ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla22,ぶつかる教育方針~そして新たな出会い

 

「家事能力など使用人を雇えば済むはずですわ。今彼女に必要なのは淑女たる言動です」

「いや、それは違う。たしかに所作や言葉遣いは大事だろうが、エミリアには基礎的なものが決定的に欠けている。淑女らしさを学ぶなど二の次だ。今彼女を指導しているのは私なのだから、口出ししないでいただこう」

「なんですって!? まあまあまあ、なんて生意気な口をきくクソガキかしら。エミリアさんの弟子だというから同行を許可いたしましたけど、躾がなっていませんねエミリアさん!」

「はい、すみません」

「君の女子力の師とやらは言動を重視しておきながらクソなどという下品な言葉を使うのだな。師事する人選を間違ったんじゃないか?」

「はい、ごめんなさい」

「まあエミリアさん! 私に教えを乞うておきながらなんです!? 私よりそのクソガキの味方をするのですか!」

「はい、すみません」

「さっきから同じような返答ばかりじゃないか! どうなんだエミリア。君は女子力について家事能力と淑女力とやらどちらが重要だと思う!? 君はどんな素敵な女性を目指すんだ!」

「当然淑女一択でしょう! 家事能力など必要ありません!」

「いや必要だ! 彼女が愛する相手はおそらく一般的な感性を持つ相手。家事能力に欠ける女性では魅力に欠ける!」

 

 

 

 

 二人の視線が私を射抜いた。

 

 

 

 

「「君(貴女)はどんな女性を目指す(目指しますの)!?」」

 

 

 

 

 

 

 お腹痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はクラピカに何をどう説明すればいいか迷った挙句、とりあえず旅団とは本当に仲良しではなくむしろ敵対する関係であると証明するために暗殺依頼をしたゾルディック家に向かうことにした。キキョウ先輩に電話(恐ろしい事に直通の番号を教えてもらっている)したところイルミ=ゾルディックがもうすぐ帰宅するとのことだったので、もともと暗殺の打ち合わせに行く予定だったし丁度良い機会だと思ったのだ。

 

 道中気まずかったが、以前パドキア共和国に来たときは自分から旅団の情報が欲しいと言ったのに態度が色々と高圧的過ぎてちゃんと話せないと文句だけは言っておいた。

 私としては最初の失敗があるだけにクラピカと話す時ってただでさえ爆弾処理班になったような気分で慎重にならざるを得ないのに、いくら緋の眼で理性が飛んだとはいえいきなり夜襲はないと思う。本当にビックリしたし、一生懸命話そうとしても突っぱねられては話す意欲も無くなってしまう。

 おい、仮にも師匠やぞ。もうちょっと敬えよ。

 

 でも恐る恐る文句を言う私に対して、クラピカは意外にも「…………それについては、悪かったと思っている。念を教えてくれた君に感謝して信用し始めていただけに、余計に裏切られた気持ちになったんだ。今も疑念はあるが、いきなりあの態度は失礼だった。謝罪しよう。すまなかった」とすんなり謝ってくれた。これには私も文句を言っておきながらビックリである。どうやら念の師匠として、一応の信頼は得られ始めていたようだ。

 

 とりあえずクラピカが私の話を聞く姿勢を示してくれたので、飛行船内の個室で私は改めて旅団との関係を彼に説明する事にした。

 

 

 

 流星街で育ったこと。念能力で食料を得たがそれを盗まれた事。旅団初期メンバーとの仁義なき戦いの日々。流星街を出た後もちょくちょくちょっかいをかけられた事。その内容。

 

 

 

 今まで奴らに関するストレスを吐き出す相手はひーこさんしか居なかったので(ちなみにひーこさんは今クラピカが持っている)、一度話し始めると止まらなかった。クソガキ共への怨嗟が次から次に口から出る事出る事留まる事を知らず、途中でクラピカに肩を掴まれ「もういい。もういいんだ……。辛かったな。君はよく頑張った」と言われるまで止まらなかった。そしてクラピカの言葉に思わず泣いた。そうだよな、私頑張ったよな! あんなクソガキ共に負けず頑張ったよな!!

 しかしながら思いがけず私の思い出話は、クラピカの信用を得るのに役立ったようだ。「よく考えたら君は嘘をつけるほど器用ではなさそうだしな。先入観もあって散々疑ってきたが、ゾルディック家への依頼が本当だったのならもう君を疑う事はすまい」とまで言ってくれたのだ。

 あと、何故緋の眼をひーこさんなどと呼んでいるのかという問われたので「友達も家族も居なかったから唯一の話し相手だった」と言ったら無言で背中を叩かれた。…………涙腺がもろくなってるのか、なぜかまた泣けてきた。あれおかしいな、今まで一人ぼっちとかとくに寂しさを感じた事なかったのに……今とてつもなくその事実が空しい。

 

 そんなわけで、一応クラピカとの関係がこれ以上悪化することはなかった。代わりに何か師匠としての威厳を失った気がしないでもないが、考えてみたら最初からそんなもの無かった気もする。……やはり私に師匠など向かないのだ。

 

 

 

 ああ、そうそう。そういえばパドキア共和国に到着したら空港で髭面の胴着男に声をかけられた。「お前らいきなり移動すんなよ焦るだろ!」と言った彼に私たちは警戒心を抱いたが、彼がハンターライセンスを見せて「ハンター協会から新人の指導を任されたイズナビだ」と自己紹介をすると「ああ!」と、私とクラピカは平手に拳を打ち付けた。私がずっと待っていた正規の指導者である。漫画で医大の勉強で忙しいはずのレオリオが念を身につけていたことから、いずれ指導者が現れるだろうとは思っていたけどやはりその予想は当たっていたらしい。

 慎重なクラピカはライセンスを使い協会本部に問い合わせたが、どうやら本当に彼は協会が派遣した念能力の師匠のようだ。

 

 聞けばイズナビはクラピカが千耳会(クラピカが訪れた斡旋所)で門前払いをくらったところから接触する機会をうかがっていたようなのだが、クラピカが念を知っている風な相手に連絡したところで少々興味が湧いて様子を見ることにしたらしい。そしてクラピカが私と修行を始めたのを見て、一度はお役御免かと去ろうとした。が、私の間違ってはいないがおぼつかない指導が気になってついそのまま見守ってしまったらしい。

 

「ここに来る前に町へ食料の買い出しに出かけたんだが、その間にお前ら居なくなってて焦ったぞ」

 

 そう文句をたれるイズナビだったが、わざわざ追いかけてきた律義さはともかく見ていたならもっと早くに接触しろよ! そして指導を引き継いでくれよ! と私は盛大に文句を言いたくなった。指導がおぼつかないのは当たり前だ。今までそんなことした経験ないんだからな!

 けど文句を言えばそれに対してイズナビは「ひよっこのくせに彼女と同棲して亭主関白しながら念を教えてもらうとか生意気だと思って声をかけるのが癪だった。高圧的な態度にフラれでもしたら、まあせめてもの情けで俺が指導してやろうかと思ってな。ま、それでもあと二日も様子見したら立ち去るつもりだったが」とか言い出す始末。私とクラピカは声を合わせて「彼女じゃない!」と否定した。そして私は「こいつは亭主じゃなくて小姑です」と言ったらクラピカに「ちょっと待てその認識は何だ? 気のせいでなければ女性を指す言葉に聞こえたのだが」と真顔で肩を掴まれた。怖かった。なにその察知力。小姑も小舅も読みは同じなのに何でわかるの怖い。

 

 そしてイズナビは「色々事情はあるみたいだが、どうする? 俺の指導がいらないなら帰るが」とクラピカに今後の修業をどうするか問うてきた。それに対してクラピカは迷ったようだが、私も指導できるのは短期間であると最初に伝えてあったのと「自己流の私よりちゃんとした指導者に導いてもらった方がいい」とイズナビの指導を受けるように勧めた事でクラピカは彼に師事する事を決めたようだ。肩の荷が下りて私も一安心である。

 

 しかし、イズナビに指導をしてもらう前にゾルディックである。

 

 私たちの用事がゾルディック家にあると伝えるとイズナビはちょっと引いていたが、だったら町で待ってるから用事が終わったら連絡しろと言い残して私たちを送り出してくれた。

 暗殺一家訪問を前にしてクラピカの指導をイズナビに任せられるようになったのは大変喜ばしい。喜ばしいが…………。

 

 

 

 

 

 まさかゾルディック家でキキョウ先輩とクラピカがぶつかるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 話のきっかけは覚えていない。何がどうして私の女子力の方向性の話になったのかもよく分からない。でも気づいたらキキョウ先輩とクラピカが私の女子力についての教育方針の内容でバチバチしていた。あれ、私これ知ってる。この間ドラマで見た子供の教育方針でぶつかる姑と嫁のやりとりに似てる。

 

「ねえ、もしかしてうちを丸ごと雇うとか言ってる依頼主ってあの女?」

「なんだイル、知り合いか?」

「うん。ハンター試験で一緒だったけど、頭突きされて殴られた」

「ほう、イルをか! なるほどなるほど。やはりあの嬢ちゃんなかなかのもんだ。今回は試しの門も7まで開けきったし……かなり鍛えとるな」

 

 外野で鋲男とゼノ爺さんが何やら話してるけど、話してないでこの2人止めてくれよ。頼むよ。

 

「父様、僕は今回マハおじい様と組めばいいの?」

「ああ。お前ではまだ旅団員と単独で接触するには実力が足りない」

「そう……。旅団ってそんなに強いんだ」

 

 シルバの旦那もカルト坊ちゃんと話してないで2人を止めてくださいよ。依頼の話に進めないじゃないですか。

 

「おい。この依頼、俺も雇えよ」

「豚に用は無ぇ」

 

 さっきからしきりに雇えと話しかけてくる(元)豚は黙ってろしばくぞ。

 

 

 

 

 

 依頼の話に進めたのは約2時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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