クリスマス特別番外編を書こうと思いましたが、間に合いそうも無いので書いておくだけにします……orz
いよいよラストスパート! では、どうぞ!
『
学園都市に在住する学生達であれば、その大半がその言葉を知っている――というよりも、その言葉を聴いただけで、おのずとそれが何を意味するのか、察することが出来るだろう。
察して、理解して――そして、鼻で笑う。
そんなことを、脳の容量をわざわざ裂いてまで記憶する必要がない。そんな無駄なことを覚えるくらいなら、能力開発に回すか、好きな楽曲の歌詞を覚えることに使ったほうがずっとずっと建設的で有意義だろう……と。
全員がそう口をそろえるに違いない。
能力は一人につき一つ。それは絶対に変わらない、覆せないルール。
そこにレベルの差は関係なく、学園都市最強の一角であるレベル5の美琴も、不特定多数いるだろうレベル0である佐天も。一つの能力しか扱うことが出来ない、ということに変わりはない。
性別も、性格も。
老若も、貧富も。
才能も、努力も。
そのどれがどれだけ違っていても、人間である以上――神の造りしその
――だがそれに、真っ向から対立の意思を示す者達がいた。
それが『NEXT』の研究、実験の主柱を担っていた研究者達である。
彼ら、もしくは彼女達は考えた。人間では神のルールに逆らうことは出来ない。ならば、人間を人間から逸脱させればいい――と。そんな、子供のたわごとにもならないような暴論を提唱した。
そんな研究者たちが作り上げた机上にあった空論は、人道に須らく反するものである上に、可能性なんて限りなくゼロに近いものでしかなかった。
それでも学園都市の目をかいくぐり、日の当たらない地下深くに潜り――倫理を無視し、時間を費やし、労力をつぎ込み。隠れ蓑として十分すぎるほどのプラン用意して……その研究は進められた。
専門的過ぎる話が続いてしまうためその中途は割愛させていただくが、その過程で成功率の小数点は消え――さまざまな法則も発見されていった。
そしてその研究は、長い時間をかけて、ついに成功の二文字を受けるに至る。
正式な400名の
――もっとも、ご存知のとおりであるが、いまだ学園都市では多重能力者は空想上・想像上の存在でしかない。
研究は、中断された、
……その被験者達の暴走によって、多重能力者発現計画は大きすぎる打撃を受け、稼動の凍結を余儀なくされたのだ。
計画の一部が流出し各所で息づいているものの……多重能力者へ至るための方法は、数名の科学者達の頭の中にあるもの以外は全て消失し――その科学者達も多くが行方知れずとなった今、その暴走の原因を解明しようとするものはいない。
こうして、多重能力者発現計画『PROJECT NEXT』は、誰にも知られること無く進められ、誰に知られることも無く……『NEXT-プラン』という隠れ蓑の影に消えていった。
(……何故だ、深音君――ッ!)
消えていく、はずだった。
少なくとも――
木山もテレスティーナほど能力開発における分野に精通しているわけではない。
しかし、彼女は過去……
だからこそ、その希少性・特異性は、誰よりも理解が出来た。
劣化モドキの多才能力者でさえ、約1万人の学生達の脳をリンクさせて、やっと僅かな時間の発現が可能だったのである。その上で、美琴の電撃が切欠かも知れないが、とてつもない脳疲労に見舞われ――ハイリスク・ローリターン、使用後に副作用大有りとあれば、本格的に研究されることはありえないだろう。
だが、彼の、深音の言っていることが正しいのなら――。
「学園都市が、その闇が……!! 君を放っておくわけがない!」
ローリスク・ハイリターン。いや、それどころの話ではない。近年停滞を余儀なくされていた能力開発の研究が、大きく躍進することだろう。
しかし、多重能力者のデータも、その研究者達もいない。
それを知った研究者達は、こう思うだろう。
『成功例』から解読すればいい――と。
その果てにあるのは、死すらも生ぬるい――苦痛の一生だ。
彼だけではない。科学者達は、ありとあらゆる手で彼を手に入れようとするだろう。彼に親しい友人や、美琴という身内にも手が伸びる可能性がある。
そんな色を込めた木山の叫びに――深音は一瞬だけ振り返り、その一瞬。微笑みを見せた。
(……ま、さか、一人で全て背負うつもりなのか……?)
逃げるつもりが無いのか。それとも、全ての絆を断ち切って、一人学園の暗部と相対するつもりなのか。
そしてそんな、いくつかある最悪の未来のうちの一つを、既に幻視している
『ははっ、おいおい……魅力的なプレゼントぶら下げんじゃねぇよ化け物ぉ――レベル6の確立に成功したらテメェを解体して――夢がふくらむじゃねぇかおい!!』
木原の狂笑が、キャパシティダウンの音響に乗って喧しく響く。能力者殺しといっても過言ではないその装置は遺憾なくその猛威を振るい――美琴たちの思考と行動を大きく制限していた。
これから始まるのは、一方的な暴力だろう。唯一動ける木山が、最新兵器で全身を守っているテレスティーナをどうこうできるわけもなく――RSPKの発生装置を壊したと思われる佐天がそこに加わったとして、その結果が覆るとは到思えない。
せいぜいが出来て、足止め。それも、極短時間のと注釈が出る程度のもの。
考えている間にも、子供達の暴走レベルは上昇している。
何をどれから、どうやって対処すればいいのか。
必死に頭を占拠しようとする諦観念を追い出し――少しでも使えるのは無いかと視線を世話しなく動かす。
動かして――現状が硬直していることに気が付くのに、数秒ほど要した。
「――実はさっきから、ずっと考えていたことがあるんですよ――」
深音は、その腕を握りながら微動だにしない。
テレスティーナは思い返したかのように引き剥がそうとするも、その腕を押すことも引くことも出来ず残っていた腕で深音に殴りかかるも――完治した深音の手に簡単に受け止められ――力比べの様相になった。
「……貴女、馬鹿ですか?」
――それは、それほど珍しいという言葉ではない。呆れたり、本気で罵倒したり、悪ふざけで言い合ったりするときに、大抵使う言葉であるはずだ。
しかし、それを誰が口にしたのか、その場の一同は本気で自分の耳を疑った。
あの深音が。
敵対しているとはいえ、人を馬鹿にしたのである。
「なん、だと……てめぇ!?」
もちろん、深音となんら関わりの無い――散々化け物と罵り、今後モルモットとして扱うつもりであった木原は、そんな思考をするまでも無く、純粋に激昂する。
……知識を何よりの武器とする木原一族にとって、ある意味禁句な言葉だったからかも知れないが。
「キャパシティダウン――それも、現物は全て壊したはずなんですが。――資料でも残っていたんですかね……盲点でした。ライン・アークといい、ストリームラインといい……まさか自分が敵対するとは考えてもいませんでした」
力比べが、その拮抗を崩していく。深音は涼しい顔で、テレスティーナはなにやら焦りの声を漏らして――それだけで、優劣はどちらにあるのかが分かるだろう。
『化け物が……!』
「――ことキャパシティダウンは、明確に対能力者を意識して作られた専用兵器です――ですが、能力者であるNEXTの武装なんですよ? 使用者が行動不能になるなんてこと――あるわけがないでしょう」
見せ付けるように、美琴がいつもやるように。
雷撃を、全身より迸らせる。ワイシャツを濡らしている血のせいか通電性がよく――美琴より電流の収束率が高い。まるで電撃の鎧を身に纏っているかのようだ。
それだけではない。
テレスティーナは深音の正面にいるためその変化を目視することはできなかったが――深音の髪を止めているゴムが、どんどん下へ落ちてきているのだ。ゴムから先の髪の長さが変わることはなく――髪そのものが、異様な速度で伸びていた。
もとより初春や美琴、固法よりも長かった髪が、黒子や佐天、木山の長髪組よりも更に長く――膝裏まであろうかという長さまで延びる。
そして、身に纏われた電撃の余波でゴムが焼ききれ――遠目でも分かる艶を見せ付けつつ、緩やかにたなびいた。
「ご覧のとおり、私にキャパシティダウンは無意味です。ですが、美琴さんたちに有害であるそれは――」
たなびいた髪が、流れたその瞬間。
硬質の物体同士が激突し、破砕した音が空間を埋め尽くす。
撃ち抜いた深音の拳。打ち抜かれた、テレスティーナの
「……破壊させて、いただきます」
――勝敗は、相打ち。
何かの部品は根元から大きく砕かれ、僅かな火花を散らして大破する。対する深音も拳が砕け、無数の骨が皮膚を突き破って鮮血を散らしている。
「「「「っ!?」」」」
深音の拳の惨状に息を飲む少女達。先ほどの銃撃よりも痛々しいその手を心配し――。
「っ!? 痛みが!」
人を心配するだけの余裕が、戻っている。いまだ能力は上手く使えないが、身体を動かす分に支障はない。ならば、手を負傷した深音の加勢に――
「は――?」
一体何度驚愕すれば、いいのだろう。そんな言葉が思い浮かぶほどに先ほどから驚愕しっぱなしの一同である。
砕けた深音の拳――訂正、砕けて『いた』深音の拳。
治ったばかりの拳を開いては掌――それで数百キロはあるだろうストリームラインごと、テレスティーナを壁まで水平に打ち飛ばした。
砲弾のように吹き飛んでいくテレスティーナは壁を砕き……周囲の壁を瓦礫に変えて、大量の瓦礫の山に埋もれていく。
――静かに残身を終えた深音は、全身に纏っていた電光を納め――。
「下がってください」
「……」
隣に立とうとしていた美琴を、明確に突き放す意思を込めた声で、深音は押し留めた。
「キャパシティダウンは破壊しましたが、まだ完全に影響が消えたわけじゃありません。レベル5の貴女だと、影響も大きいはずです――動けるのなら、皆さんを連れて避難を」
口調もどこか、何処と無く余所余所しい。瓦礫に埋もれたテレスティーナを警戒しているとはいえ、一度たりとも見ないなど、今までの深音でなら考えられないことだ。美琴のことを貴女、などと、名前で呼ばないことにも違和感しかない。
美琴も、万全とはとてもではないが言える状態ではない。頭の痛みはなくなったものの、酷い乗り物酔いから回復途中のような気分で、能力も安定しているとは言い辛いが――。
「……せー、のっ!!」
――立ち止まることの無い足音、背後至近からの掛け声には流石に振り返り――視界一杯に広がる物体。次いで顔面になにやら硬いゴム質の一撃を、身動き一つせずに甘んじた。
「……いつものアンタならこれくらいの飛び蹴り、軽く避けてるわよ? それに、なに心にもない馬鹿台詞口走ってんのよ。御坂家家訓の最後まで諦めない、忘れたわけじゃないでしょうね?」
小揺るぎもせずにそのやたらと重い一撃を受け止めた深音は……少しよろけながらも隣に立つ美琴に苦笑を見せる。
「――いつから、家訓になったんですか?」
「今よ。言わせんじゃないわよ恥ずかしい。……アンタこそ、後できっちり全部、洗いざらい教えてもらうからね。覚悟しときなさい」
腕を組んで不機嫌そうに――というより機嫌悪く深音を横目で睨みあげる美琴。
深音が何をしようとしていたのか、理解ではなく感じた彼女は、かなり激怒して――かなりの不安を隠していた。
彼が、自分の前から、いなくなってしまうのではないか?
学園都市の闇。多重能力の唯一の発現者。それがどんなもので、どんな意味を持つのか美琴たちにはよく分からない。
「多重能力者? いいじゃない。私の兄貴なんだから、それくらい持ってて当然よ……そんなの、関係ないんだから……」
――奪われて、たまるか。大切なものを、そんなものなんかに。
……美琴を横目に見下ろし、振り返って全員を見る。
思いつめた顔をしていたり、美琴の言葉が正しいとばかりに頷いていたり
「……分かりました。全て話します――ですが、ここは、私に任せてくれませんか?」
美琴の肩に手をおき――彼女の前に立つ。
下がれ、とまでは言わないが、テレスティーナの相手だけは譲れないようだ。
美琴の肩に手を置いた際、説明の前払いといわんばかりにキャパシティダウンの後遺症を和らげ――る程度にするつもりだったが、美琴の身体をほぼ全快といっていいほどに、癒しきってしまった。
「うひゃッ!? ……な、なにいまの!?」
気分の悪さと、ここに来るまでに溜め込んだ疲労や小さな傷――その全てが、何とも言えないこそばゆさをもって癒されていく。
「――肉体再生系の上位能力『肉体操作』のレベル……4くらいですかね。自分の身体をほとんど自由にできますし、他人の治療も相当な重傷でも可能です」
深音の髪が異常に伸びたのは、全身を活性化させたための副産物だろう。
血流量は肉体のポテンシャルを極限まで高め、脳が無意識に掛けているリミッターを解除する。 現在はその効果の名残しかないが……それでも、常人など比べることも馬鹿らしいNEXTの身体能力が、さらに数倍はあるだろう。
「美琴さんは、春上さんたちの近くで待っていてください――」
そんな人物の渾身の一撃を受けたテレスティーナが、瓦礫の山を斬り飛ばし――右腕から見覚えのある光を伸ばし、左腕の装甲を展開し、いくつかの砲身を除かせている。
「……すぐに、終わらせてきますので」
再び、拳を硬く握る。再び全身に雷光を纏い――
深音の体格からは想像も出来ないほど大きな音と一緒に地面が悲鳴を上げ、二歩目の助走。更に音は大きくなり、地面に小さくない皹が走る。
そして、三歩目。
地面も破砕するほどの重量は反動となり、深音の身体そのものを砲弾に変える。
彼の身体を打ち出した、『力』。
電磁誘導力場を作り上げる『電撃使い』。
摩擦で焼けていく肉体を常に治癒し続ける『肉体操作』。
驚異的な切断力を誇る、そのレーザーソーを。
個人で使用するには、反則的過ぎる超電磁砲を。
最新の兵器たちを圧倒したのは、ただ一撃の、極光となった拳であった。
***
『New Extra Xenograft Troopers――か』
それが何を意味するのか。はたまた、何を指すものなのか。
広い学園都市を探しても、それを知る人物は一人しかいない。そして、その者は基本的に外界との接触を絶っているため、その情報が拡がるということは、まずありえないだろう。
空を『見下ろす』かの人物は、自分から動くなどしない。
自分だけが、知っている。
彼も知らない、彼のことを。
そのことにただただ優越を感じ――傍観者はただ、観戦を続ける。
『――神は幸せなど送らない。神は不幸を送ることしか知らない。何故だと思う? 種子よ』
誰に聞かせるわけでもない声は、それでも広い部屋にこだまする。
『神は試練しか与えない。褒美など、用意していない。……何故だと思う? 種子よ』
酷く、酷く楽しげに。画面の向こうで、雷光を迸らせながら戦うものに問いかける。
『……乗り越えていくがいい。神の不幸を。神の試練を。そうすれば――』
――その先は、語らない。一瞬の戦闘を終えた画面の向こうを――ただただ優しげな微笑を浮かべて、――まだ続く、彼らの戦いの観戦を続けた。
読了ありがとうございました。
前書きでも書きましたが、メリークリスマス! です。ええ、ジングルベルではなく鳴らすののはシングルベルですが。
本当は今回でテレスティーナ編を完全に終わらせて、とかんがえていましたが、はい。終わっていません。もうしばらくお付き合いください。
誤字脱字・ご指摘などありましたらお願いいたします。