ゴレイヌさんに会いに行こう!   作:丸焼きどらごん

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Gorilla4,粉砕したいのは空気じゃない三次試験②

 主人公一行に加えてもらい一緒に多数決の道を進むことになった私だが、将来的にゴレイヌさんに気に入られるキルアのご機嫌を取るためにとりあえず飛行船での拳骨と先ほどの壁破壊時に彼が受けた被害について謝ろうと試みた。が、私がどう話しかけようか迷ってキルアをチラチラ見ながらもにょってると「何だよ、言いたいことがあるなら言えば?」と不愉快そうに言われてしまった。

 明らか好感度がマイナスだが向こうから話しかけてくれた今がチャンス! と思った私はさっそく謝罪しようとした。が、キルアが続けた言葉に思わず固まった。

 

「……お前さあ、相変わらずゴリラだよな」

「おいキルア、女性に向かっていきなり失礼だろう」

「つーか相変わらずって、お前ら知り合いなのか?」

「昔ちょっとね。ま、思い出したの今朝だけど。コイツ顔地味だし全っ然印象残って無くてさー」

 

 おもいっきり「地味」を強調されたが、肝心なのはそこじゃない。

 

「ご、ゴリラだなんてそんな……」

「おいあんたなんで照れてんだ。ゴリラって言われたんだぞ?」

 

 違う、肝心なのはそこでもない。レオリオツッコミありがとう。思わずゴリラなんて褒め言葉言われて照れてしまったが、そういえば世間一般ではゴリラは褒め言葉では無かったな。もう私の中でゴリラ=ゴレイヌさんでゴレイヌさんに関係ある単語なら全部褒め言葉に聞こえるんだ。我ながら末期である。

 …………じゃなくて!

 

「へえ、キルアとエミリアさんは知り合いなんだ! 友達?」

「違う! こんな凶暴ゴリラ女と友達とか罰ゲームかよ」

 

 ゴンの質問に間髪入れず否定したキルア。そんな彼を見て、私もようやく思い出していた。

 

 

 

 

 やっべこいつ昔天空闘技場でぶっ飛ばしてる。

 

 

 

 

 う、うわあああああああ。忘れてたー。完璧に忘れてたー……!

 昔そういえば銀髪猫目の子供と対戦して「何かコイツ見覚えあるな」と思ってた。記憶を思い出した今なら分かる……あれ、天空闘技場200階まで上るまで帰ってくるなとか言われて修行に放り込まれたキルアぼっちゃんじゃないか。うわマジか……マジか……。

 

「その、久し……ぶり」

「久しぶりぃ~? お前俺が言うまで忘れてただろ! 全部顔に出てんだよ! けっ、馬鹿にしやがって」

「ぇう、その……馬鹿にしてるとかじゃ、なくて……」

「何? 聞こえないんだけど」

「キルア、そんなに強く言っちゃ可哀想だよ」

 

 どうにか猫目の怒りを鎮めてご機嫌を取りたい。そんな風に思えば思うほど上手く喋れず、我ながら聞いててイライラするような喋り方をしているとゴンが……いや、ゴンさんが(何故か敬称がとてつもなくしっくりくる)フォローを入れてくれた。なんて優しい子なんだ……! 今まで生身の人間の優しさに触れたことが無いからか、ほんのちょっとの気遣いがとてつもなく嬉しい私はチョロイだろうか。でも嬉しい。

 

 とりあえずせっかくのフォローを無駄にするのも何だからさっさと謝罪だけ済ませることにする。

 

「……さっきのと、飛行船でのことはごめん」

 

 よーし謝った! 謝ったからな!! 会話がつながってなかろうがぶつ切りだろうが言いたいことは言ったぞ!!

 正直さっきの事はともかく飛行船での鉄拳制裁は猫目が悪いので謝りたくないのだが、出来るだけ下手に出ておく方が吉だろう。人は時として自分が悪くなくても円滑な人間関係のために謝罪せねばならぬのだ。ふふ……これで私はまた一歩大人の女としてのスキルアップを果たしたぞ。

 

「飛行船で何かあったのか?」

 

 クラピカが問うが、それについては知られたくないのかキルアは「別に」と言ってそっぽを向いてしまった。しかし全員の視線が彼のタンコブに集中しているあたり、なんとなく察しはついているようだ。……見事に腫れたな。

 

 何とも言えない空気の中、次の選択に来たこともあり話題はいったん途切れた。

 

 そして進んだ先……。底の見えない深い溝に覆われた闘技場のような場所で、フードをかぶり足枷、手枷を身につけた「試練官」と名乗る連中が勝負を仕掛けてきた。どうやら奴らと闘って3勝したら次に進めるようだ。

 まず初戦で名乗りを上げたのはトンパ。相手はスキンヘッドの体格の良い男。

 私はトンパがわざと負けるのと覚えていたし、役に立つアピールのチャンスであるためトンパの代わりに私が戦おうと思ったさ……。しかし……しかしだ……。ぼっちにとって複数人の会話に割って入るのは困難極まりないと、私はここで思い知った。「あの」「よければ私が」とか話し始めようとした瞬間、絶対に誰かと言葉がかぶるんだよ……。思わず言おうとしていたことを引っ込めてしまい、タイミングを失っていたらもうトンパは闘技場に立っていて、開幕土下座でまいった宣言をしていた。

 

 

 う、うおおおお……! 会話の空気も読めないとか、何だこの地獄……!

 今までどう思われようと構わない相手としか会話してこなかったせいか、何かを喋るのがすごく怖い。変なこと喋って嫌われたらどうしようとか考えてしまう。なんだこれ生まれて初めてだこんなの……! ゴレイヌさんと将来的に仲良くなる相手だからという動機でご機嫌を取りたいお子様連中とその仲間相手にこれじゃ、ゴレイヌさんを前にしたら告白どころか私何も喋れないんじゃないか……? い、嫌だそんなの。くそ! この試験内で少しでも改善しなければ。私は脱・引きこもりを果たしたのだ! こんなことで躓いてたまるか!!

 

 

 自らのコミュ障具合にダメージを受けつつ、気づけば次はゴンさんが試合に出ることになっていた。とりあえず彼に注目が集まっている間に、戦果に貢献できなかった詫びに特に気を使わなくていい相手……トンパの首に腕をかけ通路側に引き寄せると「今すぐ貴様の首の骨へし折って私が5人目になり替わってもいいんだぞ」と耳元で他に聞こえない声の大きさで言っておいた。舐められても困るのでもう片方の手で頭を掴んでちょっとギュっとしたら、トンパは素直に「も、もうしねぇって!」と青い顔で頷いていた。おう、それでいいんだよ。ゴンさんたちの足を引っ張らないように気を付けろよ。

 けどゴンさんの試合に集中していたレオリオ、クラピカと違って勘がいいのかキルアだけがそれに気づいて振り返り「うわ、やっぱりゴリラだ」と言っていた。だからお前、ゴリラは照れるだろ。つい照れてトンパのクビ絞めて落としちゃったじゃないか。……まあ、どうせすぐ目を覚ますだろうからいいか。他の3人に何か聞かれたら「トンパが勝手に昼寝した」とでも言っておこう。

 

 

 

 

 

 そして試合だが、結果は機転を利かせたゴンさんの勝ち。

 

 次戦のクラピカも幻影旅団員を名乗る男(偽物だったが)にブチ切れて圧勝していた。どうやら彼は幻影旅団に強い憎しみがあるらしく、彼の瞳が美しい緋色に染まったところで私は彼が世界7大美色と謳われる緋の眼を持つクルタ族の生き残りであると思い出した。ああ、そういえばあの子今でこそまだ念も使えないし弱そうだけど、いずれウボォーギンとか倒せるようになるんだよな。頑張ってほしい。心の底から応援してるから是非あの犯罪者どもを根絶やしにしてくれ。

 

 そして次の勝負は賭けで、参戦するのはレオリオだ。……いや、もう私空気すぎてな……。会話に入れないこともあって参戦を名乗り出る事も出来んかったわ。それに賭けとか頭使う勝負私が役立てるはずも無し。たしかここで大幅にチップとして使う持ち時間を減らすのだが、私が出てもほぼ結果変わらないだろうどころか悪化させる気しかしない。ここはレオリオに任せて静観しよう。

 賭けの内容はクラピカ戦の相手が生きているか死んでいるかから始まり、相手は本当に気絶しているかどうか。そこまではレオリオがリードしていた印象だ。しかしスケベ心が災いし、対戦相手の女が「男か女か」という賭けで彼女の体を調べるために「男」に賭けたレオリオ。……そこから完全にペースを相手に持っていかれ、最終勝負のジャンケンでも負けてまさかの2敗目。あ、あれ……そっか、この勝負って普通に負けだったのか。何故か試合に勝って勝負に負けた系だと思ってた。

 

 で、最後はキルアがなんかおっさんの心臓抜き取って潰してこっちの3勝。なんかすげードヤ顔してたけど思わず「えんがちょ」って言っちゃったわ。おい、おっさんの心臓汁服に飛んでんぞ汚ねぇな……とか、気づいたら口から出てた。肝心な時に動かないくせに余計な事は素直にペラペラしゃべる自分の口を縫い合わせたい。猫目に脛を蹴られた。好感度は下がる一方である。

 

 

 

 

 

 で、賭けの時に負けた分50時間を用意された個室で待機することになった。

 

 ……控えめに言って地獄である。気まずい。他人と50時間同じ部屋で過ごすとか初めて過ぎてなんか息が苦しい。

 って、いやいやいや駄目だろ、これ駄目だろ……! さっきコミュ障を改善しようと誓ったばかりじゃないか! せっかく時間が出来たんだ。これはコミュニケーションのチャンス!

 

 そう思った私は比較的一番話しかけやすいゴンさんに声をかけた。すると思いがけずレオリオとクラピカも話に入って来てくれて、これは会話の波が私に来ている! と思ったね。まあ実際はなあなあになってた自己紹介をしてくれただけだったんだけども。それにしたっていい人らである。……その目に哀れみの感情がこもっている事には気づかなかったふりをしよう。……あれだよな……私のコミュ障っぷりを見て気を使ってくれたんだよな……。

 もう一度言おう。いい人らである。寝っ転がって私を完無視してゲームをしている猫目とはすごい違いだ。

 

 

 私は彼らの好意に甘えようと、憐れまれている事には目を瞑り会話を続けた。そしてそれぞれが何故ハンターを志したのかという理由に話題が移ったところで、ふと思い立ってクラピカに言ったのだ。

 

 

 

 

「そういえば君は幻影旅団捕まえたいんだっけ。条件付きだけど、よければ情報売ろうか?」

 

 

 

 

 空気が凍った。

 

 やっぱり私は空気が読めないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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