ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla41,アジト内の攻防

 荒野での戦いが始まる少し前。

 

 幻影旅団のアジトである廃墟では、ゼノ=ゾルディックの空からの広範囲攻撃……龍星群(ドラゴンダイヴ)による奇襲から始まった戦いが幕を開けていた。

 

 

 

 

 

 新たにアジト内に現れた敵影にむけて真っ先にけん制を行ったのはフランクリンだった。

 フランクリンは自身の両手を前に突き出し『俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)』で無数の念弾を放出する。そこに味方への配慮は無いが、それぞれ避けるなり防ぐなりするだろうと見越しての事だ。信頼というにはいささか無責任でもあるが、先ほどの攻撃を見た限り敵は同格もしくは格上。ほんのわずかな躊躇やタイムラグが致命傷となると判断し、全力の攻撃に移行したフランクリンは冷静だった。

 

 ふと視界の端でフランクリンが放った念弾が巻き上げる土煙に紛れて包帯の男がひっそりと"絶"をした状態で外へ出ていくのが見えたが、フランクリンは口の端を持ち上げて笑う。……現在行っている攻撃はけん制の意味もあるが、最優先すべきはその包帯の男をこの場から逃がす事なのだ。

 

______________ 頼んだぜ、団長

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空からの理不尽な襲撃から少し前。

 

 予言の能力を持つネオン=ノストラードを連れたシャルナークがアジトに戻ってきた。そしてネオンの念能力である百発百中と噂の予知の占いにより、その場にいた旅団全員の運命が占われた。

 

 結果……占いの詩には微妙な差はあれど、全て"一週目"だけで終わっていた。つまり全員9月の一週目で死ぬ、という暗示に他ならない。

 回避するための警告と思われる文はどれも「毒持つ狩人を現世(うつしよ)に留めてはならない」であり、そこから導き出された狩人に該当する人物はエミリア=フローレン……蜘蛛の主要メンバーが幼いころから知る流星街の同郷者だった。

 

 自分たちの戦闘スタイルや能力をある程度把握しているエミリアは"情報"という毒を握り、シャルナークに調べさせたところ今期のハンター試験に合格したらしい彼女は毒持つ狩人(ハンター)の条件に当てはまる。クロロはそう考えた。

 更にエミリアを知る団員分の予言詩……その前文の「捕食者」「獲物」「入れ替わる」「かつての糧」という内容から導き出される人物が彼女しか居ないのだ。……奪ったものは数あれど、その中でも正しく"糧"と呼べるものは少ない。

 

 そもそも予知の占いが無くとも、基本的に引きこもりのエミリアがヨークシンなどという都会に来ている時点で違和感はあった。彼女が好むオタク系のグッズでも狙いに来たのかとも考えたが、笑顔で友達と称する人物達と歩く姿を見て違和感は一層強まった。…………クロロが能力を盗もうとしていたネオン=ノストラードと共にいた事もあるが、それ以上に今のエミリアがクロロたちが知る以前のエミリアとは決定的に何かが違う、というのが占いの推察内容を裏付けた主な確信の理由である。

 明確な根拠こそないが、おそらく彼女は何か目的を得たのだろう。その目的のために、今まで迎撃こそすれど自ら積極的に蜘蛛(捕食者)を攻撃してこなかったエミリア(獲物)が牙をむいた。

 

 ただ、それだけのことなのだ。

 

 

 

 しかし

 

________ならば、逆にその牙を折って食い殺してしまえばいいだけのこと

 

 

 

 

 彼女と同じく今期ハンター試験に合格したヒソカが毒持つ狩人ではないかと主張したのはマチであったが、クロロはそれに対して「お前の勘は本当にヒソカだと告げているか?」と聞けば押し黙った。

 怪我の治療などで他のメンバーより多少はマシな交流してただけに、情でも湧いて認めたくなかったのだろうとクロロは深くは追及しなかった。しかし黙ったところを見るに、どうやらマチも本心ではエミリアが自分たちに害なす者であると考えているようだ。彼女の勘はあてになるため、これでまた一つエミリアが殺すべき相手である確信が深まる。

 

 

 

 

 

 

 

 詩の内容は仕事を終えてもまだ帰れず退屈していたネオンに誘われてトランプを始めたウボォーギン、ノブナガ、シズク以外……マチ、ボノレノフ、シャルナーク、コルトピ、フランクリンに伝えられた。その時ボノレノフが「その女、あの少女を追ってここまで来るんじゃないか? 念のためだが、俺が団長と入れ替わっておこう。いざという時、あんたっていう頭はやっぱり必要だしな。何か変身用のいい能力は無いか?」と提案し、シャルナークが「まあ、真っ先に狙ってくるとしたら団長だろうね」と補足したことでその案は受け入れられることとなった。

 

 ……ちなみに顔に出やすく分かりやすい強化系の二名とトランプに夢中だった一名には知らされなかった、というのは余談である。

 

 

 

 

 

 そしてボノレノフの予想通りエミリアは来たわけだが、思った以上に向こう側が上手だったというのがフランクリンの印象だ。

 とりあえずボノレノフに化けていたクロロを逃がす事には成功したため、あとは彼がうまくエミリアを仕留めればこの騒動は終わる。

 

 

 ……しかし問題は、それまでこの場を持たせられるかどうかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅団の仲間たちはフランクリンの予想通りに念弾をやり過ごしたのだが、次の瞬間だった。うっすら残る土煙を割って飛び出した念龍の(あぎと)がフランクリンの体を喰い破った。右肩から先一切を失ったフランクリンはその場に崩れ落ちる。

 

「ぐ!?」

「フランクリン!」

「おいおい、視界を奪われるのはお互い様。今のは悪手なんじゃねぇか?」

 

 凶悪な一撃を放った後、悠々と現れたのは白髪の老人……ゼノ=ゾルディックと、銀髪の偉丈夫シルバ=ゾルディックだ。先ほどの攻撃はゼノのオーラを龍の形へと変化させる龍頭戯画(ドラゴンヘッド)から放たれた直線の一撃牙突(ドラゴンランス)である。

 どうやってフランクリンの念弾を全て防いだのかは知らないが、理由を考えるという作業が無駄に思えるほど明確で無情な現実が目の前に横たわる。…………両手で効かなかった攻撃が、片腕を失った今効くはずがあるまい。

 

(先ほどの奇襲から想像しちゃいたが、更にこんな攻撃まで出すかい。化けモンだな)

 

 一瞬呻いたものの、右肩口の痛みに顔をしかめるでもなくフランクリンは冷静に襲撃者たちを見据えた。そして無駄と知りつつ残った腕を構え念弾を放つ。

 ……他の仲間が加勢に来る様子はない。いつのまにか銀髪の大男も老人の背後から姿を消しているが、フランクリンにはゼノから目を離し周りの様子を見る余裕はなかった。視線を一時でも逸らしたら、おそらくその瞬間にフランクリンの命は刈り取られるだろう。

 

「ほう、まだ撃つか。その胆力はあっぱれなもんじゃよ。そして賢くもある。……お前さん、もうここが自分の死に場所だとわかっておるな」

「煩いじいさんだ」

「わっはっは! 年寄りと女はお喋りと相場は決まっておるわい」

 

 憎らしい事に老人はフランクリンの念弾を避け、または"硬"でピンポイントに防ぎながら会話をしている。片腕を失った影響なのか、不思議なことに残った腕から放つ念弾の威力は落ちるどころか逆に増した気がする。しかし砲台たるフランクリン自身が肩からの大量の失血により足元がふらつき、立っているのもおぼつかない有様だ。相手はそんな状態で倒せるような生易しい相手ではあるまい。

 

「お前さんの念弾、なかなかよかったぞ。あらかじめ準備をしとらんかったら、一人くらいはやられてたかもな」

 

 距離が一気につまり、眼前に迫ったゼノがニヤリと笑い腕を突き出した。それを前にしたフランクリンも笑う。

 

 

 

「はっ、冥土の土産がじいさんの褒め言葉か。……煤けた土産だが、あんたほどの相手だ。世辞でも本心でも、まあ悪い気はしねぇよ」

「そりゃよかった」

 

 

 その会話を最後に、フランクリンの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方フランクリンの攻撃をきっかけにアジト内の三方に散った他の団員であるが、奇しくも相対する者達と残った旅団は同人数である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 片腕をもっていかれたフランクリンの現状を見て真っ先に助太刀に向かおうとしたのはマチだったが、その前には銀髪で鷹のように鋭い目の男……シルバ=ゾルディックが立ちふさがる。

 両者は無言のまま向き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと」

 

 軽い声と共に飛来した鋲を避けたシャルナークは、ケータイを操作し目的の人物を呼び寄せる。

 

「あ、よかった。まだ壊れてなかった」

 

 鋲を投げた人物……イルミ=ゾルディックとシャルナークの間に割って入るように立ちふさがったのは、刀剣を構えたダルツォルネであった。外の車で待機させていたため、どうやら彼は奇襲による被害を受けていなかったらしい。

 

(でもヤバいなー。この人相手じゃ時間稼ぎにもならなさそう)

 

 しかし他の仲間にもそれぞれ一人ずつ張り付いている。助けは期待出来そうに無く、逆に自分も当分助けに行けそうにない。

 

「ま、やるしかないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛つ、クソ! やってくれんじゃねーか! 殺す!」

「おっと。お前の相手は俺だぜ」

「ああ? …………舐められたもんだな。俺の相手がお前みてーな棒っきれとは」

「言ってろ」

 

 奇襲により負傷しつつもフランクリンに次いですぐに迎撃態勢に入ったノブナガの前に現れたのは、切れ長の目をした細身の青年だった。彼の周囲を取り巻くように無数の蟲が群れを成して飛んでいる。

 

(……操作系か。めんどくせェな)

「なんだ、かかってこないのか?」

「そんな羽虫を従えてる程度で随分偉そうだな。……ま、いいさ。相手してやるよ。言っておくが、俺の間合いに入れば切るぜ」

 

 馬鹿にしたように言いながらも、ノブナガの瞳からは一切油断は感じ取れない。警戒しているのだ。細身の男……ミルキの蟲を。よって自ら攻める事はせず、確実に仕留めるために準備に入る。腰を落とし、得物である刀に手をかけ鯉口を切る。眼光は鋭く、呼吸は深い。

 一見したところ相手は格下。それに対して待ちの姿勢なのがノブナガとしては気にくわないが、相手は自分たちを仕留めに来ているのだ。逃げる事はせず、いずれ向かってくるだろう。自分はそこを仕留めればいい。

 

 対するミルキは凝によってノブナガのオーラを視覚に納め、そのオーラが4mほどの半球状に形成されるのを確認した。

 

「間合い、ね」

 

 つぶやき、ミルキは目を細め嗤う。

 

「バーカ。誰が自分から入るかよ!」

 

 言うなりミルキの周囲を舞っていた蟲が群れを成してノブナガに襲い掛かる。しかし。

 

「喝ッ」

 

 ノブナガが発した覇気……剣気ともいえるそれに全て弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 _______居合・弦月の間

 

 斬撃が届く間合いを円の範囲とし、それを半月……弦月を模したひとつの部屋に見立てているノブナガの念能力だ。範囲こそ狭いが、その円は乱れなく美しい。その円の中ではノブナガの全ての五感および膂力(りょりょく)が強化される……まさに必殺の間合いである。

 ひとたびノブナガのオーラが充満した空間に入れば、四方上空どの場所から攻撃しようと必ずその身に刃が沈む。もしそれを防げたとしても、オーラのこもった剣気でひるめばその一瞬が命取りとなる。弱いものならば剣気のみではじきとばされるだろう。

 更にたとえ遠距離から攻撃されようと、それが念攻撃だろうが近代兵器の攻撃だろうがこの間合いの中心に居るノブナガに傷をつけるのは至難の業だ。

 

 自ら敵に向かう事を好むノブナガが普段この技を使う機会は少ないが、今回ばかりは自分たちが後手にまわった自覚はある。……そのため慎重に事を運ぶため、攻防一体の構えをとったのだ。そこに油断は無い。

 

 

 

 

 

 

 ミルキは下僕が無残に散ろうとも意に介さず、ノブナガを観察する。そして第二陣とばかりに、またもやどこからか集まってきた蟲をノブナガにけしかけた。

 

「芸がねぇな!」

 

 舌打ちし再びオーラのみで蹴散らそうとしたノブナガだが、今度は先ほどと違いオーラによって衝撃をうけた虫たちが全て小規模ながら爆発をおこした。

 

「うお!? くっそ、うぜぇ! テメェ男ならさっさと自分でかかってこいや!」

「チッ、やっぱり威力はまだ爆竹程度か。数があれば目くらましにはなるけど、今後の課題だな」

 

 吠えるノブナガを無視したミルキは自らの発明品である爆弾の威力に不満の声をもらした。

 ……ミルキの念能力『蟲の指揮者(リトルコンダクター)』は能力としてはただ脆弱な虫を操る効果しかもたない。しかしその虫に装着できる大きさの機器や爆弾を開発できるミルキだからこそ、使用方法の幅は広がる。今回は実戦での使い心地を確かめる意図もあったのだが、標的を指定する面を念でカバー出来たとしても、どうやら爆弾そのものの威力を高めなければいけないらしい。

 

 

 

 …………自分の発明を試すミルキは、一見余裕がある。

 

 しかし実のところミルキは平静を装っているものの、その内心は穏やかではなかった。何しろ今まで自分の手を直接汚さずに標的を仕留める手段ばかりとってきたため、生身で……それもおそらく格上であろう相手と近距離で接する経験などなかったのだ。正面から叩き付けられる格上相手からの殺気に、思わず震える。

 祖父や父、兄などもまた格上だが、彼らは家族だ。あのエミリアとてミルキを罵倒しながらも殺そうとはしてこなかった。だが眼前の相手は隙あらばミルキを殺す気だ。殺気そのものよりも、それが自分より強い者から向けられている事実が恐ろしい。

 

 

 …………しかし怯えを表に出すほど、ミルキのプライドは低くなかった。

 

 

(見てろよ、俺だって強くなったんだ。旅団員一人くらい……!)

 

 震える膝を抑え、顔の筋肉を総動員して薄い作り笑いを維持し相手を見つめた。

 おそらく相手はミルキの蟲達に特別な能力があることを警戒しているのだろうが、実は正面から直球勝負を仕掛けられていたらミルキはあっというまに窮地に追い込まれていた。それが無いのはミルキが蟲に周りを囲わせている以上に祖父ゼノの龍星群(ドラゴンダイヴ)が相手に大きな警戒心を抱かせたからである。祖父の威を借りる現状は情けないが、今のところミルキにとっては良い展開である。…………というよりも、いい展開どころかそろそろ終盤だ。

 

 ノブナガが接近戦に持ち込まず居合で迎え撃つ構えをとったところで、勝負はすでに決していた。

 

 

 

 

「んなっ」

 

 それは突然だった。ノブナガの体が傾ぎ、居合の型を崩し地に膝をつく。

 

「テメっ、何を……」

「何って、毒だけど」

「ど……く……!? 馬鹿な、どこでそんなもん俺に仕込むタイミングが……!」

 

 ミルキは刀を杖代わりに必死に体を支えるノブナガを見て、今度は作り笑いではなく本心からの……嗜虐心で満たされた笑みを浮かべた。

 

「どうやらその"円"……地中まではカバーできてないみたいだな。制約か?」

「ぐっ……」

「足元見ろよ」

 

 ミルキに指をさされ、その指さす方向を目で追うようにノブナガは自分の足を見た。するとそこに居たのは、くるぶしからふくらはぎにかけて張り付く一匹の小さなムカデ。

 

「そのムカデ珍しいんだぜ? 他の奴らは現地調達だけど、そいつだけは俺がわざわざ取り寄せた特注品だ。普通ムカデは獲物を麻痺させる毒は咬んで注入する。けどそいつは体表から分泌する体液で獲物の動きを奪うんだ。で、注目すべきはそいつの獲物。なんと自分の体積の十倍以上の獲物を仕留めて喰らう! 当然、分泌される毒の強さも凶悪さ。さらに言えば、俺がちょっといじってその毒をより強力な物へと変化させている。オーラで覆われた念能力者の体に蟲の針や牙の類は刺さらないだろうから、毛穴からしみ込ませた。……一匹だけなら指揮官蟲にある程度俺のオーラを渡せるから、そいつにコンクリートの地面を掘り進めさせてお前の足に張り付かせたってわけさ。どうだ? 作戦ともいえないほどに単純だろ。でもお前は今その単純な俺の策略にはまって地に膝をついてるんだぜ。今どんな気分だ? なあ、どんな気分か言ってみろよ! ははははは!」

「男のくせにペラペラとうるせぇ奴だ……!」

 

 ノブナガは悪態をつくが、多少ふらついても動けないわけでは無い事に気づく。

 居合の構えはどうせ解けたのだ。……このまま好きにされるくらいならば、一気に距離を詰めてこのいけ好かない男の首を撥ねる。

 

(じゃあ、俺もシンプルにいかせてもらうぜ! やっぱ待ちは性に合わねぇ)

 

 そう思って体にオーラを満たした時だった。ミルキは「ああ」と何かを思い出したかのように付け加えた。

 

 

 

 

 

「そのムカデ、一匹だけじゃないんだぜ」

 

 

 

 

 

 瞬間、最初のムカデが出てきた穴から無数の同種のムカデがはい出てきた。そしてあっという間にノブナガの体を這い上がり覆いつくす。ノブナガはもがくが、ムカデたちの毒により次第にその動きは鈍くなった。

 

 

 

 ……そして数分後。

 

 

 

 その場にあったのは動かなくなった"肉"にムカデがたかり、一心に獲物を喰らう光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【A級賞金首幻影旅団:残り6人】

 


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