

 

 

 

 ……となる、はずだった。

 

 

 テレスティーナが――彼女が見たものは、設計図上でも完成には至っておらず、肝心の変形機構がいまだ未完成だった。人型と、車両型の完成形だけの設計図で製作されるはずも無い。

 

 そんな『作られていないはず機体』が、両腕で巨大な砲を腰だめに構え、テレスティーナの放った荷電粒子砲を相殺したのだ。

 ところどころが赤熱化したその砲を、そうそうに再利用の可能性を廃棄してパージ。

 身軽になった今も尚後ろ向きに滑りながら、予断無くテレスティーナに対峙している。

 

 

 ……それにテレスティーナは苛立ちを、不思議と感じていなかった。阻まれたにも関わらず、邪魔されたにも関わらず――愉悦の表情を消さない。一体誰が保存していたのか、そも、完成していたのか。

 ――そんな『野暮』を考えることもない。

 

 

 『元にあったものを自身の手で改良し、原型を凌駕する』――そんな行為になによりも優越を感じる科学者・研究者としての血が、彼女の全身には流れていた。

 

 どちらの性能が上か。どちらがより優れているか。

 ――それが分かりきっているからこそ、甚振り甲斐がある。

 

 

『キャハ♪ 良ぃー演出してくれんじゃねぇか!? なぁ、化け物ぉ!』

 

 

 パージされた兵器をタイミングよく踏み潰して破砕し、それなりの規模の爆発が起きるが、微塵にも揺らがない自機を見せ付ける。

 両足の踵にあるローラーが回転速度を更に上げ、一気に距離を追い詰める。

 

 

 そして大きさ、重量により乗算された出力で真横に振り抜かれた刃を――

 

 

 

 

 

『「は――?」』

 

 

 

 

 対格差ゆえに屈むでも無く、後退(全体の進行方向を考えれば前進になるだろうが)するでもなく――なんと後方宙返りで回避した。

 

 そしてそのまま見事な空中律動を披露し、隙だらけの巨体に二度三度、回転を加えた蹴撃を『振り下ろす』。

 

 

 

 

「――……」

 

 

 

 ――美琴はとりあえず、とりあえず、絶句していた。

 

 電気、電撃など『電』の付くものの須らくにおいて、この学園都市の中で彼女に勝るものはいない。

 その彼女が――本能で脅威を感じ、同乗する車に乗るほかの五人と同じように目をきつく閉じて死に身構えた。

 甲高い音が聞こえ……しかし、生きているうえに痛みも無い。

 

 

 むしろ、周囲で乱れに乱れている電子の動きで、何かがあったのだと誰よりも早く理解し――いまだ空中にある、敵か見方かも分からない乱入者を見て、ただただ呆然としていた。

 

 

 だがそれ以上に――。

 

 

 ――上から下へ、振り下ろした蹴りが火花を散らし、巨体をわずかに沈ませる。ついで、今度は横に二度三度、四度五度と高速で回転し大気を唸らせ風を起こす。

 

 

 

「……いっ――けぇ!!」

 

 ――それ以上に、心から高揚した。

 

 

 

 

『なんっ!?』

 

 巨体が初めて見せた『後退』。質量・体積・重量で数倍の差があるにも関わらず、それをやってのけた。

 ありえない、どうやって。と疑問が絶えず浮かぶが――すぐに解へいたる。

 

 

(足りねぇ出力を、遠心力で無理矢理補ったってのか……!?)

 

 蹴りの反動で再び美琴たちの元へ戻り――また牽制するように構える。

 

 

 

「お、お姉様――コレ、は、もしかして……?」

 

 美琴と違い、目をあけたらロボットが格闘戦で回し蹴りをブチかます瞬間だった黒子たちはポカンと呆けながらも――見覚えのあるアクロバットな動きに、ある人物を重ねていた。

 

 というよりも、関係を持っていそうな人物が自分たちの知り合いに一人いる。

 

 

「……深音、よね?」

 

『はい、私です――遅れてすみません、美琴さん。少し起動に手間取ってしまって……でも、無事でよかった』

 

 

 

 機械越しではある。顔を見ることも出来ないし、そもそもこちらを向いてすらいない。

 しかし、謝罪と安堵だけのその声はストンと美琴の――美琴たちの心に収まった。

 

 

 

 深音が身を伏した花火大会より、たった数日。たった数日だけ離れていただけだ。しかしされど、数日『も』離れていたのだである。

 

 

 美琴がだんだんとその顔に、笑みを浮かべる。

 美琴だけではない。黒子も、初春も佐天も、固法も、木山でさえ。

 

 

 戦力的な余裕が出来たことによる安堵も当然あるだろう。しかし、もちろんそれだけではないのだが……野暮なことは語るまい。

 

 

「ったく……遅いわよ? みおっ、とぉ――!」

『いえ、ですからすみませ――って美琴さん!? なんで飛び移って……!?』 

 

 車体に磁気をまとわせ、反発を利用した大ジャンプ。さらに磁力で深音が操っている機体に吸い付き――その肩に着地した。

 今にも暴発しそうなほど、その身体に強大なまでの雷をまとわせながら。

 

 

『――はぁ。一応、状況を説明してもらってもいいですか?』

「ため息すんな。……状況どおりよ。アレに乗ってるのが黒幕。それで、これから、反撃開始ってとこね。アンタこそ、何よこのロボット」

『文字通りの秘密兵器です――アンチスキルに保管されていたものを拝借してきました。……なぜかNEXT関連の物品のロックが外れていたんですよ、警備していた人はいたんですけど』

 

 その警備も、あさっての方向を見ていてあっさり入れたという。出る際には、総敬礼で送り出されたとか。

 

 

 ……二人は、テレスティーナから視線をはずすことなく、言葉を交わす。 

 

 

『……それで、危ないですから離れてくださいっていうお願いは……』

 

「そりゃあアンタ。却下に決まってんでしょう――がッ!!!」

 

 

 

 先ほどと同様に超振動の刃に阻まれるものの――弾かれるだけでなく、刃そのものを弾き返した。

 後退こそ出来なかったが、押し切られていた先ほどとは明らかに威力が上がっている。

 

「……よしっ!」

 

 

 ――意外と、悔しかったらしい。

 高速で移動する車の上という足場の悪さ。そして、巻き込んではまずいという意識からセーブしていたのだろう。全ての懸念がなくなった今。出力の()をはずした全力のレールガンを心置きなく連射できる。

 

 

 

『……いい気になんじゃねぇぞ……モルモット共がぁ!!』

 

 テレスティーナも、もはや愉悦の表情を浮かべている余裕はない。問題なく対処できると判断した相手どころか、先ほどまで圧倒していた相手にまで遅れを取らされたのだから、当然かもしれない。

 

(あの機動力は厄介――接近されたらコイツの鈍さじゃまず追いつけねぇ……なら、近づけなけりゃいいだけだろぉが!)

 

 ……それでも思考が沸騰していない辺りは、遺憾ながら流石と言うしかないだろう。

 刃を収納し、腰部に装備されている大口径のガトリング砲を掴み取る。追加とばかりに背中の翼を模したパーツを前方に展開し――計、四門からなる砲門を開いた。

 

 

『――まさか、避けねぇよなぁ?』

 

 

 狙いは、深音でもなく、美琴でもない。

 狙うまでも無く、相手が自分から斜線に入るように、そう宣言した。

 

 

 

 

「っ!? 深音く『木山先生!』っ?」

 

 

『守ります!! まっすぐ走ってください(・・・・・・・・・・・)! ――美琴さんはしっかり掴まって備えて!』

 

 何をするつもりか問おうとした木山。そして、ほとんど疑問を抱かずにしゃがみ、磁力吸着の強度を上げて衝撃に備えた美琴。

 これが、深音との付き合いが長いか短いかの差だろう。

 

 

 

 そして、砲門が火を噴くと同時。その砲門へ向け――

 

 

 

 跳んだ。

 

 

 

 美琴が乗っている肩を後ろに――ショルダータックルといえば分かりやすいだろうか。その全身で全ての射線から車を覆い隠しながら、弾雨の中を突き進んでいく。

 

 秒間にして数百発。そして交互に放たれる徹甲弾。その弾幕が、(ヤスリ)がけるように右半身の装甲を削っていく。

 近づいていく分、被弾率と損傷は倍々に跳ね上がっていくが、回避はしない――後ろには一発たりとも通すわけにはいかないのだ。回避も、退くことも出来ないのであれば、前へ。

 

 

 美琴は痛いほどの振動を片手両足に感じながら、その瞬間を待っていた。銃弾か装甲の欠片か分からない礫から自身を守りながら、自分至上、最強の一撃を放つために。

 

 

 

 

 ――最も突き出していた右肩の装甲は、もともと横に突き出していたためどのパーツよりも損傷が激しく、ほとんど形を残してはいない。右半身は無事な箇所は無いと断言できるほど装甲は傷つき穴は開き、そこかしこ火花が散っている。

 

 

 深音に攻撃を命中させ致命傷を与えんとした木原の勝利か。はたまた、木山たち全員を守り抜いた深音の勝利かは、さておいて。

 

 ――御坂兄妹は、その集中砲火を突破した。

 

 

 

 

 ギリギリ稼動する右腕と、無事な左腕で回転する二門の砲身を掴みこじ開ける。――相手に頭部が無いが、あったとしたら、額をつき合わせて、両腕で力比べをしているようなものだろう。

 背面装備の砲塔は距離が近すぎ深音たちを狙えず、わずかに前かがみになっているせいもあって、木山たちを狙うことも難しいようだ。

 

 

『なぁ馬鹿かてめぇは――突っ込んでくるかぁ? 普通。  まさか、純粋な出力でこいつに勝てるとでも、思っちまったのかなぁ……!!』

 

 押しつぶさんと襲い掛かってくる力に、かろうじて残っていた右腕のフレームに致命的な亀裂が走る。無事だった左腕も、というより全身の関節部が悲鳴を上げた。

 

『っ、いえ? もとより、この機体、『白煌』は……! 空から高速で接敵し――速度で挑み、技巧で勝負する、と、いうコンセプトなんです。元よりその機体の、半分の質力もないでしょうね。主だった武装も、既に破棄されていましたし』

 

 

   ――ですが――

 

 

『私は、おとり(・・・)ですので――力比べに勝つ必要は無いんですよ』

 

 

 

(おと、り……? 待て、あのガキはどこ(・・)だ?)

 

 

 深音、白煌の左肩には――いない。左右を探しても、先ほどの一撃が尾を引いたのか、とっさに上を見ても、その影はない。

 

 

 

 左右を見て、上も見た――そんな消去法からか、それとも、眼下よりほとばしる、雷光を見たからか。

 

 

 

 

「――私が飛ばせるのはなにも、コインだけじゃないわよ。ただアレが一番携帯しやすいし、弾の強さに頼らなくても良いから、使ってるってだけ」

 

 

 

 ……雷神。

 

 今の美琴を、何の先入観も持たない者が見たら、そう称するだろう。

 

 全身に荒々しいまでの雷光を纏い、その右手に歪な棒――否、槍を携えていた。

 

 

「ああ、これ? アンタが削ってくれたおかげで、『材料』はたくさんあったわよ。一回見たのが参考になったわ」

 

 

 その歩みは遅々として、今までの高速移動での戦闘の名残はどこにも無い。

 

 

 

「コイン以外だと、どこまで飛ぶかもわかんないし――でもこの位置なら、それの問題ないわよね――っ!?」

 

 

 位置はテレスティーナのほぼ真下。『睨み上げる』美琴は、その槍を構えた。

 

 

「受けてみなさい……これが、私の!!」

 

 槍を上に投げる。いや、上に放る。重力に従い落ちてきたその槍の突起を、美琴の撃鉄が――打ち抜いた。

 

 

 

 

 

「 全 力っっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ――世界から、音が消えた。

 

 

 圧倒的な、エネルギーの奔流。荷電粒子砲など霞み消えてしまうほどの威力。はるか上空に何かの音がやっと聞き取れるようになり――その戦果を、さらした。

 

 

 両の足が倒れ、両の腕が飛ばされ地面に激突する。背面に取り付けていた何かの武装がガラガラと崩れた。

 

 

 

 ……以上である。

 

 

 

 胴体、と呼ばれる部分が、完全に、完璧に……消失していた。

 生存も――と危ぶまれるほどの現状だが――美琴がやや外れたほうを睨み、額に電気を走らせて苛立ちを露にする。

 

 

「しぶといわね……」

『……NEXTの緊急離脱の技術も、流用されていましたか。この場合、美琴さんがいらない責任を負わずに済んだ、でいいでょう。あれだけ歪んでれば、人力でこじ開けるのは不可能です』

 

 ストリームラインご用達の、超重量・超硬度の素材で形成された独立型のコクピットが、その出入り口を大きく歪ませて鎮座している。生体反応もあるため、生きてはいるだろう。

 

 

 

 

 それを確認し――白煌が力尽きるように膝を付き、胸部の一部が開いて――そこから深音が、姿を見せた。

 

 

「執事服ー……じゃないか、さすがに」

「……第一声がそれですか。病院からそのまま来たんですよ? 着替える暇なんてとても……」

 

 

 それでも、ワイシャツとスーツスラックスと革靴である。大差ないわよ、という言葉を何とか飲み込み、上から下まで三度ほど往復して眺め、ウム。となにやら頷いていた。

 

 深音はそんな美琴を一時頭の隅に追いやって――白煌に寄りかかり、一度、深呼吸。

 

 

(……ありがとうございました、兄さん。――そして、さようなら)

 

 

 思い出すのは、兄の中の一人。誰よりもライン・アークの扱いに優れていて、この機体もデータ取りのために兄のために作られたものだった。

 心の中で感謝と、そして別れを告げ――なにやら満足気な美琴の背を押す。

 

 

 

「……さぁ。行きましょう、美琴さん。巻き込まれます」

「? 巻き込まれる――って何によ?」

 

 

 

「白煌を自壊――様は自爆ですね、させます。影響範囲は極狭いですが、ここは危険です」

 

 

 

「ななな、何やらかしてんのよ!?」

「大丈夫です。五分後ですから、歩いて離れても全然」

「そういう問題なの!? ま、まあアンタが大丈夫ってんなら大丈夫なんだろうけど……とりあえず木山先生たちと合流しないと。春上さんたち助けないと終わりじゃないんだし」

 

 

 

 

 

 ――幸いにも、美琴たちを心配した木山たちはすぐ近くにおり、二人乗りの車が、七人乗りになり……いまだ表情は硬いものの、一番の脅威を打破できた美琴たちは、少しだけ気を緩めることが出来た。

 

 後は春上たちを、取り返すだけ。昏睡した子供たちを救う手立ても、ほとんど大詰めだ。

 

 ――焦りではなく、逸る気持ちで、青の車はスピードを上げていった。

 

 

 

***

 

 

『エネルギー臨界。NEXT 3-10の最終コードを認証』

 

 

『機密保持プログラム 『アサルトアーマー』を発動します』

 

 

 

 

 ……数秒後。白い金属片をわずかに残し、特に他所に傷を残すことなく。

 

 負の遺産は、跡形も無く葬られた。  

 

 




読了ありがとうございました。

 白煌。お気づきの方、いらっしゃいますでしょうか。 

 なにやら第一部完、のようなノリで終わってしまいましたが、原作どおりです。申し訳ありません。


 誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いいたします。
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