とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

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本編が終わったのにまだ科学。

確か魔術が始まったのが、夏休みはいってからだよなぁ、とあいまいな記憶により。
科学一期と魔術一期の空白の期間とでも思ってくだされば十分です。

 ええ、はい。花ですので。

 彼女の、リミッターが解除されます。




愛を込めて花束を   19-1

 

 

 

 風に、花弁は静かに揺れる。

 自然に咲くならば、おそらくあり得ないだろう色とりどりかつ種の違う花々が、自分こそはとその可愛らしさを披露していた。

 

 揺れる花々に誘われてか、春先とは違いやや大きなアゲハチョウが花々の一つに止まり、羽休めをしている。何度か開いて閉じてを繰り返し、花弁に劣らぬ色彩を見せていた。

 

 

 

(こ、これは由々しき事態なのでは……!?)

 

 

 

 ――そんな文章でつづれば、まるで一枚の絵画を想像させるものを、頭の上で演出しているエンターテイナー……柵川中学の花畑少女こと初春 飾利。

 

 そんな彼女は、大通りから一歩外れた路地裏――ではなく、あと一歩で大通りの路地裏にいる。しかし、あと一歩をどうしても踏み出そうとはせず、頑なにその位置にへばり付いていた。

 

 息を殺し、気配も殺し。雑踏に紛れ、自分という個を限りなく希釈させる。

 心臓の音は、周りの人に聞こえてしまうんじゃ? と本人が愚考してしまうほど強く強く、しかしゆっくりと脈打っている。暑さからではない汗に髪は張り付き、ゴクリとつばを飲み込んだ音もやけに大きく――。

 

 

 ……これ以上ないほど、初春は緊張していた。

 

 

 見つかってはならない。断じて、見つかってはいけない。

 

 それでも、そうとは分かっていても――初春はそこから覗きこまずにはいられなかった。

 

 それ(・・)が、もし見間違いならば、笑って謝るか、自分自身を笑えば良い。今やっていることは無駄な努力と、笑い話になってもいい。

 しかし、それ(・・)がもし――偽らざる、真実であったなら……。なにを持ってしても、伝えなければ。苦楽を共にし、分かち合った『仲間達』に。

 

 

 ゆっくりと、顔を半分。大通りに出す。道行く学生が訝しげな眼で見てくるが無視だ無視。

 

 

 視界の先には、大して大きくもない――……一軒のお花屋さん。それはいい。それだけなら初春のホームグラウンドだ。なにも緊張する必要も隠れる必要も無い。

 

 

「っ!?」

 

 

 だが、初春は。

 彼女は、しっかりとその片目で、見てしまった。

 

 

 バイトなのだろうか、そのお花屋さんで働く高校生ほどの少女と。

 

 

 

 

 

 ――その少女とおそろいのエプロンをつけて、それはそれは仲むつまじそうに仕事をする、常盤台執事……御坂 深音を。

 

 

 

 

 

 少女は、失礼ではあるが……美人とも、可愛いとも言われるような少女ではない。クセのある肩にかかるくらいの茶髪を無理矢理二つに結って、そばかすの目立つ顔を、お化粧で隠そうともしていない。

 スタイルも、初春とどっこいどっこ――失礼。これは訂正しよう。……女性らしい、とは余り言えない。

 

 

 ……よく言えば、純朴。悪く言ってしまえば、垢抜けない。そんな少女だ。

 

 

 

 

 しかし。しかしである。

 

 

 ――頬をかすかに染めて、はにかみながら楽しそうに、深音と時折言葉を交わしながら仕事をする少女は……そんな評価を盛大に覆すほど、初春には綺麗に見えた。

 深音も深音で、気を許している優しげな笑顔を浮かべているし――。

 

 

 

(こっここ、これは、やっぱり、まさかのもしかして、ってやつなんですか……!?)

 

 

 

 ……なにやってるんだろうあの子、という道行く学生達の視線は以下略である。

 すでに、初春が『こう』なってから、早三日。若干、ああ、今日もね、という視線があったがこれも以下略である。

 

 

(えっ!? まってまさか、深音さん――……ドゥッフェッ!?)

 

 

 ――そのへんな声は、呼吸すら押し留めていたため外に出ることはなく、頭の中で響き渡る。

 

 重たい鉢を持ち上げようとしてバランスを崩したその少女を、深音が後ろから覆うようにして、支えたのだ。

 当然その少女の背中は深音の胸と合わさるわけで。

 その頭一つ以上は、余裕である身長差から見上げ見下ろしの関係になるわけで……。

 

 

 

 それは、最早、確信を抱かせるには、十分たる光景であった。

 

 

「…………」 

 

 

 それをしっかりと見届け、初春はゆっくり、出していた頭半分を路地裏へ戻す。

 そして、彼の異常に鋭い気配察知の網から逃れるべく距離をとり――深呼吸。携帯を取り、番号を押――そうとして、考え直す。

 

 

 それは別に、罪悪感が――とか。見守るべきでは? などという、善意的かつ良心的な意見から――ではない。

 

 

 

 

 

 ――初春 飾利にとって、御坂 深音とはどんな存在か。

 

 それを初めて明確に、そして真剣に考えたのは二日前。はじめて、深音があの花屋にいるところを偶然目撃した後だろう。

 

 

 公的にはレベル4。今では多重能力者だが、学園都市から支給される給付金は初春や佐天とは桁違いのものであるだろうし、また常盤台という屈指のお嬢様たちの執事としても働いているのだから、相当な金額が貯金されているはずだ。

 故に、お金目的でのバイト、とは考えにくい。では何か? という疑問が浮かび上がったところで……あの少女だ。

 

 何を話しているのかは聞き取れない。が、大層仲良さそうに会話しているのは見れば分かる。

 

 ……それを見て、モヤッとした何かを感じた。

 

 

 一日目は、モヤッとして。二日目は、チクリとして。

 そして、三日目の今日。あの光景だ。

 

 

 ……初春は佐天ほど、深音に対して明確な恋心を抱いているわけではない。確かに、格好良いとも思うし頼りにもなると思っている。そばにいると、女の子同士で集るよりもずっと落ち着けると確信もしている。

 

 一番親しい男性は? と聞かれれば、父親を忘れて『深音さん』と答えるだろうと断言できる。

 

 しかして、その感情は恋心か。と聞かれたら、多分に悩んで、『否、かもしれない』と答えるだろう。

 

 

 

 ――携帯を片手に、路地裏でうんうん唸る女子中学生。なんとも違和感しかないが、初春は真剣に悩んでいるのだ。

 自分の胸中に秘するべきか。それとも。という、本当に本気で、葛藤しているのだ。

 

 好きだと断言できる。しかし、それが異性としてのものなのか、友人としてのものなのか。その明確な判断がついていない自分が、仲良さそうな二人を邪魔していいものか。

 

 

 

 悩む。悩む。悩みに悩んで、十分弱。

 

 路地裏の、あまり良いとは言えない空気で深呼吸する。

 

 ひとしきり、自分達を何かに例えて、深音もそれに対する存在に例えた。

 深音は、太陽だったり、大木だったり。いろいろ変わったが、ぶれない部分があったのだ。

 

 

 故に、初春は決心する。

 携帯を開き、見慣れた番号をコール。

 

『はいはーい、どうした初春ー? っとと、今日はパンツはいてぇるかぁー?』

「佐天さん」

 

 

 冗談はいつもどおり。いつもなら顔を真っ赤にして否定するなり抗議するなりしているのだが――残念ながら、今の初春は、そんなことにかまう余裕は、ない。

 

 

 

「――いえ、『バトラー』さん。『フラワーガール』です。メンバーの緊急招集をお願いします……!」

 

 

 ……最早、なにも、語るまい。

 

 

 

 

***

 

 

 ―――――――――――――――

 

 

 クエスト名:執事の生態を観察せよ! Ⅱ

 

 クエスト内容:

   常盤台寮に勤める執事、

   御坂 深音の私生活を観察・報告する。

   なお、対象に観察されていることを気付かれてはならない。

 

   また、対象に恋愛対象が出現している可能性大!

   真偽を見極めた後、どうするかは各自判断に任せる!

 

 

 

 クエスト報酬:ゲコ太のヌイグルミ 特になし

 

 

  ―――――――――――――――

 

 

 

「……話を、聞かせてもらえる?」

 

 かつてのファミリーレストラン。そこでかつてのように、向かい合う五人。違う点を上げるとしたら、席が四人席から六人席へ。メンバーが四人から五人へ増えていることだろう。

 

 

 そして、話の真剣度も雲泥の差、全くの別モノだ。 

 

 

 チラシの裏にて作成された、通称『チラ裏クエスト』。誰かが以前のを記念にとっていたのだろう。新しく書き足されたり、訂正されたりしたそれは、電撃姫の一睨みで刹那の間で塵と消えた。

 

 

 しかし、その行為に、誰一人驚くこともなく、言い咎めることもしない。

 ――若干黒子が頬を引きつらせていたが、その程度だ。

 

 

 

 今回の発起人かつ依頼主である、フラワーガールこと初春。

 ソワソワと落ち着きがなく、どこか浮ついているバトラーこと佐天。

 腕を組んでその豊かな女性の象徴を強調しているが、険しい顔でそんな気を圧殺するミルクさんこと固法。

 唯一そんな一同に頬を引きつらせ、ビクつく店員に謝罪しつつ苦笑しているホワブラこと黒子。

 

 そして、誰よりも、何よりも。苛立ちを隠しきれていない、学園都市最強の一角。リトルレディこと、御坂 美琴。

 

 

 今ここにいない、唯一の白一点。ディープサウンドこと御坂 深音を入れれば、勢ぞろいとなっていたことだろう。 

 

 

「えと、その、まず皆さん。冷静になりませんこと? この席だけ凄まじい異空間のような感じになってしまっていますの」

 

 

 まずはなによりもクールダウン。そう考えた、現在唯一の常識人、白井 黒子の言葉は、絶対全員の耳に聞こえているはずである。しかし、誰一人そのあらぶる気配を隠すことなく、かすかに残る黒いチラ裏クエストの残滓を睨んでいた。

 

 

「それで、初春さん。貴女のことだから、たちの悪い冗談ってことも、佐天さんみたいに何かの早とちり、ってことも、多分無いと思うんだけど。そろそろ話を聞かせてもらえるかしら?」

 

 

 年長である固法の言葉は、丁寧のそのものであるはずなのに固い。そして

冷たい。あれ、若干バカにされてるよねアタシ、と佐天が物申そうとしたが、止めておく。

 メガネが光を反射していて眼が見えないのだ。それがなぜか、異常に怖い。

 

 

「――では、まず皆さん。話を聞く前に、確認したいことが二つあります。まず今日までに、今日から数日間の間に深音さんにお呼び出しをされている方は、いませんよね?」

 

 

 ついに説明が――と思った矢先。そんなどこか意味不明のことを聞いてくる初春。一瞬あっけに取られた一同だが、初春がマジな顔をしているため気を取り直す。

 

 しかし当然、全員が否。

 初春もそれを想定済みだったのか、特にリアクションもなく頷く。

 

「それでは二つ目。これから、私たちは深音さんに、ある意味とっても酷いことをします。裏切るような行為です。それが、出来ますか?」

 

 

 三人。固法と、初春。美琴の顔は変わらない。肩をビクンと震わせてうつむいた佐天と、うっわすっげえワタクシ場違いですの、と渋面を隠そうともしない黒子。

 

 黒子は予定通りと見て、初春は隣の佐天を横目で見る。

 

「――い、いや。でもさ、初春の勘違いってことも、その、ゼロじゃないんじゃないの?  そ、そうだよ! そのお花屋さんのバイトの人が怪我して、人手が足りなくてたまたま深音さんが手伝ってたとか!」

 

 

 これが正解だ。といわんばかりの佐天だが、初春は首を横に振る。その程度のこと、初春が調べていないわけがない。

 

「あのお店のバイトさんは、その方だけです。調べましたから。それに、たまに力仕事があるかないかって感じですので、人手不足の線もありません。というよりも、その、お花屋さんはあまり関係ないかもしれないんです」

 

 

 いよいよ、話が見えてこない。

 その花屋のバイト、という女の子が、深音の恋愛対象という人物ではないのか? と、事前に伝えられていた情報から推測していたのに、その前提から崩れるかも知れないのだ。

 

 

「もう少し、調べたんですが」

 

 

 しかし、それも。初春のプレゼンテーションなのだと思い知る。

 

 

「そのお花屋さんで、深音さんが大きな花束を予約注文していることが判明しました。それを聞いてそのバイトさんは大喜びしていたらしいので、可能性はゼロじゃないですが」

 

 

 ――花束。それも大きな。女の子……それも、乙女回路の強い子であればまず喜ばれるだろう贈り物だ。

 初春の言葉にピクリと反応したのは三人。当然除外は、紅茶を楽しむことに専念し出した黒子である。

 

 

「そして、その花束を受け取る日が、今日なんです。でも、ここにいる皆さんは、だれも深音さんに連絡をもらっていない……ってことはですよ……?」

 

 

 その花束を、渡す相手はここにはいない。深音のことだから、突然連絡をして渡しつけるなんてことはまずしないだろう。事前に連絡を入れているはずであると、言外に確認を取り合う。

 

 

「なるほど――その花束を渡す相手、って言うのが――その、深音の恋愛対象ってわけね」

 

 美琴の重々しい言葉に、初春は神妙に頷く。固法もそういうこと……とつぶやいてメガネのブリッジを押し上げた。佐天は不安そうな面持ちで生唾を飲み込み、初春の言葉を待つ。

 

 

「――正直、悩みました。いえ、今でも悩んでます。人の恋路を、一番嫌なやり方で見張って、もしかしたら邪魔しようって考えてるわけですから――でも」

 

 

 

 

 

            嫌じゃ、無いですか? 深音さんを取られるの。

 

 

 

 

 

 その言葉に関してだけは。満場一致であったとここに記そう。

 

 誰よりも深音と付き合いが長いのは、自分達なのだ。何処の誰とも分からない女の子に、はいどうぞ。とその場所を譲るつもりはないし、早々簡単に譲ろうとは思わない。

 

 特に佐天は強く頷き、賛同している。

 

 

 

「……ミッション開始は、本日一六○○。二時間後が、その花束の受け取り時間です」

 

 

 では、健闘を……。

 そういって差し出された、四つのインカム。初春は既につけているため、五人全員が、それを装着した。

 

 

 

 ――学園都市史上、もっとも思春期らしい作戦の火蓋が、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

《 おまけ 》

 

 

 

 

「店長、知ってます?」

 

「うん? 何をだい?」

 

「学園都市のどこかに、とんでもないお客が頻繁にやってくるファミレスがあるらしいんですよ」

 

「へ、へぇ。そんなところがあるんだ。し、しらなかったなぁ」

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

「あそこに、接客に行きたくないです店長……ッ!」

 

「お願い頑張ってフロアチーフ……お給料上げるから……!」




読了ありがとうございました。

 ――どうしてこうなったんだろう?


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