節目節目で『前回のラブライブ!』なるイベントが合間に挟まれるのは知識人の方々なら周知の事実だろう。前回の話を見忘れた方も、あらためて復習したい方にも幅広く愛されたイベントだ。
――今回は時間がもったいないので本来挿入されるはずのこのイベントは全カットだが。
オープニングテーマという約一分三十秒のイライラタイムを越えて翌日、高坂穂乃果と園田海未、そして南ことりは生徒会室へやってきた。穂乃果の瞳は並々ならぬやる気で燃えていた。
アニメで言う所の『第二話』にあたる本日。穂乃果的にはここは休憩ポイントである。なんせ今回の目標は『西木野真姫を口説き落とし、曲を作ってもらう事』この一点のみであるのだから。当然、そこに辿り着くまでにこなすべきイベントはあるのだが。……ちなみに小泉花陽と星空凛へ会いに行かなければならないイベントは片手間にこなすつもりである。
「失礼します!」
「あっ! あなたはこの間の!?」
絵里が穂乃果を見るなり、表情を一変させる。無理もない。昨日はいきなり丸めた部活動申請書をぶつけられたのだから。
絢瀬絵里にもプライドはあり、同時にこの音ノ木坂学院最上級生としての矜持もある。彼女には申し訳ないがここは少々キツ目に怒らせてもらおう――そう、決意し、絵里は席を立った。
「講堂使用許可申請書です!! 喰らえェェェェっ!!」
「カシコイッ!!?」
眉間に突き刺さる丸められた紙、星が散る視界に映るは非常にあくどい笑みを浮かべた高坂穂乃果。崩れ落ちる訳にはいかなかった。ここで倒れては隣で行く末を見守る
同時。身の危険を感じた高坂穂乃果は海未とことりの首根っこを掴んで走り出した。
「私達スクールアイドル結成しましたのでライブやります! 講堂使用しますのでよろしくお願いします!」
「そこに直れ高坂穂乃果ァァァァ!!!」
「戯言は聞きませんから!! だって生徒会は! そんなことまで口を出す権限は無いですからね! ファイトだよ!」
「シベリアの氷に沈められるか、私にシベリアの氷で殴られるか選びなさい!!!」
「生憎! 私達はライブをするんですよ!!」
穂乃果は二人の首根っこを掴みながら、校舎の窓ガラスを突き破り、外へと飛び出した。
「へ……!?」
「きゃぁぁぁ! 穂乃果ちゃぁぁぁん!!」
海未、そしてことりの絶叫を聞き流しながら、穂乃果は校舎の壁面へ靴を合わせ、その摩擦で勢いを殺していく。だがそれも数瞬の事で。ふわりと靴底が壁面から離れてしまった。
「ふん!!」
だがそこはご心配なく。赤い帽子とお髭が素敵なおじさまのゲームをプレイし続けてきた穂乃果にとって、この程度の落下の勢いを殺せなくて何がゲーマーであろうか。日頃洋菓子を求めて研鑽を重ねた功夫から成る所謂“発勁”により、着地の衝撃を完全に無へと昇華させた。
幼馴染二人に怪我がないか確認した穂乃果はすぐに次のポイントへと走り出す。
「じゃあね海未ちゃんことりちゃん! このへんは短縮できるポイントだから積極的に時間短縮しに行ってくるね!」
「……ねえ海未ちゃん」
「何ですかことり?」
「ことりの知っている穂乃果ちゃんって、少なくともあれだけ軽やかに走り幅跳びしないと思うんだけど……どう?」
「……ことりの言いたいことは重々承知しています、がそこは言わぬが華というものでしょう。何となくですが」
親友二人のある意味憐憫の視線を背に受け、穂乃果は一年生の教室へと走っていた。
「ここが時短ポイントなんだよ!」
この所謂アニメの第二話はグループ名が決まっていないとか体力がどうとかの話は片手間で終了させられる。どうせ言われなくても明日から毎日アニメ版と同じく体力トレーニングをするのだ。
海未が歌詞担当になる下りはことりに頼み込むことですんなり話は運べた。“おねがぁい!”は最強である。なので、とりあえずは真姫に曲を作ってもらうことに集中すればいいのだ。
「あ、あったあった」
目的地である一年生の教室へ向かう途中、スクールアイドルのポスターの下に置いてあった段ボール箱に手を突っ込み、紙を取り出す。本来ならばもうちょっと飾りつけをした小箱に、かつ『グループ名募集』のような張り紙をしているのだが、実はポスターの前に何でもいいから箱さえ置いておけば勝手にグループ名である『μ's』が書かれた紙が入っているのだ。
「ねえそこの星空凛さん!」
「にゃっ!?」
教室へ入り、今まさに出ようとしている凛の前に立った。あからさまに警戒されているが、それも人見知り故の距離感。穂乃果は深く突っ込む気はない。……誰でもいきなり目の前に立たれれば驚かれるのだが、そこはあえて無視。
「西木野真姫さんは音楽室だよね?」
「は、はい……たぶん、そうです、けど」
「ありがと! じゃ! あ、そこの小泉花陽さん!」
「ぴゃあっ!?」
「私達、頑張るからね!」
「は、はい……応援、してます」
不審者を見るような眼であったが、それはそれ。
ここで語ることはないので、二人を置き去りに穂乃果は走り出した。目指すは音楽室。
「ひゅー!!」
「うえぇぇぇ!?」
立体音響顔負けのフルボリュームハンドクラップでピアノを弾き終えた真姫を讃えながら、穂乃果は入室。ここからが畳みかけポイントである。
「ねえあなたは腕立て伏せ出来る?」
「は?」
「まあ私は片手小指立て伏せ出来るけどね~」
「喧嘩売ってんの!?」
恐ろしく綺麗なフォームで軽く数十回はこなしてみせた穂乃果は真姫へにやついた顔を浮かべる。
「じゃ悔しかったらこれ読んでおいてね! 歌詞だから!」
「ニシキノッ!?」
顔面に丸めた歌詞をぶつけ、穂乃果は音楽室の窓をぶち破り、神田明神へと急ぐ穂乃果。既に海未とことりを行かせ、練習をさせているのだ。この後すぐに真姫はこそこそと見に来るはずなので一生懸命に練習している様をあからさまに見せつけるだけの簡単なお仕事だ。
「あ、海未ちゃんことりちゃんもう良いよ」
「えっと……まだ一時間くらいしか練習してないような……」
「ことりの言う通りですよ! 穂乃果! あなたはこれしきのことで音を――」
「ジャンプ音ならいくらでも聞かせてあげるから! じゃあね! 私には一分一秒が惜しいの!! ぴょいーんぴょいーん!!」
真姫が恐らく希に胸を掴まれ悲鳴を上げたところで、穂乃果は練習を切り上げ、帰宅した。どうせもう見てないのだ。この後はぐっすりと睡眠をとり、明日の楽曲作成を待ちわびるのみ。
「おはよう!」
「ふわぁ……って、うわっ!? お姉ちゃん起きるの早いね……」
「雪穂こそ早いね」
「いや、私はちょっとお手洗い……また寝るよ~ふわ~」
真姫が来るであろう最速の時間に立ち会うために起床し、玄関内で体育座りをしていた穂乃果に雪穂はどんびいていた。何せまだ午前四時である。六時前くらいから待機していればいいのだが、これには理由がある。
照れ屋かついじっぱりの真姫が家に来るのは早朝。ここまでは絞り込めたのだが、来るまでの時間に四時半から六時まで幅があるのだ。ここは乱数調整をするより四時から待っていた方が手間もかからないため、これほど早朝から待ち伏せしていたのだ。
――待つこと約三十分。四時半丁度に、真姫がポストにCDを投入した。
立ち去るタイミングを見計らい、穂乃果はポストからCDを取り出した。最良乱数を引けたことに安堵しつつ、彼女は家を飛び出した。
◆ ◆ ◆
「あの!!! まだ朝五時ですよね!? ねえ穂乃果! 今朝五時ですよねぇ!?」
「早すぎるよ……穂乃果ちゃん……はふぅ」
学校の屋上に、ほのことうみがいた。具体的には敷物をしき、三人の前にはノートパソコンというアニメ第二話の最後辺りで見た光景である。
真姫からのCDを手に入れた穂乃果が取った行動とはごく単純なもので。そのまま家を飛び出し、二人の家に不法侵入をし、叩き起こしただけである。ここで常識ある方々が思うことは『鍵は?』であろうが、そこは高坂穂乃果。
赤い帽子とお髭がナイスなおじさまのゲームをプレイしていれば金づちでドアノブを破壊することなど想像に難くないであろう。
「え? 曲を聴きたいって? もう分かっているよー! じゃあ再生!」
そして流れるは次の話で歌うことになる『START:DASH!!』である。第三話の山場で流れたこともあり、未だラブライブ!RTA界では“癒しタイム”と呼ばれる名曲だ。
「これが私達のきょ――」
「さあ! 練習しよう!」
「話聞いてよ穂乃果ちゃぁぁん!!」
「さあやることやったからエンディングテーマ流れるよ!」
避けることの出来ない
「次は『第三話』だよ! ファイトだよ!」
頑張れ高坂穂乃果! 君の音ノ木坂学院最速回避タイムアタックは、良いペースだ!!!
体験版の文字が抜けましたね(RTA顔)
どんどん駆けていきます