このような稚拙なものにお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!
それでは、本編をどうぞ!
自分がやるからっていう深音の言葉は、たぶん何を言っても引かないわねーって思わせるだけの重さがあって――でも、最初の『下がれ』って言葉より、ずっと近くに感じられた。
肉体操作とかいうもう一つの能力で、やたら伸びた髪で背中なんか見えなくなっちゃった後ろ姿だけど……変わんない。うん。爆弾事件のときの背中――……ってあ、れ? それ、まずいわよね? 無理する気満々ってことよね?
――なんて。
いや、まあ心配は心配だけどさ……止めるなんて野暮、しないわよ。
相変わらずこのバカは、『自分を犠牲に』なんて考えしかないのかもしれないけど――私達に害になるかもしれないのに、私達のそばにいることを選んでくれた。
……なによ? そんなこと選んでないって?
……何言ってんのよ、『全てを話す』ってそういうことでしょ? 知ってたら危ないことまで聞き出した私達を置いといていなくなるわけ無いでしょ。
だから……その、戦うのを譲ったのもそういう云々があったからで――断じて、断じて! すれ違うときの顔とか後ろ姿が、その――。
……いや、まあ、ちょっとはカッコよかった、ケド……。
んんっ!
みんなの近くで待ってろ、とか言われたけど。下がるつもりも、目を逸らすつもりもない。
電撃だって滅多に出さない深音の、本気が見れるかも知れないんだから。
――向かっていくアイツが、身体に電撃を帯びる。私がよく身体の電気信号に無理言わせて動きまわるときによくやるけどそれとは少し、電質が違う。
それをもって、明確に歩くという行動から変わった一歩目。少し前のめりになって――軽く踏んだのに思いっきり踏み込んだみたいな凄い音。
二歩目。一歩目よりも凄い音。金属製の地面に皹が入ってるのに、深音の動きは踏み抜いたようには全然見えない。今にも倒れそうなほど身体を前のめりにして――。
三歩。
金属の床が、豪快な音を上げて、砕けてめくりあがる。
……私が目で追えたのは、そこまで。
次に頭で理解できたのが、崩れた壁の――更に向こうの壁に、横向きの大の字になって深くめり込んでいるテレスティーナ。そして、なんか凄い湯気を上げながら、拳を止めた状態で制止している深音。
……深音が真顔で危険だって言ってたレーザーソーは、なんにも触れることがなくて。 威力はともかく、速射と射程なんか私のとは比べ物にならない、実用兵器の超電磁砲も撃たせることなく。
深音が自慢していた頑強なその防御力は、全身に走ってる亀裂でその敗北を認めてた。
「――ははっ」
頭が、理解を始める。だからかしらねー……自分でもおかしいって思えるくらいに、笑いがこみ上げてくる。
金属片を電磁融解させて接合とか、真似できるなら参考にー、とか考えてた私がバカみたい。
「こんの……! 大馬鹿ぁぁぁああああああ!!!」
無理なんてもんじゃない、無茶とか無謀でもない。
とりあえず、飛び膝蹴りをやった私は悪くない。
「自分の身体をレールガンの『弾丸』にするとか何考えてんのよあんたは!?」
考え付くのが、まずおかしいって話よねこれ。ただの自滅行為じゃない――!
いや、理屈は分かるわよ? レールガンの威力を挙げるにはどうしたらー、って話で弾丸の硬度と重さ、速度をあげれば単純に威力は上がるわよ。
電磁誘導の力場の名残は、人が一人通るくらいの幅。それが、深音が踏み抜いた地面から、今立ってるところまで――
(ってこいつ、レールガン撃てるんじゃないの……!?」
「――残念ながら、レールガンとして撃ち出すだけの電磁誘導の距離は、私の電圧では難しいですね。せいぜい、今みたいに身体の真横に作って一直線の加速を生むくらいで」
まだ少し湯気を上げてる深音――だけど、その顔は至って平気そう。
ってか心……あ、声に出てた?
「……ちなみに、絶対に真似しないでくださいね? 身体が粉々になるか摩擦で燃え尽きますから」
「するかっての! っていうかアンタそういう危険性知っててやったの!?」
粉々に、燃え尽きる――って聞いて、慌ててこいつの全身を調べる。
少し少なくなったけど、湯気の熱さがまだ残ってて――血で湿ってたワイシャツは、完全に乾いてて赤いシャツに変化してた。真っ直ぐ立ってるし、痛がっても無いから身体に異常があるわけでもなさそうだし。
「……アンタ本当に規格外になったわね……それで、その――死んじゃった、の?」
壁にめり込んだままピクリともしないテレスティーナに、流石に少し不安になる。亀裂の中心にある胸の装甲はほとんど原型留めてないし。
敵、は敵だけど。殺しとか、そういうのは――。
「大丈夫ですよ……見た目は派手ですが、中にはそれほど衝撃は徹してません。壁に激突した衝撃で気絶してるだけです。生体反応もしっかりしていますし――ただ、あのアーマーは動力も兵装も完全に破壊しましたので、ただのガラクタになってますが」
苦笑しながらそう告げる深音。
うん。なら、いい――かな?
「……みぃおぉと、さぁぁぁぁぁぁあああああん!!!!」
ほっと一息、これで終わったかな、ってところに、佐天さんの声。ドスゥ、っていい音が深音のお腹から聞こえる。
「深音さん怪我!? 大丈夫なんですか!? ってなんか凄い髪伸びてるっていうか熱い!?」
「落ち着きましょう、佐天さん。どちらかというと今の段階では佐天さんの突撃で頭突きされた鳩尾が一番痛いです――それに……」
傷有無を確認してる佐天さんをやんわりと離して――深音は真剣な顔を崩さないまま、春上さんを――違うわね、その向こうにいる子達を見ていた。
「……まだ終わっていません」
ポルターガイストの揺れは収まってるのに――深音の顔は真剣な顔から、少し焦ってる感じに――。
そういえば、アイツも機械が壊れても子供達の暴走はもう止まらないって――!
「木山先生!!」
「分かっている! 分かってはいるが……!」
操作盤にかじりつく様にして何かをしている木山先生と、身体の違和感が消えきってない固法先輩と初春さん。黒子も、何とかしようとしているけど――
「っ! くそ!!」
警告音がその操作盤から響いて――木山先生が手をパネルにたたき付けた。それでも、音は止まなくて……木山先生がうな垂れる。
そのまま、付いた手をギュッと握って――歯を食いしばる音が、聞こえてきそうなくらいに固く閉じて。
「き、木山先生! 諦めちゃだめです! 絶対何か方法が――」
「……子供達の暴走状態が最終フェイズに入っている。外部からのアクセスは、もう受け付けられない」
「じゃ、じゃあ深音がやってた催眠誘導っていうのは!? あれでもう一回眠らせて!」
「時間が圧倒的に足りない。暴走能力の臨界まで長くみても後数分――ここから病院まで、この子達全員を連れて行けても――深音君にその状態になってもらうまで最低でも30分はかかったんだぞ……?」
もしそれが、奇跡的に間に合っても、こんな短期間に何度も劇薬を使えば深音の命が危ない……って言って、木山先生は俯いた。
今度こそ本当に手が、ない。
背中を押してくれる人も、土壇場で駆けつけてくれる人も、もういない。
最悪の天秤が、本当に私達の前に出てきた。
片方には学園都市全体の命が乗っていて、もう片方には無実の子供達の命が乗っていて――。
「――止むを得ません。暴走が止められないのなら、被害を最小限に抑えるしかありません」
みんなが絶望する中で深音だけが、その天秤を傾けていた。
その足は真っ直ぐ、春上さんのいるカプセルを目指して――。
「ま、待って! 絶対ダメ!! 絶対手があるから!!!」
その前に回りこんで、手を広げて――深音の行く手を遮る。手なんか無い、思い浮かばない――けど、そんなの、絶対ダメ……!!
「――佐天さん」
深音の足が止まって、振り返って佐天さんを見た。
「RSPK装置の破壊、ありがとうございます。おかげで、全力を出すことが出来ます――ゆっくり、休んでください」
「え? へ、いや、はい――……?」
いきなりのお礼に戸惑いながら、それでも頷く佐天さんを見て頷き返す。
深音は私の肩にまた手を置いて、そのまま進んでいく。
「……固法さん。カエル先生から無理をしていると聞きました。お疲れ様です。白井さん。私のやらなければいけない後始末を任せてしまって、本当にすみません――二人とも、ゆっくりお休みください」
「み、深音くん? 何を……」
「ワタクシは別になにも……」
固法先輩と黒子が顔を見合わせて、それでも歩き続ける深音に首をかしげる。
「――初春さん。バックアップ、ありがとうございました。――泣かないで、どうか笑顔で迎えてあげてください」
どうしようもない、って泣いている初春さんはカプセル越しに春上さんに謝ってたのに――泣いてるままに、深音を見た。
でも、迎える――って、誰を……?
「木山先生。一つだけ確認があります……外部からのアクセスというのは、子供達に対してだけ、ですよね?」
「あ、ああ。そうだが……」
深音の言うことが、いまいち理解できてない木山先生、最小限の犠牲――って、なに? あの子達になにかする以外で出来ることがある……?
「では、子供達が放出するRSPKの波動を一点に集中させることは出来ますか? たとえば、私個人に……」
言ってる意味はいまいち分からない。けど、
(ああ、そういうこと。――アンタはまた、自分を犠牲にするつもりなんだ)
それだけは、理解できた。
こいつの中の天秤にかかってるのは、学園都市とあの子達じゃなくて。
――学園都市と、自分の命……。
「そう、か。ポルターガイストの原因は子供達を起点としたRSPK症候群の同時多発――その起点を集中させて終結させれば多発現象には至らない! ……いや、しかしそれでは君が!」
「大丈夫です、問題ありません。――今までずっと能力が不安定でしたが、今の私なら、十二分に耐えられます」
その言葉が、強がりなのか、本心なのかは分からないわよ。
本当なら、止めないといけない。止めなきゃいけない。でも、助けるためには、って板ばさみ。
「あの、美琴さん?」
「――何よ」
うん――自分でも分かるくらい、不機嫌な声。それ見て深音のヤツ、苦笑なんか浮かべて――誰のせいだと思ってんの?
「はは……じゃあちょっと、いってきます」
そのまま、身体を浮かせて――眠ってる子供達の中心に飛んでいく。念動力? とはなんか違いそうだけど。
木山先生は私を少し見て――操作盤を慌しく操作し始めた。
***
――真っ暗なところ。たまに何度か、苦しくなっちゃう場所。
こんなところに居たくないのに、いなくちゃいけない。わたしの力ではどうすることも出来なくて、何度も何度も、助けてって衿衣ちゃんの名前を呼んだ。
たまに届いたことが分かっても、何処にいるのかも教えられなくて。
苦しいのは、どんどん苦しくなってきて。
でも、何だろう。なんていったらいいのかな。雨の中で、傘をさしてもらえたような。寒い寒いところで、あったかいのに包まれてるような。
真っ暗なのは変わらなかったけど――苦しいのが無くなった。
それになんだかポカポカしてきて、このままでいいや、って思えるくらい。
でも、それも、なくなっちゃった。
いままでよりもずっと暗くて、ずっと苦しくて。
衿衣ちゃんっていう私の友達がすぐ近くにいて、でもその子も苦しくって――。
もう、嫌だって。
そう思ったとき。
声がね、聞こえたの。
――もう大丈夫ですよ、って。衿衣ちゃんじゃない、たぶん、男の人。
苦しいのが、どんどん無くなっていく。どこかへ飛ばされていく。
それでね、やった、って思ってたら――真っ暗だったのが、どんどん明るくなって――
「せんせ……? なんで、泣いてるの?」
木山先生が、泣いてた。髪も凄く伸びてるけど――木山先生だ。
わたしがそれを言ったら、手でごしごし目を擦って、目を真っ赤にした木山先生が、ちょっとぎこちなく、笑った。
「っ、目に、ゴミが入って、ね……! 大したことじゃ、ないさ」
声が、あんまり上手く出せない。体も、すんごく重たい。
「……せんせ、なんで髪が長いの?」
「いろいろ、ああ。いろいろ、大変で、ね」
でも、それが、凄く嬉しいんだ。
だって。
「……せんせ」
「な、んだ?」
「――ありがとう」
やっと、わたしの口で、言葉で。大好きな先生に、伝えられるんだから。
「っ! なんの、ことか、な」
さっき乱暴にぬぐった目から、またポロポロ涙が流れてる。
――知ってるんだよ。先生が、わたし達を助けようとして、ずっとがんばってくれたこと。
「わたし達を、助けてくれて。ほんとうに、ありがとう」
「っ、う……あっ ああぁぁぁぁ!!!」
抱きしめられて、ごめん、ごめん、っていってくる先生を頑張って抱きしめ――返せなかったけど。ただいま、って言ったらもっと泣き出しちゃって。
『……おかえり。絆理ちゃん』
『うん――ただいま、衿衣ちゃん。』
みんなが起きだして、木山先生がまた泣いちゃって。
でも、木山先生も笑ってる気がした。
《 おまけ 》
「まったく。この大馬鹿は。少しは自分を省みるってことしなさいってに……」
「まぁ、寝かせてあげなさいよ。にしても、結構寝顔は子供っぽいのね――ねぇ、ちょっと代わってみない?」
「ダメっすよ固法先輩! やっと勝ち取ったこのポジ! 早々簡単には譲りませんよ!」
「そうですよー、順番は守ってもらいませんと。……あと佐天さん。後で例の寝言のオンエアについて相談が」
「お姉様。黒子は今にも倒れそうですの。あとご褒美も」
「春上さんの入れられてたカプセルが空いてるわよ」
読了ありがとうございました!
前書きにも書きましだが、これでひとまずの了となります。
このあとに後日談として一話足します。それで、完全に第一期が完了です。
おそらくこの時点でいくつか疑問に感じていられることがいくつかあるかも知れませんが、それも次回に全て明らかになるかと思います。
誤字脱字・ご指摘などございましたらお願いいたします。た