ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla10,年長者に問う婚活用ハンター資格

 試験開始から7日目。四次試験終了のアナウンスに合わせて、私とキルアさんはスタート地点へと戻った。

 

 

 

 いやぁ、本当に今回はキルアさんにお世話になったな。眼鏡という相棒を失った私にとってどれだけ心強かったか。

 それにしても引きこもっていた時には特に必要性を感じなかったけど、今後このようなことが起きないように眼鏡に関しては予備を持つ以外にも何か対策を講じる必要があるかもしれない。でもコンタクトは嫌だな……目に何か異物を入れるとか正気の沙汰じゃない。

 チッ、これも細目チビのせいだ。以前奴に眼鏡を割られた時破片が目に入ったことがあったからな……。超痛かった。体の怪我と違って失明するかもしれないって恐怖感が凄かったから余計に痛く感じたわ。それ以来コンタクトとか挑戦しようって気概も湧かない。しかも細目チビ、多少悪いと思ったのか破片を取り除いてくれたはいいがその作業がもの凄く痛かった。今思えばあの野郎が私に対して少しでも気遣うことなど無さそうなので、その取り除く作業で私が苦しむのを見るのが目的だったかもしれない。……あれ以来眼鏡が割れても無事で済むように眼球への凝や硬も凄く練習したけど、そういえば視力そのものに関しては何も対処を考えていなかったな。

 

 まあ、視力に関してはとりあえず試験が終わるまで保留か。

 

 

 スタート地点へは他にも試験を通過した受験生が島の森からぽつぽつと戻ってきたが、思っていたより多くない。10人いるかいないかくらいだろうか。

 そして私はその中にピエロのオーラを見つけると、奴に向かって真っすぐに疾走すると拳を振るった。が、視力低下の影響と奴の素早さもあってさっと避けられる。

 

「おっと♠ 危ないなぁ♦」

「眼鏡返せやクソ野郎」

「おや、必要かい? 結局僕の所に来なかったから、いらないのかと思ったよ♥」

「ウルっセェな見つからなかったんだよ!!」

「ああ、そういうこと♦ じゃあ、はいどうぞ♥」

 

 ピエロはそう言うとあっさり私の眼鏡を懐から取り出して差し出すが、私が奪おうとするとそれをさっと上にあげた。しかもこの野郎、私がジャンプして奪おうとしたら避けながら眼鏡をひょいひょい左右に動かしやがる。おい返す気ないだろテメェ!!

 

「返せ!」

「う~ん、どうしよっかな♠ 僕は折られたアバラの代わりにこれをもらったわけだし、返すんなら君から何か対価が欲しいな♦」

「よし分かった拳ならいくらでもくれてやる」

 

 これは喧嘩を売られてると解釈していいんだよな? そう思った私は対価とやらに殴打をくれてやろうとぐっと拳を握ったが、試験のスタッフに「移動しますので受験者同士のいさかいはお控えください!」と止められたので仕方が無く引き下がった。こんなことで失格にされても馬鹿らしいから本当に仕方が無くだが。クソッ、でも絶対取り返してやる! せいぜい移動中背後に気を付けるんだな!!

 

 

 

 

 しかしふと我に返って周りを見回すと、どことなく他の受験生から距離を置かれていた。ぼやけてよく見えなかったけど、なんか遠かった。

 ここまで一緒に来たはずのキルアさんもいつの間にか仲良し3人組と合流していた。何となく見捨てられた気分。

 

 

 

 

 ……これは距離を置かれたのはピエロであって私じゃないよな? 唯一「エミリアさん無事だったんだね! よかった。大丈夫だと思ったけど、ちょっと心配してたんだ」と駆け寄ってきて声をかけて来てくれたゴンさんはやはりエンジェルである。どことなく元気が無さそうな感じがしたけど、表面上元気に振る舞う相手に人の多い場で突っ込むのもちょっと気が引けた。だからとりあえず心配してくれたことに対してお礼を言うに留めたけれど、時間があれば後で話を聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 ちなみに四次試験だが、合格者は私を含めて9名。ゴンさん、キルアさん、クラピカ(せめて挨拶だけしようと思って近づいたら目をそらされて私の心がマインドクラッシュした)、レオリオ、ピエロ、私の本来のターゲットだったギタラクル、武道家っぽい初老の男性、忍者だ。

 あれ、もう一人居なかったっけ? と思ったけど、そういえば私が仕留めた帽子が漫画での合格者の一人だった気がする。なるほど結果的に私が奴の席を奪った形となったわけか。どうやら彼は残りの日数で6点分のプレートを集めるのは不可能だったらしい。

 まあ帽子の青年よ、来年頑張れ。

 

 私たちは四次試験後再び飛行船に乗せられ、次の会場へと向かった。どうやら次が最終試験のようだ。たしか逆トーナメントとかだったか。

 

 受験者同士の会話で武道家の男性(ボドロさんというらしい)が試験の傾向から考えて次は今まで無かったペーパーテストではないかと言った時は一瞬肝が冷えたが、すぐに試験内容を思い起こしてほっと胸をなでおろした。ペーパーテストとかやられたらまず間違いなく落ちるわ。いやでも、ゴレイヌさんの嫁を目指すならいずれ知識と教養は養うべきか。…………課題は多いな。

 でもゴレイヌさんと会うところまでこぎつけても、楽しい会話が出来なきゃこいつといてもつまらないとか思われてしまう! うう……試験が終わったら勉強しよう。何処から手を付けていいのか分からないけど。

 

 私がそんな事を考えて隅っこの方で頭を抱えていると、飛行船内にアナウンスが響いた。どうやら目的地に着く前にネテロ会長自ら各受験者の面談を行うらしく、受験番号順に呼ばれるようだ。

 面談か……。生まれてこの方かしこまった場所に行くことなんて無かったから緊張する。とりあえず緊張したままではまた変な事言うかもしれないし、ゴンさんの様子を見に行ったりクラピカ、レオリオと話しに行ったりピエロから眼鏡を取り返すのは後にしよう。全部面談が終わってからだ。

 

 私の受験番号は合格者の中でも若いので、呼ばれるのはピエロの次。56番と呼ばれたので応接室に向かったが、その途中で先に面談を済ませたピエロとすれ違った。足を引っかけてやろうとしたら避けられたムカツク。「君はじゃれ付いてくるのが好きだね♥ そんなに僕の事が気に入ったのかい? 君って少し好みからはズレるけど、僕っていつも片思いだからちょっと嬉しいな♠」じゃねーよ眼鏡返せよ。

 けどこいつにかまけて面談に遅れてもあれなので、歯をギリギリと噛みしめながらもなんとかそれ以上はスルーして私は応接室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、私はメンチの時に続いてネテロ会長に人生相談をしてもらっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初は緊張でつっかえながらも、普通に受け応えをしていた。何故ハンターになりたいのかという問いには「身分証明がほしいから」と答え、他の受験生の中で一番注目している相手は誰かという問いにはゴンさんと答えた。戦いたくない相手は一人に絞れず主人公組の4人の名前を挙げたけど、いずれの質問も私がいっぱいいっぱいなのを察してかネテロ会長は理由までは問うて来なかった。なかなか気遣いのできる爺さんである。

 しかし質問が終わり退出許可をもらった時。ふと思いついて、気づけばその質問が口をついて出ていた。

 

「あの!」

「ふむ、なんじゃ?」

「け、結婚に向くハンターの種類って何かありますか!」

「ほ?」

 

 言ってから我に返って何を聞いているんだと後悔したけど、ネテロ会長は思いがけず「どういった理由での質問かの?」と問い返してくれた。こ、心広いな。けどこれはチャンス! 折角だしこのまま聞いておこう。

 

「え、ええと……です、ね。わた、わたくし、プロハンターの人なんですが好きな人が、その、いまして……。私戸籍が無いので、その人に堂々と会うために身分証明がほしいんです、けど……。いずれ、け、結婚もしたいし……。それで、もし会えた時にどんなハンターとして活動してますって言ったら印象いいのかなと、参考までにお聞き出来たらいいな、って……はい……」

 

 この面談中一番の長文を喋ったかもしれない。内容が内容だから恥ずかしさもあって喉がカラカラだ。顔も多分今真っ赤じゃないだろうか。恥かしい……やっぱりこんなこと聞かなければよかった。

 しかし私の後悔をよそに、ネテロ会長は呵々大笑する。

 

「おお、そうかそうか! 若いとはいいのぉ! 愛のためにハンター試験……うむ、それもまた良し! しかし相手に良い印象のハンターとはまた難しい。その相手がどんなハンターをしているか分かるかの?」

「い、いえ。知りません」

「そうか。共通点を得たいなら、相手の事を知って同じハンターを目指すのも有りじゃろう。しかし分からぬのなら、まず自分の好きなことをしてみなさい。好きなことをやっている者はおのずと輝き魅力的に見えるものじゃ」

「好きな事、ですか……。でも私今まで引きこもって漫画とかアニメとかばかり好んでいたものですから、こう仕事にしたいほどの情熱を向けられるものが無くて……。漫画ハンターだのアニメハンターだのじゃ趣味の延長線で仕事って感じじゃないし……」

 

 私がもごもごとそう言うと、ネテロ会長がパンと膝を打つ。思わずビクッと背筋が伸びた。

 

「ほ? なんじゃなんじゃ、いい若いもんが引きこもっていたなどともったいない! 見たところ随分鍛えてるようじゃから、活躍できる場はいくらでもあるだろうに。"アレ"も使えるようだしの」

「あの、それで……。その活躍できる場で、相手に好印象を与えるハンター活動ってたとえばどんなですかね……?」

「う~む、そうじゃのぉ……」

 

 

 

 その後、秘書らしき豆のような人が「あの、会長。後が支えていますからそろそろ……」と言いに来るまで私の人生相談は続いた。スケジュール管理をするだろう秘書の人には申し訳なかったけど、私的にはかなり充実した時間だった。

 

 

 

 

 ハンター協会、会長も試験官も案外面倒見がよい人ばかりなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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