ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla21,ひーこさん

 私はふと感じた気配に目を覚ました。

 現在クラピカの修行のために奥深い森の中にある管理人小屋を無理を言って借りているので、今この場に居るのは私とクラピカだけだ。だから感じた気配はクラピカのものだろうが、基本的に紳士な彼が相手が私とはいえ女性の眠る部屋に無断で侵入するとは考えづらい。

 何かあったのかと体を起こそうとした私だが、その私の腹に膝が乗せられ体重をかけられる。ベッドがきしむが私としては特に苦しくは無い。苦しくはないが……起きられないように押さえつけられた腹と、そして首筋にあてられた抜き身の刃物のひやりとした温度に目を見開く。

 

 現在時刻は夜。部屋は暗く慣れた目でもクラピカの輪郭しか捉えられないが、ふと窓越しに雲の合間から覗いた月明かりが差し込んだ。

 

 

「私の質問に答えろ。虚偽は許さない」

 

 

 押し殺された声は、わずかに震えていた。おそらくは怒りによって。

 

 月明かりに照らし出された色は、眩いクラピカの金色の髪と……………………爛々と輝く緋色の(まなこ)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあとりあえず殴ったよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやだってビックリするじゃん! 何のホラーだよ!! 思わず反射的に殴っちゃったよ! あんな刃物程度じゃどうこうされないけど普通にビビるわ!!

 

 

 私はタンコブを作って気絶したクラピカを引きずってとりあえず寝室を出ると、居間にあたる部屋の机の上に置かれていた緋の眼が入った保存容器を見て何故クラピカが怒っていたのか理解した。あ、やべ……緋の眼入れてたボストンバッグ部屋にしまうの忘れてた。

 

 この緋の眼、数年前にウボォーギンが何を思ったのか私にくれると言って持ってきたしろものだ。突き返そうにもウボォーギンと戦った後数日忘れていて、ある日部屋の隅でぽつねんと寂しそうに転がっていた緋の眼を見つけてどうしようと当時悩んだものである。

 とりあえず扱いに困ったので棚の上に置いて放置していたのだが、ある日「これって手入れ怠ったら腐っちゃうのかな?」と不安になりネットで眼球の保存方法を検索したりもした。それ以来毎日視界に入るし、見れば目が合ったような錯覚を覚えるもんだから段々と愛着が湧いてきてしまった。そのため私は売り飛ばしたり捨てるという選択肢を捨て、この緋の眼を一対手元に置くことにしたのだ。

 

 なんとなく名前も付けた。ひーこさんである。

 漢字で書くと緋子さんだが、ひらがなで伸ばした方が可愛いと思ってひーこさんと呼んでいる。

 

 ひーこさんは家族も友達も居ない私にとって、唯一家の中で話しかける相手だった。といっても「おはよう」「今日も綺麗な色してるね」「みるくがムカツク。共闘するのはいいけどあいつ嫌い」「おやすみ」など、たわいもない内容。傍から見たら眼球に話しかける女とかヤバいが、どうにも元は誰かの体の一部だったからかそこはかとなく意思めいたものを感じるので、その視線を無視することは出来なかった。目で語るとか、目を見ればわかるとか、思っている以上に目というものは顔のパーツの中でも人の視覚に訴えてくるものである。

 

 で、そんなひーこさんを借家を引き払う際に処分するなど出来るはずもない。いずれはタイミングを見計らってクルタ族であるクラピカに渡せばいいかと思って、こうして持ち歩いていたのだが……まさか先に見つかってしまうとは。

 修業がひと段落ついたら機嫌とタイミングを見計らって、念入りに説明をしてからご褒美としてあげようと思ってたのにな。

 

 

 ………………さっきの様子、明らかに超怒ってたよね。

 ヤベー……どうやって説明しよう。

 

 

 私はうんうんと唸りつつ考えたが、とりあえずありのままに話そうとその内容を紙に書き出した。いざ話してる時に頭の中真っ白になったら嫌だからな。カンペだカンペ。

 そしてしばらく心を落ち着けてから、意を決してクラピカを起こした。ゆすっても起きないから軽い往復ビンタかましちゃったけど、加減したし大丈夫だよね?

 

「……! ぐ、私は……。……!? 何だこれは! ほどけ!」

「あ、いや……。とりあえず落ち着いて話を聞いてもらうためにちょっとね」

 

 目を覚ましたクラピカは、自身の体が椅子にロープで縛り付けられている事に気づき抜けようとしているのか椅子ごとがったんがったん動いた。私はそれにビクビクしつつ、まず咳払いしてから深呼吸を数回繰り返してから口を開く。

 

「えーと、まず紹介するね。ひーこさんです」

「は!?」

 

 緋の眼を指してそう紹介した私に対して、瞳を真っ赤に染めたクラピカの眼光が突き刺さる。けど私はカンペを見ながら必死に説明を続けた。

 

「ま、前に幻影旅団とは同郷だって言ったでしょ? 仲が良いわけじゃ無いけど、その内の一人が自慢でもしたいのか前にこれを持ってきたのよ」

「! やはり蜘蛛の情報を知っているというのは真実だったのか……! しかも随分と仲がよさそうだな! 戦利品を貢がれるなど、どうやらその旅団員とは親密な関係のようだ!」

「いやだから仲が良いわけじゃ無いってば!!」

 

 吐き捨てるように言ったクラピカに対して私は慌てて弁解した。そんな不名誉な勘違いはまっぴらだ!

 

「あいつら人の野菜は盗むし家は壊すし大事なコレクションも壊すし売り飛ばすし眼鏡割るし薬使って体の自由奪っては誘拐して拷問かましてくるし騙して秘境に置き去りにするし技の実験台にするし腕ちぎったり腹割いたりしてくるし無駄に真正面から戦いたがるし本当に死ねばいいと思ってるから仲良くないから勘違いしないでよね!!」

 

 一息だった。

 噛まずに言えたのはキキョウ先輩の淑女教育のおかげかな? と思うものの、特に嬉しくは無い。こんな場所で活かしたいんじゃないんだよ……! それに最後らへんがちょっとツンデレっぽい言い回しになってしまい物凄く恥ずかしい。

 

 ま、まあ一気にまくし立てたおかげでクラピカがちょっとあっけにとられている。今のうちにカンペ見ながら話すべきことは話そう。

 

「………………試験でクラピカと知り合った時から、これはいずれ渡そうと思ってたわ。私なんかが持ってるより、同族の君の手元にあった方がひーこさ……緋の眼も喜ぶだろうし」

「…………」

「本当よ。とにかく言わせてもらうけど、奴らとは腐れ縁だけど仲は良くない。むしろ私のこれからの人生に邪魔だから、ついこの間ゾルディック家に暗殺依頼してきたとこよ」

「なんだと!? そ、そんなデタラメで誤魔化そうとしても……!」

「で、デタラメじゃないから! ……ちょっと待って」

 

 私は証拠の一つも見せないと納得してもらえないだろうと、ケータイを取り出して暗殺の依頼先に電話をかけた。

 

「あ、キキョウ先輩。ご無沙汰しておりますエミリアです。夜分遅くに申し訳ありません。息子さんは帰宅されましたか? ……はい……はい。分かりました。では以前の件で詳細を決めたいのでお邪魔しても? …………。! ありがとうございます。ではまた伺わせていただきますが、一人同行者を増やしてもよろしいでしょうか。…………はい、是非。……ありがとうございます。ではパドキア共和国についたら、また連絡させていただきます。……はい。では、失礼します」

 

 ケータイの通話を切り、私は淑女教育とマナーブックで学んだ敬語をちゃんと最後まで使い切れた充足感に安堵のため息をついた。ああ、緊張した……! 最後にキキョウ先輩に「まだまだぎこちなさが抜けませんね」と駄目出しされたけど、私的には超頑張った。私偉い。よく頑張った。誰も褒めてくれないから自分で自分を褒めよう。…………ちょっと空しい。

 

 クラピカは相変わらず私を緋色に染まった瞳で睨みつけているけど、その表情には困惑も混じり始めていると私は感じていた。頭のいい彼の事だ。これから私が提案することを薄々感づいているのだろう。

 

 

 

 

「これから暗殺の打ち合わせに行くけど、一緒に来る? ついでにその時旅団の念能力も教えてあげる」

 

 まさかのクラピカを伴ってのククルーマウンテンリターンズである。

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短め

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