とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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深音さんが本気になったようです。

では本編をどうぞ




310   18-2

 

 

 

 原因は何か――と、自問しよう。

 

 それは、いまだ酩酊の抜けない思考のせいか。

 それとも、最終警告をずっとかき鳴らし続けてきた全身のせいか。

 

 とっさに挙げたのはこの二つだが、どちらもきっと、原因のひとつなのだろう。要救助者の無事を確認できて、安堵していた――というのも、いくつかある原因(答え)の、ひとつだろう。

 

 

 

 しからば、その主因はなにか。

 

 それを自答――する前に。

 

 

 

 ……極限にまで拡大された刹那の中で、全身を動かす。手加減なんてしている余裕は無いが、それでも、出来る限り怪我をしないように気をつけて。

 

 右側にいた美琴と佐天を突き飛ばす。腕力ゆえか、それとも二人の軽さゆえか。数メートル単位で吹き飛ばしてしまい、美琴は何とか足から降りたものの、佐天にいたっては着陸後にだいぶオーバーラン。後で要謝罪。

 

 左側にいた初春も投げ飛ばす。笑顔のままで飛んでいった彼女は――きっと何が起こっているのか、理解もできていないだろう。幸いにも黒子が意識を向けていたので、もしかしたら受け止めてくれるかもしれない。

 

 

 満点だ。これ以上にない――最高の、出来だ。

 

 

 ――それでは、自答するとしよう。

 

 

(油断、しましたね――これは)

 

 

 

 右肩に。

 

 腹部に。

 

 右足に。

 

 左腕に。

 

 

 

 しっかりと数えられたのは、その四つ。

 酩酊感を吹き飛ばす一瞬の、強烈な激痛。そして、すぐにそれを上書きしてくるのは燃えているのではと思わせるほどの熱さ。

 それが全身のいたるところから喧しく存在を主張してくる。――十までは深音も数えたが、それを越えてどうでも良くなった。

 

 全て深音の身体を貫いており――全身を、赤色に染めている。

 

 

 

「――ゴホッ」

 

 

 明らかに危険であると思われる吐血をして――

 ……吐血の血と、全身の傷から流れ出ている血が、足元に広がっていった。

 

 

(腹部の傷が、少し……かなり、まずい)

 

 

 一身上、傷には『慣れている』深音。しかしその経験上でも、この傷はかなりまずいらしい。全ての傷が貫通しているため、前面の傷か背中の傷か――本格的に拙過ぎて、そんな冗談がよぎったほどだ。

 傷を押さえようとしたが、右腕は肩から先に上手く力が入らず、右腕は肘から先がギリギリつながっているような状態である――傷で傷を押さえるようなものだ。そして押さえきれる数ではないと、早々に無意味だと諦めた。

 

 傷を押さえるよりも、痛みに顔をゆがめるよりも――倒れず、屈することなく……その悪意に相対することが、自分のやるべきことと決めた。

 

 

(――ライン・アーク、だけではないと、思ってましたが……なるほど。根は、深そうです)

 

 

 

 

 

「みお、と――……?」

 

 

 ――投げられた全員が、そして、そうでない全員が。ただただ、呆然としていた。

 文句を言おうとした口を閉じることが出来ず、見開いた目から送られてくる情報を受け入れることが出来ない。

 

 

 その全身を赤く染めているものは何か? 彼の足元にあり、今もなおその領域を広げているものは――?

 

 

 ……数秒の自失を経て、やっと、美琴たちの理解が追いついた。

 

 

「深音っ!? なに、なによこれ……っ!?」

 

 

 

 声か、叫びか。どちらにせよ少し裏返ってしまったが、そんなことを気にしている暇はない。

 転びそうになりながらも駆け寄り、傷に触れようとして躊躇い、足元で靴を濡らす赤色に息を呑む。

 真白だったワイシャツは真赤に染まり、裂け目から生々しい傷がいくつも覗いている。

 

 人はどれだけの血を流したら危険なのか、応急処置は……そんな繋がりそうで、どこか繋がっていない頭の中で、それでも必死に、ひとつの結論を出せた。

 

 

 深音が、いまだ立ち続けているのはなぜか?

 いや、それよりも――深音を傷つけた元凶は、何か。

 

 

「こいつが……っ!」

 

 

 紫色の無人機――明確な色が付いているものは初めて見たが、それでも、その姿形は美琴と黒子が数十体と破壊してきた、改良型のストリームラインだ。

 いまだ硝煙を上げる火器を放り捨て、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

 

 何かを言おうとして、再び吐血している深音を後ろにかばうように、前に立つ美琴。

 

 

 

 躊躇う必要も無い――しろと言われても、するつもりも無い。

 深音の傷の手当ても、春上の救助も、なによりもまずその障害を何とかしなければ始まらない。

 

 ……怒りのままに取り出したコインを、渾身の全力で撃つ。

 

 

 

 いや……撃とうと、した。

 全身に帯電させた電圧は霧散に掻き消え、取り出したコインはその手から零れ落ちる。

 

 

「つっ!? なによ、こ、れっ!?」

 

 電撃が、発生しない。電磁誘導の力場を作ろうとしても、立っていられないほどの頭痛が演算を妨害する。

 

 ……部屋全体に、それは耳障りな音が反響していた。音源が何処だか分からないほどに乱反響している音が、集中力をガリガリと削っていく。

 

 

 

 その音の中、コインが澄んだ音を響かせて落ち――紫色の無人機の足元まで転がって――その足に、踏み潰される。

 

 

「――?」

 

 

 踏み潰す。踏みにじる。その、意味は? 

 無人機のあまりの人間らしい行動に、痛む頭が違和感を覚える。何かが違う、先ほどまでの無人機とは違って――これではまるで……。

 

 

「まさか……」

「みさ、かさん! それっ、無人機じゃ、ない!」

 

 

 苦しみに耐えながら伝えてくれたのは、固法だ。見れば、彼女も操作盤にすがりつくようにして身体を支えている。隣にいた黒子も頭を押さえながら座り込むも、その紫を睨んでいた。

 初春も頭を抱えて――駆け寄った木山にその身体を支えられている。木山一人にだけ異常が見られない。何故、と考えれば、鼻で笑うような嘲笑が、反響する音を制して響く。

 

 

『……私があの無能共と同じことすると思ったのかぁ? なぁ、モルモットちゃんよぉ?』

 

 

 くぐもった声が、機械越しに聞こえる。――試験管越しに自分を観察されているような、そんな気持ちにさせるその声は、当分忘れることはないだろう。

 

 

 

 テレスティーナ=木原=ライフライン。

 

 全ての根源である木原 幻生の孫娘であり、より明確に言い表すのならば、美琴たちの……『敵』だ。

 

 

「なんで、アンタがっ……!?」

 

 そう――閉じ込められていたはずである。大きく歪んだ脱出装置に閉じ込められて、深音が人力ではまず開けられないと言って――。

 

 彼女の声を発する改良されたストリームライン。かつて聞いた話が正しければ、稼動のために機械による相当なパワーアシストがある。装甲が軽減され、パワーアシストの出力が上がっていたとしたら……それが、答えだった。

 

 

 

『説明する必要はなさそうだな? ま、するつもりもねぇけどよ』

 

 

 頭部の全てを隠すアーマーのせいでその表情を見ることは出来ないが、それでも、愉悦に歪みきっていることだけは分かった。一歩一歩、その足音で絶望を思い知らせるように歩みを進める。

 

 無人機ではないにせよ、攻撃することを躊躇うような相手でも、状況でもない。容赦なく打ち抜こうと手をかざすも――その手から電光が走ることはなく――むしろ、美琴の頭に響く激痛が強さを増していき、膝をつき、手を付いて――意識を繋ぎ止めることすら必死になっていた。

 

 

『学園都市最強のレベル5も、こうなったらただの餓鬼――いぃや、それ以下だなぁおい!』

「くっ……一体、何をしたってのよ!?」

 

 

 美琴の前まで来た紫――テレスティーナは、クツクツと笑いながら屈み、美琴を見下す。

 その鋭利な手で撫でるようにその頬に触れ、無理矢理自分と視線を合わせるように持ち上げた。

 

 

『おいおいおい……状況見てそんくらいわかんねぇのかよ? レベル5のモルモットなんだからご自慢の演算能力で推測してみやがれ。まあ簡単だ……てめぇらをただ役立たずにしたってだけだ。わかったかなぁ~?』

 

 睨みあげる美琴を、無理矢理に頷かせ、少し持ち上げてから、その手を離す。

 支えるだけで精一杯であった美琴は抵抗することが出来ず――そのまま地面に倒れ伏せる。意地で顔を動かして睨みあげるが、それ以上の行動が一切取れなかった。

 

 

「……まさか、しかし『アレ』は研究段階だったはずだ! 完成したなんて話は……」

 

 木山が初春を支えながら、テレスティーナに吼える。あるはずが無いと、ありえないと否定したいが、目の前の結果が全てを物語っている。

 

 

『はっ、一丁前に詳しいじゃねぇか。――だがなぁ、てめぇ如きが学園都市の全てを把握できるとでも思ってんのか? 『学園都市で作られた兵器』――そんくらいは知ってんだろ? 対能力者用の兵装がなにかしらあってもおかしくは、ねぇだろーがよぉ?』

 

 

 その歩みは、いまだ立つ深音の前まで進み――

 

 

『なぁ、『欠陥兵器』くん? ……キャパシティダウンの技術提供、ありがたく受け取ったぜぇ』

「ぐっぁ! っ!」

 

 その右肩に、手を置く――傷口に親指を突き刺し、そのまま五指をゆっくりと絞めていく。

 決して止血ではない理由で止まりかけていた血が、今一度吹き上げる。

 

 抵抗する力も最早無く、しかし、肩を掴まれている深音は倒れることも許されず――ゆえに。

 

 

 

「随分、っと、私達のことを、ご存知のようですね――」

『ちっ――マジモンの化け物かよ……』

 

 

 ……自身の肩を抉るその腕を、離さぬとばかりに掴み返す。

 テレスティーナは追い討ち――というよりも、構わぬとばかりに、実験を最終段階へと遠隔操作にて移行させた。

 

 

 数秒の間をおいて――建物自体が振動をはじめる。

 深音の顔がさらに苦痛に歪み、苦痛とともに焦りが滲んでいた。

 

 

 

(まさか……RSPKの暴走を――!?)

 

 

 傷による激痛。

 RSPKの妨害により生じる激痛。

 それに能力者である深音にも、キャパシティダウンによる激痛もあるだろう。

 

 

 種類にしての数だけで、三倍。実質感じている痛みは、美琴たちの比ではないレベルだ。

 

 

 

 

「――では、私のっ、『名前の由来』は、ご存知、ですか?」

 

『……ああ? てめぇ何言ってんだ……?』

 

 

 それでも、そんな状態でも、深音は相対を止めない。

 

 

 美琴が目を見開き、木山が打開策を模索し、固法がまとまらない思考を必死につなぎとめ、黒子が現状の打破を画策し、初春が深音の身を案じ――。

 

 春上はただ祈っていた。

 

 

 

 ただ一人……人知れず姿を消している少女の成功を、ただただ――祈った。

 

 

 

 

「――ただ、貴方が、把握できていない、学園都市の大きな秘密――のひとつですよ。聞くか聞かないかは、貴方の自由で、すが?」

『はっ、時間稼ぎかよ――いいぜ? 暇つぶしに聞いてやる』

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ――時計の針を、少し戻し――

 

 

 下唇をかむ。心臓が、これ以上ないほどに早鐘を打っている。息が上がって肺も喉だって痛い。今すぐに足を止めて、座り込むことが出来たらどれだけ楽だろう。

 

 ――そんな思考をしている余裕は、とっくに踏み潰している。

 

 

「なんの、これしきぃ!!!」

 

 

 佐天は、決してスポーツ万能……というわけではない。同年代の女子の平均よりも、わずかに優れているか? という程度だ。

 スポーツに別段打ち込むわけではなく、どちらかといえばお洒落に恋に、全身全霊をかけている女の子だ。

 

 

 そんな女の子が、にじむ汗を気にも留めず、張り付く髪をものともせず、汚れていく服を構うものかと、階段を駆け上がる。

 酸欠でチカチカしだした頭の片隅で、ほんの少し前の出来事を思い返す。その瞬間の決意をまた一歩、踏み出す力へと変えて。

 

 

 

 

 ――それが、偶然という神様の奇跡なのか、必然という神様の悪戯なのか定かではないが、深音がテレスティーナの銃撃から三人を逃がす際に、誰よりも遠く――その大部屋から出てしまうまでに滑っていったのが、佐天だった。

 

 それゆえにテレステーナの意識からはずれ、ただ一人テレスティーナに対するイレギュラーとなった。

 

 しかし、それだけだ。

 

 深音が撃たれるさまを見て呆然として――美琴達が苦しむ姿を見て、みんなを助けようと金属バットを握り締めたものの、どうすればいいかと思い悩んでいただけだろう。そして考えずに乱入して、アドバンテージを失うはずだった。

 

 

 そこに、耳ではなく頭に直接届いた声が、彼女に、彼女だけにしか出来ない役目を伝えた。

 

 

 ――それは皮肉にも、高い遮音性のカプセルに閉じ込められていたおかげで、キャパシティダウンの影響を全く受けることのなかった、春上の精神感応(テレパス)

 

 春上が見た、我先にと退避する研究者達が搬入していた機器。

 

 それが何なのか、春上には分からない。しかし、わざわざ離れた位置にもって行く理由が絶対あるはずだ、と。

 

 

 ……最高は、その機材がこの実験の大切な要であること。それを止めることが出来れば、後は全員で逃げるだけ。

 それで無くとも、今美琴達を苦しめているモノであるなら、止めることが出来れば逆転は十分に可能だ。

 

 

 

 だからこそ、佐天は駆け上がる。躓いて、膝をすりむいて。涙をにじませてもただ上へ。

 

 

 

(つ、着いた! ここが、一応最上階だけど――)

 

 

 階段がやっと終わり、震える足に鞭打って、春上の言っていた機械を探す。

 長い間無人だった施設であったからだろう。地面に積もった塵埃はなかなか厚く――つい先ほど通った大勢の足跡を追いかけるのは簡単だった。

 通路を足跡に倣い駆け抜けて、扉を体当たりするようにして開け放つ。

 

「あ、あった! たぶんこれ!!」

 

 目に見えて、廃墟然とした施設とは似合わない真新しい機械は、唸るような駆動音を響かせている。

 これを止めれば、と意気込んで近づき――

 

 

「す、スイッチも電源も無い!? こんなのどう止めたら……」

 

 無いわけではないのだろうが、頑丈な鍵が三つ並んで守っている扉の向こうに操作パネルなどがあるのだろう。当然開くはずも無く。

 ――テレスティーナ自身の持つ、リモコンか何かで制御されているのだろう。

 

 

 何か無いか……と部屋を見渡し――その部屋がなんの部屋なのか、把握した。

 多くの、ほとんど動きのないどこかの通路や部屋などの画像を出力し続けるモニターが大量にある、監視室だった。

 

 

 無数にある画面を流し見て――いまだ、呼吸は戻らないものの――それでも一瞬、呼吸を忘れた。

 

 テレスティーナの手が深音の首にかかっている様に見える――先ほどの深音の状態がまざまざと思い出され。

 

「深音さん!?」

 

 自分が、好意を寄せている人が今まさに、その命を刈り取られようとしている瞬間。――冷静でいろ、というのが無理な話だ。ひとつのモニターに詰め寄り――勢いのままに操作盤についた手が、何らかのボタンを押しているか気にもせず。

 

 

 画面の中の、誰もが動かない。動けない。

 深音の怪我は、素人でも分かるくらいに危険なものだった。

 

 

 

 

 ――おしとやかな、女の子では間に合わない。

 

  

 底を付いている体力に代わる力は、火事場の何とやら。

 大きく、大きく振りかぶったバッターは、思いの丈のありったけを、肺いっぱいに吸い込んだ空気に合わせて爆発させた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ――時計の針を、元に戻し――

 

 

『んで? てめぇの名前の由来がどうしたってんだよ化け物――確か、ミオトとか呼ばれたっけか。っても大体分かるぜ? NEXT-310。てめぇのシリアルナンバーから単純に当てただけだろ? ずいぶん安直なセンスじゃねぇか。……で? それがどう学園都市の秘密に繋がるってんだよ』

 

 

 

 勝者の余裕。テレスティーナは、文字通り、勝利者の余裕を持って、敗者に問う。

 

 

 ――五月のあの日。名前の無い彼に名前をつけたのは、美琴だ。三日寝ずに考え、他の一切を適当にして悩んだ末の、ミオト。そして願いを込めて、深音と。

 

 その直後、アレよという間に義兄妹の関係になったのだが――そうして、御坂 深音というカタチが生まれた。

 

「この上なく、『私』を証明、してくれる名前ですよ。 まあ、今その話は、置いておきましょう――私が言いたい、のは――『310』のほうです」

 

 

 途切れ途切れでも、しっかりとその言葉をつむぐ深音。ボロボロとも、満身創痍ともいえる有様にも関わらず、揺らぐことなく、相対を続けていた。

 310から起因した深音という名前ではなく――NEXTが彼に刻んだ310という番号が主軸なのだという。

 テレスティーナはもちろん、美琴も、黒子たちも。能力の使用を意識的に押さえつければ比較的に――それでもまともに立てないが――痛みが薄くなることに気付き、考えるだけの余裕が出来た頭でその話を聞いていた。

 

 

『……続けろ』

 

 テレスティーナの気配から、余裕が消える。傷口を掴みあげるという非道はそのままだが、研究者としての経験――それがふざけの一切を消していた。

 

 

「……NEXTプランには、私を含め――500人の、チャイルドエラーがっ、その被験者にされました。プランの最初期、私は唯一の新生児でしたから、記憶があるわけじゃありませんが。499人、の、兄さんと姉さんの名前を覚えるのは少し大変でしたよ」

 

 肩を握る力を強め、余計な情報を黙らせる。しかし、深音は大して気にも留めず、当時を思い出してか、苦笑を浮かべていた。

 

 

「――わかり、ませんか? 何故、最年少であった私が末尾ではなく――310という数字を付けられたのか?」

 

 

 年齢順ではない。だが、研究に組み込まれた順番、ということもないだろう。NEXTの地下研究施設で美琴達に語った内容では、深音が計画に合流したのも一番最後だったはずだ。

 

 

 

 ――美琴達でさえ、知らされていない秘密。この学園都市でその事実を知っているものは、片手の指にも届かないだろう。

 

 全てを明かせば、きっと日常には戻れない。その事実知る一人の医師が、彼に深く深く打ち込むように伝えた警告を、彼は、破る。

 

 

 

「この学園都市の、レベル5……美琴さん達の順位は、どうやって決まっていると思いますか?」

『……能力の研究優先度――その研究の応用で生じる利益。なるほどなぁ、てめぇの兵器としての価値が310番目。はっ、んなことだろうと――」

 

 

「はずれ、です」

 

 

『――あ?』

 

 肩を掴む腕を、より強く、握る。

 アーマーを通しているため感じないだろうが、それは相当な力であり、キャパシティダウンによる音が、そのアーマーから聞こえていただろう軋みをかき消した。

 

 

「――半分、はずれです。説明していませんでしたね――本当は310(サンイチゼロ)じゃないんですよ。三百十でもありません。……正確には3‐10(サンのイチマル)。それが、正しい私たちのシリアルナンバー。下二桁は、今言ったとおり――戦力としての利用価値、純粋な、力での順位です。だから、半分ははずれです」

 

 

 途切れがちだった声が、切れなく通る。しかし、情報を手に入れ、解を出そうと必死になっているテレスティーナは、そんな些細なことにかまっている暇がない。

 10は、強さの順位。

 

  では、3の数字の、その意味とは?

 

 

 

「ところでレベル6――机上の空論だったそうですね? それが、今、実現するかもしれないところにまで手が届いている――。これで事実上、この学園都市に机上の空論がなくなった(・・・・・・・・・・・)わけですか」

 

 

 突然の、賞賛にも取れる言葉にほんの僅かに思考を裂き、優越に浸る。

 見当違いの部分に熱を入れる祖父ではなく、私が――。

 

 

(机上の、空論……?)

 

 引っかかった、その言葉。

 深く考えようとしたが、マイクを大音量でつけた際のエコーがそれの邪魔をする。

 

 

 

 

 

 

【私の大切なひとに!!! 手ぇ出すなぁあああああああああああああ!!!!】

 

 

 

 

 

 建物全体を揺らすような、思いのたけの絶叫。直後、絶叫を上回る何かの破砕音と、小さな爆発音が立て続けに放送される。

 

 全員が意識をそちらに向けて、美琴たちはまさか、という希望を浮かべた。

 

 

 

 しかし、数秒が経ち――数十秒が経ち……希望は困惑に変わり――テレスティーナは面倒くさそうに舌打ちをひとつ。

 

 

『ガキがもう一匹いたのか――だがまぁ、残念だったなぁ、状況は変わらず――RSPKの擬似発生を止めたところで、ガキどもの暴走はもう止まんねぇんだよ!』

 

 

 

 

 

 

 ギシリ。

 

 

 

 

 

 擬音であらわすなら、そんな音。

 深音の手か、それとも、テレスティーナの腕か。

 

 

「間に合いましたか――話の続きですが、学園都市ではレベル6である絶対能力者を『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』、そう呼称するそうですね」

 

 深音の肩に出来た傷に押し当てていた手が、はずされる。当然テレスティーナの意思ではなく、深音の意思によって。

 

 慌ててパワーアシストを全開にして押し返すも、外れた手が戻ることは無く……それどころか、二人の中間の地点まで押し戻されているではないか。

 

 

(ありえねぇだろ……いくら化け物とは言えアレだけの傷を負わせたんだぞ!? なん――)

 

 肩の傷を見る。今しがたまで親指を突き刺していたため、その傷は確かにあるのだが――目の前で、みるみる傷が小さくなっていく。僅か数秒で傷は無くなり、何事も無かったような綺麗な肌が、そこにあった。

 

 全身を見ても自分の血ではなく、返り血で汚れたのではないかと思われるほど――衣服の血量と身体の状態がかみ合わない。

 腕を引き剥がそうとしても、その五指から逃げることが出来ず、深音自身も動かすことも、出来ない。

 

 

「学園都市がレベル6を至上としたために、誰からも見向きされなかったもう一つの机上の空論『だったもの』……それが、NEXTプランの――いえ、『PROJECT NEXT』の、主軸だったそうですよ? ――私達に向かって、よく声高に研究者たちが言っていたのを覚えています」

 

 

 

 全員が、息を飲む。

 ――最早その治癒速度は、肉体強化された、などという理由では隠し通せないだろう。

 

 

 

「『人ならぬ身にて、天上の意思に造反せし尖兵(もの)』――」

 

 

 

 ――多重能力者(デュアルスキル)

 

 

 

 神に至ろうとする存在と、神をその座から引き摺り下ろそうとする存在の。

 

 それが、初めての対峙であった。

 

 

 




読了ありがとうございました。

 深音の特異性の、最たる部分がやっと公に。


 誤字脱字・ご指摘などございましたら、お願いいたします。
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