とある科学の超兵執事 【凍結】   作:陽紅

78 / 85
20-4を打刻。オープニングも含めてしまえば当小説で最長を記録――。


おかしいな……魔術編は何処に行っちゃったんだろ……。



2014/1/30
 
 一部内容が分かりにくい、とのご指摘を受け加筆いたしました。


御坂と呼ばれて、最近やっと自分のことなんだと思えてきました   20-4

 

 

 

 

 チチチチチ……と、小鳥の囀り。

 

 ――BGMは、それに尽きる。

 

 

 休日の大都市の喧騒いまだ目を覚ましていないのか、朝日を浴びながら、今も静かに眠り続けている。

 

 ……もっとも、あと一時間も経たないうちに騒がしくなるだろうが、いまは少しだけの、眠りについていた。

 

 

 

「……んにゃ……」

 

 

 そして、それに倣っているかどうかはさておいて。

 

 ここにも眠る子が一人。

 

 

 いい夢でも見ているのだろう。時折頬を緩めて幸せそうに笑うその顔に、負の感情は欠片もなく……起床を促す側も、大変躊躇すること間違いない。

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

 

 ――さらに、『それ』に倣っているかは、さておいて――。

 そんな少女(義妹)を起こすことの出来ない、少年(義兄)がいた。

 

 注釈として、二人の間に……物理的な距離はない。

 お互いが、お互いの体温を薄い布二枚越しに感じることが出来た。意識をしなくても、トクントクンという、その少女にして可愛らしい鼓動が聞こえることだろう。

 

 幸せそうに顔を掠りつける様など、子猫子犬の可愛らしさに匹敵するどころか超越すらしてしまうのではないかと思われるほどだ。

 

 

 故に、彼は起こすことが出来なかった。かすかに香る、少女の甘い香りも。肌に触れる、自らより少し高いその体温も。

 

 その腕に抱くことは、躊躇っていた。

 ――しかし、少女を起こして、身を放すという選択肢は取らなかった――いや、取れなかった。

 

 

 ――朝、都市が目覚めるよりもずっと早く活動を始めているのだから、少し朝寝坊をしている都市に対して、既に目覚めているのは当然である。いつもの普段着(執事服)ではなく、黒いワイシャツの袖をまくり、青いジーンズの室内着だ。

 その上に、朝食の支度でもしていたのだろう。男性用とは思えないほど可愛らしいアップリケの施された男物のエプロンを着用している。

 

 

 ――自身に回された手が、またやんわりと力を増す。

 まるで、『もう離さない』と。まるで、『私のだ』と独占を宣言するように。

 

 

 

 ……回りくどい言い方をつらつら並べてしまったが、率直完結に表現しよう。

 

 

 

 美琴が抱きついているのだ。義兄である、深音に。

 

 

 ―― 一連の流れとしては、朝食を作っていた深音が美琴を起こそうとして近づいて、美琴が寝ぼけて彼を引き寄せて抱き枕にして再就寝。

 

 

 

 

 

 

 さて……画面越しの、皆様方。

 

 ……羨ましい、変わってほしいと思われた方は率直に、率直に。手を上げていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、はっ……み、こっ――!?」

 

 

 

 

 

 

 ……そして、現在進行形で。

 

 美琴にチョークスリーパーを技掛けされている深音を、どうか、見てやっていただきたい。

 

 

 腕に抱けるわけが無い。襲撃者は背面から襲い掛かっているのだ。人間の構造上不可能だろう。片腕は空をもがき、もう片手は必死に優しくタップしている。

 

 

 鼓動が早い? 当然である。命の危機なのだから。

 呼吸がやや荒い? 当然である。以下略なのだから。

 

 

 最初こそ、その一瞬こそドキリとしたものの。首を見事に絞められ、更には腹部を足で締め付けられている。ただでさえ呼吸が厳しいのに、腹部を圧迫されてさらに呼吸が阻まれるという二重苦。

 

 

 意識してやっているのではないか? と青くなってきた顔で必死に考えるが、命を奪いにきている彼女は幸せそうな寝顔のままだ。

 

 ついでに言えば深音ではなく、もしも一般の方であったなら――とうの昔に意識を失うか、あるいは、二度と朝食にありつけなくなっていたことは確実なのであしからず。

 

 

 

「……ふへへ♪……」

 

「     」

 

 

 

 ……さらに、ギュッと。

 

 

 

 ――どうか、どうか。

 それでも乱暴に、手荒に美琴を起こすという文字通りのライフカードを取らなかった彼に、敬礼をしてやってください。

 

 

 

 そしてそれは……美琴が『げこたまんじゅう』とつぶやいて、噛み切れないなにかに食らい着いて――起床・悲鳴・着弾の3連コンボが決まる、五分前である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――生きてるって、すばらしいですよね?」

「だだだからごめんってば!!」

 

 

 

 

 

 美琴の着弾がいい具合に入ったおかげか、なんとか一命を取り留めた深音。若干声がかすれているが、それだけで長時間酸欠による後遺症は無いらしい。一安心である。

 美琴と向かい合うように席について、コーヒーの香りを心のそこから、かみ締めるように楽しんでいた。

 

 

 対する美琴は、顔を真っ赤にして、いま二枚目のトーストにバターをこれでもかと塗りこんでいる。

 

 

 寝ぼけてはいたが、自分から深音に長時間抱きついて(美琴視点)、その上で首元に甘噛み(美琴視点)なんていう……乙女として一番やってはいけない――否、やるべきタイミングを間違えてはいけな――

 

 

(やるべきタイミングってなによ!? やっちゃいけないことであってるっつーの!!)

 

 

 ――バターを大量に塗りつけて、そのままがぶりとトーストに食らい着く美琴。自分のそうした行動に深音が優しげな苦笑を浮かべていて、更に顔を赤くする。ちらりと見える首元に、やや小ぶりの歯型が見えるのもいただけない。

 これではマーキン「してねぇっつーの!!」

 

 

 

「美琴さん?」

 

 

 

 ……。

 

 ちなみに、都合よく地の文にツッコミが入っていると思われるだろうが、タイミングよく美琴が自身の分析で思ってしまっていることである。

 

 ――つまり否定しつつも、心のどこかで少なからずそう、思っているのだろう。

 否定する美琴と、ささやきかける美琴。

 現在、小さくデフォルメされた二人の美琴が大論争の真っ最中である。……どちらが天使か悪魔かはさておいて。

 

 

 

 ちなみに、今現在の美琴の格好はオレンジ色のTシャツといつもの短パン。いつぞや、深音にパジャマにでもと無理に購入させたあのTシャツである。

 

 男の――それもかなり大きめのサイズということもあるのだろう。短パンが完全に隠れてしまい、一見してTシャツ一枚だけに思えるという、大変大胆な格好だ。

 

 

 ……深音はともかく、美琴もそれに気付いていなかったが。

 

 

 

「――まあ、いろいろ忘れるとして。今日はどうしますか? 美琴さん。 ……学校もお休みですし、『一日家でのんびり過ごす』というのも悪くないと思いますが……」

 

 

 例の視線のことは口にしない。過敏になっているだろうと判断した深音の、さりげない気遣いだ。

 美琴は当然それに気付き、少しの間逡巡する。昨日までずっと張り詰めていた緊張感が一気に緩んだこともあり、僅かな気だるさや疲れが残っている。

 外出する予定も無ければ、ほしいもの、というのも別段無い。

 

 

 家族と一緒に、ただダラダラと休日を浪費する――なんて、一体何年ぶりだろう? そんな休日も悪くないはずだ、とそこまで考えて……。

 

 

 

「……ううん、買いたいものとかもあるし。とりあえず一旦寮に帰るわ。寮監にも詳しい説明するー、って言っちゃったしさ」

 

 

その『弱気な選択肢』を、ふざけるなとばかりに笑顔で握りつぶした。

 

 

「では、私もご一緒します。……分かりやすい嘘なら、つかないでください。逆に正直に言ったほうが効果的なときもありますよ?」

 

 

 

 ――もっとも、正直に言われていても着いていきましたけど。

 

 

 ……深音が苦笑を浮かべつつ最後のコーヒーを飲み干すのと、美琴が嬉しいという感情を必死に隠しながら最後の一口を頬張るのは、同時だった。

 

 

 お互いに立ち上がり、着替えと僅かな支度を整える。

 やはり女の子のほうが準備に時間がかかっているが、そこは割愛していただこう。

 

 

 

 

「うっし。……んじゃあ、このくだらない『かくれんぼ』、さっさと終わらせるわよ!」

「かしこまりました。それでは、作戦開始(ミッションスタート)です」

 

 

 

 

「……ところで、寮監さんにはなんと説明するんですか?」

「っ!」

 

 

 アスリートも各や、とばかりに駆け出した美琴。脱兎という言葉が浮かんだのは、間違いない。

 

 

「美琴さん!? まさか私に丸投げですか!? あの、待って、待ってください!」

 

 

 

 

***

 

 

 

「深音さんから作戦開始のコードが入りました。――御坂さん、やっぱり自分でも解決しようと動くみたいです」

 

「……まあ、お姉様らしさが戻った、ということですの。さて、現場は深音さんにお任せして――ワタクシ達は今までに入手した情報をまとめましょうか」

 

 

 僅かに目の下にクマが見える黒子を筆頭に、すこし眠たげな初春とまだ寝ぼけている佐天が続く。

 

 

「まず、常盤台の裏サイト――MK、いえ、もう婚后 光子でいいですわね。被害者の代理で書き込んでいた様ですけれど……その被害者からの情報提供。それ以外の数件の書き込みから、『誰かが見てる』の被害者全員に共通点が……」

 

 

 一枚の用紙に書きこまれた、十数名の名前。全員が学生であり、かつ女子である。しかし、それ以上に注目すべき共通点が、その全員が美琴と同じ『電撃使い』の能力者であるということだ。

 

 レベルは1から4まで節操無く、美琴の名前を入れればコンプリートできるほど。

 

 ――そんなくだらない考えをその辺においておき、三人はその事実に思考をめぐらせる。

 

 電撃使い。それも、こうも見事に女の子に限定されている謎。もしかしたら男子も要るかもしれないが、昨日の深音の様子を見る限りそれも無いだろう。

 

 

 

「……低レベルの電撃使いの男子のねたみ、とか?」

 

「ストーカーの類なら、男性に被害がないという点は納得できますけど……同じ低レベルの女の子も被害にあってますよ?」

 

「だよねぁ……それにあちこち起きてて範囲も広すぎだし。――あ、この前の事件にあったアレじゃないですか!? ほら、能力が使えなくなっちゃう、っていうやつ。あれの電撃使いの女の子に限定――って、無いか」

 

 

 佐天は自分で言い出した言葉を途中で終わらせる。

 

 

 キャパシティダウン――という名称こそ知らないが、レベル5の美琴からレベル1の初春まで、能力発現者を例外なく苦しめた装置である。

 ――であるが、限定的過ぎる。その上能力が使えなくなっているわけではない。ただ不快な視線を感じるだけ。

 

 作ったとして、そして使ったとして、利益も何も生まれないと自己完結した。

 

 

「本当に、電撃使いの女の子を狙ったストーカー、なんてことがあり得るんですかね?」

 

「……それが一番分かりやすいけど、それが一番あり得てほしくないよ初春」

 

 

 何も無い天井を見上げ、なにを想像したのか頬をヒクつかせる佐天に、初春も苦笑して同意する。

 ではなんだろうか? と再び唸り出すも、納得できる『もしかして』は一向に浮上してこない。一覧の名前にほかに共通点がないか、紙面と睨めっ子し、新しい書き込みが無いか画面を見つめている。

 

 

 

(深音さんの感知から逃れられる学生――がそもそもいるとは考えられませんの)

 

 

 

 一人腕を組み、眼を閉じて思考の海にダイブしていた黒子は、何よりもまずそれが気になっいてた。数百メートル離れたビルの屋上からでさえ感づかれたのだ。それも気を張っていない状態で。

 その彼が、最大警戒をしても感知することが適わなかった。……この二人は軽く見ているが、それはとんでもないことではないのか? と黒子は考えている。

 

 

(――極論とすれば学生では無い……だとしたら?)

 

 

 学園都市で、八割を占める学生。それが容疑者からはずされれば、残りは二割。それでも約46万人の容疑者だ。

 

 まったく途方も無い数字である。しかし事実として、最近起きた大きな二つの事件。そのどちらも首謀者は能力者ではなく、研究者側の人間だった。

 

 

 

「……まさか!?」

 

「なにか思いついたんですか? 白井さん」

 

 

 

 『研究者』という単語が黒子の思考の真ん中に嵌る。

 端末を慌てて操作し、キーワードを何度も差し替えながら――。

 

 

 

「……っ! 初春! お姉様たちの位置は!?」

 

「はい!? え、えと――第七学区の川沿いにある路地裏ですけど――ほら、佐天さんがよく通り抜けに使う……」

 

「あー、あそこね。……あれ? でもあそこ、今工事中で通れないはずだよ? 一本道でぐるっとUターンして元の場所に」

 

 

 一本道。

 

 逃げ場はなく、追い掛け、追い詰めるには最適な条件。美琴が『勝負』に出ようとしているのだとすぐさま理解した。

 

 

「初春はその路地近辺の監視を! 佐天さん! その路地まで道案内をしてくださいな!」

 

「うぇ!? ちょっ、待っ――」 

 

 

 何を言う前に、何を問う前に。初春はただ呆然と、掻き消えた二人を見送った。

 

 とりあえず言われたとおりにしよう、と初春はいつもどおり早々と監視カメラたちの制限を掌握し――美琴たちの後に二人、その路地裏への侵入を確認した。

 

 

「……? 白井さん、聞こえますか? 今、御坂たちのあとに二人が路地に入っていったんですけど――」

 

『っ! 了解ですの!』

『待って待って待ってぇぇええええ!? そこは右――へ、落ちっ、落ちてますってこれ絶対!!??』

 

 

 通信機越しに悲鳴が聞こえている。涙目も想像できた。しっかりとナビしているらしい。

 しかし、頑張ってと祈るほか無い初春にはどうすることも出来なかった。

 

 

 そして、それを見透かしたように、端末がメールの着信を伝える。それは、今現在通信をつないでいる黒子からであり――情報量の多さに、眼を見開いた。

 

 

「あ、あのー、白井さん。なんか送られてきたんですけど――結構なメガバイトが」

『それが犯人に繋がるかもしれませんの!! 内容の確認を!!』

 

 

(……ナビのほうが、楽だったかなぁ……)

 

 開いてみれば、画面右のスクロールバーの長いこと、そしてアイコンの短いこと。しかもびっしりと文字列が並んでおり……。

 

 

 

(助けてください、佐天さん……!)

 

 

 

 

 そう、請わずにはいられなかった。

 

 

 

 

《 おまけ 》

 

 

 

「~♪ ♪~~♪」

 

「ふふ。ご機嫌ねぇ美偉。まあ、この時間からのお風呂っていうのも中々気持ちいいわねぇ」

 

「でしょ? 私のオススメのリフレッシュ方法なんだから!」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

「ねぇ。そろそろ上がらない? 逆上せそう……」

 

「まだよ。原作だって出番はここであったんだからここで待ってれば、私にだって……!」

 

 ムサシノ牛乳 ver.ビンの出番は、まだ少し、遠いらしい……。

 

 




読了ありがとうございました。

 誤字脱字、ご指摘などございましたらお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。