ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla14,身辺整理と旅立ちと

 私はハンター試験の疲れを癒すために一日まるまるホテルで休んだ後、現在の住居である一軒家に戻って来ていた。

 

 クソガキ共の襲撃があるたびに引っ越しを繰り返す私であるが、稼ぎ先である天空闘技場から遠すぎても面倒くさいので基本的に天空闘技場のある町を中心に円を書くように移動している。そして現在の住居は天空闘技場がすぐ近くに臨める場所にあるのだが、私は今日この住み家からも出ようと思っていた。しかし引っ越しではない。

 

 私エミリア=フローレンは、今日から身一つで自身を磨き直すと決めたのだ。

 

 ハンター試験では色々と自分の人間力、女子力の低さを思い知った。だからこそまず、今まで引きこもって来た巣を撤去することで背水の陣を敷くつもりである。いつでも引きこもれる場所があるとコミュ障で辛くなったらすぐに逃げ帰りそうだしな……。これを機にオタク趣味も未練を無くすためにライトなものからディープなものまで一度すべて無くすつもりだ。

 それにどうせこの拠点もクソガキ共に割れているのだ。身をくらますことも兼ねて一度住み家を無くすことは必要な事だと思っている。

 

 

 軽くなった身一つで女子力修業……! そしてそれが成功した暁にはゴレイヌさんの懐に飛び込むぞ!!

 

 

 そんなわけで今日は新たな一歩に向けての身辺整理。

 

 まず最初に行ったのは予てより憧れていた銀行口座を作る事。自宅の部屋にぎゅうぎゅうに詰めてある現金入りのジュラルミンケースは漫画だのフィギュアだのの次に場所とってるんだよな。家具は備え付けのものを使っているし生活用品も最低限だから、ここら辺を整理するだけで大分荷物がスッキリするだろう。

 で、さっそく銀行におもむきハンターライセンスを身分証明に口座を作りたいと申し出たら、別室に案内されて超VIP待遇された。自宅にあった金を運ぶのが面倒だから取りに来てくれないか、とお願いしたらわざわざ現金輸送車まで持ち出してくれたしな。自分で持ってこようとするなら私車の免許無いし車も持ってないし、どこかでコンテナでも借りてそこにぶち込んで担いでこようと考えていたから助かった。

 

 そして数字にされた私の全財産であるが、合計1056億2845万287ジェニー。

 

 ……思ったより貯まってた。まあ趣味でいくら金使おうがたかが知れてるし、こんなものか。つーか荒稼ぎしに行っておいてなんだが、天空闘技場はこれだけ私に払っても大丈夫なくらい儲けあるんか。いや、別にこちらとしてはお金貰えれば文句ないけどさ。

 

 銀行からの帰り際にハンターライセンス狙いっぽい輩に数回襲われたけど、適当にぶちのめして道路脇に積んでおいた。なるほど……。ちょっと見せただけでこれだけ釣れるとなるとライセンスを利用するのも面倒くさいな。多くの施設を無料で利用できるのは嬉しいけど、金が無いわけではないしよほどの事でもない限り普通にクレジットカードで支払おう。

 

 次に向かったのは世話になってる不動産屋。今まで代理を立て身分証明のない私の代わりの手続きをして住居を提供してくれていたのだが、今日で世話になるのも最後だろう。そう考えるとちょっと感慨深い。

 私が行くと黒服率の高い不動産屋の従業員たちが一斉に頭を下げた。そして低いだみ声が無駄にハーモニーを奏でる。

 

『フローレン様、ようこそおいでくださいました!!』

「おう、邪魔するぞ」

「今ボスを呼んできます!」

 

 こいつら相手は気を使わなくていいから楽だな。初めはたてついてきたが、ぶん殴ってから札束でビンタしてそのまま小遣いをくれてやって以来従順だ。そして黒服共に呼ばれて慌てて奥から出てきた銀の長髪という無駄に派手な外見の男は一応ここの頭で、名前はアルバンスという。実年齢は知らないが強面共のトップに立つにしては若く、30前後ほどの外見だ。

 奴はひょろっと細長い体をペコペコ折り曲げてずれた眼鏡を直しながら私に挨拶をした。

 

「これはこれはフローレン様、ようこそお越しくださいました。またお引越しでございますか?」

「いや、実は借りていた物件を引き払いたい。今まで世話になったわね」

「へ? そ、それはまたどうして……」

「実は今回ハンター試験に合格して身分証明を手に入れたから、お前のところを頼る必要が無くなったのよ」

「はんたー!?」

 

 私がライセンスを見せるとアルバンスをはじめとした黒服たちが一斉に縮み上がった。

 

「……で、しばらく旅に出るから色々荷物を整理したいの。何人か貸してくれる?」

「え、ええ。喜んで! あの、ご用件はそれだけで……?」

「うん。……あのさ、別にハンターになったからってお前らを捕まえようとか思ってるわけじゃ無いんだから、そう怯えるんじゃないわよ。あんた達が裏で何やってるか知らないけど」

「あ、ああそうでしたか! いやはや、失礼いたしました。申し訳ない。では人員でしたね? おうオメェ等! フローレン様をお手伝いして差し上げろぉ!!」

『ウッス!!』

「ありがとう」

 

 ついでだから今まで世話になった礼に銀行へ預けなかったジュラルミンケースをひとつ渡してやった。今後頼る事は無いかもしれないが、今まで数十回に及ぶ引っ越しを手配してもらったらな。これくらい褒美をくれてやってもいいだろう。

 アルバンスはケースを受け取り中身を確認すると「ありがたき幸せ!! 今後も何か御用がありましたら何なりとお申し付けください!」と90度に腰を折って頭を下げた。……うん、こうしたのは私だけどこいつも初期に比べて変わったな。一応アルバンスも念能力者で最初の頃は私を舐め腐って優男風の見た目からは考えられないオーラで威圧してきたが、完膚なきまでにボッコボコにして叩き潰してからは実に忠実だった。……まあそれはいいか。

 

 それから人員を借りられた事により荷物の整理は早かった。というかほとんどが漫画やフィギュアやDVDやグッズの梱包だな。「傷一つでもつけたら、分かるな?」と言ってやったらいつも以上に丁寧な梱包がされて満足。そして梱包した珠玉のコレクションであるが、私はこれらともすっぱり別れる覚悟をしていた。しかし少々悩むところでもある。

 ゴレイヌさんに相応しい女性になるためにディープなオタク趣味を捨てることに何ら未練は無い。……無いが、今まで集めた至宝を安易に売りさばくのにはどうも抵抗がある。たとえしかるべき場所でしかるべき値段がついたとしても、問題はそこではないのだ。

 

(やっぱり信頼できる相手に渡したいよな……)

 

 それも出来たら見知らぬ誰かではなく、私が知る確実に私のコレクションを大事に扱ってくれる人物。…………少々気にくわないが、思い当たる相手は一人しかいない。私と趣味を同じくし、性格は非常に悪いがフィギュアの扱いなどに関してはそこらのコレクターやマニアなんかよりよほど信用できる相手だ。

 私は図体のデカイ男たちが繊細な梱包作業を進める中、他の荷物をキャリーバッグ一つとボストンバッグ一つに納めてからパソコンを立ち上げた。そして久しぶりにログインしたネトゲで目的の相手を見つけるとしばしの雑談の後こう持ち掛ける。

 

 

『俺ヲタ卒業するからコレクション全部娶ってくれ』

 

 

 直後に「嘘乙」とレスが返って来た。嘘ちゃうわボケ。

 

 私はネトゲで唯一共闘プレイおよびチャットをする相手である巨乳ロリ顔美少女の「みるく」に本気で脱オタクをする旨を伝えると、改めて自分の所有するコレクションをもらってはくれないかとお願いした。奴は何故自分なのかと問うてきたが、ここは素直に「お前なら信用できる」と答える。

 そしてしばし時間をおいたものの、みるくは私のコレクション内容をリストでよこせとメールアドレスをよこしてきた。まあ捨てアドだろうが。

 私は細かいものは省き、とりあえず奴の興味を引きそうな希少品のラインナップだけ書き出すとそのアドレスに送信した。

 

『いいだろう。いくらだ? 言い値で買ってやる』

 

 間をおかず返って来たメールにしばし考える。が、私は金が欲しいわけでは無いので「金は要らない。大事に保存して丁重に扱ってくれることが譲渡するにあたっての条件だ。あとは俺も自分の魂ともいえる品を渡すわけだから、最後まで見届けたい。お前の住んでる近くまで行ってやるから受け渡しは直接。それで条件は全部だ」と返信した。

 その結果みるくの奴、なんとパドキア共和国に住んでいることが分かった。……嫌な予感がするのは気のせいだよな?

 ま、まあいい。それだったらゴンさん達と合流する予定の私としても都合がいいので、すぐに了承の旨を伝えた。受け渡し場所として明らかに普通じゃなさそうな……っていうか、なんか会員制っぽいレストランの個室を指定されてビビったが、まあいい。個室ならドレスコードとか気にしなくていいよな? 面倒くさいしパーカーとジーンズで行くぞ。文句を言われようが知らん。そんな場所を指定してくる奴が悪いんだ。

 

 

 そして住居を引き払った後の予定が決まった私は、身軽になった体でキャリーバッグを転がしボストンバッグを肩にかけ、ノートパソコンが入ったバッグを片手に一路パドキア共和国へと向かった。

 コレクションに関しては不動産屋から人員を借りて現地まで運ぶのを手伝ってもらったので非常に助かった。国を越えるから輸送業者に頼むのはどうも不安だったし……役目を終えた奴らには500万くらい小遣い渡してから帰すか。

 

 う~ん、それにしても一軒家の荷物がこんな小さな荷物に納まるとか不思議。色々捨てたりもしたけど、私には写真とか思い出の品とかそういった捨て辛いかさばる持ち物が無いからってのもあるのかな。

 でもいずれはゴレイヌさんとたくさん写真撮ってアルバム作ったりペアのシャツとかアクセサリーとか食器とか……! こ、子供が産まれたら育児日記とか!? ふふふ……! 夢は広がるな! 今は少ない荷物もいずれ収納に困るくらい増やしてみせる!

 そうそう、ゴレイヌさんに会う前に可愛い服やアクセサリーもそろえておかないと! 内面もそうだが、外見の女子力も上げねば。……今まで話しかけて来ても完無視してた服屋の店員に相談しながら今度選んでみるか。

 

 

 

 頑張ろう。色々と。

 

 

 

 そういえば余談であるが私がネトゲで使ってるキャラクター"ごんぞう"…………前世の記憶を思い出した今、改めてそのキャラメイクを見ると思わず手で顔を覆ってしまった。

 筋骨隆々の肉体に、タンクトップ、短パン。静謐な黒い瞳を納めたどこか幼さを残す顔立ち。極めつけに画面を突き破らん勢いで垂直に逆立った黒髪。

 

 …………………………。

 

 

 

 

 ________________GONさんだコレ!!

 

 

 

 

 

 どうやら私、絶対的な強者としてのキャラクターを作ろうと思い無意識のうちにGONさんに似たパーツを選択していたらしい。しかも頭髪に至っては自作だ。

 ………………。もし今後またネトゲをする機会があるとしたら、パーツ選びは気をつけよう。

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 ミルキ=ゾルディックは上機嫌だった。

 

 つい先日あるネットゲーム内で時々共闘していた相手が「オタクを卒業するから愛するコレクションを是非とも信用をおけるコレクターである貴方に引き取ってもらいたい」と持ち掛けてきたのだ。その人物が有するコレクションのいくつかはミルキですら持っていない希少品であり、彼はすぐにその申し出を受け入れた。

 ここしばらく弟に腹を刺されたり戻ってきた弟に拷問をしてもまったく堪えないため色々と鬱憤が溜まっていたが、たまにはいいこともあるものだとミルキはスナック菓子を齧りながらニヤリと笑う。

 

 品物を受け取る条件として直接手渡すことを要求されたが、それに関してミルキは何故わざわざこの自分が出向かなければならないのかと鼻で笑ってあっさりと約束を反故にした。相手は金は要らないなどと言っていたが、受け取る品に相応しい金額をくれてやれば文句もあるまい。むしろ犬のように媚びへつらうかもしれない。どうせ大した財産もない引きこもりだと、ミルキは今回の取引相手を非常に軽く見ていた。見下しているといってもいい。

 先ほど執事に金を持たせて送り出したところなので今頃レストランの個室で品物と金を交換していることだろう。渡したカメラで品物を確認するために受け取ったらまず連絡しろと執事に言い含めたミルキは、今か今かと連絡を待つ。

 

 そしてミルキのケータイが鳴った。

 

「遅ェ。おい、早く品物をカメラに映せ。あと今から俺が指示する細部の確認を……」

『みるくテメェざっけんなよ!!』

「ッ!?」

 

 不機嫌な態度でケータイに出たミルキであったが、彼の耳をつんざいた声は待っていた執事のものではなかった。向かわせた執事は男……しかし電話越しに聞こえる声は女のものだ。番号を確認するとその電話は執事からのものだったので、おそらく女が執事からケータイを奪ったのだろう。

 女の怒鳴り声に思わず電話を耳から離すミルキであったが、スピーカーモードにしていないにも関わらず女の声はよく響いた。

 

『お前直接渡すのが条件だって言ったよな! それに金はいらないとも言ったよな!! 両方破ってんじゃねーかテメェ執事よこすとかどういう了見だ舐めてんのかダボが! どこのボンボンだか知らねぇが見損なったぞ! コレクターの端くれなら欲しいものくれぇ自分の足で取りに来いよ! 頼んだのはこっちだけどキレるなって方が無理だわ! おい聞いてんのか!』

「お前ごんぞう?」

『そうだよ!』

「口悪ぃなお前。つーか女かよ」

『悪い!? お前こそ案の定男じゃねぇか! あざといロリ巨乳使ってるから男のキモオタだと思ってたよ!』

「あ!?」

『お? なんだ、違うってか!? あれだろ、あとお前デブだろ。電話越しだっつーに呼吸音でけぇなあおい!』

 

 ミルキは握っていたケータイを握りつぶしそうになりながら額に青筋を浮かべた。

 

(何だコイツムカツク!!)

 

 弟以外に自分にこんな生意気な口をきく存在は初めてだ。相手は自分がゾルディック家の人間だと知らないからこそだろうが、だからといって許せるものでは無い。

 

 その後数十分……ミルキと相手は互いに喉が枯れるまで罵りあった。お互いに我慢のきく性格でも引き下がる性格でも無いので罵り合いは平行線になると思われたが、このままではらちが明かないとミルキは頭の冷静な部分で思考する。

 もういっそ執事にこいつを殺させようか。そんな風にも考えたが、ふとこの生意気な女が自分の正体を知ってビビる様が見てみたいと思いつく。

 

 ミルキはいったん飲み物で喉を潤すと、相手に対して優位に立つため余裕のある声を心がけて告げた。

 

 

 

「じゃあ直接受け取ってやるから、俺の家まで来いよ。もとはお前が頼み込んできたんだぜ? それくらい当然だよなぁ」

『はあ? 本当にお前腹立つな! そんな態度ならもう貰ってもらわなくていいわよ』

「まあ、そう言うなって。俺の家凄いんだぜ? パドキアに来たなら記念に見てくのもいいだろ。観光バスも出てるしな」

『……観光バス?』

 

 女はある可能性に思い至ったのか、少々小さくなった声で問うてくる。ミルキはそれに対してサディスティックな表情を浮かべると続けた。

 

 

 

 

「俺の家、ククルーマウンテンにあるんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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