うちの父はLBX開発者です   作:東雲兎

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《注意》サブタイトルは今回の本編の内容には関係ありません。


『はじめてのおつかい』in ミソラ商店街

 仙道という男は真っ直ぐに好意を向けれるのになれていない。不良の頭をしているだけあって義理堅い一面もあるため対応しない等言うことはありえず、しかし素直に返せるわけでもなく、結果、こじれて捻くれた対応になる。

 

「とどのつまり、仙道、ツンデレイイ奴。OK?」

 

「OK」

 

「お、おう、そうか……ミカもノリがいいな」

 

「あいつ帰っててよかったな。聞いてたら憤死しただろ」

 

「郷田先輩、そんな難しい言葉知ってるんスか」

 

「郷田でいい、というかカァズゥヤァ? そりゃどういう意味だァ?」

 

「ぐぇぇっ! ご、ごめんって首絞まるぅ!」

 

 あんまりな俺の言いようにノリノリのミカと少し引いたカズ。

 そして先ほど帰った新たな戦友(ライバル)に同情する郷田は驚きのあまりつい失言してきたカズにヘッドロックを仕掛けながら、目の前の強化ダンボールパノラマで行われているバトルに意識を戻した。

 

「援護するよ! 二人とも突っこみな!」

 

「任せたぜリコ! テツオ、追い詰めろ!」

 

「オッス! 任せるでごわす!」

 

 

 片やリコ、テツオ、ギンジの郷田三人衆の面々。抜群のコンビネーションでたった一機のLBXへと迫る。

 

 

「――――――!」

 

 

 相手となる黒い騎士をモチーフとしたLBX『ジ・エンペラー』

 扱うのは物語の中で山野バンの大きな障害となったライバル『海道ジン』その人である。

 

 ―――いや、少し早くない? しかも何で四天王三人とバトルしてるの?―――

 

 などと思考が速度と熱を帯び、何巡かしそうだ。最近そういうの多い、多くない? 気のせいじゃない? 気のせいか。

 

 郷田に倣い、秒殺の皇帝さんのLBXをみる。どうやら海道ジンはカズ達を助けてくれたそうで、この世界での無双系ゲームことLBX無双の再現みたく大暴れしたそうなのだ。

 LBX無双は今、最新作が開発中で、自分のLBXをスキャンしバーチャル化させて遊べるようになるという風のうわさを耳にしたが真偽のほどはしらない。オタクロスでも関わらなければ無理だろうが、なんともロマンのある話である。確かにロマンがあるとも。

 

 

「しかし、強いな。あの海道ジンってやつは」

 

「え? 防戦一方にみえるけど」

 

 

 郷田の呟きにどういうことかと質問するカズ。ふむ、なるほど確かに。郷田に言われてから気づいたが、これはほぼ一方的だ。

 

 

「見てみろカズ。彼はあの状態で一回も攻撃を受けていない」

 

「え、あ。確かに躱しきってるな」

 

「…しかも攻撃してない、三人も頑張っているけど」

 

「ああ。相手が悪い」

 

 

 ミカの呟きに郷田の冷徹とも取れる言葉で返した。直後に『ジ・エンペラー』は動き出し、近くへと誘導されていた三人のLBXが、瞬きの刹那に大槌でパノラマの大地に叩き伏せられた、いやはや凄いね、まったく。

 

「確かに凄いとも」

 

「な、一瞬で……」

 

「秒殺の皇帝、その名は伊達じゃないらしい」

 

 

 チックショー!と三者三様に悔しがる郷田三人衆には目もくれず、ジンはこちらに目を向ける。相手は俺のようだ。

 

 

「……バトルを」

 

「了解した」

 

「おいコラ。待て、バン」

 

 

 最低限の言葉でバトルが決まる。望むところだと前に出ようとする俺を首根っこを掴んで引き止められる。のどが絞まり、ぐえっと呻き声をあげる俺。そのまま体勢を崩し、尻もちをついた。

 

 

「お前LBXは限界のところで、さっき仙道とのバトルで更に酷使したんだ。模型店の店長さんにオーバ-ホールを頼むべきじゃぁねえのか?」

 

「う、しかし。折角バトルを申し込まれたのだ。受けないわけには……」

 

 

 ほら海道ジンも目を丸くしてるじゃないか。だからバトルさせて…

 

 

「バカか! 不調の状態でやったとして、たがいにとって気持ちのいいバトルができるわきゃねえだろ! ちったあ断ることをしやがれってんだ!」

 

「ま、前向きに検討しようと思う」

 

 

 まるで失態を犯した政治家の弁明のごとき返し。咄嗟に出たことながら信用ならない。言いくるめすらできずに郷田による説教が開始された。

 

 

「悪いな海道。バンの奴、バトルできそうもない」

 

「―――気にする必要はない」

 

「……私たちだけで良ければバトルしよう」

 

 

 カズからぶっきらぼうに顔をそむける海道ジン。物語でもこんな人だったかな?と疑問を持つが、あれが女であったのに比べれば気にするほどでもなかろうてと、ミカがバトルを申し込むのを最後に意識を目の前の郷田に戻す。

 

 しばらく正座の体勢でオカンの如き説教に耐え忍んでいると、店の外より駆け込んでくる人影があった。

 

 

「無事か君たち!」

 

「宇崎さん!」

 

 

 息を切らせる彼は見慣れてはいないが知り合いではある。レックスの話だと俺が一人勝手に侵入したエンジェルスターの一件の後始末というか、帳尻合わせ、もしくは辻褄合わせをしてくれていたらしい。がどうやら今回の襲撃を察知し、慌てて戻ってきてくれたようだ。

 

 

「宇崎さん。ご無事で」

 

「こちらは問題ない! だが君たちは直接狙われただろう! 怪我はないか!?」

 

 余裕なさげな姿は心の底からこちらの面子を心配した事の表れであり、いつもは冷徹に徹しようとしてしきれない彼本来の優しさが如実に表れていた。

 

 

「幸いにも、こちらの被害はLBXの破損関連です。郷田と協力者一名の尽力もあり、アキレスは片腕の破損で済みました。しかし代わりに郷田のハカイオーが完全に破壊されてしまいました」

 

「……そうか、郷田君、よくやってくれた」

 

「いえ、戦友(ダチ)のためっすから。気にせんでください」

 

「それでもだ。大局の為に自分の大切なLBXを犠牲にしてくれた。その事実は百や二百の感謝の言葉では足りないだろう」

 

 真摯に頭を下げる宇崎さんを前に郷田は照れくさそうにほほを掻く。ラッキーだ、説教から解放されるわ、もろたで工藤!

 

「いや、工藤って誰だよ」

 

「ん? どうしたバン君……む?」

 

 宇崎さんの目に留まったのは先ほどまでカズとミカを相手にしていたジンだ。どうやら説教している間にふたりをケチョンケチョンにしていたらしい。まだバトル初めて5分経ってないのでは?そのふたりがそんな短時間でやられるとかありえるのか? ありえたんだよなぁ……

 

 

「君は……」

 

「海道ジン」

 

 

 宇崎さんへ短く名前だけ答え、ジンは視線を俺たちに向ける。

 

 

「ではバトルは次の機会に」

 

「……わかった。ならばアングラビシダスでどうだ? もうすぐ開催らしいからな」

 

「いいだろう」

 

 

 俺は手を差し出し、握手を求める。が華麗にスルーし、海道ジンは店から退出した。その態度、凍土もしくは寒地高原(ツンドラ)が如く。

 

 すこししょんぼりとなりながらその背中を見送り、さっきから殺気立っている宇崎さんを窘めた。

 

 

「宇崎さん止まって、捕まえないでください」

 

「そういう訳にいくか! 君はあの子どもが誰か分かって言っているのか!」

 

 

 今にも店を飛び出しそうな宇崎さんは怒りを燃やしながらも、こちらに耳を傾けてくれている。そこら辺の自制心はきっとイノべーター相手に今まで散々辛酸をなめさせられたから、そして子ども相手にそんな手を使いたくはないという彼の善性なのだろう。これはただの想像にすぎないけれど。きっとそうだとオレは信じたい。

 

 だから俺は彼が止まる理由を見せなければならない。

 

 

「ええ、仲間を守ってくれた人です」 

 

「海道義光の息子だとしてもか?」

 

「当然。今はまだ敵ではないのですから」

 

「何か企てを持って接触したとしてもか!?」

 

 

 吐き出すように、唸るように、後悔とともに吐き出された言葉は、海道義光によって失ったものを思い浮かべているからか、それともこんなことしか出来ない自分を責めているからか。彼の内面を正確に推し量るにはまだ関りが少ないため想像するしかない。があながち間違いではないとも思った。

 

 

「そん時は俺達全員でその企てとやらをぶち壊しゃあいい、だろ? 宇崎さんよ」

 

「郷田君……」

 

 

 郷田は宇崎さんの肩を軽く叩いた。たとえ目上の人だとしても落ち込んでいるならば喝を入れぬ理由はないと彼は快活に笑った。

 アンタだけの責任じゃない。みんなで背負ってみんなで解決しよう。

 凄く単純にしてとても難解な方法を深く考えることなく提示した。

 そこにはリーダーとしての気質、一種のカリスマとも呼べる引力があった。だから郷田三人衆を含め、いろんな人が魅かれるのだろう。

 

 

「そうだよ、アタシらは助けてもらったっていう色眼鏡をかけてたとしても、あいつはバトルを楽しんでたのはわかるさね!」

 

「なら、悪い奴じゃあないでごわすよ。LBXが好きなのは間違いないんでごわすから」

 

 

 リコと二人も郷田に感化されるつつも、自分の思いの丈を伝える。バトルをして自分たちだけではなく海道ジンもまた楽しんでいたと感じていたからだ。

 

 

「だから、宇崎さんばかりが思いつめる必要はないんです」

 

「バンがそれ言うんだ……」

「……ね。どの口、だよね」

 

 

 なんかヒソヒソと話されてるが気にしない。俺は強い子。この程度じゃめげないし、しょげない……しょげたりなんかしない。

 

 

「ど、どうしたいきなり落ち込んだりして」

 

「いえ、なんでも、なんでもないんです。ホント」

 

「そ、そうか」

 

 

 なんか変な空気になったというか、ミカズコンビからの視線が痛い。

 

 

「そう言えば、バン。アングラビシダスに出んのか?」

 

「あ、ああ! そのつもりだ」

 

 

 郷田からの救いの手とばかりに話題変更になんとかしがみつく。あのままだと明らかに針の筵だったろうからな、俺は詳しいんだ。

 

 

「アングラビシダスだと? ルール無用の闇大会じゃないか! 何故そんな危険を……」

 

「はい。その優勝賞品が欲しいと考えましたので」

 

「確か、今回は世界大会《アルテミス》への出場権と聞いたが」

 

 

 そう、今回必要なのはアルテミスに出る事。陽動として最高の舞台である。ついでに副産物として『メタナスGX』をゲットしておくのだ。つまり端的に言うと。

 

 

「そうです。世界一獲ってきます」

 

『『はぁ!?』』

 

 

 その場の全員が愕然とする。あ、こういう驚かれるの結構気持ちいいね。

 




???「あ、おかえりジン!」

海堂ジン「ああ、ただいま」

???「ブロッコリーやキャベツとか買えた?」

海堂ジン「問題ない」

???「そっか、なら、おつかい大成功だね! 凄いな、はじめてなのに」

海堂ジン「当然だ」

???「………ん? あれ、ジン。これキャベツじゃなくてレタスだよ? しかもこっちはブロッコリーじゃなくてカリフラワー……」

海堂ジン「!?」


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