ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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主人公視点からの天空闘技場ダイジェスト


Gorilla28,光陰矢の如し

 先日やっとウボォーギンとヒソカの戦いが行われたわけだが、その内容は普通に見てて楽しかった。

 

 一番面白かったのはウボォーギンの拳がヒソカに叩き込まれた瞬間だけど、次点でウボォーギンが行ったヒソカの念……バンジーガム対策かな。

 ピエロ野郎ヒソカの念は本人の性格同様いやらしい性能で、ガムみたいにくっつく上にゴムみたいに伸びる。力任せに引きちぎろうとしてもその瞬間伸ばされたらそれも不可能。ウボォーギンも最初くっついたオーラが剥がせず相当イライラしていたようだ。

 で、解き放たれた野獣が何をしたかといえば単純である。あの巨体からは考えられない素早さで自身の体を回転させ、一瞬にしてヒソカのバンジーガムを体に巻きとった上でそれを引きちぎったのだ。

 マチもそうだったと思うが、変化系のオーラは基本的に術者から離れるほどその強度は落ちる。そのためウボォーギンはヒソカの念を数メートル自分の体に巻き付ける事によって無理やり伸ばし、ヒソカが虚を突かれている間に力任せに千切ったんだろう。多分勘で実行したんだろうけど、ウボォーギンの戦闘に関しての勘はマチに次いで侮れないと思っている。それにあいつ意外と考える時は考えるしな。

 それにしても、いいなアレ。多分半端に同じような事しようとしたら簀巻きになって詰むだけだろうけど、ウボォーギンや私くらいパワーがあれば可能だろう。私もピエロと戦う時があったら試してみるか。

 

 

 

 ウボォーギンは帰る前に本来の目的である私との手合わせを所望してきたが、それについては奴が闘技場闘士を誰も殺さず私との約束を守った手前無視するわけにもいかない。仕方が無いので奴が満足するまで付き合ったが、それにより改めてウボォーギンを単独で殺しきるのは難しいと認識した。……やはり私が止めを刺すにしても、あいつを殺すには誰か協力者が必要だ。

 

 ちなみに私は今回天空闘技場に登録していないので、ウボォーギンとの戦いは適当な場所での野試合となった。戦いの余波に巻き込まれてはいけないのでゴンさんキルアさんには秘密で。

 後で何か聞きたそうな二人の視線に耐え兼ねて「喧嘩してきた」とだけ白状したら私とウボォーギンの戦いを見たかったと言われたけど、まあいつもの如くみっともない全力の泥仕合だったので私としては見られなくて良かったと思っている。

 

 

 

 

 

 …………それにしても、勝負に熱くなり過ぎたのか知らないけど私は何で奴にあんなことを言ったのだろう。わざわざ警戒させるような宣言なんて必要無かっただろうに。

 あとそれに対しての奴の返答も気にくわない。

 

 

 気にくわないけど……………………まあ、お望みならやはりウボォーギンは私が殺してやるか。

 

 9月。首を洗って待っていろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、それはまだ先だしいいとして。

 

 マチは私とウボォーギンの戦いが終わるのを見届けてから(一応有料ながら腕が吹っ飛んだりしたらくっつけてくれるつもりだったらしい)あっさりと去っていった。場合によってはマチの命も9月までとなるのだが、今まで世話になったしもし死んだら墓くらい立てて線香の一本も立ててやるか。みたらし団子も供えてやろう。

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、なんだかんだで月日が過ぎるのは早い。気づけば9月まで半年あった時間があっという間に縮んでいた。

 

 

 今年のハンター試験が行われたのが新年があけてからまもなくであり、その後私が身辺整理と豚の元豚化を手掛け、キキョウ先輩に淑女教育を受けた期間(ゴンさん達にとっては試しの門をクリアするためにククルーマウンテンで鍛えていた期間)が約一か月。

 

 2月の終わりくらいに天空闘技場を訪れ、数日過ごしたのち私はクラピカに呼び出されそのまま彼の念の修業に付き合い、ククルーマウンテンに戻り旅団の暗殺依頼について話を煮詰めた。それも約一か月の間の出来事で、その間ゴンさんとキルアさんは天空闘技場にてヒソカと再会。心源流のウイングとその弟子ズシに出会い念を修得。直後に受けた新人潰しのギドとの試合でゴンさんは医者に全治4か月と診断された怪我を負うも、キルアさんがごまかしたおかげで師であるウイングに2か月だけ念についての修業禁止を言い渡される。ゴンさんの怪我自体は一か月ほどで治り、その時に私が帰還。ついでに面倒なことにウボォーギンが私を探して天空闘技場に現れた。

 

 ウボォーギンは私と戦う前に前から気にくわなかったヒソカを、旅団の団員同士マジギレ禁止のルールを「天空闘技場の試合だからしかたなく」でごまかしてぶん殴るつもりのようだった。しかし試合を見たいというゴンさんのためにウボォーギンはヒソカとの試合を一か月先のゴンさんの念修業解禁まで引き延ばし、そしてその間……暇だからと、ミルキの訓練と女子力修業に忙しい私の部屋に入り浸るようになった。天空闘技場の闘士用の個室があるんだからそっちに行けと何度も追い出したが、姑息なことにゴンさん達と一緒に来たりするもんだからなかなか追い返せなくなった。忌々しい。

 そこにヒソカの治療と奴に伝言を伝えるために訪れたマチまで、ヒソカが殴られる姿を見たいと言って滞在し始めるもんだからたまらない。当然いつも居るわけじゃなくフラッと何処かへ出かける事も多かったけど、それでもこんなに奴らが身近に長い期間居るなど今まで無かったから違和感が凄かった。

 ゴンさんの念解禁までの一か月……念が禁止されているため"燃"や筋トレを行うゴンさんキルアさんに暇を持て余したウボォーギンが時々つきあってみたり、同じく暇を持て余したマチが時々元豚の訓練に口をはさんだり私に裁縫を教えたり(どうせ居るならと頼んだら了承されて驚いた)と、旅団二人の近すぎる距離に私とミルキはそれぞれ神経をすり減らした。

 

 まあせっかくだし、その無駄にデカい図体と胃袋を活かしてやろうとウボォーギンには私の作った料理の処理班を任命した。それくらいしか役に立たないからな。

 クラピカに教わりながら今まで作ったことが無い料理にも手を出してみたのだけど、習得出来た品数は少ない。メンチの試験で自分こそ散々な評価をされたくせに味には煩いんだよなあいつ。一品ごとに合格をもらうまでかなり時間がかかってしまった。

 そのため天空闘技場に来てからは更に料理のレパートリーを増やそうと色々試行錯誤しているのだ。ゴンさん達に差し入れもしたいし、愛するゴレイヌさんがどんな料理が好きか分からないから今のうちに出来るだけ多くのものを作れるようになっておきたい。ふふふ……! お弁当を差し入れとかしたらゴレイヌさん喜んでくれるかな? 将来的にはそれが愛妻弁当になるように、今から料理の修業は欠かせない。

 でも料理はそう簡単ではなく、女子力高そうなメニューは基本的に難しかった。少なくとも私には。だから何度も練習するわけで、そうすると失敗作も多くなる。捨てるのももったいないし、そんな時こそウボォーギンの出番だ。あいつ自分で「食えれば何でもいい」と言ってたしな。文句は言わせない。

 …………ちなみに料理を失敗するたびにキルアさんとマチの酷評が辛かった。あいつら私の料理に「邪王炎殺赤龍カレー(私基準でスパイス入れたらちょっと辛くなったらしい)」だの「惨殺された卵(オムライスを作ろうとして包むのが難しくて卵が盛大に破けて中身のチキンライスが飛び出した。ケチャップでごかまそうとしたら飛び散った血のようになった)」だの「五大災厄の煮こごり(薬膳に挑戦しようと健康に良さそうな漢方とかをぶち込んだ魚の煮こごり。どんな化学変化をしたのかクサヤのような臭いになった)」だの変な名前つけやがって。何だよ一見仲悪そうなのに変化系同士仲良しかよ。二人して私の心を抉ってそんなに楽しいかお前ら。カレーの辛さはちょっと反省するけどあとの料理に関しては味は良かっただろ。ウボォーギンは全部平らげたぞ。

 

 

 ま、まあそんな感じで疲れた半面そこそこ充実もしてた一か月。やっとウボォーギンとマチが居なくなり、気づけば5月になっていた。

 

 

 ゴンさんとキルアさんはやっと念の修業を再開。私も再び単独でのミルキの訓練と女子力磨きの修業に戻ったが、やろうと思えばどうとでもなる見た目より先に、すぐにはどうこうできない内面の修業を優先させようとキキョウ先輩やクラピカの指導をもとに基礎的なものを繰り返していた。具体的に言うと料理をはじめとした家事全般に、所作、マナー、言葉遣いなど。ウボォーギンを実験台に料理のレパートリーも増えたので、試しにゴンさんとキルアさんが修行する先……ウイングとズシの所に差し入れをしてみたが、想像以上に喜ばれて凄く嬉しかった。ズシに至っては「エミリアさんはいいお嫁さんになるっスね!」とか言ってくれたしな! なんていい子なんだ! キルアさんが「こうして犠牲の上に成り立つものに人は騙されていくのか……」とか言ってたのは気にしない。犠牲とかじゃなく努力の結果って言えよ。頑張ったんだぞ。

 

 ウイングとズシの二人に関してはゴンさんに紹介してもらって面識だけはあったけど、ウボォーギンとマチが居る時はそっちに神経使っててなかなか会いに行けなかったんだよな。けど差し入れを喜んでもらえたのが嬉しくて、ちょくちょく顔を出していたら二人の接しやすい人柄もあって結構仲良くなれたと思う。連絡先も交換したし、これなら結婚式に呼んでもおかしくないくらいの間柄のはず。素晴らしい。これでまた結婚式に呼べる知り合いが増えた。

 

 そして修行を続ける二人の傍ら私も自分の女子力修業しながらウボォーギンに負けないための訓練を重ねていた。もちろん一石二鳥にするためミルキの訓練と兼ねてやっているので、時間の無駄は無い。

 意外だったのはその訓練の途中でゴンさんとキルアさんが「自分たちも一緒に修行したい」と言ってきたことだ。どうやら念の修業を終えた後に、実戦訓練として私たちに手合わせしてほしかったようだ。たしかにぶっつけ本番の試合以外で念能力者と戦えるなら、それに越した事は無いよな。

 念はウイングが指導しているだろうし、組手程度なら問題無いかと私はこれを了承した。よって私、ミルキを相手にゴンさん、キルアさんが交互に戦う日々が始まった。

 そういえばゴンさんの快進撃が始まったのもこのあたりからだったな。ゴンさんはヒソカに借りを返すためにフロアマスターへの挑戦権を得なければならなかったが、結果的には7月……天空闘技場を去るまでの間にそれを達成してしまったのだ。勝つことは出来なくとも一応ヒソカに借りは返せたようだし、なんというか……強くなる速度が凄まじい。

 キルアさんだって凄い。もとの戦闘能力も高かったんだろうけど、先に念を習得していた上にここ最近本気で頑張っているミルキが未だに勝てた事無いしな。まあ、それに関しては悔しがったミルキが奮起するので私としては喜ばしいんだけど。キキョウ先輩にお返しするまでにもうちょっと立派にしておかないと。

 

 そういえばミルキといえば奴には修行の対価として勉強を教えてもらっている。私も女子力と並行してゴレイヌさんに会った時恥ずかしく無い程度の人間力というか教養が欲しいし、先に対価を貰っておけばキキョウ先輩にお礼を貰わなくていいしな。…………よくよく考えたらキキョウ先輩の思惑を考えると下手にお礼受け取るの怖い気がするから多分この選択は間違いでは無い、はず。

 訓練の憂さを晴らすためかいちいちものを知ら無い私を見下して嫌味をセットにして勉強を教えてくるミルキは腹立たしいが、悔しいけどあいつやっぱり頭はいい。ムカつくけど私でも無理なく知識を増やす事ができた。

 

 

 

 そして慌ただしくも充実した日々はあっという間に過ぎ去り、気づけば7月。

 ハンター試験から数えて半年という時間があっという間に過ぎ、9月まで2か月をきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

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「お前はいつか私が殺す」

 

 

 手合わせの後、お互いボロボロになって地面に寝そべっていたらふいにエミリアがそんなことを言った。今までとて殺す気でウボォーギンを始め旅団と戦ってきた女だが、不思議とその声には怒りも憎悪も含まれていなかった。あるのは淡々と事実を述べるような、非常に静かな響き。

 

 しかしそれを言われたウボォーギンの体にその言葉、声は不思議と穏やかにしみ込んだ。次いで湧き上がって来たのは震えるような歓喜。

 だからこそウボォーギンはこう返した。

 

 

「だったら俺もお前を殺すぜ。けど、お前相手なら殺すのも殺されるのも悪く無ぇ気分だ。限界まで戦いあって殴り合って、二人で逝けたら最高だな」

 

 

 それを聞いたエミリアは思い切り顔をしかめて「馬鹿か、誰がお前なんぞと心中するか。死ぬなら一人で死ね」と言ってきたので、ウボォーギンは「やっぱお前はつれねぇなエミリア」と大笑いした。

 

 好敵手であり、ライバル。……エミリアをそう評して憚らないウボォーギンであるが、その一方で幼いころから背中を追い続けた相手でもあるのだ。

 そんな相手が自分を殺すのだという。殺伐とした言葉の響きとは裏腹に、ウボォーギンにとってそれは最高に甘美な誘惑だった。

 

 

 

 

 

________________________ 好きな女に殺されるのも悪かねぇ。それかあいつを殺せば、あいつがこの先他の男を目に映すことも無い。

 

 

 

 

 

 

 殺すも殺されるも上等。

 

 願わくば最上の死闘があらんことを。

 

 

 

 

 

 

 


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