島に入ってまずしたことは私が補整下着と呼ぶ能力の解除だ。
この能力は念を私の体の内側に向ける影響で傍から見るとオーラが垂れ流しの一般人に見えるし、その見た目通り纏すら出来なくなる。なので当然纏で体にとどめて纏ったオーラを練で練って広げる円という応用技も使用不可能。だからこそ解除したのだが、思えば試験中くらい普通に解除したまま挑めばよかったかもしれない……。日常になりすぎてて忘れてた。
今までは解除しなくても特に問題無かったけど、四次試験はサバイバル。当然私も狩られる者だ。そして狩るために狙ってくる相手がピエロや鋲男といった実力者であることは十分に考えられる。
私の修行用の念能力補整下着は修行の成果もあって瞬時に解除し纏に移行することは可能だけど、解除直後から念を使うための最適状態まで戻るまでタイムラグがあるんだよな。体へかかる制約の負担を抜きにしても、その影響下で念能力者と戦うなどごめんだ。戦うなら全力を出せる状態で正面から捻りつぶしたい。
ともあれ、解除したことで体が軽くなった。まずは食料を確保しつつ適当に3人狩るか。
私の円の範囲は半径最大20m。直径40mもあれば、誰かしらはすぐに発見出来るだろう。
++++++++++
ゴンはターゲットであるヒソカからプレートを奪うために木の上で思案していたが、丁度その高い位置から近くの草むらで行われていた
交わされるギリギリの駆け引き。
それを見てプレートを奪うためのヒントを得たゴンであるが、帽子の男が去るまで気づかれてはならないと様子をそのまま窺っていた。が、帽子の男は手に入れたプレートを持ったまま無事にその場を離れることは出来なかった。
第三の狩る者が現れたのだ。
「!?」
それは一瞬だった。ふっとなにかの影が見えたと思ったら、帽子の男は頬を殴られ意識を刈り取られていたのだ。遠くから俯瞰的に見ていたゴンですら何が起きたのか分からなかったのだから、おそらく彼は自らを襲った出来事を把握できぬままに気を失った事だろう。
まさに弱肉強食の攻防が一瞬のうちに行われたのだ。
そして現れた第三者にゴンは見覚えがあった。
(エミリアさんだ!)
そう。帽子の男を殴り倒し、彼の持っていた2枚のプレートをなんの感慨も無さそうな顔で奪ったのは三次試験でともにトリックタワーを攻略したエミリア=フローレンだった。石の壁を自らの拳一つで破壊した彼女の筋力は記憶に新しいが、今のを見る限りスピードもかなりのもの。ゴンは目には自信があっただけに、その動きを直前まで捉えられなかったことに驚いていた。
ゴンは思わず身震いする。恐怖ではない。単純に「すごい」と称賛の念を抱いたのだ。
(ハンター試験って、やっぱり凄いや! ヒソカだけじゃない。俺が知らない強い人がたくさん居る!)
狩りとしては先ほどのものとは違い、何の駆け引きもなく力でねじ伏せた単純なものだ。しかしそれを成すための身体能力を手に入れるのに、彼女はどれだけ努力したのだろう。
ゴンは今まで知らなかった世界や人間を知るたびに好奇心がうずき歓喜を覚えた。
が、そのままエミリアが去るまで様子を窺おうと思ったら何やらエミリアの様子がおかしい。キョロキョロとあたりを見回し、何かを見つけるとぱっと顔を輝かせたのだ。すでに倒した相手は眼中にないようで、見つけたあるものに向かって喜々としてスキップで進んでいく。
思わずそのままエミリアの行動を目で追ってしまったゴンだが、彼女が発見した"あるもの"を口に含もうとした時点で隠れていることも忘れて大声で叫んでしまった。
「エミリアさーん! それ毒キノコだよー!」
+++++++
見つけた獲物からラッキーにも計二点分のプレートを奪った私は、同時進行していた食料集めを再開することにした。
植物の種類には特に詳しくないけど、まあ食べてみて舌がピリピリしなかったら大丈夫だろう。昔秘境に置き去りにされた時もその前に細目チビに色々されて無駄に毒耐性ついてたから、適当に何か食べて腹はくだしても死にはしなかったし。食べて平気な分はずれをひいても体に問題は無いから、味で判断できるため知識など必要ないのだ。
とりあえず今も見つけたキノコを安全か判断するため一口食べてみようと試みる。うん、これに似たの前に食べた事あるし多分大丈夫!
しかしキノコを口に含もうとした私に聞き覚えのある声で制止がかかった。
「エミリアさーん! それ毒キノコだよー!」
「これ、よく似た食用キノコがあるけど猛毒なんだよ。俺も昔間違って食べて寝込んじゃったんだー」
「そ、そう……なんだ。えと、ありがとう。わざわざ声かけてくれて」
「ううん、気にしないで! でも声かけておいてなんだけど、エミリアさんは俺からプレートとらなくていいの? さっきのプレートがターゲットじゃなくても、あと一枚集めれば合格だよね」
「いや、親切で声かけてくれた相手にそんなことしないよ」
少なくともゴンさんとその仲間には。
私はプレートを奪われる可能性があるのに、タワーで一緒に行動しただけの私に毒キノコの危険性を教えるために声をかけてくれたゴンさんの背後に後光を見た気がした。な、なんという圧倒的コミュ力と親切心……! 私には真似できない。でも出来るかどうかは別として見習おう。これが好かれる人間という奴か……。
なるほど、ゴレイヌさんが彼を認めるわけだ。
それにしても凄いな。ターゲットを発見してからは燃費節約のために円を使ってなかったけど……ゴンさんが近くに居た事全然気づかなかった。そういえばこの子、念を覚える前からピエロに気づかれないレベルの絶を身につけていたっけ。
ちなみにプレートだが、私はさっきの2枚を手に入れる前にすでに1枚入手しているのでこのまま行けば試験自体は合格である。どうやら私を狙う相手はスナイパーだったらしく遠くから狙撃されたのだが、弾丸を弾いてそのまま逆に狩りに行ったから簡単だった。
つまり何が肝心かというと、私は残りの期間「主人公組と結婚式に呼べるくらい仲良くなろう! 作戦」を実行できるということだ!
しかし私はゴンさんにお礼を言ったはいいが、その後どうしようかと考えあぐねていた。まさかこんなに早く接触できるとは思っても居なかったから、何も考えてなかったんだよね。
とりあえず食料を分けて好感度を稼ぐ案は却下。たった今毒のあるものを食べようとしてたの注意されたばっかりだしな……。動物の肉とかも怪しい。二次試験でメンチに「一番泥臭い魚を選んだ」と言われけど……実はあれ毒見はしてたんだよな。とにかく自然のものを食料として確保するのは自分で食べる分には良くても、人にあげることは自殺行為だと思った方がよさそうだ。
何が自殺って、その人との関係性を完全に殺すという意味で。……例えば下剤ジュースを渡してくるトンパと友達になれるかといったら無理だし、毒だと知らなかったと弁解しても信じてもらえないだろうから完全にその相手との人間関係は死ぬ。……後戻りできなくなる前に気づいてよかった。ゴンさんありがとう、本当にありがとう。
けどそうなると、どう仲良くなるきっかけを作っていいのか分からない。
しかしまさかの奇跡。私がどうやって会話を繋げようか目をキョロキョロさせながら悩んでいると、ゴンさん側から提案してくれたのだ!
「エミリアさん、よかったら毒の無い食べれる植物いくつか教えようか?」
神か。
その後ゴンさんに食用の植物についていくつか教わり、ほんの少しだけど雑談もした。その会話の中で「自分はプレートをもう集め終わったから、色々教えてくれたお礼に協力しようか?」と申し出たのだが、それについては断られた。なんでも自分の力を試したいんだと。
そういうわけでプレート集めの協力も出来ないので、私より遥かに真っ当なサバイバル能力があるゴンさんに何かしてあげられる事など無いと私は思い知った。つまり相手に利益を与える事で友好度を上げる作戦が成り立たなくなったのである。むしろ無理に協力したら好感度を下げる結果になるだろう。……どうしよう。
だけどこのまま別れるのも惜しくて、何か会話をしようと思った。そして出てきた言葉は、どうやったらクラピカの怒りが解けるだろうかという相談だった。利益を示すどころか相手にすがるとか、もう本当にどうしようもなくて泣けてくる。
だけどゴンさんは真摯だった。情けない私に真面目にアドバイスをくれたのだ。
「その人の事を知りたかったら、まずその人が何に対して怒りを感じるのか知れ。俺の育ての母親、ミトおばさんが教えてくれた俺の好きな言葉なんだ。エミリアさんはクラピカが何に対して怒ったか分かる?」
「……自分が真剣に向き合っている問題を冗談で茶化されたと思ったから」
「それが分かってるなら大丈夫! エミリアさんはクラピカの大事な部分が何かを知ったよね。冗談なら謝ればいいし、本当の事なら冗談に聞こえないようにもう一度話して誤解を解けばいい。クラピカは本当は凄く冷静で頭もいいから、きっと真剣に向き合えば聞いてくれると思う」
「そ、そうかな」
「うん! 怖がらないで、まず話してみるといいよ」
「そっか……そっか。ええと、その……あ、ありがとう」
好感度を上げるどころか、逆にゴンさんに対しての好感度がうなぎ登りの私である。え、何この子天使? コミュ障な憐れなボッチに天が遣わしてくれたエンジェル?
感動した私は、その感動を原動力にダメもとで恐る恐る賭けに出た。
「あの、突然なんだけど……。よければ私と、友達になってくれる?」
言ってからいくらなんでも突然過ぎたかと後悔して思わずぎゅっと目を瞑るが、そんな私にまさかの福音がもたらされる。
「友達? いいよ! へへっ、女の人の友達って初めてだから嬉しいな。故郷にノウコって子がいたけど、年が離れてたから友達って感じじゃなかったし」
「え、いいの? 本当に?」
「? うん!」
「あ、ああああああああああありがとう……!」
「あははっ、変なのー。別にお礼を言われるような事じゃないのに」
いや、私にとっては十分感謝に値することだよ! え、もしかして、もしかして私生まれて初めて友達出来た!? 夢じゃないよね!? や、やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
【受験番号56番 エミリア=フローレン。現在プレート6点分保有。結婚式(予定)参列者(予定)友人枠、一名確保】
副題:主人公、生まれて初めての友達を得るの巻