宇崎の車で揺られながら、どうしたものかとバンは思案する。
この後起こりえる海道邸潜入、その顛末を未来知識として覚えていたが故だ。
潜入したところで、バンの父親こと、山野博士は自力で脱出出来たと宣う事だろう。そしてそれは事実であり、今ここにいる山野バンのいない世界では、逆に山野博士にメンバーが助けられていた。
「(あの人、手助けいらないんだよなぁ……さすが親父殿、父ートと揶揄されるだけはあるよホント)」
「おい! もっと詰めろデブ!」
「むりだってぇ! これ以上やるとおせんべいになっちゃうよ!」
「……というか、バンの隣譲って」
呆れつつも、しょうがない人だと苦笑が溢れた。今世の肉親である彼には親愛を抱いている。が、それはそれとして愚痴の一つは言ってやりたいもんであると、少し思いを馳せた。
逆に山野博士からの愚痴も沢山あるだろうから、食事しながら聞いてあげるのもいいかもしれない。と取らぬ狸の皮算用の様な想定もしてみたり。
「(もう少し才能がないか、もしくは悪に傾倒できたらまだ精神衛生は良かったのだろうかな。世界とれるもんな、あの人。もし悪側だったら誰も勝てねぇよ)」
「……そもそも後部座席に4人乗るのはキャパオーバーだと思う」
「大人数の移動のためにファミリーカーとか買ったほうがいいか? 金出せ宇崎」
「我々もカツカツだ。我慢してくれ」
だが今はそれよりも先に考えることがあると、思考を切った。
なにせ今の最重要事項は手のひらにある損傷した『アキレス・リュカリオン』についてだ。最低限、戦闘に耐えられる程度の補修をしたアキレスだが、本当に最低限で、戦闘だって周りのメンバーに守ってもらうことを前提にしたものだ。
パーツの交換をして応急処置をするにしても、コアスケルトンに蓄積されたダメージまでは、ちゃんとした修理を行わなくてはならない。
「とりあえず腰を据えて修理しないとか」
「あー、アキレスぼろぼろだもんな」
「ああ、準備してた予備の『ウォーリアー』はあるけど、直すのは早いことに越したことないからな」
ポツリとこぼした言葉を、隣に座っていたリュウが拾う。俺の手元にある『アキレス・リュカリオン』を覗きながら、辛そうに顔を顰める。そういうところにリュウの優しさが垣間見えた。LBXに対して感情移入出来るほどに感受性は豊かなのだと再認識して、バンはそういうところを高く買っていた。
「漢気あふれる姿……いい……」
「いや、なんで俺まで連れられてるんだ(漢気?)」
「仙道さんもLBX壊れてるんですよね? なら一緒に直してもらいましょーよ(漢気?)」
「漢気……? いや、破壊の美学的なニュアンスで、言わんとせんとする事は分からんでもないが。ところでレックス、これからの行き先はそういう修理道具を貸してもらえるか?」
「問題ない。行き先はむしろそれに適していると言っても過言ではないだろう」
「そう、君のLBXの損耗具合から安全に修理できる場を提供しようとこうして誘ったわけだしな」
レックスの言葉を継ぐように、宇崎はルームミラー越しにバンの手元に視線を向けた。正確には本来の筋書きよりもかなり損耗の激しいアキレスにだ。
おそらく中のプラチナカプセルについて心配をしてるのだろう。とバンは推察し、とりあえずモロだしよりかはマシかと懐に仕舞い込んだ。
Vモードが使えても、現状ではその挙動そのものに厳しいものがある。
使っても問題ない奥の手もあるにはあるが、あれは身体への負担が高い。いかんせん、あれはただの技術ではなくバンだけにしか使えない裏ワザのようなものだとバンは認識出来ていた。(正確にはとある事件に関わっていた神谷コウとの情報共有あってのものだが)故あり、あまり使いたくはない。使いすぎて同調を高める鍵となるものを知られても困るためだ。
と話している間にトキオシアデパートが見えてきて、なんともスムーズに駐車場へと侵入する様子に、バンはふと、コレ、トキオシアデパート側は知ってるのだろうかとか余計なことを考えてしまう。
そんな無駄な思考を今までなかった浮遊感に遮断される。周りを見れば、いつのまにか車ごとエレベーターのような状態で下へと降りていくのを周りの皆は驚いた様子で忙しなく見渡していた。
「ようこそ、シーカー本部へ」
そうやって迎え入れられたのはいかにも秘密基地といった様子の白を基調とした空間。
「ば、バンさん!?」
「え?」
そこで、見覚えのない少し年上といったくらいの少女が出迎えてきた。
こちらの顔を見た彼女はまるで知り合いに会ったかのような安堵の表情で、駆け寄ってくる。
「よかったです バンさんもご無事だったんですね……皆とはぐれて、ルシファー……LBXユニットもなくて……」
震えた声で涙ぐむ彼女、ダムが決壊するように、とめどなく涙があふれて、目の前で崩れ落ちる女の子を相手にバンは動揺を隠せない。
見覚えのない彼女、そして背後からの圧にたじろぐほかない。端的に言うとミカからの圧である。滅茶苦茶怖いので振り返れないバンは、事情を知っているであろう宇崎に話しかけることで振り向かなくていいようにする。
「宇崎さん、この人は……」
「……彼女はシーカーで保護した身元不明の少女だ。死神部隊と共に行動していたLBXに襲われていたところを保護してな。まさかバンくんの知り合いだったとは」
「お、おちつけってミカ……」
「わたし、おちついてる」
「嘘つけっ、お前らの周りはこんなんばっかか……!」
泣き崩れた彼女をあやしつつ、どうにか話を聞ける状態まで落ち着くのを待つバン。おーよしよしと背中をさすって、慰めようとする。
そんな彼の顔を見上げた少女は、何かおかしいと気が付く。
「バンさん、なにか小さくなりました……?」
「だれがチビか」
「いきなりどうしたあいつ」
「実はバンって、アミちゃんより身長低いの気にしてるから……」
バンはこれまでのストレスとある事件のせいで成長が少し遅れている(と彼は思っている)ので、ほんのちょっと気にしていることを初対面の女の子に言われたので思わず反射的に返してしまう。いろいろとあったのだが、それでもプライドくらいはあるのだ。最近知り合う奴らがみんな背が高くて、毎回見上げているのを気にしてるわけではない。決して。
「い、いや、そうではなく。なんというか幼いというか……眼鏡もしてませんし」
「眼鏡?」
かけるにしてもLBXの整備の時くらいで、人前でメガネは殆どしたことがなかったはずだと、首を傾げる。
なんというか話がかみ合わない。言いようもない気持ち悪さを何を目的とした会話かもわからず、困惑を重ねる。
らちが明かないとバンは相手を傷付けてしまうかもしれない覚悟をもって切り込む。
「すまない、俺は君のことを知らないんだ。なぜ君が俺を知っているのか。教えてもらってもいいだろうか」
「そ、そんな……ま、まさか……」
バンより打ち明けられた真実。それはきっと、彼女には残酷なものだ。瞳を揺らし、声を震わせて、少女は絞り出すようにつづけた。
「まさか、また体の若返りからの記憶喪失!?」
「絶対違う! というかまたってなんだ!?」
前にもあったのかそんなとんちき!? というバンの叫び声がシーカー本部に響いた。
その大声に宇崎さんに顔を顰められて、レックスにうるさいと叱られたバンは理不尽に対していじけた。
ぶへぇ……そんな声が聞こえてきた。イノベーターの施設から逃げ出して、下水道に潜ったのだが、流石に臭う。そんな感情を端的に表していた。
念のため用意していたマスクを着けているのでだいぶマシなのだろうが、とカズはその声の主を見やる。
予備で持ってきていたマスク(リコが用意したものなので柄がちょっと可愛らしい)をつけたカズより年上のボーイッシュといった様相の少女。
「ユイさんだったっけか。大丈夫かよ」
「も、問題ないカズヤ。この程度ぜんぜんヘッチャラだぜ……うぇっぷ」
「そんな吐きそうな顔で言っても説得力皆無だろ」
「仕方ねェんじゃないカ? だってさっきまでメシ食ってたんだロ? 直後にこの臭いはナ……」
必死で乙女の尊厳を守ろうとするユイという女の子。なお、既に胡坐をかいてカップうどんをかっ食らう姿を見せているので手遅れかもしれないが。
とりあえず早く抜けようとリコたちとの合流地点に急ぐ三人と保護対象一人。
「山野博士からの位置情報からして、俺たちに確保してもらいたがってたのはユイでいいのか?」
「恐らく、としか言えねぇナ。ただあれ以上は危険だったからよ。郷田君もハカイオーが壊れてるし、俺も片腕が別パーツだしナ」
「山野博士からのSOSじゃなかったわけか」
人を助けられたこと自体はうれしいし、カズもダメ元での今回だったが、それでも当初の目標からすると落胆は隠せなかった。
バンにドヤ顔してやる予定が崩れて、肩を落とすカズ。なので、んー? と首を傾げていた人物がいるのに気づけなかった。きっと、何もなければそのままスルーしていたことだろう。
「さっきから言ってる山野博士って、もしかしてバンさんのこと?」
「「「あ゛ぁ?」」」
「ひぇっ!?」
そう、そのまま何も考えずに横から爆弾をぶっこむことをしなければだが。
結果として年下の男子(顔怖な不良)三人に鋭い視線を向けられてビビり散らかす少女という構図が誕生するのだった。
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