ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla30,短期アルバイト依頼

 ゴンがくじら島に帰って来てから一日目の夜。

 

 キルア、エミリアと共に森での時間を過ごしたゴンは、家に帰った後ミトから「ゴンがハンターになったら渡してくれ」とジンに頼まれた物だとひとつの箱を渡された。そしてどんな心境の変化があったのか分からないが、今までゴンの父であるジンについてほとんど話さなかったミトが彼について知っていることを教えてくれるのだと言う。当然ゴンはその話を聞きたがった。

 その場には丁度エミリアも居たのだが、彼女は親子の会話を邪魔しては悪いと遠慮したのか「先に休ませてもらうね」と用意された客間にそそくさと引っ込んでしまった。そんな彼女を見て「気を使わせちゃったわね」と若干申し訳なさそうにするミトであったが、ミト自身ゴンにジンの話をするには少々思うところがある。そのため、エミリアの気遣いはありがたいものだった。

 ちなみにミルキはゴンの部屋で寝込んだままで、キルアはその部屋で寝るために出してもらった布団をゴンと自分の二人分敷くために今は居ない。あとから曾祖母が飲み物を用意しながら会話に参加したので、本当に家族だけの空間だ。

 

 

 その夜、ゴンはミトと曾祖母から父……ジンについての思い出話をたくさん聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、くじら島に来てから二日目。

 

 エミリアは朝から小鴨のようにミトの後をついては回り、何か手伝えることは無いかとしきりに尋ねていた。それに対してミトは最初こそ遠慮していたが、次第に慣れたのか今では普通に手伝いの指示を出している。「女子力磨きたいって言ってるくらいだし、ミトさんに憧れてんじゃねーの? ミトさんスゲーいい母親だもんな」とは昨晩自分もミトのような母親がよかったとゴンを羨ましがったキルアの言で、おそらくその通りなのだろう。エミリアのポケットにはメモ帳が入っており、事あるごとに陰でこそこそ書き込んでいた。すでに小さなメモ帳のページは細かい文字で真っ黒である。

 

「ミトさん、これ運んでもいいですか?」

「ええ、お願いするわ。あとそれが終わったらジャガイモを洗ってくれる?」

「はい! 皮も剥きます?」

「じゃあお願いしちゃおうかしら。ふふっ、ありがとね。食べ盛りの男の子が3人も居るんだもの。今までと作る量が違うから、手伝ってもらえて助かるわ」

「い、いえそんな……! お世話になってる身ですから、こ、これくらい当然ですよ!」

 

「……なんか、すっかりお前のおばさんに懐いたなあいつ」

「うん。歳も近いみたいだし、気が合うのかもね。ミトさんも俺と同じで歳の近い相手があまり島に居ないから、エミリアさんと話すの楽しそうだよ」

 

 ミトに礼を言われ照れながらも、非常に楽しそうに家事の手伝いをするエミリア。そんな彼女を見て呆れたように感想をこぼしたのは船酔いから回復したミルキだ。あまりにも自分への対応と違うエミリアの様子にミルキは「ずいぶんデカイ猫かぶってんじゃねーか」と呆れと愚痴が混じったような声色でつぶやくが、それに関しては同意見なのか「だよな」とキルアが同意する。そして引きこもりの兄がこうして自分と一緒に外の世界に居て、こうして近くで会話をする現状にキルアは今さらながら何とも言えない気分になった。

 

 

 

 朝食を終えた後、ゴンは昨晩ミトから貰った小箱をキルア、エミリア、ミルキに見せた。ミルキに関してはゴンの身の上話や父親の話などに興味はなく惰性でその場に居るようなものだが、特に邪魔になるわけでも無いので特に誰も何も言わない。

 

 しかし件のその箱であるが、普通の鉄箱なら溶接されていてもねじ切れると豪語するキルアをもってしても開ける事は叶わなかった。エミリアも試してみたが、結果は同じである。そこでハンターになったら渡すように、と言われたことからハンターになる前には持っていなかったものが必要になるのではと考察したキルアの発案でゴンが鉄箱に練をすると、鉄箱はバラバラに分解された。

 中から出てきたのは、今度は鉄箱より一回り小さな箱。これについては差込口があったので、ハンターライセンスを使用し開けることが出来た。

 

 そして最終的に出そろったのは、裏側に不思議な文字が描かれた指輪とカセットテープ、ゲームのロムカードが一枚。

 

 

 まず最初に手を出し再生したのはカセットテープ。その中にはジンの肉声によるメッセージが入っており、彼はゴンに会いたくないと……そしてもし会いたいのなら、探してみろ。捕まえてみろと彼は言う。

 

 

 

 

『捕まえてみろよ。お前もハンターなんだろ?』

 

 

 

 

 顔も分からない男の声が、やけに印象的だった。

 

 

 

 カセットテープには念が施されていたのか、再生後巻き戻し、録音を経てジンの音声は消去された。

 次いで確認作業に移ったのはロムカードだったが、それに関しては確認するにしても差し込むハードが無い。キルアが「兄貴ならパソコンさえあれば中身の確認くらいすぐできるんじゃねーの?」と興味が無さそうにしているミルキに問うたが、それに対しての返答は「このうちの旧型のパソコン使って確認するくらいならハード取り寄せた方が早いだろ」というものだった。よって中身の確認はロムカードを差し込める本体……ジョイステを取り寄せるまでお預け、という結果に終わる。

 

 そのためジョイステの注文をネットで済ませた後は各自思い思いに過ごしていたのだが、ミルキの訓練をしていたエミリアに一本の電話が入った。そして電話を終えたエミリアは一週間ほど出かけてくる旨をゴンたちに伝えた。

 

 

「ミルキさんは一緒に行くの?」

「いや、短期間だし置いてくわ。迷惑かもしれないけどごめんね」

 

 ゴンの問いに申し訳なさそうに答えるエミリアであったが、迷惑扱いされたミルキが何やら文句を言ったがすぐにエミリアに沈められて静かになった。それを憐憫のこもった視線で見つつ、しかし面倒くさい兄だけ残して留守にするエミリアに不満があるのかキルアが顔をしかめつつ問いかける。

 

「げっ、兄貴だけ残んのかよ。つーかお前、用事って何?」

「えーと……お仕事?」

「何で疑問形なんだよ。仕事ってハンターのか?」

「ま、まあそんなとこかしら」

「へえ~! エミリアさん凄いや! まだハンターになったばかりなのに、仕事を頼んでくる人が居るの?」

「あー……。なんていうか、昔から世話になってる相手でね。前に困ったら頼れって言った手前断り辛いのよ。短期間だし、しょうがないから受けてみようかなって」

 

 エミリアとしてはゴレイヌに会った時「こんな仕事をしていました」と、自己アピールに使えるかもしれないという多少の下心もあった。期間も一週間と短いため、仕事を終えて帰って来てからもくじら島で過ごす時間はまだたっぷりある。だから受けて損は無いだろうと……そんな考えだったのだ。

 

 

 

 しかし、その仕事先で彼女は思いがけない出会いを果たすことになる。

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 アルバンス=レイヴンゲイルは苦悩していた。

 

 

 アルバンスはとあるマフィアの傘下に入っている組織の人間であり、言うなれば中間管理職だ。仕事の内容は簡単に言えばマフィアのための資金稼ぎであり、表向きは不動産屋を営みながらも裏での活動は幅広い。

 アルバンスはまだ33歳という若さながら、その手腕と念能力者であることを買われ組織の中でもそこそこの地位についていた。順調に行けば幹部も夢ではないだろう。……ないが、そんな彼が何について苦悩しているのかといえば、その肝心の出世に関わる事だった。

 

 念能力者……つまり戦える者としての評価も高いアルバンスに、つい先ほど一本の電話が入った。電話の相手は組織内の重要人物の護衛として地位を築いている男であり、その男からの用件は「護衛の補充が終わるまでの間、しばらくボスの護衛に加われ」というもの。彼が言う"ボス"とは本当の……所属するマフィアのトップという意味のボスではなく、その娘の事を指す言葉だ。

 

 そしてアルバンスはその"ボス"が非常に苦手である。

 

 

『あなたの髪の毛とっても綺麗ね! 自分で気づいてる? 銀色の髪の毛に光が当たると、天使の輪に虹色が混じるの。凄く綺麗。頭ごと保存したいくらい!』

(冗談じゃない)

 

 

 かつて愛らしい少女から無邪気に放たれた言葉を思い出し、アルバンスは震えた。おそらく自分が何か少しでもミスをすれば、それを理由に容易く自分は標本にされボスのコレクションに加わる事だろう。今までそうして額縁に飾られた者を幾度となく見てきたが、自分がその仲間入りを果たすなどまっぴらごめんだ。

 

 しかしアルバンスの部下に彼と同程度……もしくは上回る実力の念能力者は居ない。よって自分の代わりに向かわせられる者が居ないのだ。だからこそアルバンスはどうにか上手い言い訳をして、短期間とはいえ護衛任務に就くことを拒否できないかと思い悩んでいる。絶対に行きたくない。

 

 

 

 苦悩する事数時間。ふと、一つの書類が目に入り天啓のごとく閃く。

 

『ヨークシンに適当な宿をとって、そこにこの荷物全部運んでおいて』

 

 つい先日、そんな事をお得意様である一人の女性に頼まれた。彼女には金の面でも力の面でも頭が上がらないアルバンスであるが、今までの実績から信頼を得ている自信はある。そしてその実績から、こんな言葉まで賜っているのだ。

 

『助かる。これからも何かあったらよろしくね。……ああ、もしハンターとして何か依頼したいなら、今まで世話になってるし私に出来る事なら受けてあげてもいいわよ』

 

 機嫌がよさそうな女性から、何気なく言われたその言葉。おそらく気まぐれだったのだろう。しかしアルバンスにとってそれは、かつて読んだ東洋文学に出てきた仏が垂らした一筋の糸のように思えた。

 

 

 

 アルバンスは早速彼女に依頼を持ち掛け了承を得ると、先ほどの男に電話をかけ心なしか弾む声で提案した。

 

 

 

「私だ。先ほどの件なのだが、知り合いのプロハンターを紹介したい。私などよりよほど強いし、女性だからボスの話し相手にもなるだろう。…………ああ。少なくとも強さは保証する。多分お前より強いぞダルツォルネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




部下「あの、フローレンス様みたいなご凶暴な方を紹介してよろしかったので?」
アルバンス「あ」



今回書いてて感じたことが一つ。主人公の一人称を挟まず原作をなぞり、更に主人公がいい子ちゃんぽくしてる回って物凄く書きづらいなって……!

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