ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla17,淑女と豚~47万6000に挑む栄光へのロード

 パドキア共和国に着いてから色々あったが、とりあえず私は当初の目的である「みるくにコレクションを引き渡す」を達成することが出来た。名残惜しくはあるが、きっとみるく……ミルキに嫁いだコレクション達は大事にされるだろう。唯一お守り代わりの覇王少女リリカル☆ウオラのキャラTだけは譲る気は無く守り抜いたが、他の物に関しては管理に信用のおける人間に引き取られていったのを見届けられて満足である。

 

 が、目的を達成したにも関わらず私は未だゾルディック家の敷地内に居る。

 っつーか何故か本邸に居る。

 

 

 

 

 

 

 そして現在目の前に一匹の豚を這いつくばらせている。

 

 

 

 

 

 

「立てよデブ。まだ終わってねーぞ」

「……ッ、…………! お、ま゛え……あどで、おぼえでろよ……!」

 

 

 豚もといミルキは自身のかいた汗でちょっとした水たまりが出来ている中、コフーコフーという独特の荒い呼吸を繰り返しながらも私を睨みつけてきた。しかし豚の睨み程度屁でもない。私はお前を痩せさせる使命の代価に、素晴らしく価値のある経験を手に入れられるんだからな!

 

 そう、現在私はこの堕落しきった体型の豚を人間に戻す作業に取り掛かっているのである。

 

 私は足にオーラを溜めて強化蘇生(パワーリザレクション)の効果を纏わせてミルキの腹を蹴り上げた。それにより私のオーラを注ぎ込まれたミルキの体力は回復するが、別に蹴る必要は無いので蹴りは蹴りでダメージを受けた豚は胃液を吐いてうめく。まあこの方が気合も入るだろうし、一石二鳥って奴よ。

 ちなみにキルアさんに刺されたという傷に関しても、オーラを注ぎ半日ちょっとかけて治してやったので蹴っても殴っても問題ない。煮ようが焼こうが私の自由である。こんな硬そうな豚肉グリルだろうが煮込みだろうがごめんだけどな。

 

「おぶげぇぁッ!?」

「オラァ立てぇ!! まだテメェの腹に抱き着いてる脂肪(ハニー)と別れるには足りてねぇぞ!!」

「ま、待てよ! 少しくらい休憩……」

「は? 何ぬるい事言ってんのよ。いい? 身長182cmのお前の平均体重は73kg! 現在の体重141kgから減らすべき体重は68kg! そして1kg分の脂肪を燃焼させるために必要な消費カロリーは約7000㎉だ!! つまりお前は47万6000㎉の脂肪と戦う必要があるんだよ休んでんじゃねぇ!!」

 

 私は数字という生々しい現実を奴に突きつけると、ゾルディック家から貸し出された重りを両手両足背中につけた状態で這いつくばる豚の背中に座った。豚が「ぐえっ」と声を上げたが気にしない。

 私もただ監修してるだけじゃ暇だからな。自分の修業もかねてこれまた一石二鳥。補整下着の効果と合わせてなかなかいい感じの負荷である。

 

 ちなみにこの豚、本当の豚に失礼にならない程度の筋肉はあるので筋トレ自体は問題ない。……いや、やっぱ失礼だったわ。本物の豚って体脂肪率15%前後だったわ。……まあ今それはいいか。

 とりあえずミルキは急激に筋トレしたところですぐに自身の重みでぶっ壊れるような柔な体ではない。だから私も容赦する必要も慈悲を与える必要も感じずガンガン攻めたてられるのだ。……実はちょっと楽しくなってきている。

 

「ほら、腕立て。回数とか無いから限界までやれよ。あと手のひらは体の下じゃなくて左右に広げろ。インナーマッスルを限界まで苛め抜け」

「ぐっ、このっ」

「さっさとやれこの豚野郎! ケツ引っ叩くぞ!!」

「おぶっ!? も、もう叩いてんじゃねぇか! ふざけんなよブス!!」

「ああ!? っせーな喋る元気あるんだったら体動かせよブ男!! 言っとくけどこれまだ準備運動だからな! 終わったら次は組手だから覚悟しろよ!」

 

 互いを罵り合いながら筋トレと有酸素運動を繰り返す私たちだったが、ふいに聞き覚えのある声が部屋の入口から聞こえた。

 

「ちょ、お前何やってんの!?」

 

 そこに居たのはハンター試験以来久しぶりに見るキルアさん。上半身裸で体に傷が多いのは気になる所だが、ぱっと見は元気そうだ。

 そしてキルアさんを見るなりミルキは腕立て伏せをしながらも、精一杯の意地なのか可能な限りの音量を絞り出し怒鳴り声をあげる。

 

「おいキル! 何勝手に独房から出てきてんだよ!」

「拷問担当の兄貴が来ないからだろ。暇してたらじいちゃんが飯でも食ってこいって言うから……」

「またゼノじいちゃんはキルに甘い!! いいからお前独房に戻れよ! 今行くからたっぷり躾けて……」

「お前はまだノルマ終わってねぇだろ逃げんな!!」

「だから何だよこの状況!?」

 

 キルアさん渾身のつっこみでやっとヒートアップしていた私の脳が冷める。そしたら途端に別れ方が別れ方だっただけに気まずくなった。……殴り飛ばした上に突き放すような事言ったからな。

 それでも私はなんとか言葉を絞り出してキルアさんに話しかけてみる。

 

「えっと……。久しぶり。元気だった?」

「あー、うん。まあ元気だよ。………………じゃなくて! ゴンたちが来てるのは知ってたけど、なんであんたまで居るんだよ。しかもここ本邸だしブタ君の背中乗ってるし」

「? 何だよ、お前ら知り合いか?」

「兄貴ちょっと黙ってろ」

「ああ!?」

「だから黙ってろって! 俺は今こいつと話してんの! ……で、何でここに居るんだよ」

「いや、色々あってコイツ痩せさせるってキキョウ先輩と約束を……」

「…………は? キキョウ先輩? それってもしかしておふくろの事?」

「あ、うん。そうそう」

「え……何? ちょ、三行で説明頼む」

「三行!? え、ええと、私キキョウ先輩に淑女教育求む、キキョウ先輩快諾、代わりに豚の訓練」

「ゴメンやっぱ分からない詳しく」

 

 頭痛をこらえるように額を押さえたキルアさんに乞われて、私はどうしてこうなったのか昨日のことを思い出す。

 いや本当、どうしてこんな事になってんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初はミルキにコレクションを渡した後は、あわよくばキルアさんの状態を聞いてひとまずゴンさん達に合流するため山を下るつもりでいた。

 

 しかしどういうわけか「よければ本邸にてお食事をお召し上がりください。ゼノ様からのご招待です」とゴトー氏に言われ、「はあ? 嘘だろ! 何でじいちゃんが!」とわめくミルキ同様混乱しつつも流れるような執事のエスコートによって気づけば私は食事の席に座っていた。そして訳が分からぬまま出された食事をとりあえず食べ(ちょっとピリッとしたスパイスがきいていたけど美味しかった)食後の珈琲まで頂いたところでぼけっとしていた。案内された本邸や食堂が世界観違いすぎてちょっと地に足がつかない。なんだこの貴族みたいな家……。キルアさんマジもんの坊ちゃんだわ……。

 そして「食事の作法は間違っていなかっただろうか」と不安になり、マナーブックを慌てて読み返していた時だった。「あなたがミルのお客様?」と声をかけられて本に向けていた視線を上げれば、そこには貴婦人が居た。

 

 

 

 

 

 貴婦人が居た。

 

 

 

 

 

 色々ツッコミどころはある。サイクロプスチックなバイザーだとか顔面に巻かれた包帯だとか。しかしそれを差し引いてもあり余る、その佇まいから感じ取れる圧倒的なオーラに私は戦慄した。

 

 すっと伸びた背筋は凛としながらもたおやかで、さながらその立ち姿は芍薬の花。きっと座れば牡丹で歩く姿は百合の花に違いない。

 何気なく体の前で組まれ長手袋が包む手は腕から指の先にかけてまで優美で、顔はバイザーと包帯で全てを把握することは不可能だが艶のある唇の形だけでも美人と分かる。

 豪奢で華美な衣装を難なく着こなす姿は、私が着ればどんな服でも引き立て役よと言わんばかりの自信を感じさせた。そして実際似合っている上に服に着られていないのが凄い。完璧に着こなしている。

 

 なんと表現するべきか……女子力ではぬるい。言うなればそれは女子力の更に上のステージに立つ者が纏う力……。

 

 

 

 そう! 言うなれば"淑女力"!!

 

 

 

 気づけば私は挨拶もしないでぼけっと件の貴婦人に見惚れていた。女子力底辺の私にとって、彼女は圧倒的に眩すぎたのだ。

 けどそしたら思いっきり不審そうな雰囲気で見られた。ついでに貴婦人の後ろにちょこんと立っていた美貌の着物っ子にもうさん臭そうな目で見られた。穴があったら入りたくなった。……ポカンと口を開けていたのがまずかったのだろうか。

 

 しかしその後件の貴婦人にキルアさん達の祖父が来るまでお話をしないかとお誘いされたので、しどろもどろになりながらもなんとか会話を試みようと私は頑張った。といっても質問に答えていただけなんだけど。

 この貴婦人がキルアさんの母親であり着物っ子が弟(……のはずだけど可憐すぎて自信が無い)だとは漫画知識により頭では理解していたが、2名から発せられる私などでは到底及びもしない淑女力に私は完全に委縮してされるがままに答えていた。

 

 

 それほどの…………圧倒的、力!

 

 勝てない。そう思った。

 

 

 このご婦人、所作や言葉遣いが淑女過ぎて私の劣等感を絶え間なく刺激してくるのだ。先ほど自分の行儀悪さを自覚したばかりなだけに貴婦人が眩しくてしょうがない。声がちょっと高すぎる気もするけど、それも鈴が転がるような声と思えばプラス要素である。

 

 何、何食べたらこんな淑女になれるの!? 真珠とか花の蜜でも食ってんの!? う、羨ましい……! 私にもこれだけのしとやかさがあれば……!

 

 途中から部屋に来ていたミルキに「借りてきた猫」とか言われていた気がするけど、そんなことを気にしている余裕など私には無かった。とにかくこの貴婦人の前で低女子力が露呈するような醜態を晒してはならないと、少しでも自分をおしとやかに見せようと必死だった。私に出来る精一杯の虚勢であったが、気分的には獅子の前に放り出された子ネズミだったというか……。うん……。これが女子力格差って奴かなって……。

 

 けど話題が私の出身地の事になった時、ご婦人が「あら、あなたも流星街出身? 私と同じね」と言った事で私は衝撃を受けた。なん……だと……! え、流星街出身? この貴婦人が!?

 気づけば私は「どうしたら貴女のような素敵な女性になれるのか」と質問していて、そこから発展して私は愛する人のためにどうしても女子力を磨いて立派な淑女になりたいのだと切々と語っていた。そしたらご婦人、いやキキョウ先輩(同じ流星街出身なので敬意をこめてこう呼ぶことにした)は意外にもその話に乗って来た。

 

 そして始まるご主人との馴れ初め及び惚気話。なんでも色々あって流星街から嫁いできたものの、きっかけはキキョウ先輩の一目惚れから始まった恋愛結婚だったとか。

 意外である。

 

 そしてキキョウ先輩による流星街という掃き溜めから暗殺一家の嫁という名の淑女へと駆け上がるサクセスストーリーが展開され、私はそこから淑女力を学ぼうと必死に耳を傾けメモをした。それに気を良くしたのかキキョウ先輩も饒舌になる。

 いつの間にか視界の端にじいさんが居た気がしたが、そんな事気にも留めず私たちは話し続けた。更に言うと銀髪の美丈夫も増えていた気がしたが、キキョウ先輩の言葉を一字一句聞き逃すまいと必死だった私は気づいていても気にかける余裕は無かった。

 

 

 

 そして気づけば3時間が経っていた。

 

 

 

「た、大変参考になりました!! ありがとうございます!!」

「あら、ほほほっ。お役に立てたのなら嬉しいわ。私もつい話しすぎてしまったわね」

 

 3時間話しっぱなしだったにも関わらず、キキョウ先輩の声は相変わらず可憐だ。しかしふと横を見れば、着物っ子がぐったりしていた。どうしたんだろう? 母親の栄光の軌跡に興味が無いのだろうか。赤の他人の私がこれだけ夢中になって聞いていたというのに。

 

 私はメモを閉じて満足気に鼻から息を吐き出したが、しかしそこにすっと鋭利な刃物のような声が突きつけられる。

 

「…………で、エミリアさん。参考になったのは結構ですけれど、あなた淑女には程遠いようね」

「……!」

「見た目だけでも、そうですね。まず猫背を直しなさい! そして話すときは人と視線を合わせる事。目もキョロキョロと泳いでいて全体的に自信のなさが透けて見えるし、オドオドした喋り方は聞いていてイライラするわ。あと先ほど見ていましたが、食事の作法もたどたどしいわね。毒に耐性があるのは感心しましたけれど、食器の使い方がおぼつかなくて見ていて見苦しいったらありません」

「あぅ、その……」

「はっきりお喋りなさい!」

「はい!」

 

 キキョウ先輩の甲高い声による喝で思わず背筋が伸びた。こ、怖い……! 女子力の化け物からの指摘が怖い……!

 

 

 

「ねえ、ママ何だか変なスイッチ入ってない? っていうかじいちゃんは何であいつを本邸に呼んだのさ」

「いや、どれほどの使い手か気になってな。しかしこりゃ意外というか何というか……まさかキキョウの話に3時間ついていける人間がおるとは……。カルトなんぞ動くに動けず疲れ果てとるぞ」

「ああ。ところで今さらだが親父、あの娘は誰だ?」

「ミルのねとげ仲間らしい」

「ねとげ……」

「ネットゲームの事だよパパ。い、言っておくけど友達とかじゃないから。あくまでギブ&テイクのドライな関係だから」

「ふむ、そうか」

 

 

 なんか話し声がするけど、私にそれを気にかけている余裕は無かった。キキョウ先輩に次々に指摘される己の短所に鼻の奥がつんとしてきた。っていうかさっきサラッと毒耐性がどうのこうの言っていたような…………まあいいか。

 

「せ、先輩! 私はどうしたら淑女になれるでしょうか!?」

「長く、厳しい道のりでしょうね……」

 

 キキョウ先輩は神妙な様子でそう告げた。私はついには耐えきれず床に膝をついてうなだれる。

 ……しかし、そこに女神のような声で福音がもたらされた。

 

「ですが、愛する人のために淑女を目指そうなんて健気ですね。同じ流星街出身だからかしら……。ふふっ、私もつい若い日の事を思い出してしまいました。このまま帰すのは忍びないわ」

「え……」

「交換条件がありますが、もしエミリアさんさえよければしばらくこの家に滞在なさい。私が直々に淑女としてのたしなみを教授いたしましょう」

「え!? ほ、本当ですか!」

「ちょ、ママ!?」

 

 まさかのチャンスに私が食いつきを見せると、今まで傍観していたミルキが割って入って来た。

 

「何言ってるんだよ! こんな奴さっさと追い出そうぜ!」

「あら、ミル。もとはといえば彼女を招いたのは貴方でしょう? そんな無下に扱っては失礼だわ。そもそも貴方のお客様だというから、私もこうして会いに来たというのに」

「それは、その……。でも! もうそいつの用事は済んだんだ! 会うのも多分これっきりだし……」

「では、今からは私の客人として扱います。……ところでエミリアさん。貴女は私の淑女教育を受ける気はありまして?」

「ぜ、ぜぜぜぜぜぜ是非!!」

「お前も受けるんじゃねーよ!! 分かってるのか? ここはゾルディック家! 暗殺一家!! お前みたいなのが居ていい場所じゃないんだよ!!」

「ミルキ。少しお黙りなさい」

「ええ!? そんなぁ……」

 

 キキョウ先輩はミルキを諫めてから、手に持っていた扇をパシンともう片方の手のひらに収めて私を見る。

 

「では、先ほどの交換条件ですが……」

「なんなりと!」

「いい返事ですね。ではその内容ですが……見たところエミリアさん。あなた、淑女としてはまだまだのようですけどかなりお強いみたいですね。お義父さまも興味をもたれていたわ。開け方は感心できませんが、試しの門を開ける姿も見ていましたよ」

「あ、ありがとうございます」

「ですから、その強さとミルキの知り合いというところを見込んで……」

 

 そこで言葉を切ったキキョウ先輩はちらっとミルキを見た。そして上から下までじっくり眺めてから私に視線を戻す。

 

 

 

 

 

「ミルキを普通の体型にしてくださらない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってことがあって」

 

 私が話を終えるとキルアさんは「頭痛ぇ……」と酷く疲れた様子でつぶやいた。

 

「……あのさ、色々言いたいことはあるけど、なんでおふくろは今さらブタくんを痩せさせようなんて思ったんだ? 今までほっといたくせにさ」

「ああ、それな」

 

 それについては私も聞いてみた。奴の脂肪は見たところ数年でついたものでは無いし、暗殺一家の次男がこれでよく今まで放置されてきたなと疑問に思ったからだ。

 ミルキは「俺は頭脳派なんだよ!」とキレてたけどキキョウ先輩によれば「コロコロしていて可愛かった」のと「他の兄弟に期待しすぎてあまり厳しくしてこなかった」のと本人が運動を嫌った結果らしい。納得はするけどそれでいいのか暗殺一家。この豚、どんな方法で仕事するかは知らないが暗殺という言葉からは程遠い体型だぞ。

 

 しかしミルキももうすぐ二十歳。弟のカルトも外での仕事が増えてきたこともあって、このままでは次男として示しがつかないとキキョウ先輩も常々考えてはいたようだ。しかしこれといったきっかけも無く、愛していないわけでは無いがどうしても弟のキルアさんの方に目をかけてしまいずっと後回しにしていたらしい。…………このデブ、ある意味不憫である。

 

 で、今回丁度いい機会だと思ったようだ。

 

 仕事のある旦那さんや爺さんひい爺さん長男はミルキの訓練に構っている暇は無いし、キキョウ先輩はキルアさんとカルトに夢中。よって家族でミルキの尻を蹴とばして訓練させる人員は居ない。使用人を使おうにもミルキの性格的に目下の者に従う屈辱に耐えられるはずもなく、おそらく長続きはしないだろう。……そこで都合よく現れたのが私、と。

 実力的にミルキよりも強く口汚く罵り合う程度には対等(?)な関係のため抜擢されたらしいけど、もう一度言う。それでいいのか暗殺一家。そう内心で突っ込み、部外者にそんなこと依頼してもいいのかと私も思わなくもないが……。代わりに得られる対価に目がくらんだ私は、あまり深く考えないようにした。貴婦人から直々に淑女のたしなみをご教授頂けるとあらば安いものである。

 

 

 

「そういうわけで、私しばらくここに滞在させてもらうことになったから」

 

 少なくともゴンさん達が試しの門を開けられるまでは居るつもりだ。けどそれだとこいつを痩せさせるには時間が足りない。……よって、キキョウ先輩の淑女教育を受ける時間を確保する意味もあって私にブタを休ませている暇は無いのだ。

 

「! おい休んでんじゃねぇぞデブ! 動け!!」

 

 私はキルアさんと会話してる間、いつのまにか休憩しどこから取り出したのか分からないコーラで喉を潤していたミルキにアッパーカットを食らわせた。おいデブ、てめぇの水分は水だよ水! 砂糖の塊飲んでんじゃねぇよ!

 それを見てキルアさんが「うわっ」とドン引きしていたけど、私はとりあえず聞かなかった事にして居住まいを正し彼に向き直った。折角会えたんだし、ゴンさん達の事伝えておかなきゃな。

 

「えーと、そういえばゴンさん達ももうすぐ来ると思う」

「……そっか」

「どうするかはキルアさん次第だけど、まあ後悔しないようにね」

「……うん。なあ、エミリア。お前はゴンたち来たらどうすんの?」

「私? とりあえずここに滞在させてもらうのはゴンさん達が来るまでと思ってるけど」

 

 私が答えると、キルアさんはしばらく何かを考えているようだった。そしてふと顔を上げてニッと笑う。

 

「じゃあさ、お前にも色々言いたいことはあるけど……今は忙しそうだから"また"な」

 

 その言葉に私もつられて笑って「うん、また」と返す。

 そして部屋から出ていくキルアさんを見送ると、私は軽いアッパーごときで気絶しているミルキに水をぶっかけた。

 

 

 

 

 

「さあ、豚野郎。覚悟はいいか」

 

 エミリアズブートキャンプの再開である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




二次で時々見かける綺麗()なミルキへのロードと主人公、淑女としての師匠に出会うの巻。
だけど主人公、フィルターかかっちゃってるけどその先輩も時々クソとか汚い言葉は使うんやで(小声




北岡ブルーさんから主人公のイメージイラストを頂きました!

【挿絵表示】

ボーイッシュな雰囲気の格好いい主人公。細かいパーツまで丁寧に描いてもらってる上にハンター文字で名前まで添えてもらってて嬉しい……!
この度は素敵なイラストをありがとうございました!





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