ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla11,拳で語る最終試験①

 最終試験前の面談でネテロ会長に相談を受けてもらうというラッキーを体験出来た私だったが、その後最終試験会場であるホテルに到着するまで3日もあったにも関わらずクラピカと話すことが出来なかった。

 

 いや、一応話した。話して君の大事な部分に気軽に踏み込むような真似をして悪かったみたいな謝罪はした。だが問題は会話がそこで終わってしまった事だ。

 クラピカはゴンさんが隣でフォローしてくれたこともあって「分かってくれたなら、それでいい。謝罪は受け入れよう」と言ってくれたけど、一度植え付けた不信感はそう簡単にぬぐえるものでは無いようでそれ以上の会話は望めなかった。いや私嘘はついてないんだけど、ここでまた情報云々蒸し返したらまた逆戻りになるかと思ったら旅団関係の話題とか出せないし……というか、名前や容姿以外に重要情報といえる念能力の内容とかまずクラピカたちが念を覚えてからじゃないと信じてくれないだろうし……。…………うん……あれだ……。

 

 

 

 話題が無い。

 

 

 

 え、仲良くなるための会話ってどうすればいいの? 自己紹介はもうトリックタワーで終わっちゃったし、あの時より好感度マイナスな今何を話題にして仲良くなればいいの。

 そんなこと考えてグルグルしてたら3日過ぎてた。おい……おい……。

 

 なんとかクラピカと話そうと近くをウロウロしつつ距離を測ってたら、憐れに思ったのかレオリオがちょっと話しかけてくれた。「結局あんたは何がしたいんだ?」と聞かれたから、もう建前とかは取っ払って「友達が欲しいから仲良くなりたい」と目的だけ告げた。そしたら「あんた友達少なそうだもんなぁ……。ちょいと言わせてもらうが、話すの得意じゃ無さそうだし妙な嘘や奇抜な話題で気を引くのはやめといた方がいいぜ」とアドバイスをもらってしまった。……本当になんていうか、私より年下なのにゴンさんといいレオリオといい人間出来てるな。最近自分の駄目なところが次々に浮き彫りになって落ち込んでいるだけに羨ましい。でもレオリオ、友達少なそうってまさに真実だけどいざ正面から言われると心が抉られるからやめてくれないか。意地で堪えたけどちょっと泣きそうになったんだが。

 

 ちなみにクラピカのこと以外にもう一つ気になっていた元気が無さそうだったゴンさんだが、ヒソカに情けをかけられて合格して自分の力不足が悔しかったのだと、ゼビル島でのエピソード込みで話してくれた。もう先に誰かに話して吹っ切れた後だったのか、その表情はすっきりしたものだった事に安心したけどちょっと悔しい。友達として出遅れた……いや、あの3人に比べたら友達歴浅いけど。

 

 

 

 あと、あれだ。最終試験前にピエロから眼鏡を取り返すためにクラピカの周囲とピエロの居場所を往復してたな3日間。

 

 クラピカの好感度を回復させたい私にとってその時間がもったいないったらなかった。あの野郎「僕に勝てたら返してあげるよ♥」とか言いながら仕掛けてきた勝負がババ抜きだのトランプタワー早組み立て勝負だの……! なに、お前強い奴と戦いたい奴じゃなかったっけ。肉弾戦の勝負じゃいかんのか。こちらとしては今度はアバラといわず全身くまなくへし折ってやる心づもりなんだが。

 けどピエロ的にはここだと待機してる試験官が邪魔で思い切り戦えないだろうし、せっかくここまで来たのにまた失格になって試験を受け直すのも面倒だから今は真っ向勝負はお預けなんだと。多分私の事を好みじゃないと言っていたから、奴にとって私と戦う事と試験を天秤にかけたら後者に傾いたのだろう。……好かれたいわけじゃないけど何か釈然としない。

 しかも野郎、鋲男が話しかけてきて「へえ、仲いいね。ヒソカって友達いたんだ」とか不名誉極まりない言葉を投げかけてきた時に「なんか懐かれちゃって♦ まいっちゃうよね♥」とかぬかしやがったふざけてんじゃねーぞカス。眼鏡さえ無ければ誰が貴様となんかババ抜きするか!! お前のせいで結婚式参列者として一縷の望みをかけるため、勇気を出してまだ話した事が無かった忍者と武道家に声かけたらあからさまに避けられたんだからな!! しかも廊下でばったり会ったメンチ試験官(どうやら今までの試験官数名飛行船に同乗していたらしい)にまで「あんた、趣味悪いわよ」と私が好きな相手がピエロだと誤解されかけるし……! 必死で否定した。あんな奴ゴレイヌさんの足元にも及ばんわ!! 魅力が違うんだよ魅力が!! 否定する中でゴレイヌさんがいかに素晴らしいか語ったら勢いが激しすぎたのかメンチに少し落ち着けと宥められた。凄く恥ずかしかった。…………ピエロのせいでいいことが無い。

 

 結局勝負はトランプタワーではそもそも最上階まで積むことが出来なかったので一回も勝てず、ババ抜きの方もなかなか勝てずに何度も何度も挑む事に。で、50回ほど勝負してやっと最後の方で勝つことが出来た。クソッ、凝を使って奴の念能力での不正は常に見張っていたというのに50戦中49敗1勝とかどういうことだよ!! 念は使ってなくても絶対イカサマしてただろ!!

 眼鏡を約束通り返したことは褒めてやるが、もう二度とお前とババ抜きはしない。そう宣言したが、ピエロが「残念♠」と言いながらも楽しそうに笑っているのが気にくわなかった。クソこの野郎人の貴重な時間を使わせておいて自分だけ楽しそうに……! 結局いいようにこいつの暇つぶしに使われたって事だムカつく。

 こっちは慣れないコミュニケーションを頑張ろうと必死なんだよ!! お前に構ってる暇とか無いんだからな!! 本当に腹立たしい。もしトーナメントでぶつかることがあったら覚えてろよ。

 

 

 

 

 

 

 ま、まあこんな感じで三日はあっという間だった。……あっという間だった。

 

 気疲れして全然休めなかったな……。ちょっと寝られたと思ったら妙な悪夢を見るし……。時々ゴンさんとちょっとした会話するのが唯一の癒しだった。あの子本当に優しい。飛行船内では時々コミュニケーションに悩む私を冷やかす以外ほぼ話しかけてこなかったキルアさんとは凄い違いだ。なんだよ、ゼビル島じゃゲームの話題とかでそこそこ盛り上がったこともあったのに、人目が増えた途端に私みたいなのと仲いいと思われたくないから話したくないってか? ……あれ、おかしい。ちょっと目頭が熱い。

 クッ、試験自体は順調なはずなのに、どんどんプレッシャーだけが増えるってどういうことだ。いや分かってる。今まで引きこもってた代償だってのは分かってる。でもそろそろちょっと休みたいなって……。いや、諦めるな!! まだ残り少し時間はあるんだ! ゴレイヌさんにふさわしい嫁になるためにこんなところで挫けてどうする!!

 

 私は折れそうになる心をゴレイヌさんを思い出すことで奮い立たせると、これから挑む最終試験に向けて、そしてその後の雑談タイムを狙って闘志を燃やした。

 

 まだ私のハンター試験はこれからだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 到着した最終試験会場はハンター協会が運営するホテルだった。そして到着後、時間をおかず試験の説明がされ最終試験開始となる。内容はやはりトーナメント形式で、勝てばトーナメントから外れ試験合格。つまり不合格者は最後に残った一名だけだ。

 

 そして組み合わせだが、1ブロックの初戦がゴンさんと忍者、その敗者と戦うのはキルアさんで、2戦目の敗者と戦うのが私。3戦目の敗者と戦うのが鋲男である。2ブロックは初戦がクラピカ対ピエロで、その敗者と戦う相手は武道家ボドロ、次にレオリオが戦って、最後に1ブロックと2ブロックの敗者同士が戦い最終的な不合格者が決定する。

 この組み合わせはハンターの資質評価が関係しているらしいのだが、位置的に私がキルアさんより一段階評価が下なのは四次試験で彼に助けられたことが関係しているのだろう。キルアさんがいなかったら私四次試験森で迷って終わってた可能性有るしな……。

 まあ、この組み合わせに対して特に不服は無い。キルアさんはゴンさんより資質が下ってことでちょっと不満そうな顔してたけど、私より上って事にはまんざらでもないのかこっちを見て「ふふん」みたいな顔してた。……世話にはなったしこの結果に不服は無いけど、やっぱコイツ生意気でちょっと腹立つ。

 

 

 

 そして組み合わせが決まり、いよいよ最終試験が始まった。

 

 

 

 一戦目はゴンさんが忍者にいたぶられる様を3時間延々と見せられるという酷いものだったが、決して折れない彼の意思の強さは危ういながらも尊敬に値する。結局相手の忍者が根負けし「まいった」と宣言したことにより第一試合はゴンさんの勝利。しかしゴンさんとしては納得出来ないものだったらしく、別の勝負の方法を考えようと提案してキレた忍者に殴られて気絶というなんとも快勝とはいいがたい結果になった。でも会場の空気を二転三転させる人を惹き付けずにはいられない魅力のようなものを見て、改めて彼に最もチャンスが多く与えられた理由が分かった気がした。本人的には不満かもしれないけどこれでハンター試験合格になったんだし、今後は立派なハンターになるため頑張ってほしい。

 

 二戦目は忍者対キルアさんだったが、なんと試合開始直後にキルアさんが負けを宣言。何故だと問う忍者に「あんたとも戦ってみたいけど、次に全力で戦いたい相手がいるんだよね。合格おめでとさん」と答えたキルアさんは私を見てニヤッと笑っていた。どうやら天空闘技場でのリベンジマッチがしたいようだな。

 ここで補整下着のハンデをつけて戦うのは、本気の私と戦いたいであろうキルアさんに対して不義理な事だろう。彼には四次試験での恩があるし、戦いたいなら私も天空闘技場の時のように無視せず正面から受けて立つつもりだ。そう思った私は自分の中で「念の負荷によるハンデは無し。しかし念は使わず素のパワーと技術で戦う」と己に対して条件を課した。つまり念という非能力者に対して反則のような力は使わずキルアさんと同じ条件で戦う事を決めたのだ。

 

 そして結果は私の勝ち。

 

 だが試合内容はなかなかのものだったんじゃなかろうか。

 私が天空闘技場の武道家達から見て学んだ技術を駆使し主に「受け」を意識して戦うのに対し、キルアさんは歩行技術によって分身しているように見える技をはじめとした癖のある暗殺者の技術を使った「攻め」の戦い。クソガキ共と戦う時は頭に血がのぼってついパワー任せの「攻め」対「攻め」になりがちだから、学んだ技術を活かせる戦いというのは思ったよりも楽しいものだった。

 受けるのを選んだのはひとえに彼が天空闘技場の時からどれだけ成長したのか見たかったからだが、以前も2年で随分実力を伸ばしていたけど今回は更に磨きがかかっていた。ひとつひとつの攻撃が鋭く、なかなか全部受けきるのは苦労だった。……これで念を覚えたらと思うと恐ろしいな。

 けど私が受けから攻撃に転じた事で、今度はキルアさんが攻撃を防ぐ番になりそこからは早かった。初めに長時間攻撃させて体力消耗させてたからな。顎を捉えて脳を揺らすように殴ってやったら起き上がれなくなったキルアさんは、回復して立ち上がった時には不服そうにしながらも「まいった」と宣言した。

 

「チックショー。また負けかよ……」

「いいの? これ以上粘らなくて」

「倒れてたところを追撃されずに見逃された時点で、もう完璧俺の負けじゃん。悔しいけど今のままじゃまだ勝てないってのは分かったし、これ以上はいいよ。でも次は勝つからな! 成長期の子供なめんなよ!」

「へえ、それは楽しみね。だったらまた天空闘技場に来るといい。今でも時々稼ぎに行ってるから運が良ければ戦えるかもしれないわよ」

「おう。つーか、そんな運任せより手っ取り早くホームコード教えろよ。戦いたくなったら連絡するから」

「え、あ、ホームコード!? わ、わかった」

 

 そうして私には難易度が高いホームコードをあっさり聞いてくるというコミュ力を見せつけたキルアさんは、何やら拳を突き出してきた。首をかしげると「……やっぱいいや、ハズいし」と言って彼は拳を引っ込めてしまったが、観客サイドの武道家ボドロが「互いの健闘を称えようと拳を合わせようとしていたのではないか?」と的確なアドバイスを投げかけてくれたので私はあわてて自分も拳を突き出した。すると「おせーよ」と言いながらもキルアさんは再度拳を突き出してくれたので、互いの拳を軽くぶつける。すると他の受験者や試験官数名からまばらながら拍手が贈られた。……な、なんか凄まじく恥ずかしい。でも悪い気はしないな。

 

 こうして第二試合は終わったのだが、その後思いがけず今まで話しかけてこなかった忍者ハンゾーと武道家ボドロに話しかけられた。いや、話しかけられたといっても「あんた強いじゃないか」とか「貴殿の戦いからは日々の研鑽が窺えた。私も負けずに見習いたいものだ」といった短い言葉だったけど……。今まで戦いって生きるためと金のためだったけど、こういう認められた感ってのも嬉しいもんだな。今まで承認欲求とか死んでた私だけど、ゴレイヌさんに認められる人間になりたいと思い始めた事でようやくそういった感覚も息を吹き返してきたのだろうか。

 

 なんというか、短かったけどハンター試験で結構価値観とか色々変わった気がする。これも全部ゴレイヌさんを思い出して彼のために一念発起した結果だと思うと、彼のお陰で私の人生はようやくまともに動き出したのではと思えてきた。

 

 ああ、ゴレイヌさん。ゴレイヌさん……! そんなあなたに早く会いたい。会いに行けるような人間になれるように、私やっぱり頑張ります! コミュ障だとか色々挫けそうになる問題はあるけど、あなたのためなら何だって出来る気がする! 愛するあなたのために、私エミリア=フローレンはまずハンター資格を手に入れました! 会って早く愛を告げたい。まだ切符を手に入れたにすぎない状態の私だけど、これからも頑張りますからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、色々あったけど私も287期ハンター試験無事合格。やったぜ。

 

 

【受験番号56番 エミリア=フローレン 第287期ハンター試験合格】

 

 

 

 


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